24.魔族との交戦
「後ろの馬車の荷は、ワシが注文していた品だ。引き渡してもらいたい」
あまりの状況に、一行は対応に苦慮している。辛うじて冷静でいたバーバラは、ミーナへ目線で合図を送る。合図を受け取ったミーナは馬車の後方に回った。
「いろいろとツッコミどころはあるんだけど、とりあえず返事はノーよ」
バーバラは、はっきりと意思表示した。
「ほう、それは何故だ? 契約によって取引を決めていたのだが」
「それは、あの人たちが非合法的に集められていたから。その契約は無効なのよ」
「ふむ。ならば前金は返してもらわねばならん。荷を集めていた人間はどうした?」
ここまでの会話でバーバラは違和感に気付く。なぜ後ろの馬車に乗っているのが誘拐された人たちだと知っているのだろう。
「重大犯罪人だからね。その場で処刑したさ」
「そうか……、それは困ったな」
「ねえ、それより、その馬車ってそっちで用意したの?」
「そうだが?」
「ああ……、なるほど。そういうことね」
バーバラは先ほどの疑問に自分なりの答えを出した。
「やはり金を取られたまま引き下がっては任務が遂行出来ん。力づくで荷を奪って行くしかあるまい」
「あー……、やっぱりそう来るのね」
ここでミーナが後方で護衛をしていた近衛兵を連れて戻ってきた。
「なんだあれ……、魔族?」
魔族、という言葉に男は反応した。
(ふむ、魔族がどういう存在なのかはこの辺りにも広まっているのか。契約をした者たちは理解してないようだったが……)
「力づくと言うのならこっちも対処しなきゃならないけど、全員で相手させてもらうよ? いいの?」
「一向に構わん」
男は腕を組んで、不敵な笑みを浮かべて言った。
「……アーリーガットホーテムクォーツ……」
バーバラが声のした方を向くと、マリアが隣に立っていた。古代語で呪文の詠唱をしているのだろう。それと同時に複雑な手さばきで術式を展開していて、青い光跡が手の動きを追っていた。
「炎の爪!」
マリアが魔法の発動を宣言し、右腕を下から前方に振ると魔族の男に指先を向ける。すると、マリアと魔族の男との中間点に3本の炎の柱が立ったかと思うと男へ向けて馬が駆けるようなスピードで延焼した。
「……!!」
魔族の男は驚いた表情を見せるが、すぐさま反応した。魔道具の類か、耐火加工を施されたマントをひるがえして炎を防ぐ。しかし、それは多勢の前に大きな隙を生じさせることになる。
ジェットはそれを見逃さず銃を発砲した。的は大きい。轟音と共に発射された弾丸は、魔族の男の右腕に命中する。マントには防弾効果は無かった。
(この轟音! この痛み!! この武具は!!)
魔族の男は、マントのガードを解除する。しかし、撃たれた傷の状態を確認する余裕はまだない。剣を振りかぶった近衛の4騎が左右から突撃していた。
「ふんっ!!」
左右からの斬撃を、剣身の面の部分を殴って払いのける。前の2騎はそれで凌げたが、後ろの2騎の攻撃は防げなかった。両肩に斬撃を受ける。傷は浅い。銃撃による傷に比べれば遥かに。
開発初期のマスケット銃は、我々の世界の現代の銃より弾速が遅い。その分貫通力も小さく、着弾面に対する破壊力は逆に高い。ジェットが使用している魔法銃もこのマスケット銃の範疇に入る。魔族の男が受けた銃撃による傷は、肉がえぐれズタズタにされていた。
(だが、聞いていたより次弾は遅いな……。これなら対応は間に合う!)
魔族の男が見れば、ジェットはまだ次弾の装填をしている。男は左手を前方に掲げて手のひらに青白い光弾を発現させる。光弾は一瞬で周囲一帯に広がると、青白い色も広がりと共に薄くなり周囲の景色と同化した。
「あ、あれ?」
ジェットは、銃を構えた状態で首をかしげている。
「撃てない?? どうなってるの?」
銃が撃てなくなって困っているジェットをよそに、ミーナとカールが即席の連携を見せた。カールが騎乗馬を男の左側面に走らせると、あとに続くミーナが右側面に回り込んだ。いつの間にか、ミーナの馬の後ろにはバーバラが騎乗していた。
一直線に駆けたカールは囮だった。カールの馬が魔族の男に右側を一直線に通り過ぎるところを、男は馬に蹴りを入れてカールを落馬させるが、反対側に回っていたミーナの馬に乗っていたバーバラが自らの短剣を男に向かって投げる。
魔族の男はバーバラの投剣にも対応して見せる。左側をガードするように手をかざすと、魔法のシールドのようなものを発現させて剣を弾いた。しかし───。
「雷帝!!」
馬車の御者台に立っていたサリーの放った魔法が、マリアの剣に乗っていた。そのマリアは、まっすぐに駆けだして、マリア自身の身体強化魔法による加速と飛行魔法で弾丸のように飛び出しながら魔族の男を斬りつけた。
「はああああっ!!」
攻撃を受けた男の右腕は動かなくなっていた。それでも男は不敵な笑みを浮かべつつ飛行魔法で空中高く舞い上がると、北東方向に逃亡した。
「いずれ、この借りは必ず……」
という言葉を残して。
サリーは事前にマリアへ耐電化魔法をかけています。この二人の連携もまた鍛錬の賜物です。
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