22.近衛兵の帰還
カール以下の近衛兵たちにも、マリアたちの一行が視認された。
「姫さま、ウネンドリッヒで待ってなかったですね……」
「俺の言った通りだったろ?」
カール隊長はマリアの性格をある程度は知っている。自分たち護衛がいなくったくらいで旅を中断するとは考えていなかった。
「ちゃんと代わりの護衛も手配してるだろ? その上で動いてたわけだ」
「そうっすね」
「……って、感心してる場合じゃないな。姫さまの命令を果たせなかった報告をせにゃならん。気は重いが、合流を急ぐぞ」
カールは、馬を駆けてマリアのもとへ急ぐ。近衛兵たちはそれに続いた。
マリアたちに合流した近衛兵の隊長カールは、誘拐被害者捜索の経緯を報告した。交易都市で、サルカンド大陸の外にある東の国へ向かう砂漠の入り口にあたるサノセクの街で情報を集め、裏社会との接触も試みたが成果は得られなかったようだ。
マリアは、報告の内容が芳しくないことは重々承知していたが、黙って最後まで話を聞いた。
「カール隊長、ご苦労さまでした」
「はっ」
「ウネンドリッヒで誘拐された人たちの情報は、実はこちらで掴んでるの。道中で捕らえた盗賊から聞き出せたわ」
「そうだったんですか」
「この辺りの盗賊のアジトに匿われてる。予約済みの”顧客”のとの取引のために待機中のようね」
「なるほど。それをこれから叩くのですか?」
「もちろんそのつもり。帰還して早々だけど、手伝ってほしいの」
「喜んで!」
一行に復帰した近衛兵たちを含めたマリアたちは、眼帯の盗賊のアジトへ向かう。街道を横切る小さな川の橋を超えると、街道を離れ北へ進路を取る。
「斥候?」
「そうです。前のアジト襲撃と違って、こちらは騎馬が多く機動力があります。その利点を生かし、敵を取り逃がす確率を下げる方策として斥候を出すことを進言します」
「なるほど。任せます」
「はっ」
カールは、マリアの許可を得て部下の近衛兵を斥候に出した。近衛兵は本来、頑強な近接戦闘員としての役割を期待されている。精兵として、斥候のような任務は専門外と言えた。しかし、一般的な兵士として情報連絡業務は必須スキルだ。斥候任務の手順は最低限仕込まれている。カールとしては、普段の訓練では見ることの出来ない部下の斥候任務の手際を知っておきたいという思惑があった。
斥候には2名が先に出て、20分後にもう2名が出る。同時に先に出た内の1名は引き返し、中間点で後続の2名と情報共有して一行の元に戻る。これを繰り返して行き先の状況を確認する。カールの部下はそつなく任務を遂行した。
マリアは、3回目の報告で斥候が盗賊のアジトに到着したという知らせをカールと聞いた。
「誘拐された人たちがまた連れ去られようとしていた?」
「危うく、また取り逃すところでした」
「そうね。カール隊長の判断に助けられたわ」
斥候が盗賊のアジトを監視できる位置に到着したとき、アジトから出て来た誘拐被害者が馬車に乗せられている途中だったらしい。1台の馬車に全員が積められたようだ。
「1台に全員乗せたのなら、必然的に足は遅くなるでしょう。追いつけます」
「そうね。でも、奴らずいぶん慎重ね。状況的に、アジトの場所が知られる可能性は低いとも思えるのだけど」
「姉が斬った盗賊の負傷の程度を確認しないまま逃走しましたからね。出血の具合から助からないと判断したはずです」
盗賊との戦闘の現場にいたジェットがマリアの考えの補足をする。
「ならば、誘拐被害者を連れてアジトを去る理由は、本来の目的のための可能性が高いと」
「奴隷として売り飛ばす取引のため、ということね」
「はい」
「……ねえ、取引をさせない方が手っ取り早くて確実よね」
「どういうことですか?」
「斥候が追跡しているから盗賊の馬車に追いつくことは出来るけど、取引に指定されてる場所は分からない。私たちが追いつく前に取り引きが完了してしまう可能性はある」
「そうですね」
「盗賊の戦力は私たちには問題にならないけど、その取り引きは相手はどうかしら?」
誘拐被害者を奴隷として盗賊から買い取ったその取引相手が、その移送に必要な護衛を連れている可能性は高い。
「……確かに、そこは読めないですね」
「だから、先手を打った方がいいと思うのよ」
「なるほど、そうかもしれません」
「本音を言えば、この馬車を切り離して騎乗戦力を全部誘拐された人たちの救出に注ぎたいところだけれど……」
「それは駄目ですからね」
マリアの隣にいたサリーが釘を刺した。
「俺が行きましょう。斥候に出ている近衛を集結して、早急に盗賊を取り押さます」
カールが盗賊討伐を申し出る。
「わかりました。お願いします」
「では!」
カールは馬に拍車をかけ、斥候に出た部下と合流するべく駆けだした。
ブックマーク登録や感想、評価をお待ちしています。




