21.西の盗賊の思惑は
「身をひそめるためにあなた達のアジトを利用してるってこと?」
「そうだ。うちの頭は奴らの手下みたいなもんだ。だから、いい様に利用されてる」
「それで見た感じにも”うま味”がなさそうなアタイらを標的したって訳?」
バーバラの質問は、武装した護衛が付いていて商人にも見えない馬車を襲ったことを指している。
「奴らが連れてきてた連中にも最低限は食わせなきゃならんからな。備蓄してる食料も尽きるのはあっという間だ」
「あれ? 誘拐被害者は奴隷市場のある街で売るんじゃなかったの?」
「確かに……。サノセクはまだもう少し先だから、この辺りに留めるのは変ね」
ウネンドリッヒの誘拐被害者を連れて来た西の盗賊は、眼帯がいた盗賊のアジトにわが物顔で居座りアジトの食料を浪費した。それが彼らに無理筋な盗賊行為をさせた理由になっていたようだ。しかし、金に換えるはずの誘拐被害者を奴隷商人に引き渡すための行動をしない理由が分からない。
「奴隷を売り飛ばす相手はもう決まってて、受け渡しの場所や日時も向こうの指定があったんだとよ」
その答えは、あっさり眼帯が答えてくれた。
「なるほど、それでその時まで身をひそめている必要があったのね」
「そういうこった」
「大体のあらましは理解できたけど、どうします? これから」
バーバラはマリアに聞く。
「決まってるわ。アジトを叩いて今度こそ誘拐被害者を助けるわよ」
「ははっ。剛毅な嬢ちゃんだな。……痛っ!」
眼帯の傷は安静にしていれば楽だが、笑うと腹筋の傷に障るようだ。
「あなたにはアジトの場所を教えてもらうわ。お仲間を裏切ることになっちゃうけど」
「構わんさ。ソリの合う仲間じゃなかったし、どのみち俺の盗賊稼業も終いだ」
馬車は変わらず街道を東に進んでいる。この周辺で活動をしていたと思われる盗賊を撃退したばかりなので警戒は幾分緩い。馬車の御者はサリーが務めていて、横にストロベリーが座っていた。
「それじゃ、馬車の後ろでは戦闘にはならなかったんですね」
「そうなんだ。にらみ合ってただけ。そしたら撤退命令が出て退いてくれたんだ」
馬車の後方で護衛をしていたロベールは、今回の戦闘が初めての実戦だった。剣を交えることは無かったが、その場に立っていたという事実は、確実にロベールの経験になったようである。それは彼の表情から見て取れた。ロベールの傅役であるミーナは、その成果に満足げだ。
(あの盗賊たちの所作からリスクは低いと見てはいたけど、効果は予想以上だったようですね)
馬上で周囲の警戒を緩めていなかったミーナは、そんなことを考えていた。
一行が街道上にある小さな丘を越えたところで、ミーナは街道の先に人の姿を発見した。
「前方約2キロに人影が5つ。全員馬に乗ってるわ」
ミーナがサリーに声をかけると、サリーはオペラグラスのような小さな双眼鏡を取り出して、その姿を確認する。
「あれは、別行動を取っていた近衛兵ですね」
「サノセクで盗賊が奴隷商人に接触すると考えて、先に行かせてたんだっけ」
ロベールが近衛兵がマリアたちと分かれて行動していた理由を再確認する。
「そうです。あの様子だと、誘拐被害者はまだ見つけられてないのでしょうか」
「わたし、姫さまに知らせてきますね」
ストロベリーは近衛兵たちとの再会が近いことをマリアに伝えることを申し出た。
「お願い」
馬車の幌の中では、眼帯が所属していた盗賊のアジトの場所をマリアたちに伝えている所だった。ストロベリーは、指でマリアの肩をトントンとつついて耳を貸すように促す。
「……そう、分かった。バーバラ、あとお願い」
「了解したわよ」
マリアは、幌の外の御者席の方に向かった。
「盗賊さん、具合はいかがですか?」
ストロベリーは、眼帯に傷の具合を尋ねる。
「良くはない。治療してくれたのはあんたか」
ストロベリーは、旅装はしていても僧侶とわかる服装をしている。そのために、眼帯は自分の治療が応急処置でも、それが治癒魔法によるものだと判断で来たようだった。
「そうですよー。未熟なもので完全には直せなくてごめんなさいね」
本当はこの程度の傷なら完全に治療できるのだが、マリアの指示でしていない。が、それを伝える訳には行かない。
「とんでもない。命があっただけでもめっけもんさ」
幌の外に出たマリアは、サリーに現状の報告を受ける。
「姫さま、どうやら近衛の方々は誘拐被害者を見つけられなかったようです」
「問題ないわ。それは眼帯の彼から聞き出す事が出来た。彼らのアジトに隠されてる」
「あら、そうなんですか?」
「ええ、だからここで近衛と合流できたのは僥倖ね」
「今すぐにでも救出に向かいそうな物言いですね」
「当然よ」
マリアは、一切の迷いなくそう言った。
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