19.騎士団長と宮廷魔導士
「婚約者であるお前さんの顔を見たくなったんじゃろうな」
ファムファテルは肩書きは宮廷魔導士となっているが王国、公国、そして騎士団でも重要事項の決定機関に関わっていた。見た目は幼い少女だが、国王以上の権力保持者という見方も出来る。
「……王女の気まぐれで出かけてくる距離ではないと思うのですが」
ブロンドの長い髪を無造作に後ろで束ねた軍服姿の騎士団長、レオン・アーネストは目の前の宮廷魔導士ファムファテルにその報告を聞いて困惑した。
「気まぐれではないな。周到に準備をしているし、護衛も付けておる」
ファムはテルは、王国圏の要所に魔法での通信設備を設置していた。その設備にはファムファテル直属の魔術師が配属されていて、王国圏の上層部では速達性と秘匿性の高い情報共有が行われている。ファムファテルがマリア一行の出立の報を受け取ったのはマリアが王都を発ってから4日目のことだった。
「国王陛下はご存じなんですか?」
「そのようじゃな」
レオンは心の中でため息をつく。マリアがマルボークへ向かっていることを国王が承知しているという事は、それは実質的には公式の訪問だと捉えなければならない。
「どのルートで来ているんですか?」
「サノセク経由のようじゃな」
「よりによって、一番危険なルートですか……。ならば、迎えの人員を手配しましょう。万が一のことがあってはなりません」
「その手配、わしに任せてはくれんかの?」
「それは構いませんが……、何かお考えがあるようですね」
「うむ、……まあ任せておけ」
ファムファテルは、すでにその人員についての目算があった。
「ところで、今さらじゃがおぬしの縁談をわしが突然持ってきてまずくは無かったのかの?」
「いえ……、爵位を父から継承する頃には実家の方から話が出てくるとは思ってはいましたが」
「そうか。騎士学校時代は浮いた話が絶えなかったそうじゃが、今は大人しくしておるのかの?」
「おかげさまで、仕事が忙しいので遊んでる暇はないですよ」
レオンは、ファムファテルの問いに苦笑いしつつ答えた。
舞台はマリアたちの一行に戻る。
ウネンドリッヒを出発して10日、ここまでは何事もなく旅を続けていたが、ここへきて街と街の間の街道で盗賊に包囲されていた。数は少ないものの、武装した騎馬の護衛が付いていることからここまでは何事もなかったが、この盗賊は自分たちの手際に自信があったらしい。
「こちらから仕掛ける?」
盗賊たちはマリアの乗る馬車を、5メートル程の距離で包囲していた。弟のジェットと共に馬車のそばに侍る馬上のミーナは、御者のバーバラに戦闘開始の判断を訪ねる。
「いや、ちょっと待って」
すでに馬を止めて馬車を停止させていたバーバラは盗賊を観察している。
(全部で10人いるのは確認済み。全員が騎馬。得物はごく簡素な槍が8人、剣が正面の2人、か)
バーバラは、槍を持つ盗賊の所作がぎこちない事から剣を持つ正面の2人、髭面と眼帯の男が頭目とその副官だと推測した。
「ミーナ」
「なに?」
「たぶん、正面の剣の奴のどっちかがこいつらの頭よ。片方をやれば追っ払えるんじゃないかしら」
「なら、話は簡単ね」
後方では、ロベールが前方の2人と同様に騎馬で馬車の護衛をしている。後方に回っている盗賊は3人で、護衛を片付けた後に後ろから幌の中に侵入する手筈なのだろう。
「ロベール、替わりましょうか?」
「冗談言わないでよ」
マリアが声をかけると、ロベールは笑って答えたが、その実震えが止まらなかった。
「大丈夫。私が支援するから」
マリアは、ロベールを元気づけた。
「武器を捨てて積み荷を渡せ。そしたら命は助けてやる」
馬車の正面にいた髭面の盗賊が、御者のバーバラに向けて通告する。バーバラは、あきれたと言わんばかりの仕草をした。
「あんたら馬鹿でしょ。東に向かう馬車襲ったって、めぼしいものなんて積んでないっての」
「お前の知ったことか」
護衛が武装しているので、盗賊としても交戦は避けたかったようだ。バーバラは、盗賊が降伏を促すのは手下の練度に自信が無いからだと読み取る。そうでなければ問答無用で襲ってくるはずだ。
「バーバラ、準備完了よ。いつでも撃てる」
「オッケー。やっちゃて」
サリーは、御者席の後ろで開戦の合図となる魔法を撃つために術式の展開を準備していた。馬車を囲むようU字型に展開していた盗賊を攻撃するために、少し時間を要していた。
「空気の針!」
サリーが放った魔法は、空気中の塵を圧縮して集めて無数の針になり、高速で盗賊たちを襲った。
「痛え!」
「うがっ!」
前方で馬車を包囲していた盗賊は、体中に針に刺されたような痛みを覚え、素肌に受けた傷からは出血した。その直後、ジェットの銃から銃声が鳴る。その弾丸は、髭面の盗賊の頬をかすめた。
ジェットは素早く次弾を銃口から装填すると、馬を正面の盗賊に向けて走らせる。直後にミーナが続いた。
ジェットは手綱から両手を放し、両足で馬の進路を操作する。そして、盗賊の剣の間合いをかすめるように右側へ抜けると真横から銃を放つ。その弾丸は髭面の肩に命中した。
後ろに続いていたミーナは、ゆっくりと駆けていたジェットとはと違い全力で馬を駆けさせた。その速度差から、眼帯はミーナの接近を見誤る。ミーナは、盗賊の左側を駆け抜け際に眼帯の脇から腹部へ斬撃を命中させた。重傷を負った眼帯は、馬の首に倒れこんだ。




