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1.王宮はお花畑

 お待たせしました。この作品は「異世界のガンガールは引き金を引かない」の続編になります。


 王城の中、近衛兵の教練場にお姫様がいた。

 練兵の視察ではない。訓練を受けているのは姫様自身だ。


 方陣を組んだ30体ほどのわら人形を5人の魔導士が遠目から操っている。方陣は一糸乱れぬ動きでゆっくりと両刃の剣を構える姫様に迫った。

 姫様は方陣の右端を目指して駆けると、切っ先で右から左へと払う動きで先頭のわら人形を斬りつける。その胴体が真っ二つに割れると、姫様は右足で方陣の対角線に『跳んだ』


 その跳躍は姫様自身の魔法によって加速され、ふわりと宙を舞う。

 赤いドレスの裾をひるがえし、白いタイツに包まれた脚線美をわら人形たちに披露しながら最初の立ち位置から見て方陣の左奥に着地した姫様は、両足で踏み込み左翼の先頭を目掛けて低く水平にジャンプする。その跳躍も魔法によって加速さえていた。


「はあああぁぁぁ!」


 姫様は前方に飛びながら叫ぶ。そして両手に力を込めて剣を左から前方に払った。左翼の6体のわら人形の胴体は全て断ち切られる。そして姫様は着地時に前方に飛んだ慣性を真上に逃がすべくもう一度ジャンプする。”ひねり”を加えてのジャンプにくるりと宙を舞う姫様は、剣を頭上に構えつつ後方に控えていた従者に声をかける。


「サリー! 今よ! 合わせて!」

「はい!」


 その声に合わせて、ゴシック調のメイド服をまとった姫様付きの侍女サリーは、姫様が掲げた剣に自身の魔力を乗せる。姫様は着地と同時に魔力をまとった剣を地面に叩きつけた。

 すると剣先から方陣のわら人形へ衝撃波の光弾が飛ぶ。光弾が先頭のわら人形に触れると、閃光があたりに広がり、残りのわら人形は一瞬で焼き切れた。


「ふう……」

「お見事ですな、姫様」

「いや、前に進むだけのわら人形をいくら斬っても、ねえ」

 褒められたものの、姫様は苦笑いで返す。


 姫様に話しかけたのは近衛隊の小隊長のカールだ。一国の姫とはいえ、自らの鍛錬の為に兵の練兵場を貸し切って使用するには、現場の責任者の許可を得なければならない。カールは自分が許可を出した手前、その鍛錬に付き添っていた。


「習練とはいえ、我らでは姫様に剣を向ける訳には行きませんからな」


 姫様の鍛錬はあくまで個人的なもので、公式に定められているスケジュールに含まれていない。なので、万が一にもケガをさせるようなことがあってはならない。


「わかってる。ここを貸してくれるだけで有難いわ。感謝しています」

「恐れ入ります」


 ここで控えていたサリーが姫様に汗取りのタオルを手渡す。

「姫様、どうぞ」

「ありがとう」


 姫様とサリーは公国の魔法学院で共に学んだ同期生だった。王国と公国は名目上は王国の方が上だが、兄弟のようなもので友好関係にある。王国の姫君が公国の学び舎に通うことは不自然ではない。

 サリーの実家は公国の貴族の家宰を務める家柄で、卒業後の進路はサリーの成績が優秀だったこともあり自由度が高かったのだが、あえて姫様の侍女になったのは姫様の猛烈なオファーがあったからだった。王族とのパイプが出来ることはサリーの実家にとっても喜ばしい事である。


「騎士団領では魔族との戦いが本格化するかもって話なのに、王国(ここ)では緊張感のかけらもないの。どう思う? カールは」

「一士官ごときが意見できることではないと存じます」

「あなたの個人的な意見で構わないわ。聞き流す」

「では……、最前線と情報共有が出来てないのは少々歯がゆいですね」

「そうね……同感だわ」


 小規模ながら、騎士団の軍と魔族の軍で戦闘があったのは本当らしい。

 騎士団領と公国を行き来する商人がもたらした情報が、公国を王国を行き来する商人によってこの王都に届いている。正確な情報を得られるように動いていない王国の体たらくを二人は嘆いていた。


 騎士団領は王国と公国、両方に属する下級貴族たちの共同で統治されている。名目上、魔族との最前線を彼らが担っているのだが、王国と公国の関係が険悪になった場合に、それが軍事衝突にまで発展しないように監視する役目も担っている。


「サリー、午後からは何か予定入ってた?」

「はい。昼食後、2の刻に国王様からお召しです」

「珍しいわね。私室に?」

「いえ、謁見の間です」

「ふうん……何かありそうね。カール、今日はありがとう」

「はっ! 来週もこの時間で?」

「うん。何もなければね」


 敬礼をして見送るカールを背に、姫様とサリーは教練場を後にした。



 姫様は昼食後、一度風呂に入り身なりを整えて謁見の間へ向かった。サリーは扉の前で控えている。扉が衛兵によって開かれると、姫様は一礼して中に入った。


 姫様は礼にならって、玉座の国王と王妃に挨拶をした。

「ご機嫌麗しゅうございます。お父さま、お義母(かあ)さま」


 姫様は王妃の子ではない。側室の子だった。王国の王位継承は女子でも可能だが、男子が優先なので姫様の順位は低い。現国王の弟の継子も含めると、姫様の継承順は7番目だ。

 なので今年で19歳になる姫様としては、この場に呼ばれた理由は何となく想像できている。


「実はなマリア、お前の縁談が決まった」

 国王は前置き無しに本題に入る。


(やっぱりその話だったか……)

 姫様は無表情になった。


 縁談そのものに不満があるわけではない。王侯貴族の婚姻に、本人の意思が尊重されることなどまれなことだ。

 市井(しせい)に溢れる恋愛小説のように、燃えるような恋に憧れる気持ちがない訳ではないのだが、それでも自分の結婚が政治的な思惑無しで決められるとは微塵も思っていない。これは「そういうもの」なのだ。

 だが、魔族との本格的な戦いが始まるかという恐れのあるこの時期に、呑気に縁談だのを進めている父親に半ば呆れていた。


「お相手はどなたなのですか?」

「うむ。レオン・ファン・アーネスト。アーネスト男爵家の嫡男で、現騎士団長じゃ」

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