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18.丘の上の対決



(得物は左手の細剣、構えは半身。右手(利き腕)は背中に回して隠してる。思ってたよりは出来そうだ)

 バーバラは、ロベールの構えを観察する。

(こちらの初撃を捌いて、”後の先”を叩きこむスタイルか)


 バーバラは両手に持つ短剣を、ロベールとは逆の右前の半身に構えた。所謂、喧嘩四つの形になる。

「バーバラから仕掛ける場合だと、初手は右手の剣で左から右に払う感じになるわね」

 一応は剣の心得があるマリアが解説を始める。

「それはどうしてですか?」

「それ以外の動きだと、ロベールの捌き方ひとつで後ろを取られることになるから、ね」

「はあ……」

 サリーの返事は要領を得ない。


「例えば、バーバラが右手の剣を右から左に払う攻撃をすると、ロベールは一歩引きながら向けられた剣を自分の細剣で絡めて受け流す。すると、上手く行けばバーバラの身体は、ロベールから見て右へ流れていくことになる」

「ほぼ後ろを取ったような位置関係になりますね」

「技量差があればここからでも巻き返しは可能だろうけど、まあほぼ”詰み”ってわけ」

「よくわかりました」

「1対1の剣での勝負はそんな風に、自分の動きに相手がどう対応して、その先の展開を想定しておくことが重要になるのよ」

「まるで将棋ですね」

「何か言った?」

「いえ、なんでもないです……」


 ”待ち”の姿勢を崩さないロベールに バーバラは右半身の姿勢のままじりじりを間合いを詰める。

「……そら!」

 少しずつ間合いを詰めるバーバラは、ロベールの突きの間合いまであと半歩というところで一気に踏み込んでロベールに斬りこんだ。マリアの読み通り、右手の短剣で内から外に斬り出す斬撃だ。

「はやっ……!」

 焦った言葉は裏腹に、ロベールは冷静に対応する。左後ろに跳びつつ右から左に払われる剣を自分の細剣でいなすと半歩踏み込んで突きを放つ。バーバラは左手の短剣で細剣の攻撃を弾いた。

「ここまでは想定内……? じゃあ、これは?」

 バーバラは右手の短剣を横一文字に払った。だがこれは牽制で、本命はロベールの踏み出した左足を狙った足払いだ。右回りに一回転しつつ姿勢を低くして、ローキックを放つ。

「うおっ!」

 ロベールは素早く反応した。左足を上げて蹴りを躱し低い姿勢のバーバラに細剣を振り下ろそうとするものの、バーバラが短剣で既にガードしているのを確認すると2歩、3歩と引いて間合いを取った。


「やるじゃん」

 バーバラは立ち上がって、変わらず左半身の構えを取っているロベールを見ると素直に感心した。

「ちょっと楽しくなってきた!」

 そう言うと、バーバラは踏み込んでラッシュをかける。速く、それでいて力強い連続攻撃をロベールは捌いてみせる。そして時折繰り出す突きでの反撃をバーバラも躱してみせた。


 そんな攻防が数分間続いた後───。

「それまで!!」

 マリアが試合終了を告げる声を上げた時、ロベールの右手の掌底がバーバラの顎の直前で寸止めされていた。ロベールの勝利だ。


「あーあ、負けちゃった」

 バーバラは、悔しさを微塵も見せずにおどけてみせる。

「全然余裕そうでしたけど……」

 ロベールは少し息が上がっていた。

「まあ、もう2段階速度は上げられたけど、今の掌底は想定外だった」

「あえて細剣での反撃が難しい間合いで耐えて、奥の手の出しどころを探ってたんです」

「あれは、お行儀の良い騎士学校で教える剣術じゃあないよね?」

「ええ、まあ……」


「これはもちろん合格よね?」

 試合を見ていたマリアたちが、二人の元へ寄ってくる。マリアは、改めてロベールの合否をバーバラに確認した。

「そうね。盗賊程度を恐れる腕前じゃないのは十分にわかったわ」


「ロベールは騎士学校の成績は結構上位だったんじゃない?」

「いや、実践クラスにはいたけど、訓練に付いて行くのに精いっぱいだったよ」

 マリアの問いに、苦笑いしてロベールが答えた。


 ロベールは謙遜するが、貴族枠の騎士学校生で実践クラスに行く者は稀だった。騎士学校の実践クラスは、王国圏の各軍の士官候補が選抜されるエリートが入るクラスだ。加えて貴族枠で騎士学校へ入学する者は、社交界入りの準備のための人脈づくりが中心と考えている者が多く、訓練には力を入れていないのが一般的だ。試合前にバーバラがロベールに厳しい評価をしていたのはそういう実情がある。


「じゃあ、街に戻りましょうか。今日はいろいろあったから、ゆっくり休んで出発は明日にしましょう」

「そういえば、近衛の方々はどうしたんですか? 護衛が付けられていたはずですが」

 今さらながらの質問をミーナがする。

「あー……、えっと。まあいろいろありまして」

 ウネンドリッヒの街に戻る道すがら、ロベールたちに誘拐事件のあらましを説明することになった。



 一方、大陸の彼方、騎士団領の首都マルボークの宮殿にある騎士団長の執務室で、騎士団長と幼き少女の魔導士が面会していた。

「ええっ、王国のマリア姫が私に会いにお忍びでこのマルボークに向かったというのですか? 大魔導士さま」

「うむ」



「まるで将棋ですね」は問題があれば削除または変更します。

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