15.思わぬ再会
マリアたち4人はウネンドリッヒへの帰路についている。マリアの護衛が本来の任務だったカール以下の近衛兵たちは捕まえた盗賊の残りを追っていった。
「なーんか、勢いで盗賊の追跡を命じてたけど、良かったの? あれで」
「近衛の護衛が別行動になったのは、正直なところ想定外ですね」
御者をしているのはバーバラで、隣にサリーがいた。二人は、近衛兵が別行動になったことで生じる問題についての共通認識があった。このまま旅を続けるのならば、彼女ら二人だけでマリアを守らねばならない。並の盗賊を相手にしても、人数次第では不安が残る。
「ああいう時には、あなたが追跡の命令を止めるように諫めるものだと思ってたわ」
バーバラは、マリアが追撃命令を出していた時に感じた疑問をサリーにぶつけた。
「正義感で突っ走ってる時の姫さまを止めるのは無理ですよ」
「ふーん……、前に何かあった感じ?」
「ええ……まあ」
「ふーん、まあいいけど」
「現在の状況を踏まえて、旅を続けるにしても対処は考えないといけませんね」
「そうね。考えられる策は?」
「選択肢は3つです」
サリーは左手の指を3本立ててバーバラに見せる。
「一つ目は、このまま旅と続ける」
「却下」
バーバラは即答した。
「同感です。二つ目は、近衛が戻るまでウネンドリッヒに滞在する」
「それが無難ではあるけどね」
「姫さまの同意が得られるかは微妙なところです」
「三つ目は?」
「新たに戦力になる同行者を探す」
「当てはあるの?」
「ウネンドリッヒの常設兵が借りられれば良いのですが」
「常設兵ねぇ……、近衛ほどは頼りにならないし、そこを考えると隊商への偽装も出来なくなるから目立つことになるわね」
「要人が頼りない護衛で旅の途中だと言いまわるようなもの、という訳ですか」
「そういうこと」
「そもそも偽装のための装備も急には用意できませんね」
「うーん……、腕の立つ冒険者とかその辺に落ちてないかしら?」
「冒険者ギルドならマルボークにありますよ」
「それ、目的地だから。本末転倒」
「ともかく、街に戻ったら姫さまと相談ですね。2番目の方針で説得しましょう」
「よろしくー」
「間違った方に行かないように、バーバラさんも居てくださいよ」
「はいはい」
「それじゃ、当分ウネンドリッヒに留まるってことじゃない」
ウネンドリッヒに戻ったマリアたちは、役所でアジトに置いてきた盗賊の後始末を依頼すると遅めの昼食を取っていた。マリアは、サリーに今後の提案を聞いて憤っている。
「近衛がいなくなったって事、そんなに重大? 私だって戦えるよ?」
「これは、バーバラさんも同意見なんです」
「姫さまが無事に旅を続けることには、アタイらには相応の責任があるんですよ」
「う……、それを言われると弱い」
「ご自身の立場をよく理解してください」
「はーい」
マリアは渋々ながら納得した。
「でもバーバラさんも、盗賊のアジトを襲撃する所までは異論はなかったんですか?」
サリーが尋ねる。
「向こうの人数もはっきりしてたし、戦力的に問題にならないのは分かってたからね。実際、アタイの出番は無かったくらいだし。アジトに50人待機してますって話ならさすがに止めたよ」
「いろいろと、状況を判断してのことだったんですねー」
食事に集中してたかのようなストロベリーだが、話は聞いていたようだ。
「戦闘での魔法の使い方も体感できたし、面白い経験ではあったよ」
「突発的な戦闘では使えない作戦ですけどね」
食事を終えたマリアたちは、カリナの家へ向かった。兄が誘拐されている可能性と、それを前提として追跡を行っている事を伝え、必ず助けるからとカリナを元気づけた。
その後は役所へ行き、マリアは情報提供してくれた牢の中の誘拐犯に会う。
「もうやつらを潰してきたのか」
「ええ、けどリーダーは居なかったの。捕まってる人たちも居なかった」
「そうか。俺が捕まったことでアジトの場所が割れる可能性も考えたんだろうな」
「配下の者に追わせてるわ。馬が足りないから、盗賊が使ってた馬を借りてるわよ」
近衛兵は逃げて行った盗賊を追う速度を出すために、ぞれぞれが馬に乗っていった。近衛兵が乗っていた馬車はアジトに置いて行っている。
「そこは俺に断る必要はないが……、配下か。そういえばあんた何者だ? ただ者じゃないよな」
マリアは、そう言われて一瞬きょとんとしたのち、人差し指で口元を押さえて、言った。
「……ナイショよ」
役所の玄関ホールにマリアが戻ってくると、待っていたサリーたちが何者かと話している様子が見えた。身なりから、それなりの身分のものと判断できる。男が二人、女が1人だった。そのうちの男の一人はマリアは見覚えがあった。
「ロベールじゃない。どうしたの? こんなところで」
「良かった。会いたかったよマリア。実は、君の護衛の一員に加えて欲しいと思って追ってきてたんだ」