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13.盗賊のアジトへ



「壮絶な環境だったのね……」

「ああ」

 奴隷の労働・生活環境が最悪なのは言うまでもないが、それ以上に奴隷同士のヒエラルキーから生じる問題が耐え難かったようだ。要は”いじめ”である。


「逃走の機会の詳細については最早覚えちゃいないが、外に出る機会は月に何度かはあったんだな」

「逃げる先には当てがあったの?」

「そんなものは当然ない。ただただ遠くまで走る事しか考えてなかった」


「そこで盗賊の仲間になったのかしら?」

「正確に言うと、拾われたって感じだな。俺は砂漠で行き倒れたんだ」

「それじゃ、盗賊仲間に恩に感じてるところはあるって訳ね」

「そういうこった。だから、アジトの場所は教える訳に───」

「でも!」

 マリアは突然誘拐犯の発言を遮る。


「あなたがさらっていった人が、あなたと同じ目に合うことになるのよ」

「分かってはいる。けど仲間は裏切れない」

「裏切ったことにはならないわ」

 マリアは突拍子もない事を言う。


「は? なぜそうなる」

「あなはを拾った人は、今の盗賊のメンバーにはいないでしょう?」

「……なんでわかった」

「あなたを拾った盗賊は砂漠にいた。砂漠を通過する隊商を狙う盗賊だったから」

「そうだが」

「その縄張りを維持できなくなった理由があるわよね。その時のリーダーは今どうしてるの?」

「死んだ。盗賊同士の抗争でな」

「それでこの辺りに流れて来たのよね」

「そうだ」

「奴隷を拾って仲間にするようなリーダーが、奴隷を生み出すようなやり方を認めるかしら?」

「……確かに、そんな手で金を稼ぐことは嫌う奴だったかもしれんが」

「あなたを拾ってくれた盗賊団はもう無くなっていたのよ」

「それは言い過ぎだ」

「言い過ぎじゃない。亡くなったリーダーなら今どうするか、考えてみて」


 マリアにそう言われて、誘拐犯はうつむいて考え始めた。しばらくして、決意したように顔を上げ、言った。

「わかった。アジトの場所を話すから、奴らを潰してくれ」



 翌朝、近衛兵たちを含めたマリアたちの一行はウネンドリッヒから北の街道を進んでいた。先頭の馬車はマリアが御者を務め、サリーが横に座っている。

「バラフォー城の奥にアジトに砦を構えるとは、盗賊も考えてますね」

「そうね。城に見張りを立てていることを考えたらウネンドリッヒの常設兵は連れていけなくなった」


 ウネンドリッヒから北の街道を進むと、正面の山地を迂回するために道が左右に分かれる。右は大陸の中心部に続く街道になっているが、左はバラフォー城への道だ。

 バラフォー城は王国成立以前の大戦で重要な拠点になっていた城で、現在は廃墟になっていた。廃墟と言っても石造りのため崩壊は進んでいない。バラフォー城から先の道は山地の裾野とパンテーヌ湖に挟まれた狭道だった。アジトに向かうにはバラフォー城の脇を通らねばならない。

 つまり、バラフォー城に見張りを立てておけば盗賊掃討作戦は完全に察知できる。逃げられては元も子もない。盗賊が油断をする人数でアジトへ向かうしかなかった。


「全部で15人でしたっけ? バーバラが3人を一度に相手しても問題にならなかったことを考えれば、この人数でも大丈夫でしょうけど」

「お出迎えがあった方が楽よね。籠城されるとちょっと面倒かも」

「私と姫様の魔法なら一瞬です」

「それも砦の構造次第なところがあるからねぇ」


 一行はバラフォー城の脇を通り過ぎる。バラフォー城がその使命を終えて放棄されたとき、城の周りを囲んでいた堀は埋め立てられていた。

「じゃあ、本来なら城の中を通り抜けることになってたのですか」

 サリーがマリアに聞いた。

「そう。この先の狭道を抜けた先にあるパンテーヌの防衛のための城だったからね。脇から通れたら意味が無い」

「ということは、堀を埋め立てたのは……」

「王国からの命令」

「ですよね」


 王国が成立する過程での戦いで、パンテーヌの領主は後に王国とになる勢力とは敵対関係だった。当時のパンテーヌ領主は戦いに敗れて追放され、新しくパンテーヌに入った領主に対し王国はバラフォー城の放棄と堀の埋め立てを命じていた。王国成立後、パンテーヌの領主は湖の対岸に新しく街を建設して移り王都と直接行き来が出来るようにした。そういう経緯があって、バラフォー城から先の狭道を通る者はほぼいない。その点でもこの地を盗賊がアジトに選ぶ利点があった。


 バラフォー城を抜け狭道を数キロ先に進むと、右手の山の裾野に切り立った岩場が見られるようになった。それは誘拐犯に聞いていたアジトが近づいてきたという目印のひとつだった。

 マリアは狭道の右カーブの少し手前で馬車を止め、近衛兵たちも集めて全員でこの先の打ち合わせをする。

「誘拐犯の証言を信じるなら、このカーブの先に盗賊のアジトがあるはずよ」

「城っていうほどの規模でないにしても、大戦時代の砦が残ってるもんなんすね」

 近衛兵のエースが言った。それを受けて隊長のカールが答える。

「レンガ造りだからだろうな。定石ならその辺りに物見やぐらがあるはずだが、木造だったんで朽ちちまった感じか」

 カールは弧を描いているカーブの方を指差した。


「じゃあ、アジト襲撃作戦の詳細を伝えるわよ」



ウネンドリッヒからバラフォー城とアジトの位置をAIで出力しようとしましたが、イメージ通りに出来ませんでした。

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