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11.港での捜索



 バーバラは別行動の近衛兵たちのもとへ向かっていた。行方不明の兄を探している少女に付き添って、マリアたちが港へ行ったことを説明して、人手が必要になった場合には協力を求める旨を伝えるためだ。

「ああいう時に放っておけないってのがノブレス・オブリージュってやつなの? それだけじゃないような気もするけど」


 ノブレス・オブリージュとは、高貴な身分の者に付随する責任、義務だ。王族ともなれば社会の規範となるべく教育を受けてはいるだろうが、困っている人を見かける度にそれを助けていては旅は一向に進まない。

「まあ、アタイの立場でどうこう言える問題じゃないんだけどさ」

 バーバラは用件を済ませると、マリアたちと合流するべく港へ向かう。


 ウネンドリッヒの街の中心部は港より高い位置にある。港へ行くには通りに沿って進みスロープを下るか、裏道の先にある階段を下りるかの二通りの手段がある。バーバラはそれを近衛兵への連絡のために寄った酒場で確認していた。

「近道なら裏通りっぽいけど、よそ者の歓迎はしてくれるのかな?」



 その頃港ではマリア、サリー、ストロベリーがこの街で出会った少女、カリナの兄を探すため聞き込みをしていた。カリナは母と兄と3人で暮らしていて、家計を助けるために兄が若くから働きに出ていたそうだ。父親がいない事については、立ち入るべきではない事と判断して聞かなかった。

 3人はそれぞれが別々に行動して情報収集に当たっていた。しばらくして、集合して持ち寄った情報を交換する。

「ここ数週間、船員や人夫が負傷または行方不明になるような事件事故の発生は無いようです」

「わたしも事故の話は聞きませんでしたねー」


 サリーと、カリナと手を繋いでいたストロベリーがそう報告すると、集合してからずっと神妙な表情をしていたマリアが話し始めた。

「私は、カリナの兄……ユベイルの雇い主から話を聞けたわ」

 それを聞いて、ずっとうつむいていたカリナが反応した。

「なにか手掛かりはありましたか?」

 サリーが先を促す。

「ユベイルは3日前から来てなかったそうよ」

「ということは、自宅から港に来るまでにトラブルがあったということになりますね」

「そうなるわね」

 マリアは腕を組んで首を傾げた。


「私の提案は無駄になってしまいましたか」

 サリーが無念そうに言う。

「そんな事はないわ。港での事故はなかったことが分かったのは収穫よ」

 マリアは間を置かずフォローする。

「でも、これからどうしましょう? 私たちだけの捜索ではこの辺りが限界のようですが……」


「手がかりなら、連れて来たわよ」


 一同が声が聞こえた方を振り向くと、不審な男を連れたバーバラがいた。男は両腕を後ろ手に縛られていて、顔には打撲痕が多数見受けられた。手を縛っている縄は首にもかけられていて、縄の先はバーバラが握っている。逃げ出すとバーバラが持っている縄で首が締まるようになっているのだろう。強面で乱暴者に見える男だが、大人しくしていた。


「あら、どうしたんですか? その人は」

 サリーは状況に惑わされず、冷静になってバーバラに聞いた。

「いやー、そこでこいつを含めた3人のお誘いを受けたんですけどね。お断りしたんですけど、どうしてもって言うので何かお話が聞けるのかなーって思ってお一人だけご同行願いました」

「残りの二人は?」

「逃げちゃった」


 そこまで聞いたマリアが口を開いた。

「そう。シスターストロベリー、カリナをお家まで送ってあげてくれない?」

「了解しましたー。この人はどうするんです?」

「しかるべき場所でお話を伺いましょう。人目に付かないところがいいわね」

「それじゃ、私はお宿でお話が終わるのをまってますねー」

 そういうと、ストロベリーはカリナの手を引いて街の中心部へのスロープを上って行った。


「で、実際はどうだったの? ナンパって訳じゃないですよね?」

 サリーが改めてバーバラに尋ねる。

「まさか。囲んでアタイを拉致ろうとしたのよ」

「街中でそんな堂々と? ここってそんなに治安が悪いの?」

「まあ、近道しようとして裏道に入っちゃったのはあるけど……」


 バーバラはマリア姫の影武者を務めてるとは言え、もともとは王国の情報部に属する精鋭である。丸腰でもゴロツキ程度の相手に後れを取る事はない。

「この男、どうしますか?」

 サリーはマリアに尋ねた。

「犯罪者なら、然るべき場所に預けるべきね。尋問はそこで」

 マリアは毅然としてそう答えた。



 ウネンドリッヒの街は王国の直轄領である。街の役所には王国から派遣された軍人がいて、街の統治に当たっている。兵隊も常駐していて当然ながら治安維持活動も行っている。

 なので、マリアはバーバラを拉致しようとした男を役所に連行した。この男を尋問して、バーバラの誘拐未遂が組織的なものだったという事が分かった場合。カリナの兄の行方についても分かることがあるかもしれない。

 マリアたちが役所に行くと、カールたち近衛兵が待っていた。マリアは、カールに事情を話して誘拐犯を引き渡し、彼への尋問を依頼した。そして宿へストロベリーを迎えに行くと、その日の夕食をとるために出かけて行った。

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