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FairyTame-妖精交換(仮)-  作者: 雲散無常
第十一章:疑惑の宴
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11-5


 薄暗い照明の中で、露出の激しい衣装の踊り子が舞っていた。

 いつのまにかその数は一人から二人、三人から四人に増えている。

 激しく腰を振り、艶めかしい汗を飛び散らせながら上下左右、緩急自在に跳ね、回転し、時には挑発的に静止する。それぞれが独自に動いているようで、要所要所ではしっかりと連携した動作で見る者を魅了する。

 演奏も熱が入ったかのように激しく大胆に奏でられ、大衆の熱狂度は高まる一方だった。

 しかし。

 わしの視線の中心は別の所にあった。

 その豪華絢爛な舞踊の片隅で、ついに例の男女のもとへ客人が姿を現したのだ。

 大広間の演場以外が一層暗くなっているために影のようにしか見えなかったが、のっぺりとした仮面をつけた男が音もなくソファに近づいていた。派手なマスクが多い中、男のそれは真白で平面的だった。単に目の穴が二つ空いているだけのそっけないものだ。不気味でさえあるが、誰もかれもが妙な仮面やマスクを付けている中でそれほど目立つわけでもない。

 踊りに目を奪われていた二人が慌ててその男へのもてなしを開始する。やはり、待ち人だったようだ。

 女が自分の武器をふんだんなく使い、客へとしなだれかかる。相棒の方は言葉巧みにおだてるような甘言をまくしたて、ひたすらに持ち上げている。

 白仮面の男はそれらを当然の如く享受しながら、どこか偉そうに座っている。

 そんな茶番がしばし続いた後、本題らしきものが始まった。

 「それでですね、例のブツについて少しこちらにも分けてもらえると、大変助かるってわけです」

 「……言いたいことは分かる。報酬額は?」

 男がへつらうように笑いながら指を五本立てる。

 「ふん、二本足りないな」

 「うっ……わ、分かりました。では7本で……」

 男は苦り切った声を出したが、演技だろう。こうした交渉で最初の提示が受け入れられるはずがない。想定内の範囲だったことは確かだ。

 「それとこの女を部屋で待たせておけ。ガンタの連れとだと言えば通れるはずだ」

 「はい、それはもう間違いなく……ただ、ブツの方はいつ頃頂けるんで?」

 白仮面は少し考えるように遠くを見ると、「そうだな……」と言いかけて不意に言葉をそこで止めた。

 何か気になるものがあったのか、その視線の先を追うと中層スペースにある特等席があった。

 「お前ら、特等席に知り合いはいるか?」

 「へ?いえ、うちらは残念ながらあそこには縁遠い三下で……」

 「まぁ、そうだよな。急用ができた。女は先に向かわせておけ」

 白仮面はすっと立ち上がってその場を離れる。

 自然に振り払われる形になった女は呆然とした顔で男の方に「どうするの?」と無言で問いかけたが、相棒の方も答えは持っていなかった。ただ、困惑した様子で白仮面の背中を見送っている。

 何がどうなっているのか不明だが、白仮面があの特等席へ行くのなら丁度いい。魔札を忍ばせる時が来たようだ。

 手練れの戦士か何かと警戒していたが、どうにもそういう感じではない。上等な服なものの、どこかくたびれた感のある上着のポケットにそっと滑り込ませのも楽だった。

 この白仮面は何者なのか。その仮面以外にたいした特徴は見つからない。

 ガンタという名を告げていたが、こういう時の名前は当てにはならないものであるし、聞き覚えもまったくなかった。

 それでも、迷いなく特等席に向かって入口の警備担当に何かを渡した。

 用心深く手のひらに握り込んで、一瞬だけさらけ出すという慎重さで、うまく確認できなかった。次からはもっと近くの上部を陣取る必要がある。おそらくは、特等席へ入るための札か何かだろう。

 とにかく白仮面は特等席の内部へと進んだ。

 低く設定された半端な高さの壁しかないため、白仮面の動きは外からも見える。新たな客の到来にしかし、中の人間たちは誰も反応していなかった。皆、階下の踊り子を鑑賞しているのだ。上から眺める光景は、階下とはまた違ったものであることは確かだ。

 全体的な薄暗さも相まって、特等席の様子は見えるには見えるが、鮮明というわけではない。

 白仮面は各席の合間を抜けて一つの席に辿り着く。

 そこでは冠と仮面が一体化したような派手な装飾をした大柄な男と、ほぼ半裸状態の女が座っていた。冠はいわゆる王冠タイプのもので、放射状に伸びた幾つものギザギザが通常より長く、先端が男根のような形を模していて明らかに卑猥な象徴として目立っていた。女の方は高級娼婦か何かだろう。薄布からはみ出ているすべてが肉感溢れるもので艶めかしい。後ろから羽交い絞めにされる形でその豊満な胸を弄ばれていた。

 冠男はそんな戯れに夢中な様子だったが、白仮面に気づいてその動きを止めた。

 白仮面の方も勝手知ったる態度で、その席の向かいに腰を下ろした。

 何かの取引が始まるのだろうか。魔札を通してその二人の会話を盗み聞くことにした。

 「そのいやらしい派手な冠、あんた、ゴレスの旦那だろ?」

 「はっ、いきなり俺様の芸術をけなすとはいい度胸だな。殺されてぇのか?」

 「別にけなしたつもりはない。単なる確認だ」

 「こっちもその面白みのない仮面には覚えがあるが、てめぇから名乗れ」

 「陰影のガンタだ。当然知っているよな?」

 「はっ、ガンタ何某なんざ知らねぇよ。まぁ、裏派なのは分かってるがな」

 白仮面はやはりダリドアリ教徒の人間だった。しかし、陰影部隊を名乗ったということはシャダク隊ではないのだろうか。いや、そもそもシャダク隊所属であることを名乗ることはなさそうなので否定する要素にはならないかもしれない。

 「あんたの組織と何度か仕事したことは聞いている。だから、ちょっと頼みごとをしたくてな」

 「ほぅ。それは個人的にか?それとも……」

 「ああ、俺個人の依頼だ。上は関係ない」

 「はっ、そうかよ。報酬さえ払えるんなら俺様はかまわねぇぜ。当然、まともな対価でって話だがな」

 少し本腰を入れる気になったのか、ゴレスという冠男は女を乱暴に押しのけた。娼婦は「あっ」と床に崩れ落ちたが、文句を言うでもなく大人しくしている。その倒れ伏した女を足場にするようにどっかりと足を投げ出して、冠男は続ける。

 「で、何が欲しいんだ?さっさと話せ。そろそろ下の余興も終わって今夜のお楽しみが始まっちまう」

 非道な振る舞いのようだが、どんな扱いをされても逆らわない契約なのだろう。女は四つん這いになった状態で振り払うことはなかった。

 その異様な光景に多少気圧されながらも、白仮面は答えた。

 「あ、ああ、それなんだが、プルスタに興味があると思ってな。少し都合ができるから買いたくないかっていう――」

 「おい!てめぇ、なめてんのか?」

 「な、何を?」

 突然遮られたかと思えば、ずいっと体を寄せられて動揺する白仮面。

 「さっさと話せって俺様は言ったんだ。てめぇの頼みごとってのはその魔薬を売ることじゃねえだろうがよ」

 完全に冠男の方が優勢だ。白仮面は虚勢を張っているのが見え見えで、傍から見ても小物でしかなかった。

 本人はそれについて自覚しているのだろうが、おそらくはプライドが邪魔して認めたくないのだろう。なおも対等に渡り合おうと大きく出る。

 「プ、プルスタはそこら辺の魔薬とはモノが違うんだぞ?ほ、本当に分かっているのか?」

 「バカが。問題はそこじゃねぇよ。大方そいつを俺様に売る代わりに何かやれって話なんだろ?それを早く言えってんだ。これ以上、くだらねぇ駆け引きすんならここからつまみ出すぞ?」

 それが脅しではなく本気だと分かったのだろう。

 白仮面は慌てて語り出した。

 「わ、分かった。あんたを夜の帝王と見込んでの頼みだ、ゴレスの旦那。デガの歓楽街一の美女シャリーにどうにかつないでもらいたい」

 「シャリーだぁ?てめぇ、あの女を買いたいってのか?」

 「そ、そうだ。そのためならプルスタをそっちへ流してもいい。それなりの量を用意している」

 冠男は呆れたように一瞬止まり、それから豪快に笑いだした。

 「かぁっかぁっかぁっ!!マジかよ。てめぇ、そんなにあいつに惚れ込んだってのか?プルスタのことは俺様も聞いてる。教徒の一部でのみ使われてるヤバいやつだろ?効能は確かに気になってたぜ。えぐい噂が出回ってるからな」

 プルスタという魔薬については初耳だ。いや、コルヌージャの資料のどこかで見た記憶がなくもない。その辺りは関係ないだろうと無意識に弾いていただけかもしれない。ダリドアリ教の中でのみで流通しているという話であれば、多少興味が湧く。

 シャリーというのは高級娼婦で有名な人物のようだ。その界隈の頂点にいるのならば、単に金があっても相手にはされない。然るべき相手の紹介が必要になるのはどこも同じだ。

 「ああ、一度でいいから抱いてみたい。男なら誰だってそう思うだろ?」

 「はっ、欲に素直なのは嫌いじゃないがな。さすがに分をわきまえた方がいいぜ。俺様ですら一度しかヤれなかったぐらいのお高い女だぞ?」

 「だからこそ、プルスタを用意したんだ。どれだけ危ない橋を渡ってるか、あんたにも想像がつくはずだ」

 「そんなのはてめぇの勝手だろうがよ。けど、まぁ、興味はある……」

 冠男はそこで少し考え込むそぶりを見せた。相手を焦らせるための間ではなく、本気で思案しているようだった。

 盗聴しながら、どうにも話の展開が思っていたものではないことに落胆している自分がいた。この白仮面は陰影部隊かもしれないが、ただの助平な男なのではないか。このままこの話を聞いていても、シャダク隊について得られるものはないのではないだろうか。

 どうにかして魔札を別のものへと飛ばした方がいいだろうか。一応、魔札そのものを一度だけ風の魔法で移動させる魔法式は組み込んである。ただし、自由にコントロールはできない。一度発動させてしまうと、どこにどう飛ぶかは分からないという賭けになる。最悪、どうでもいいところに飛んで行って何の会話も拾えないという事態もあり得るため、最終手段としての機能だった。

 判断に迷うところだが、もう少しだけ様子見をしておくことにする。

 「そうだな……まずは一発試させろ。噂の通り、ぶっ飛んだ効果があるなら、渡りをつけてやる。けど、そっから先はてめぇの腕次第だぜ?あの女は想像以上にお高く止まってやがるからな。まぁ、そいつを屈服させるのはたまらんけどよ、くくくっ」

 冠男は下卑た笑い声を上げる。

 「ああ、そう言うと思って一つは今持っている。是非試してくれ」

 白仮面は待ってましたとばかりに何かを手渡した。

 「ほぅ……こいつは粉になってるってわけか?」

 「水か酒で流し込むんだ。酒の場合はあまり強すぎると逆に効果が薄れる。あと、最初から泥酔してる場合も効果は半減するらしい」

 「完全に酔っ払ってると微妙ってことか。はっ、混ぜるなってやつだな」

 冠男は早速コップの水を含み、紙で包まれたその粉を喉に流し込んだ。

 この時点でもうこの会話にあまり意味を見出せなかった。単なる魔薬のやりとりに興味はない。他の誰かに焦点を合わせるべきだと頭を切り替えようとしたところ、

 「お、おお?こいつはなかなか悪くねぇ気分だ……かぁっかぁっかぁっ!熱くなってきやがった!気に入ったぜ。てめぇ、二階にある俺様の部屋に招待してやる。そこにいるベーゲルと話しな。俺様の名を出せばいい」

 思わぬ名前が出てきた。死にかけマンが言い残した金玉男のことだろうか。

 もしもそうならば二階にいるということだ。是非とも確かめたいところである。

 驚いて考えを巡らせていると、冠男のゴレスが女を足蹴にして仰向けにする。そしてあっという間に一物を取り出してその場で腰を振り始めた。完全に発情した猿のようだった。プルスタは即効性の効果があるのかもしれない。

 「で、では、自分はこれで……」

 ガンタは人目もはばからずに快楽に耽る二人を横目に席を立った。そのまま二階に向かうのなら好都合だ。ついて行くことにする。

 特等席から離れると、下の演舞場では踊り子たちがその役目を終えて拍手を受けながら退場していくところだった。

 司会らしき男が声を張り上げる。

 「では、続きまして今宵の特別な宴、合歓祭の幕開けと行きましょう!」

 合歓とは共に喜び楽しむことではあるが、この場合は性交の方を意味するのだろう。まさか、ここでダリドアリ教のあのハニマニの宴めいたことをするつもりなのか。

 司会の隣では側人のような男が恭しく何かの盆を持って立っていた。

 そこには先ほど見た紙の包みが大量に載っている。先程のプルスタによく似ている。

 そこですべてが結びついた。ハニマニの宴は元々ニゲル草を普段から食している下地があり、尚かつダリドアリ教の教徒でも性に奔放な者たちが選ばれていた。今ここにいる者たちはその限りではないが、そうした享楽に強い興味があることは間違いない。つまり、ニゲル草の下地不足をあのプルスタで補うという魂胆だろう。

 その目的は不明だが、プルスタがあればハニマニの宴、あちらの言うところの合歓祭は実行可能だと思われる。

 シィーラたちが巻き込まれないよう注意を促したいが時間的余裕がない。

 ガンタは既に二階に向かおうと大広間を出ようとしていた。シィーラたちには自分たちでどうにかしてもらうしかない。ニゲル草の匂いもしていることだし、状況は理解しているはずだ。

 とにかく今は死にかけマンが口にしたベーゲルという男への手掛かりを追うのが優先だ。

 それがどれほど重要かは分からないが、この機会を逃すわけにはいかない。

 事態は一気に動き出していた。


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