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FairyTame-妖精交換(仮)-  作者: 雲散無常
第十一章:疑惑の宴
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11-3


 「ししょー、魔法教会って何のためにあるのー?」

 「む?藪から棒にどうした、小童こわっぱ?精神統一中に余計なことは考えるなと教えたであろう」

 「だって、昨日呼んだ本に書いてあって、気になったんじゃもの。魔法を使うのに、知っておいた方がいいんじゃないのー?」

 「そんな記述がどこかに載っておったか?ふむ、まだお主には早い話なんじゃがな……その様子ではまったく集中できそうにないな」

 魔法を習得するための鍛錬中だ。

 懐かしいお山の崖の前で童と老人が並んで座っていた。

 「まぁ、よかろう。軽く聞き流す程度にしておけよ。魔法教会とは魔法を広めるための組織じゃが、それは表向きのものじゃ。実際は魔法によって真理を紐解くだの、根源魔法の探究だのと、魔法至上主義者どもが魔法によってこの世を支配しようとするようなものじゃ。関りになぞならんでよい」

 「ええと……でも、ししょーも魔法使うよね?わしも今魔法をしゅーとくしようとしてるし……魔法教会、なんか悪者っぽいけど?」

 「うむ。魔法そのものには善悪はない。道具と同じでどう使うか、何のために行使するかの違いでしかない。小童はまだ分からんでもよい。お主の場合、魔力をコントロールするのが目的じゃしの。とにかく、修練あるのみじゃ」

 「そう言われても、気になるなー?」

 子供の方は不満そうに頬を膨らませている。

 「なんじゃと?生意気な小童が何を言うか。よいか?あやつらは着ている服で高位職を誇示するような趣味の悪い輩じゃぞ?それも、特級とかいう一番尊い色が月白なぞ、何を考えておるのか!紫黒か黒紅が妥当じゃろうが。基本色が白の時点で間違っておるわ!」

 今思えば、師匠はいつも黒系の魔法着だった。こだわりがあったのだろう。魔法教会とその美的感覚でもすれちがっていたようだ。

 とはいえ、子供にそのようなことは推察もできない。

 「何言ってるか分からん……」

 「だから、お主にはまだ早いというたじゃろが」

 頭を小突かれて、不意に景色が変わる。

 そこは見知らぬ建物の中だった。

 背景は曖昧で、鮮明なものは何一つない。

 揺らめく影のような人物はしかし、白藍のローブ、魔法着を着用している。それだけは確かに分かった。やや黄色みのある淡い水色のそれは確か、魔法教会の高位職だけが着られる特別なものだったはずだ。

 もう一人も魔法士のようでローブを着ているが、何色かは分からない。重々しい声で言う。

 「かの者の所属は―――ヒジャーニで本当によろしいのですか?」

 「あの潜在的な魔力量と技量、今から精進させて教育せねばならぬ。外界の騒音を耳に入れる前に、な」

 「しかし、かの者の親はあの――――です。危険因子も受け継がれている可能性が……」

 「なればこそ、じゃろう?今から徹底的に教会員として育てねばならぬ。ゆめゆめ、間違った方向へ行かぬようにな」

 二人の魔法士はひそひそと密談を続ける。内容は不明だが、あまり品行の良い話ではないことは分かる。

 その会話を柱の陰から盗み聞いている子供の影があった。

 姿形ははっきりしない。ただ、体格や背丈から子供であることが分かるだけだ。

 「……僕はただ魔法をもっと知りたいだけなのに」

 呟いたその声がぷつりと途切れて、また場面が変わる。

 今度は暗い部屋の一室のようだ。

 「すべてを闇に捧げなさい」

 「それが私たちの使命だ」

 「ええ、分かっているわ、母さん、父さん」

 暗闇の中で祈りをささげる三つの影。濃厚な黒い揺らめきがその部屋を満たしていた。

 「お前を誇りに思うぞ」

 「ええ、あなたは我が家で最高の娘よ」

 「……バカなモーリの分まで務めを果たすわ」

 かの娘の家族のようだった。儀式に参加していたあのモーリの姉と両親だろう。

 その一室の扉の外に、もう一つの影があった。

 「バカなのはどっちよ……」

 うずくまって膝を抱えているような影だ。

 そして、また視界が暗転する。

 そのまま暗い闇の中で、声だけが木霊する。

 「まだまだ改良の余地はあるが、ひとまずの機能は果たせるだろう」

 「ふむ、量産できるのか?」

 「まだその段階ではない。試験運用して得られる情報をもっと集めねばならぬ」

 「もっと試せということか」

 「これまでと同じであろう?なぜ、今回だけ急ぐのだ?」

 「別に急いでいるわけではない。直接的に指示できぬゆえ、手間がかかるというだけだ」

 「こちらの知ったことではない。それより、例の――」

 声は不意に遠ざかり、自分の意識も抜けてゆく感覚を覚える。

 そう、夢だ。今まで見てきたものは全部。

 その夢が終わるのだと無意識に悟る。



 気が付くと、離れの小屋の窓際にいた。

 久方ぶりの休息を取っていたことを思い出す。鳥のような妖精の身体になってからは、眠ることを必要としないものの、能動的に活動停止状態になることで休息してリフレッシュできることは学んでいた。

 その際に、ほとんど夢というものは見なかったのだが、今回は違ったようだ。単に今まで覚えていなかっただけかもしれない。

 あれらは何だったのか。

 夢に意味があるのかどうか、数々の研究資料はあっても答えはない。解釈次第だという話もある。

 師匠は潜在的な意識が影響しているのは間違いないとしつつも、夢によって何かが分かるということはないというスタンスだった気がする。その師匠も出てきたことをぼんやりと思い出す。は魔法教会を嫌っていたのを思い起こさせる過去だった。あれは実際にあったことだったと思う。

 だが、その先は不思議な光景だった。

 魔法教会の者らしき二人の会話。それを盗み聞きする子供。

 同様に、なぜかモーリの家族の話。そして、謎の声のみの会話。

 すべて支離滅裂な流れで結びつかない。そう思う一方で、何かつながっている予感もある。

 いや、そもそもそこに意味を見出そうとしているのは錯覚ではないだろうか。

 たまたま意味のない夢を見た。それだけのことかもしれない。

 他人から聞かされたなら、そう笑い飛ばすだろう。

 一方で、自分の中の何かがそうではないと叫んでいる気がした。

 不意に占い師の声が蘇る。

 『……天啓は終わった。婆にはその意味は分からぬゆえ、問われても答えられぬ。じゃが、ゆめゆめ忘れぬ方が良い。そなたらにとって必ず意味のある御言葉である』

 ロハンザの街のヤーヤーという老婆の言葉だ。不思議なお告げを聞かされた際の話で関係なさそうなものだが、なぜだか今思い出された。

 意味があるのだという本能的な悟りなのだろうか。気のせいだと片づけるには奇妙なしこりのようなものを覚える。

 一体どういうつながりがあるのか。魔法というものはキーワードになりそうだ。Gに関することのような気もする。まったく知らない者たちだった。それに、モーリの姉。家族のことはほとんど知らない。一番あの中では無関係そうだ。

 更には、不穏な会話。量産だの試験運用だのと聞くと、魔道具あるいは呪具のことを考えてしまう。

 そこで一つの線が浮かぶが、馬鹿げている結論だとすぐに打ち消す。

 都合よく考えるのはよろしくない。

 夢に囚われすぎているか。

 意識を現実に戻したところで、扉を開けて小屋に入ってくる者がいた。 

 シィーラやナリスではない。二人は今頃、料理屋で働いている。

 その他でここに自由に出入りできるのは、持ち主だけだ。管理人でもあるボネットは箒を持っている。時折、こうして小屋の掃除をしていることは知っていた。初めは一応、勝手に家探しのようなことをされないか警戒してはいたものの、盗られるようなものはなく、そこまで心配もしていなかった。

 単純に快適に過ごしてもらおうというサービス精神だ。床を掃きながら、小さな机に置いてあるものもにボネットは目を止める。

 そこにはマワリが描いた落書きのような絵があった。シィーラと共に何やら描いているものだ。

 「あらあら……」

 母親だけにそれが娘のものだと分かるのだろう。優しくそれを手に取って微笑むと、静かに掃除を終えてボネットは出て行った。

 この場所が確保できたのは本当にあり難い偶然だ。ハリヴェル一家のような善人には感謝しかない。

 彼らの住むこの街がどんなに荒れようと、無事でいてもらいたいものだと思う。

 そろそろ外に出て情報収集を再開するかというところで、落書きの絵の横に手紙があることに気づく。

 ボネットが置いて行ったのだろう。ナリス宛に届いていた。シィーラではないことで、差出人に察しがついた。

 早速目を通すと、やはりボーランからだった。例の暗号が解けたらしい。

 流石に内容は会って話すということで、間接的に指定場所の連絡が書かれていた。日時の指定がないことから、監視地点なのだろう。こちらが着いた時点でどこからか接触する方法だ。

 ならば今からわしが行ってもいいだろう。

 様々な事態が進行している。無駄にする時間はあまりない。



 待ち合わせ場所はとある尖塔の展望階だった。

 螺旋階段を上ってある踊り場のような狭い場所で、人気がないのは確かだった。

 見えやすいように外壁の上でしばし待機していると、それほど待たずに妙な頭の男が登ってきた。ボーランの髪型にいちいち言及するのも疲れたので割愛する。

 重要なのは話の中身だ。そういうわけで、初めからわしは筆談魔法を用意していた。

 ”例の暗号は何だったのだ?”

 単刀直入に始めるためにその文字を掲げて見せる。

 「おっと!?いきなり斬り込んでくるね、ブラザー!ノータイムなのかな?」

 余計なことは答えずに答えを待つ。

 「ふむ?とにかく早く知りたいってことだね?オーケー、オーケー。だけどね、ブラザー。この情報を与える前に、交渉とゴーしようじゃないか。まさかフリーだなんて思ってないよね?」

 意外な展開だ。ここに来て取引を持ち掛けて来るとは思わなかった。

 色々と言いたいことはあるが、とりあえず話を聞く必要はある。

 ”何が欲しい?”

 「イエス!ブラザー!キミなら分かってくれると信じてたよ。なぁに、そんなにハードなことじゃない。実は最近、気になっているガールがいてね。彼女の趣味は――」

 そこからまるでどうでもいいボーランの気に入った娘の話が始まり、最終的にその娘の好きな花が何なのか、部屋に潜入して探り出して欲しいという訳の分からない依頼をされた。

 自分でできるだろうと突っ込むと、そんな盗み見るような真似はできないと大真面目に言う。他人にやらせている時点で理論が破綻していることに気づいていない。

 くだらない取引ではあるが、別に害はないと判断して引き受ける。

 「グレイト!キミなら絶対やってくれると……ああ、分かったよ、いいから暗号のことをトークしろって目だね。オーケー、じゃあ紐解いた中身を伝えるよ」

 ボーランが語った内容は、なかなか興味深いものだった。

 そして何より、手紙でわざわざ連絡してきた意味も理解できた。

 そこには期限があったのだ。

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