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FairyTame-妖精交換(仮)-  作者: 雲散無常
第十一章:疑惑の宴
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11-2


 情報待ちの日々かいくらか過ぎて、まず最初に手札が揃ったのはダーヴナーヴの件だった。

 例のレクト派閥の若手議員たちの仕込みが完了したのだ。

 たっぷり脅した甲斐があったのか、保身に走った弱者の必死な行動力はなかなかに悪くない。

 それをもって、ようやくセホイヤ議員との対談の準備が整った。

 早速ロッコの紹介状を有効活用してその場を設けた。相手はそれでも見知らぬ傭兵風情の話に警戒していたが、最終的に密会のような形で会うことには同意してくれた。

 会談場所に指定されたのはなぜか右区の安宿の一室だった。

 左区になると予想していたのだが、何やら思惑があるのだろうか。時間も夜ではなく昼だった。右区ではそちらの方が正しいのかすら判断がつかない。

 とにかく、こちらとしては従うしかない。

 シィーラに大人しくしているように言い聞かせ、ナリス主体で話を進めるよう事前に打ち合わせた上で、その時を迎えた。

 二階すべてを押さえているらしく、その宿の階段を上がったところから身体検査が入った。

 武器携帯を禁止されたが、さすがに丸腰はあり得ないとしばし揉めたくらいだ。最終的に面会する部屋に向こうの護衛の増員を承諾することで落ち着いた。そこまで警戒されるとは思ってもいなかった。ロッコの紹介状の効果は思ったほどないのかもしれない。

 魔剣を隠蔽の魔法で隠していた方が良かったかとも思ったが、検査されると見えないだけでそこには存在するため、見つかって余計ややこしくなっていたことを考えると、これで良かったとも言える。

 警備兵たちは物々しい雰囲気だった。まったく友好的ではない。こちらのことがどう伝わっているのか。

 案内された一室に入ると、すぐにその部屋そのものにも結界らしきものが張られていることが分かった。やはり、相当の用心をしている。

 セホイヤは、ロッコとはあまり似ていない優男風の青年だった。童顔なことを本人も自覚しているのか、少しでも威厳を出すべく髭を伸ばしているようだが、正直あまり似合ってはいない。

 少し後ろに控えている護衛の男の方が、どこかの重鎮貴族のように厳めしい顔つきで貫禄があった。いずれにせよ、容姿は本質ではない。

 「よく来てくれた。私がヤンカー家の当主、セホイヤ=ジジット=ヤンカーだ。一介の傭兵とこうして向かい合って話し合うことは滅多にないのだが……まぁ、よい。公務もあるので手短に頼みたい」

 なかなかに威圧的な態度だ。貴族至上主義のような物言いだった。

 どこか虚勢的でもある。ナリスにはどんな時も冷静に振舞うよう指導してあるので、軽く受け流してくれた。

 「お初にお目にかかります。私はナリスと申します。こちらはシィーラ。本日はお時間を取ってくださってありがとうございます」

 貴族風に礼儀正しくナリスが挨拶すると、セホイヤは少し驚いたようにみじろきした。こちらをその辺のゴロツキか何かだと思っていたのかもしれない。

 少し慌てたように自身も儀礼的かつ正式な所作の挨拶を返してきた。貴族としての矜持か。

 「で、では、かけてくれたまえ。時間はそれほどない。早速、話を聞こう」

 早くも演技の化けの皮が剥がれて来ている。

 どうやら、初対面でなめられないようにわざと貴族的振る舞いをしているようだ。大分底が浅い。演技の方向性を間違えたのかもしれない。

 「分かりました。では、単刀直入に申し上げますが、その前にこちらをどうぞ。先に目を通して頂きたく思います。口頭ですべてをお伝えするよりも、時間的にも有効かと」

 ナリスは持ってきた資料を手渡す。

 それはブリッツの報告書をまとめたものと、こちらの依頼の要旨を並べたものだった。

 セホイヤは傭兵がそのような資料を持参してくるとは思っていなかったのだろう。戸惑いながらもそれを受け取って、すぐに中身を確認し始めた。

 その間、こちらには茶も用意されなかった。完全にぞんざいな扱いであったが、読み終えたセホイヤはすぐに扉付近の者に目配せした。

 そして、居住まいを正して改めてナリスに向き直る。

 「確認させてもらった。まず、こちらの非礼をお詫びする。正直、どこかの傭兵が兄上をたぶらかして小汚い情報でも売りにきたと思っていた。しかし、これらの依頼書のように綺麗にまとめられたものを見させられては、その認識は完全に謝っていると認めざるを得ない。内容も、非情に興味深いものだった」

 少しはこちらを認めてくれたということか。

 ナリスはそつなく受け答えする。

 「いえ、そのように疑うのも当然のことかと。分かって頂けたなら問題ありません」

 「ご配慮痛み入る。それで、大枠としてはそちらの要望としては、右区にあるダーヴナーブなる人物の屋敷を接収しようとしていること止めたい、ということでよろしいかな?そのために、その中心となっているレクト派と呼ばれる議員団体への抗議材料をこちらに提供してきた、と」

 「はい。その理解で合っています。それらは左区の議員であるセホイヤ様たちにとっても、悪くないものだと聞いています」

 「……確かに、これらが事実であればある程度の打撃を与えられるでしょう。しかし、その派閥の長を追い詰めても、その一派全体が手を引くとは限りません。これだけであきらめるかどかは微妙だと思います」

 セホイヤはしっかりとそのことに言及してきた。単純な依頼とだけ受け止めているなら、頼まれたことはやったので後は知らない、というスタンスでもよかったはずだが、足りない部分を指摘してくるのは悪くない傾向だ。対等に近い立場で物事を考えている証左であるからだ。

 口調も素に戻したのか戻ったのか、大分穏やかで丁寧なものになっていた。

 見極める意味もあって、こちらの手札はまだすべて晒していない。

 ちらりとナリスがシィーラの頭上にいるわしを見る。

 (かまわぬよ)

 同意を得たい視線だと理解して、承諾の合図を送る。ちなみに、わしは現在隠蔽の魔法で姿を見せていない。結界の魔法でばれそうなものだが、大抵の場合、こうした結界は入るときに異常を感知したり、外部からの魔法を防ぐ魔防壁のようなもので、そこを突破した内部では特に何も作動しない。

 瞬時に部屋に飛び込んだので、結界を監視している者は気のせいだと思って何も反応はしていなかった。妖精魔法の特殊性の賜物である。

 「他のレクト派については、一部の不正な資金の流れを裏付ける証拠を手に入れていますので、それをもって牽制して頂ければと……」

 ハカを攫った愚か者の貴族に用意させたものだ。保身に走る貴族は身内でも裏切ることに抵抗はあまりない。自らの家が常に大事であるからだ。

 その資料を新たにセホイヤに提示する。

 「なんという……」

 注意深くそれを確認した後、セホイヤは椅子に深くもたれかかった。

 「いかがでしょうか?」

 「……ええ、これならば十分にそのレクト派を叩く材料になります。おおよその者は黙らせることは可能だと思われます……しかし……」

 これだけのものを揃えても、セホイヤの懸念はまだ晴れなかったようだ。何が足りないというのか。

 「実はお話を聞いていて、一つ気になることを思い出したのです。その件がつながっていると、少し厄介なことになる可能性がありまして。少々お待ちいただけますか?こちらでニ、三確認させてください」

 セホイヤはそう言うと、護衛に何かの資料を要求し、それらを素早く読み漁り始めた。

 何か気になることがあるようだ。大分慎重派なのだろう。曖昧なこと、不確実なことは言わないようにしているらしい。政に関わる者としては正しい姿勢かもしれない。

 その間に飲み物が運ばれてきた。客として認められたということだ。

 「おいしー」

 一口飲んで、シィーラが思わず発した言葉はあまりに幼い。何事かと視線を集めることになっていた。寡黙と思っていた傭兵の剣士の第一声としては予想外だろう。やはり、しゃべらせないでいる方がいい。

 それからしばらくセホイヤは資料を睨んでいたが、ふっと一息ついてそれらを片づけさせた。極秘なのだろう、こちらに見せる気はないらしい。

 「お待たせしました。やはり、一つ懸念材料がありました。レクト派という派閥と具体的につながっている記述はありませんでしたが、それらしい線でつながっていることに確信が持てました。残念ながらこの件、レクト派を抑えても止まらない可能性があります」

 「ええと、具体的にどういうことでしょうか?」

 「はい。ご説明しましょう。つい先日、このデガの街に地下坑道が見つかったことはご存じでしょうか。今もダリドアリ教とデガの盾の間で、その探索と所有を巡って水面下の戦いが起きているのですが、今回のその屋敷に関しましてもその地下に重大な何かがあるという噂が出回っていることもあって、地下坑道に関連して押さえるような動きがあるのです」

 「ダーヴナーブさんの屋敷の地下と地下坑道がつながっていると?」

 「その可能性を有力視している議員がいます。彼はレクト派ではありませんが、レクト派とつながっている線は濃厚です」

 屋敷の宝を狙っている輩が、レクト派の他にもいたということか。そして、セホイヤはその人物をかなり警戒しているようだ。

 「その、彼というのは?」

 「…………」

 セホイヤはすぐに答えなかった。その名を口に出すことをためらうほどの人物なのだろうか。雲行きが怪しくなってきた。

 「その人物自体はそれほど重要ではありません。ただ、彼がつながっているとされているのがちょっとした大物でして、軽々しくそのことをお伝え出来ない事情があります。あなた方にどの程度の覚悟があるのか、正直はかりかねています……」

 (踏み込んで聞き出してよい。誰が関わっていようと、こちらがやるべきことは変わらぬ)

 ナリスに問われるまでもなく、話を進める道を進言する。魔狩りにダリドアリ教が関わっている以上、トップで街長のピリエですら敵に回しても進むしかない状況だ。その名が出て来ても受け取める覚悟はできていた。

 「こちらに問題はありません。知ることですら危険だとしても、すべきことをするまでなので」

 即座にきっぱりと言い切ったナリスに驚くセホイヤ。躊躇のないその態度で覚悟のほどは伝わったのだろう。

 「分かりました。ベネ=ハッジク=ヒャントバインという人物がいます。地下坑道にかなり熱心になっている議員で、その背後には執政官のアヒム=メザーがいるのです」

 「執政官……デルデ=ガルデの街の所有国レジホーンから派遣されている管理官のことですよね?」

 「知っていましたか。その通りです。街長ピリエ=ノーグウェメと親密すぎて教団に取り込まれているとさえ言われている疑惑の絶えない方です。その彼女の息がかかったベネ議員の方も、あなた方には障害になると思われます」

 「なるほど。レクト派を退かせても、そのベネという人物も排除する必要があると……けれど、その背後にいるのは執政官で、簡単ではない」

 ナリスがわざわざまとめるように呟いたのは、わしに聞かせるためだろう。どうするべきか、指示を仰いでいる。

 執政官についてはコルヌージャの方で内偵が進んでいた。ほぼ黒だと断定されていたので、然るべき段階で弾劾される、あるいは秘密裏に排除されるであろうことは分かっている。しかし、その時がいつか分からない状況である以上、そのベネ何某から余計な横やりが入る可能性は高い。

 その辺の事情をセホイヤに話して動いてもらうというのも一つの手ではあるが、コルヌージャの動きを明かすことには抵抗がある。忍者集団が自ら右区の方と連絡を取り、協力体制にあるのなら問題ないのだが、今の所レジホーン側はデルデ=ガルデの運営陣に関して表立ってまったく介入はしていない。その思惑が何かは知らないが、そこを無視して外部の者が混じるとややこしくなるのは必定だ。

 セホイヤには別の理由で安心させる材料が必要だろう。

 (執政官については何か手を考えるとここでは返答しておくとしよう。レクト派の方についてはいつでも進められるよう、下準備をお願いする形にするがよい。今この段階で、問題ないと説得することは不可能じゃ)

 ナリスが代弁すると、セホイヤは頷いた。

 「承知しました。いつでも動けるようにしておきましょう。しかし、執政官相手でも何かできるとお考えなのですか?」

 普通に考えれば一介の傭兵が手を出せる相手ではない。セホイヤの懸念はもっともだろう。

 (まず考えられるのは、ベネとやらを操ることで時間稼ぎはできるということだ。執政官が直接指揮を取っているのではない限り、報告という形で情報を集めているだけであろう。ダーヴナーブの地下と坑道に関連がないとでもしておけばよい)

 「時間稼ぎですか。確かにその手で引き延ばせはしますでしょうが、根本的解決にはなっていません」

 その間にコルヌージャ側が執政官を取り締まる、という意図があるのでそれでいいのだが、そのことを説明できない手前、何か代替案を適当にでっちあげる必要がある。

 (屋敷の地下にある宝もたいしたものじゃないと分かれば、関心も薄れるじゃろうて。他にすべきことが山ほどある立場じゃ。それっぽいのを用意するとでも言っておけばよい)

 「ふむ……宝をでっちあげる当てがあると?確かに、下手にないことを確認させるより、偽物で納得させた方が後に響かないかもしれません。バレなければ、ですが」

 それで大枠としての交渉は終わった。

 予想外の執政官の影があって今すぐに行動には移せないが、筋道はできたといえよう。

 セホイヤの政治家としての手腕はまだ未知数だが、誠実な人間のようではある。ロッコと兄弟というのはその点においては似ていると言えた。

 次回の連絡用に直通のポッポ便を渡されたので、こちらもある程度は信用されたと思っていいだろう。

 去り際にロッコの様子を気にしていたのが印象的だ。

 「兄上は元気でやっていましたでしょうか?」

 「ポッポ便があるなら、それこそ直にやりとりできるのでは?」

 「こちらに迷惑がかからぬよう、兄上はいかなる方法でも、一切の連絡を取ろうとはしてきません……この紹介状はだから、何年振りかの連絡となります」

 盗賊団などと名乗っている身内が議員の親族にいるのは、確かによろしくはないだろう。たとえ勘当された身だとしても外聞は相当悪い。実際、時には殺しまで請け負っていそうな実態だった。ロッコの「弟に合わせる顔がない」という思いは理解できる。

 「……紹介状を書く際に、ロッコさんは確かに、あなたにとっていい話なのか、面倒なことにならないのかずっと心配していましたよ」

 ナリスは正直に伝える。

 「あとはそうですね、あなたのことをセーヤ、とそう呼んでいました」

 「そ、そうですか……その名をまだ、兄上は……」

 セホイヤはその意味を強く噛みしめていたように感じた。尊名主義の大陸では、あだ名呼びは子供の時分でしかほぼ許されない。だが、特に親しい間柄や恋人の仲では時折、秘密裏にそうして愛称で呼び合うという文化もなくはない。兄弟の仲は今でも悪くないというのは真実だったということだ。




 「ちっちぇカメってなぁにー?」

 離れの小屋に戻ったところで、シィーラが不意に尋ねてきた。

 「えっと、執政官だからね、シィーラ。一番偉い王様とかが、地方の街とかにお目付け役として手配する人のことだよ。たとえば、シィーラがこうして欲しいって思うことがあっても、遠いところにいる人には伝わらなかったりするでしょ?そういときにその人を通じて実行させる、みたいな役割をする人のことって言えば分かる?」

 「んー、その遠いところにいる人に直接連絡すればー?」

 「その場合だと、本当に実行するかどうかは分からないでしょ?執政官は基本的に王様と仲良しで信用できるから、その遠い人がちゃんとやっているかどうか確認してくれるってわけ」

 「ほみゅ、ゼーちゃんがあたしのことを鍛錬をちゃんとするか見張っているみたいなことー?じゃあ、ゼーちゃんは執政官?」

 歪んだ認識だが、間違っているとも言い難い微妙なところだ。

 (急になぜ、執政官に興味を持ったのじゃ?)

 「んー、どっかでその言葉を見た気がするんだよねー」

 「え?どこで?」

 「さぁ、分かんないーって、あれ、アレどこいったー?」

 妖精の関心はまた別の所に飛んだらしい。気にはなるが、今はベネ何某の方の情報を集める必要がある。

 物事はやはり順調には進まないものだ。

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