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FairyTame-妖精交換(仮)-  作者: 雲散無常
第十一章:疑惑の宴
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11-1


 大陸には無数の国がある。

 大国は押さえていても、小中含めてすべてを把握している者などこの世にいるのだろうか。

 自分の生活で精一杯の一般人が他国の名すら知らないのは当然ではあるが、戦争で渡り合う傭兵ですら関わった国のことをどれだけ知り得るかと問われれば、大した情報量ではないと答えるだろう。

 わしがヴァーズ州のレジホーン国についてはほとんど知らないのも、ゆえに何の不思議でもない。賢者並みの知識を有していると自負していても、あらゆる国の諸事情など分かるはずもないということだ。

 何やら言い訳めいたことを前置きとしているのは、このレジホーンという国について本当に知識がないからだ。

 例の忍者集団である諜報組織の名ですら最近知ったくらいだ。

 その組織はコルヌージャというらしい。聞いたことがない謎の単語だった。

 気になって色々と調べている内に、レジホーン国で遠い昔に使われていた言語で「狐の牙」を表わすらしいことが分かった。そうなると、今度は何故狐なのかという疑問が浮かび、更に調べたいのだが、生憎と資料がない。関係者からの会話のみからでは、必要箇所の的確な内容など望むべくもなかった。

 勝手な憶測で、その昔神聖視されていたのが狐系の動物だったのではないかと考えるくらいだ。

 根拠も何もないので完全な妄想に近い。しかし、連想してそういった疑問が発生し、何らかの結論を置いておきたくなるのは避けがたい性格というものだ。自分の中で何らかの仮説を作って、その答えを暫定的に決めておかないと落ち着かない。「人は納得したがる生き物じゃからな」と師匠も良く言っていた。

 とにかく、コルヌージャの動向を不定期に探っていたところ、先日の変態男、ガープという呪紋使いから粗方の情報を取り終えたことが分かった。

 最終結果の報告書を盗み見て、なかなかにえげつない内容だということを知る。

 まず、ガープが呪紋を施していた子供たちの出所が、ダリドアリ教の例の宴の儀式、乱交によって生まれた赤子たちだということが判明した。

 その赤子たちは特殊な魔法で成長促進させられ、その上で呪紋を施して闇の御子なる特別な子供を選別していたらしい。選ばれなかった子供たちは呪紋と成長促進の魔法の副作用で、短命になることも分かっているという。そうした半端者を処分するために、資金回収も兼ねて身売りさせていたことなどを赤裸々に白状していた。やはりあの変態はクズだったが、それ以上に大量の子供を家畜のように量産させ、その中から「闇の御子」という一人を誕生させるという目的が、あまりにも特異だ。

 ダリドアリ教に教義などないという話と大分矛盾している。幾度か感じた違和感がそこにもあった。

 それはコルヌージャ側も同様だったようで、闇の御子なる存在がどういったものなのか、主導しているのがダリドアリ教のどの部門なのか、という二点を更に掘り下げて調査していた。

 ガープ自身はその辺りは無頓着でたいした情報を持っていなかったが、仲介していたのはサーベベという名前の人物であることは分かった。忍者集団が調査しているものの、こちらも心に留めておくことにする。

 例の怪しい宴の目的がとんでもない目的であることは驚愕の事実だ。ハニマニの狂宴と勝手に呼んでいたが、そんな生易しいものではなかった。実際に正式な儀式名などもなく、単に宴という暗喩のような呼び方をされている時点で、ダリドアリ教徒の中でも後ろ暗い思いがあることは確実だろう。名称についてはさておき、疑問も残る。

 ニゲル草などの催眠あるいは催淫効果によってその場は意識が朦朧とした状態であっても、妊娠して出産となればさすがに母親は我が子のことを忘れることはないだろう。誰との子で、いつ妊娠したのか、そういう疑問を意識しないはずがない。更にはその子供すら取り上げられることに抵抗がないのだろうか。

 一時の快楽に溺れるようなものとはまったく違う。教団はいかにしてその工程を乗り越えているのか。

 この点に関しても、実は補足事項があった。

 コルヌージャも同じ疑問を抱き、しっかりと調査をしていた。その結果、赤子の成長促進のように、妊娠期間の短縮というデタラメな魔法が実施されていることを突き止めた。あまりにも自然の理に反しており、禁忌の魔法であることは明白だ。

 そもそも、そんなことが可能かすら相当怪しいのだが、実際にハカのような子供たちを見ている以上否定もできない。あらゆる魔法にある程度精通しているつもりではあるが、禁忌系の魔法は当然手を出していないし、師匠の教えで基本的に他人に干渉する魔法は禁止なため、理論構築の思考実験すらしたことがない。

 いつもなら関わらないようにする部分ではあるが、今回は必要に迫られていることもあり、コルヌージャの魔法士や学者たちの見解を見ておくことにする。それによると、可能性はあるという結論のようだ。もちろん、実証はできていないので仮説の検証に留まっているが、ある種の条件を満たせば理論上は不可能ではないという。ただ、その条件はかなり厳しく、母子ともに危険性も伴うもので現実的ではないとも締めくくられていた。

 一方で、現実には大量の身元不明の子供たちがいるので、ある程度の成功率でその魔法は成立していることになる。同時に、一時的に成功だと判断されても長期的には不明だということだ。今が無事だとしても、遅効性であった場合は何年後かに思いも寄らない障害が出る可能性は十分にある。

 教団はそれでも急いで闇の御子とやらを欲しているということか。益々気になる存在だ。

 だが、ここで大事なのは、その魔法の解明よりもこれ以上の拡散を防ぐということだ。自らが与り知らぬところで勝手に妊娠させれ、子を取り上げられる。そして、その存在すら気づかされないままに、また身体を利用されている状況があるのだとしたら、それは許されざることだ。

 あまりにも非人道的すぎる。

 ふと脳裏に過ぎるのは、ヤスネの両親のことだ。深淵合宿とやらに向かってから消息不明だという話だが、この狂気の宴に利用されている可能性が濃厚だ。そういった信者が一定数いることは間違いない。ダリドアリ教のどの派閥が関係しているのか、それが分かったらデガの盾の方に情報を流すべきだろう。いや、それよりもセホイヤ議員の方が有効的だろうか。

 ロッコの紹介状が既にあるので、セホイヤと会談する準備はできているが、もう一つの仕込みがまだだった。それが整い次第、ダーヴナーヴの件も進展するはずだ。タイミングが重要だ。手札は多い状態で臨みたい。

 更に、ヘーゲルの件もある。例の謎の貴族風の男が裏組織に与するものであるなら、その同僚だというヘーゲルという男を追えば魔狩りにつながる気がしている。ダリドアリ教の裏に魔道具を売り捌くかの組織があるという仮説は、ここまでのあらゆることに説明がつく。その証拠を抑えたい。

 ボーランが例の暗号らしきメモを解けたらこちらも大分進展するだろう。

 加えて、高級酒場の線もある。あちらにシャダク隊が関係していることが確定すれば、そこから裏組織、ダリドアリ教、どちらにもつながる予感がある。ここに来て色々な道筋が見えてきた。後はいつどこから手を付けるべきか、その手順を考えるべきだ。

 デルデ=ガルデの街を見下ろす尖塔の一つからそんなことを考えていると、不意に妙な気配を感じた。

 高高度の場所でそんなことは滅多にない。周囲に何もないのだから当然だろう。

 それは魔力探知のように広範囲へと魔力を飛ばしているように思えた。

 しかし、魔力探知ではない。

 逆に、自らの位置を知らせているように感じられる。己はここだ、と周囲へと無差別に誇示しているような感覚だ。

 遭難時などなら分からないでもないが、こんな街中、しかもこんな高度まで到達するほどそれをする目的は何なのか。

 答えは一つだ。

 何が、誰が反応するか、それを待っているとしか考えられない。

 気づいた者を呼び寄せようとしているのか、その中から特定の何かを探そうとしているのか。

 いずれにせよ、下手に動かない方が得策だと判断して、わしはわざと意識して別のものへと視線を逸らした。気にはなるが、ここで使い魔のような状態のわしが反応するのは好ましくない。どうせ、勝手に罠にかかりに行きそうなヌーリャの者がいる。アーリリッタが面白がってこの流れに乗らないはずがない。嬉しそうに反応している姿が目に浮かぶ。

 ゆえに、わしは関係ない壁に無理やり目を向ける。

 たまたま、そこには落書きがあった。シィーラやマワリが熱心に調べているあれだ。

 何度見ても何が気になるのか分からない。

 ただ、その壁のものは周囲がやけに蔦に覆われていた。旧い壁なので不自然ではないはずなのに、何か気になった。

 と、その時。

 例の魔力が一気に消えた。目的を果たしたのか、先程までの気配が霧消している。

 我知らず、深く息を吐く。

 無意識に緊張していたらしい。

 冷静になると、先程のあの魔力に覚えがある気がしてきた。

 それもいずれ分かるか。 

 取り留めなく思考を重ねていたが、高所から街を眺めていたのには理由がある。

 先日の地下坑道でのデガの盾と教団の小競り合いで、デルデ=ガルデの街全体が少し慌ただしい雰囲気になっていた。一触即発とまではいかずとも、住民全員が不穏な空気を感じ取ってピリピリしているというか、いわゆる犯罪や争いが起きやすい状況になっている。

 その混沌に乗じて、何かが起こるのではないかという危機感があって、何となしに警戒しているといったところだ。

 何かという漠然としたものでしかないが、それはこれまでに培われてきた勘のようなもので、絶対に軽視はできない類のものだ。

 鳥なのか妖精(ユムパ)なのか、そんなものになった今でも、その感覚は変わらない。

 アーリリッタが狙ったように情勢は一気に騒がしくなっている。

 その行く末にどの程度関わることになるのか、それすらも今は分からなかった。




 その夜。

 シィーラがなぜか散歩がしたいと言い出したので、夜風に吹かれながらデルデ=ガルデの街を歩いていた。

 「それで、どうかしたの、シィーラ?」

 妖精の気まぐれはいつものことだが、夜に出歩きたいという申し出は初めてだった気がした。

 「んー、何がー?」

 「だから、どうして、散歩したいなんて言い出したのかなって」

 「別に―、そんな気分だっただけー」

 夜に活発な右区ではなく、通常の形態である左区を歩いているため、全体的に周囲は静かだ。

 左区でも夜に営業している酒場などはちらほらとあり、言わば普通の夜の街ではあるのだが、左区の盛況ぶりを知っているとどうしても比較して大人しい感覚を覚えてしまう。

 「気分ね……本当のところは?」

 ナリスは何か確信があるのか、追及する手を止めなかった。

 「う……ナリス、なんか気づいてるー?」

 「どうだろうね?」

 そのやり取りを見て、わしも気になってきた。

 (なんじゃ、何かこの散歩には意味があるのか、シィーラ?)

 「うーん、あるよーな、ないよーなー?」

 煮え切らない返答を聞いて、確かに何かがありそうだと分かった。

 (何か心当たりでもあるのか、ナリス?)

 「いえ、具体的には。ただ、昼間から微妙にそわそわしていたことがあったので……」

 ふむ。そのような状態は珍しくもないと思うが、ナリスが気になったのならよほどの違和感だったのだろうか。

 「うん、あっちに行こー」

 シィーラが向かった先には装飾店らしきものがあった。主に服などを売っている店のようだ。通常、こうした店は貴族向けだが、ここは佇まいからして庶民用に見える。しかし、貴族以外で着飾ることにお金を賭けられる贅沢はほぼできないのが世の常識だ。商売が成り立つのか疑問だった。

 「何か欲しいものがあるの?」

 「ちょっとねー」

 シィーラはごまかすように言うと、その店に入って行く。

 わしとナリスは無言で顔を見合わせてから、その後に続いた。明らかにシィーラには目的がありそうだ。

 店に入ると、乱雑に服が並べられていた。そのどれもが地味なもので、実用性、機能性を重んじたもので庶民向けだと確信した。自ら裁縫するための生地なども積み上がっており、そちらの方が需要がありそうだ。貧困な村などの場合、裁縫士かそれに近い技術の者が村人に服を作るのが一般的だ。既製品よりもずっと安くつく。

 妖精はしかし、そうした服には見向きもせずに奥の棚の方へと向かう。

 そこには草木を加工した指輪や、獣皮や骨を使ったネックレスなどが展示されていた。貴金属の装飾品は高価なのでさすがにここにはない。これもまた、庶民用であろう。

 「やっぱり……多分、マワリちゃんに何か贈るつもりなんだと思います」

 ナリスが小声でささやく。

 (ほぅ、どうしてまた?)

 「最近、仲の良い者同士で同じものを身に着けるっていう流行りがあると、料理屋のお客さんが言っていたのを聞いたことがあったんです。おそらく、それに感化されたんじゃないかと」

 (ふむ……ならば、ナリスとまず試すものかと思うのじゃが……)

 「いえ、同性同士が基本らしく、友情の証ですね。まぁ、想像の通り専ら女性限定の話なんですけど、シィーラにはその辺の区別はあまりないようで……」

 ますますナリスが相手でいい気がするのだが、シィーラが選んだのはマワリだったようだ。

 なんにせよ、そう言う関心をナリス以外に向けるのは悪くない。マワリには当初から強い親近感を抱いているようだ。その要因は未だに分からないのだが。

 シィーラも無意識にナリスではなくマワリに贈ることに罪悪感があって、ナリスに向かって詳しく話さないのではないか、と勘ぐったりしたが、一緒に連れて来ている以上関係ないかもしれない。複雑な妖精心か、単なる単細胞か。

 「あ、そうだ。お金ちょーだい、ゼーちゃん!」

 やはり単に財布代わりなのかもしれない。いつものようにナリスではなくわしに言ってくる辺りも、どう受け取るべきか。

 いいですよね?というナリスの無言の視線にうなずく。ここで否定する選択肢はない。

 「じゃあ、これにしよー」

 シィーラはほとんど悩むことなく、一組の腕輪を選んだようだ。それは艶のある蔦を編み込んで作ったシンプルな腕輪で、アクセントとして白いアゼリの花びらがあしらわれていた。それほど高くはない買い物だ。

 (どれ、そのままでは傷みも早かろう。わしが少し丈夫になるように保護の魔法をかけてやろう)

 「おー!ゼーちゃん、ふとももー!」

 それは太っ腹といいたいのだろうか。苦笑しつつも、その腕輪に魔法をかける。そそっかしいシィーラや、やんちゃなマワリが乱暴に扱ってもすぐには壊れない程度の効果はあるだろう。

 嬉しがる妖精の裏で、少しだけナリスが寂しそうな表情を浮かべていた気がする。

 そこに気づけるようになれば、もっとシィーラの評価も上がるのにと思わずにはいられなかった。


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