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FairyTame-妖精交換(仮)-  作者: 雲散無常
第十章:破片の芯
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10-10


 偶然と必然の違いは何か。

 昔、師匠にそう質問したことがある。まだ幼かった頃か、それとも知識を蓄え始めた時だったか。

 「小童が、何を言い出しおったかと思えば……」

 鋭い視線で射抜かれて硬直した。分不相応なことを言ったりすると、そうした大人の圧力でよく黙らされたものだ。ただ、その時は違った。何か気分が変わったのか思い直したのか、ふんと鼻を鳴らしてシンプルに答えてくれたのだ。

 「そこに違いなどありゃせんよ。受け止めるお前の問題だ」

 求めていた答えではなかったし、意味も当時は分からなかった。

 今ならば色々と見えている。見えるようになったというべきか。

 己の解釈で変わる言葉に意味などない。事実をただ事実として受け止めるだけでいい。そう諭してくれていたのだ。子供への回答には決してならないが、師匠は常に対等に接してくれていたということだろう。口では常に坊主や青二才とあしらわれてはいたのだが。

 なぜそんなことを思い出したかと言えば、目の前の男の扱いに困っていたからだ。

 例の死体処理をしていた下級貴族風の男を倒し、その正体を暴こうとした矢先。

 なぜかボーランが現れた。

 いったいどこからという疑問はさておいても、その意図が不明だった。

 開口一番の言葉が「やぁやぁ、ブラザー。いいところに!ショッツを追っていたらストレンジなところに迷い込んでしまってね。イグジットを教えてくれないかい?」というものだった。こんな場所で迷子になるはずがない。ショッツというのも誰なのか。いや、聞き覚えがあるような気もする。

 思い出そうとしていると、またもや謎の察し力で言葉を継ぐ。

 「ああ、ショッツというのは商人代表ショッツ=ハルダーのことさ。ネクラ寄りの協力者っぽくてね、その動向を気にしていたんだ。ところで、こっちの死にかけマンは何だい?救うつもりなら結構危うい状態だとワーニングしておくよ」

 さて、どうしたものか。

 さすがにジェスチャーのみでこの男のことを説明するのは難しい。一方で、尋問するにはボーランを使った方が効率的だ。指摘されたように、男は今にも死にそうなほど弱っている。もたついている時間はなかった。

 「ふむ。どうやら助けるつもりはないどころか、致命傷を与えたのはキミなんだね、ブラザー?ということは、この男はボクの敵か。そして、何かこの死にかけマンから情報が欲しいのかい?具体的にどんなものをドレインしたいんだい?」

 なぜそこまで的確に分かるのか。ボーランはやはりどこかでこちらを監視していたのではないだろうか。

 勘の良さですますにはあまりにも詳しすぎる。

 「おっとっと、ノーヲーリーだよ、ブラザー。ボクは別にキミを監視してなんかいないさ。常に隠れているキミを見つけるのもハードだしね。そんな疑いのアイズを向けないでくれ。共に逃げた仲間じゃないか」

 一方的にボーランがしゃべっているだけなのだが、会話のようなものが成り立っている不思議。この能力は何なのだろうか。

 「ははん、分かったぞ?この死にかけマンが何者か知りたいのかい?そういうことなんだね?」

 本当に驚くしかない。わしのどこから読み取ったのか。

 だが、今は有り難い。正にその通りだからだ。こくこくと頷くと、ボーランがニヤリと笑顔を見せた。その頭が任せろと大きく動く。ちなみに今日の髪型は横わけのツインテールだ。編み込みまでしている。男でその髪型をしている者は初めて見た。しかも、絶対に付け毛だ。そこまで地毛は長髪ではなかった。

 なぜなのかという疑問は抱かない。考えるだけ無駄だろう。全面的に見て見ぬ振りでいく。

 ボーランは周囲を見回し「ふむ。派手に魔法バトルをしたアフター……」などと呟きながら、今度は下級貴族風の男の衣服を漁る。

 男はわずかに身じろぎして拒否しようとしていたが、その動作すら叶わない。魔法の電撃というのは、内部から焼くものだからだ。抵抗して魔法防御をしようとする場合、基本的に体の外側に魔防壁を張ることになり、内部までは行き届かない。ゆえに、男の衣服は比較的無事で、身体内部の臓器などが現在はズタボロになっている。

 持ち物などを調べるためにわざとそうしたのだが、これほど上手くいくとは思っていなかった。散々炎の竜巻で炙っていたので、あわよくば、という程度の考えではあった。

 「サープライズ!」

 急にボーランが叫んで、何かを掲げた。メモ紙のようだ。

 「ほらほら、ブラザー、見てごらん!いかにもな暗号が書かれているよ。あやしさエクスプロージョンだねー!」

 そこには数字と見たことのない記号のような羅列が書かれていた。

 ぱっと見では確かに意味を汲み取れない。

 「それと、死にかけマンの袖を見てごらんよ。デンジャーな仕込みの魔道具がある。それに魔札もメニーメニー懐に隠していた、つまり――」

 ボーランはわざとらしく間を開けて、それから言い放った。

 「このガイズは多分、魔狩りに関係している組織のメンバーかもね」

 「―――ー――っ!?」

 どうやってその結論に辿り着いたのか。

 わしは改めて、ボーランの洞察力に感嘆するしかなかった。その証拠を探そうとしていたところで、他人から同じ推論を聞かされるとは思ってもみなかった。

 「ほぅほぅ、キミもそう思っていたようだね、ブラザー?そうかそうか、ボクはこの死にかけマンは知らないけど、キミは何らかの手がかりから辿ってきたというわけか。と、なれば――」

 ボーランは更に男の衣服を丹念に調べ、匂いを嗅ぎ、それから立ち上がってその場をぐるぐると歩き回る。

 考え事をするときのクセのようだ。ぶつぶつと何かを言いながら、視線はここにない何かを見つめている。良く分からないが、何か思い当たることがあるようだ。

 この間にボーランに筆談魔法で指示を出すべきかどうか悩んでいた。信じられないほどの推理力で状況を把握してはくれたが、ここから先は具体的に男に尋ねるべきことがある。死体処理をしていた理由だ。

 男が口を割るとは考えにくいものの、死に際の気まぐれで何か漏らすかもしれない。

 その機会はそして、今しかない。筆談魔法を隠すつもりはあまりないが、ひけらかす必要もないので使わないでいたが、ここはやはり使うべきだろう。

 木箱の蓋に男へ聞きたいことを箇条書きにしていく。

 ボーランがいない場合でも、やはりこの方法しか多分道はない。

 「イエス!なんとなく見えてきたピクチャーがあるよ。キミのマスターには内緒にしたいところだけど……ってなんと、文字まで書けるのかい!?」

 丁度書き終わった蓋を見て、ボーランが駆け寄ってくる。あちらも考え事は終わったらしい。

 熱心にわしの質問を見て、その一つ一つに頷いている。

 「なるほどなるほど、死にかけマンに問いかけて反応を見ようということだね?オーケー、その役引き受けようじゃないか。これもデスティニーなサムシングだろう。ブラザーとボクの友情にチアーズだ!」

 訳の分からない盛り上がりはいらないので、羽根を男の方に向ける。やるなら急いで欲しい。

 時間的猶予はもうあまりない。

 「おっと、そうだね。まずはクエスチョンが先だった」

 何はともあれ、そうして貴重な情報の一端をわしらは手に入れたのだった。




 「ええと……それで結局、その死にかけだった人は何者だったんでしょうか?」

 ナリスがお茶を淹れながら尋ねて来る。

 情報共有のための報告をしているところだった。シィーラはベッドの上から床に散らばった葉っぱを眺めている。大量の枯れ葉のようにしか見えないそれが、妖精ユムパにとっては別の何かに見えているらしく、組み合わせることで新しい世界が開けるそうだ。

 正直、何を言っているのか分からない。こういうことは稀にあり、無害なので好きにさせていることにしていた。

 ベッドの上に広げることだけは汚れるという理由でナリスが強い口調で拒否していたが。

 (うむ。最後まであやつが口を割ることはなかったゆえ、推測でしかないが、当初の予想通り何らかの組織の手の者だったと結論付けている)

 「しゃべらなかったのに、分かったのですか?」

 (正確には素直に認めなかったというだけで、断片的なものは口にした。己の最期を悟って、多少はたがが外れたのだと見ておる)

 男の今わの際を思い出す。

 命が尽きる時に何を残すかによってその者の真価が問われる、というのは誰の言葉だったか。

 最後までその名を知ることはなかったが、あの男はその意味では悪くなかったのではないかと思う。ボーランがうまく引き出したとも言えなくもない。

 「キミがどこかの組織の回し者だということは分かっているんだけど、そのネームを教えてくれる気はあるかい?そうしてくれたら、せめてペインを引き延ばさずにキルしてあげるよ」

 単刀直入に切り出したボーランに、男はぺっと血反吐を飛ばした。身体はほとんど動かないので、それが最大限の抵抗だったのだろう。

 「なるほど。その気はナッシングということだね?では、ダリドアリ教のどことつながっていたのか、というのはどうだい?穏健派?ヤーゼルの眼?裏派?街長のピリエ?あるいはドジェかい?んー、シャダク隊?」

 男はいずれにも答えなかったが、しっかりと聞こえていることは分かった。

 ボーランもそれを分かっていて、それぞれのキーワードを口にしているのだ。たとえ返事はせずとも、人は見知っている言葉を聞けば何らかの反応を示すものだ。その度合いは距離感や関係性に密接に結びついており、わずかな違いを生み出す。

 その僅差を見極めているのだ。

 「ふむ……例の死体を処理していたようだけど、誰からの依頼だい?」

 男は無反応。

 「ああ、例の、というのは巷じゃ魔力を吸い取られたってアレさ」

 わざと言い直したのだろう。ボーランはなかなかに強かだったが、男はやはり何も言わない。

 「オーケー。では、次だ。この魔道具は闇に抱かれし者の紹介か?」

 袖口の仕込みを指差してボーランがその文言を口にした途端、男の顔がぴくりと動いた。思わず、と言った反応でわしも同様だった。

 それは闇の組織を表わす暗喩だ。なぜ、ここでそれが出て来るのかと思ったが、すぐにそのつながりが見えてきた。

 魔道具だ。

 元々、このデルデ=ガルデの街には魔狩りという魔力を吸収する不可解な事件の調査に来ている。そこで関係しているかもしれない魔道具が、ジェイクという怪しい男からもたらされた改造魔核だという懸念があった。そのジェイクという男は、大陸では御伽噺とまで言われる歴史の裏で暗躍する犯罪集団に所属している疑いがある。

 闇の組織は、通常では考えられないほどの威力や機能を持った魔道具を用いるという特徴があり、ボーランはそのことを男にほのめかしているのだ。

 「……死にたいのか、お前?」

 干乾びた声で男が初めてボーランに答えた。

 「それはナウ、キミの方だと思うがね。とにかく、そうか。やっぱり関わっているのか。他にメンバーはどのくらいいるか、教えてくれないかい?」

 「俺が答えるとでも?」

 「イエス。だって、キミ、話したがっているじゃないか。最後にサムシング、言いたいことがあるのだろう?ぶちまけてスッキリすればグッドだよ」

 図星だったのか何か意図があったのか、男はしばし黙り込んだ。少なくとも声を出したということは、思うところはあったのだろう。

 「……もう死ぬのは確定だ。最後に鳥の使い魔にやられるなんて思ってもいなかったが……後悔はない。滅茶苦茶な魔法戦だったが面白かったしな……」

 男は息も絶え絶えに語り出した。

 何か言いたいことがあるのは確かなようだ。最後の最後だと確信して、覚悟を決めたかのようだった。

 「お前らが何を追っているのか知らんが……ネクラに関してひとつ土産をやる。ベーゲルを……探してみな……」

 「ベーゲル?それは誰かのネームかい?」

 「は、それくらいは自分で考えろ。俺のメモも取ったんだろ……関係している……かもな……」

 「ふむ?オーケー、キミのヘルプは無駄にしないさ」

 「……変なヤツだな……けど、あのバカをヤるときは……金玉を……潰してから……頼む……」

 「ゴールデンボールを?なぜ……?」

 「決まって、る……大嫌いだから――ぐばっ!!」

 男はそこで血を吐いて事切れた。最後の願いが他人の金玉潰しというのはよほど恨みがあったのだろう。何とも言えない遺言だった。

 「……その金玉のくだりは必要なかったように思います。とにかく、そのベーゲルという人物が次の手掛かりなんですね?」

 どこかジト目のナリスにわしは首を横に振る。

 (いや、必要じゃろう。少なくとも、金玉があるということで男だと確定したのじゃ)

 「そう、ですか……メモ紙の方はどうなんです?何か分かっているんですか?」

 微妙に苛立っているようなナリスが次の疑問に移る。金玉がよほど気に入らなかったのだろうか。

 (暗号に関しては、まだ分かっておらぬ。じゃが、ボーランに何か心当たりがあるとかで、解けたら連絡が来るようになっておる。無論、わしも考えてはいるがまだ思いついてはいないな)

 「了解しました。でも、これで魔狩りに闇の組織らしきものが関わっているとなれば、いよいよ改造魔核もつながってきそうですね。ジェイクという男と死にかけマンが同じ所属だったなら、やはり同じようなものを流していることになります」

 (確かにその可能性は高いじゃろうな)

 「っていうか、気になったんだけどー」

 そこでシィーラが突然発言した。一応話を聞いていたらしい。

 「その人、もう死にかけマンじゃなくてー、死んだマンじゃない?」

 心底どうでもいい問いかけだった。

 あの死んだ男も、自分が訳の分からない呼び方をされているとは夢にも思うまい。どちらにせよ、名も知らないために仕方がない。

 最後に金玉男というネーミングがわしの脳裏に芽生えた時点で、ろくでもないことだけは確かだ。

 やはり、名前は大事だと改めて思った。


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