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FairyTame-妖精交換(仮)-  作者: 雲散無常
第十章:破片の芯
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10-9


 その空間に入った瞬間、罠にはまったと気づいた。

 体が重い。

 魔力の質、空気、マナそのものが変異していた。

 その隠し部屋には結界が張られていたのだ。しかも強力な。

 男は監視に気づいていたということか。

 暗闇の中で声が聞こえる。

 「ほぅ、何かがつけて来ていると思ったが、まさか鳥の使い魔だとはな……鳥?だよな?」

 失礼な間ができた。

 既にこちらの姿は見えているのだろう。疑問系なのが気に食わないが、それが証拠でもある。

 この機を逃す手はない。

 直線的な雷の魔法を放つ。

 動きを制限するための先制攻撃だ。

 あちらが魔法を封じる結界を用意しているのなら、それを上回ることで不意打ちができる。幸い、わしの魔力は結界で多少制限されるくらいの影響しか受けていない。常識外の妖精魔法で度肝を抜いて一気に制圧する予定だった。

 しかし、男の方も一筋縄ではいかない能力を持っていた。

 機動力を奪うために脚を狙った貫通魔法が何らかの力で軽減された。完全に足首近くを貫いて動けなくさせるはずが、かばいながら動けるほどの傷にとどめられた。

 「おいおい、使い魔がこの結界内で魔法も使うだと?」

 倒れ込みながらも、男はその部屋の棚の一つに隠れる。

 薄暗いせいで見えにくいが、この部屋にも何かを入れた木箱が並べた棚が配置されていた。物置のような場所なのかもしれない。男の姿が完全に影になる。

 互いに相手を見くびっていたようだ。

 警戒度をもう一段引き上げて、まずはこの結界を壊すことから始めることにする。先程の魔法は思っていた以上に威力が弱められた。見積もりが甘い。

 この部屋に用意された結界はあの男が即席で作ったものではないはずだ。

 あまりにも出来が良すぎる。

 空間に対して仕掛けている場合、範囲を限定して威力を高めるための要石が使われることが多い。

 それを探す時間を稼ぐ必要がある。

 暗闇をこちらの味方にする。

 まずは閃光の魔法を放った。攻撃性は皆無なものの、部屋全体が瞬時に眩い光に包まれる。

 相手は完全に視界を失っただろう。位置も把握する。

 間髪を入れずに氷の魔法をその足元へと這わせてゆく。向こうはこちらが飛ぶ鳥だということに気を取られて、上方を気にしているはずだ。

 一瞬の盲目で警戒態勢を取るとき、上からの攻撃に備えようとする逆の心理をつく。下半身を氷漬けにすることで、一時的に行動を制限できるはずだ。

 次いで、部屋の四隅へと飛ぶ。

 要石となる何かがあると仮定して探す。結界を強める設備品のようなものだ。

 分かりやすい置物ではない。

 魔法陣でもない。

 床にはないようだ。

 壁を見る。明らかにおかしなところはない。窪みも仕掛けもない。

 否。上部の角に何かがあった。

 使われていない壁掛けの燭台、位置が不自然だ。高すぎる。

 微かな魔力も感じる。

 巧妙に何かで遮られているが、魔石がはまっていた。躊躇なく壊す。

 すぐさま結界が弱まったのを感じる。

 他の燭台もどきも破壊して回る。

 身体の重さが取れる。

 下方から水撃。水泡弾。飛んで避けようするも、直前で遮断する風の魔法に切り替える。

 水が弾けて無数の小さな凶弾と化す。回避行動では負傷していた。そのすべてを風の壁が受け流す。

 「ちっ、勘のいい野郎だ」

 男の悪態が響く。下半身が濡れていた。氷はすぐに解かしたようだ。もう少し足止めできると思ったが、想定より短い。

 しかし、解かすことは想定内だ。

 完全に蒸発させていないことも悪くない状況だ。

 次の一手を放つ。

 「うおっ!?」

 男が炎に包まれる。先程の氷には一部油を含ませていた。魔法の成分まで調整できるのは妖精魔法の特殊能力だ。

 火種が少しあれば引火して燃える。

 当然、男はすぐに自身に水の魔法をかけて鎮火させる。その隙に、今度は雷魔法を放つ。

 濡れそぼった身体では、避けても感電するという寸法だ。

 ある程度の損害を与えられると確信していたが、男は何事もなくその雷魔法を吸収した。少なくともそう見えた。避けるでも弾くでもなく、取り込んだように映った。

 「まったく、えげつない早技だな。想定より10面倒なんだが?」

 そのまま返したいセリフだった。

 普通なら既に何度か死んでいる。軽減されることを予期しての攻撃だったが、その配慮は必要なかったようだ。手加減なしの戦略が必要かもしれない。

 自分は当たり前のようになっているが、相手も詠唱無での魔法を何でもないことのように放っている。異常だった。

 師匠が少しやる気になったときの雰囲気を思い出す。自分以外の激しい魔力の波を予感して、どこか総毛立つようなあの感覚だ。

 「結界まで壊しやがって、マジで使い魔なのかよ。正直、その魔法技術は欲しいから、俺の部下にならないか?それなりに好待遇を約束するぜ?」

 なぜか勧誘をかけてきた。しかも、本気らしいことは伝わってくる。油断を誘うための小細工ではない。どこの何者なのかも明かさないところが、傲慢な性格を表わしている。絶対的優位を確信して、上から目線の物言いだ。従わなければ殺す、といったところだろう。

 返事は決まっているので、風の魔法を周囲に起こす。

 攻撃の合図だ。

 「あがくか……もうちっと差を見せつけなきゃだめかね」

 独り言の多い男だ。いちいちしゃべらないと気がすまないのか、わざとなのか。

 この手の輩は本当の実力者かはったりで騙すかの二択と相場は決まっているが、前者であることは確定している。油断はしない。まだこちらを侮っている内に一気に方をつけたい。

 風の中に雷も含ませる。複合魔法は上級魔法士でも扱える者は少ない。

 妖精魔法はそこに更に重ね掛けが可能だ。

 炎をまとわせる。

 炎の竜巻が二つ出来上がった。

 「おい、そっちまで本気出してこなくていいんだよ。ここは俺が圧倒的な魔法で使い魔をぶっ倒して、本体登場って流れだろうがよ?」

 そんな筋書は認めない。

 十分魔力が溜まったところで竜巻を両脇から挟む形で男の方へ投げる。

 「ちぃっ!」

 大きな舌打ちをしながら、男は全身から氷の塊を表出させた。愚痴りながらも魔法を構築していたことは分かっていたものの、あれほどの規模とは思わなかった。詠唱なしの威力ではない。

 氷はたちまち男を囲むような氷壁となってこちらの竜巻を遮る。

 炎と氷のせめぎ合いが始まる。風圧は完全に遮断されていた。

 更なる魔力を送り込んで力押しに持っていく手もあるが、それでは芸がない。

 大量の水の矢を用意する。

 男の氷の壁を穿つための継ぎ矢だ。相手が防戦している今のうちに穴を開けたい。

 一定間隔で一点を狙って放つ。放つ、放ち続ける。

 「同時攻撃とか、どんだけ魔力量豊富なんだよっ!?」

 まだそんなことを叫んでいられるということは、余裕がある証拠だ。しかし、その場から逃れるほどの余力はなさそうだ。多少は焦りが見られる。

 途切れることなく水の矢が正面の氷壁を削って行く。

 このまま行けば穴が開くはずだ。

 悪くない展開だと思っていると、不意に背後から何かが飛び出してきた。

 警戒していたので、すぐに前方へと飛び退ることができた。

 何事かと振り返ると、壁から鋭い槍のようなものが突き出ていた。土の魔法で狙ってきたのだろう。

 男の奥の手だろうか。この部屋自体を操る術があるのかもしれない。

 魔法は基本的に起点が自分の周囲になる。例えば指や足先、離れても身体から半径1メートルほどがせいぜいだ。自身の魔力を源とするため、距離が開けば開くほどそのコントロールが難しくなるので当然のことだ。遠隔魔法が高度なのはその点に起因する。

 ゆえに、今の攻撃魔法は破格な魔法とも言える。男の周辺ではない遠い壁を起点に発動しているからだ。相当の腕がなければできない。いや、ただの実力だけでも説明ができない。既に氷壁で魔法を放っている状態だ。更なる一手を打てるとしても、そこで遠隔魔法という更なる高度魔法というのは腑に落ちない。

 何らかの補助があるはずだ。その仕掛けがこの部屋自体にあると仮定すると、まだ起点となるものは他にも存在するだろう。

 壁に魔札の一種でも埋め込まれているのかもしれない。結界は破壊したものの、すべてを無効化できたわけではないということか。

 改めて敵地にいると自覚する。誘いこまれたのだ、警戒しすぎることはないだろう。

 軽薄そうな男の言動も要注意だ。すべてが計算づくの可能性がある。完全に守備に集中しているとみせかけてからの、先程の反撃は狡猾な妙手だ。罠を持っていても、有効に使わなければ意味がない。その意味で、男は最大限の効果を狙って使っている。想像以上の戦略家だ。

 その手の駆け引きは最近あまりしていなかった。

 常に相手の行動の先の先を読め、というのが師匠たちの教えだ。その大切さは骨身にしみて分かっている。相手も理解しているとみて間違いなかった。

 こちらの回避行動を確認して、男は唇を歪めた。

 いつもの軽口が出てこないあたり、本気で狙っていたというところか。その目はまだ死んでいない。まだ攻撃手段がありそうだ。

 だが、次の番はもう回さない。

 連続で放ち続けた水の矢がついに到達する。こじ開けた穴は極小だが、それこそが活路だ。

 炎の竜巻の中に忍ばせていた一筋の雷の矢をその穴目掛けて解き放つ。

 氷は雷を通さないため抜け道が必要だった。

 男が更なる何かを仕掛ける前に先手を打つ。

 忍ばせた雷の魔法が内部に侵入した瞬間を狙って、追い打ちをかけるように魔力を打ち込む。

 最初の雷魔法は火種に過ぎない。

 微小な魔力で気にも留められなかっただろうが、穿った穴を通して起爆されたそれは急激に内部で激しく暴れまわる。

 男にとって、氷の防壁はもはや自らを閉じ込める檻となったのだ。

 「――――っ!!!?」

 悲鳴を上げる暇すらなく、男の全身が痙攣して黒焦げになる。

 とっさに何らかの防御魔法で緩和したようで、完全に焼失することはなかった。それくらいの抵抗を予想しての一撃だ。

 氷壁が消え去り、衣服が焼け落ちて半裸状態の男が横たわっている。できるなら見目麗しい美人が良かったが、無理は言うまい。

 ようやく決着はついた。死なない程度に弱らせることには成功したと言えよう。

 男が何者であるのか、どうにか探らねばならない。

 本番はここからだった。

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