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FairyTame-妖精交換(仮)-  作者: 雲散無常
第十章:破片の芯
87/225

10-4


 結局のところ、あの儀式の目的が何だったのか。

 その答えはまだ出ていない。

 怪しい仮面の男がモーリの姉に何をしようとしていたのか。おそらくはろくでもない方向性のものだろうが、手がかりはあまりない。ただ、身体から何かが抜け出ていたように思えた。あれが魂の類か何かであれば禁忌の魔法であることは間違いない。

 一方で、そんなことが可能なのかは疑わしい気がしている。上級魔法士ですら困難なことを、魔道具経由での行為となればその難易度は跳ね上がる。現実的ではない。しかし、実際には行われていた、少なくともそう見えてしまっていた。あり得ないことでも、可能性の一つとして残すべきだ。

 その仮説に従えば、仮面の男は強力な魔道具を持っていることになる。重ねてシャダク隊だと推測するならば、少数精鋭の隊員の正体は、そうした魔道具を与えられた者かもしれない。こんな片田舎の街にそれほどの実力者がいるとは思えないゆえ、魔道具のおかげと言う仮定は悪くない。

 何より、それならば改造魔核とつながる。

 都合のいい解釈だが、腑に落ちるものがあった。その線を追うのはありだろう。もしかしたらあの像も関係するのかもしれない。何かと反応するもの。そういう観点で調べれば、何か分かったのだろうか。いや、これ以上憶測を重ねても意味はないか。

 一つずつ確かめてゆくしかない。

 いつものように地道な方針に固まったところで現実に返る。

 現在時刻は深夜。

 人々は寝静まっている頃と言いたいところではあるが、デルデ=ガルデの街の右区では違う。今が正午のような盛況ぶりだ。昼夜が逆転したこの地域では、夜型人間とでも言うべき者たちが活発に動いている。

 そんな喧騒を眼下に見下ろしながら目的地へと向かっている最中だ。

 その場所とは、アーリリッタからもたらされた酒場だった。シャダクの手掛かりあるという話だが、いったいどういう酒場なのか。その下見に来ていた。

 童女曰く「怪しげな連中が怪しげな会話を怪しく繰り広げる怪しい場所」だそうだ。とにかく怪しいを強調しているだけで具体性は皆無だった。シィーラが乗り込む気なので、事前にどんな雰囲気なのか知っておく必要がある。妖精ユムパに臨機応変な対応は難しい。ある程度の事前の策が必須だった。

 流石に怪しい酒場というだけでは何の対策も立てられない。

 もっと仔細な情報を求めたのだが、アーリリッタはそこから先は自分で調べろの一点張りで詳しくは教えてくれなかった。そのやり方に不満はあったものの、求めすぎるのも何か違うので引き下がるしかなかった。手がかりをもらえただけ幸運と思うしかない。

 あるいは酒場という特性上、アーリリッタにはそれ以上の情報がないのかもしれない。子供が情報収集するには場違いすぎる。少なくとも見た目は童だ。本当のところは違うようだが、詳細はやはり不明。アーリリッタという人物自身には謎が多すぎる。

 そんなことをつらつらと考えながらその酒場を見つけたとき、それまでの憶測がまるで間違っていたことを思い知った。

 そこは酒場というイメージからは大分かけ離れた場所だった。

 店名が掲げられた看板は豪奢に彩られた鉄製か何かのプレートで、これまた派手に装飾された燭台が周囲を囲み、一際その周辺を目立たせていた。店の名はノーガルハーメ。単語に心当たりはない。後に知ったのだが、所有者の名を冠しているそうだ。

 高級そうな建物それ自体が入店者を厳選しそうな雰囲気で、実際そこは会員制の高級店であった。一見がふらっと立ち寄れるような場所ではない。常連らしき者たちはみな貴族風の出で立ちで、きちんとした服装以外の者が入るのを拒んでいるようにも見受けられた。事実、店の入り口には屈強な護衛兵のような者が入店する前の客をチェックしていた。

 これは貧しい旅人風情では入ることすらできぬな……

 外からでは中をまったく窺い知ることができない。偵察も厳しい。普通の人間であれば、だが。

 現状、鳥であるわしには関係ない。上空から適当な窓を見つけて侵入しようとすると、小癪にも魔防壁が張られていた。これはますます怪しい。高級店であればそのような対策をしていてもおかしくはないが、普通は出入口のみだ。高窓の場所にまでその範囲を広げているとなると、何かやましいことをしている証左ではないかと勘ぐってしまう。

 当然引き下がるつもりもなかった。魔防壁で何か違和感を感知されても、一瞬であればたいした問題にはなるまい。

 野生の鳥や小動物がひっかかることはよくあることだ。

 気にせずに窓から入り込み、素早くその場所から離れる。見回りに来ても警戒度はそれほど上がらないだろう。小洒落た二回の廊下は各部屋につながっているらしく、さすがに部屋の中にまではたやすく入れない上に、所々にはご丁寧に用心棒やら警備兵らしきものが扉の前に陣取っている。絶賛密談中といったところだろうか。

 ひとまず置いておいて一階を見て回ることにする。この建物自体は二階建てではあるが、相当天井が高い。一階部分が大分広いということだ。それもそのはずで、階段を降りていくとぶち抜きの大広間がすぐに目に飛び込んでくる。そこでは奇抜な仮面をつけた者たちが、両脇で演奏する楽器演者たちの音楽に合わせて踊っていた。想像以上の数がいる。

 なるほど、仮面舞踏会か。

 貴族社会の一つの形式でそのような催しがある。身分を隠して匿名で遊ぶという上流ならではの気まぐれな風習である。たかが顔を隠した仮面ごときでは相手が誰だか大抵の想像はつくが、それでも分からない振りをするのがマナーというおかしなものだ。

 ここでもその規則に則っているのだろう。客層もダリドアリ教徒のみではなく、外からの遊覧客などやデルデ=ガルデ議会員など幅広そうだ。それらはそこかしこから漏れ聞こえてくる会話を拾って分かったことだ。仮面をつけているからか、大分口さがない噂話も多い。そのような話題が流行りなのかもしれない。

 大広間は舞踏会場が中央に位置しているが、そのきらびやかな照明とは打って変わって、わざと暗くした一角が奥の右隅にあり、そこではいかがわしい行為に耽っている男女がそれなりの数で嬌声を上げていた。他人に見られると興奮する性癖持ちは一定数存在する。おそらくはそうした嗜好の者を満足させるための空間だろう。娼館などでもそういったスペースは存在する。

 その反対側には二段ほど高くなった中層スペースがあり、それらすべてを見下ろす特等席の一角があった。優越感に浸りたい権力者たちのための場所だろう。下からは絶妙に見えない高さで設えられた壁が低い部屋には、今も何人かが高そうなグラスを掲げて歓談していた。

 他人を見下す、高みの見物という表現があるが、実際に高所から眼下の人間を見るという行為には心理的に何かしらの効果があるのだろうか。王座が何段か高く設置されていることも同様だ。高い方が偉いという観念は一体どこから来ているのか。

 ともあれ、その周辺の会話も盗み聞こうとしたものの、こちらは完全な魔防壁で声も漏れないようにされており、簡単にその内容を知ることはできなかった。何か対策を講じる必要がある。客層的におそらく本命の一つの場所となるはずだ。もっとも、もしもシャダクがこの店に来たとしても個室の方を選ぶであろうから、その辺りの噂話をつかむための場所という認識だ。一般客にまでそのような情報が知れ渡るとは思えないゆえに。

 なるほど、おおよそのやるべきことが見えてきた。

 反対に、ここでシィーラができる役回りがまるでないように感じた。面倒事を起こしそうな予感しかしない。ナリスと共に行動させて制御するという案もあるが、悪目立ちした時に二人一緒の組で記憶されると後々に支障が出そうだ。セットで行動していると覚えられたくはない。

 どういう立ち回りをさせるのが無難だろうか。

 妖精がいることで、余計な対策を考える手間が増えただけな気がしてならない。いっそ、連れてこないという方向で説得する方が良くないだろうか。

 妖艶な管弦楽の調べを聞きながら、その後も思考を巡らせ続けた。




 「この街で魔道具を卸している商人だって?」

 ブリッツは思いがけない質問だったのか、驚いた声を上げる。

 「はい、それもただの魔道具ではなく、大分特殊か強力というか危うい代物系です」

 「そいつはヤバい方のアレってことだよな……なるほど、そっちの線も追うってことか。けど、ダリドアリ教がそういうもんを使ってるって噂はあまり聞かないけどな」

 「可能性を潰す意味でも、有益かと。それで、心当たりはあるのでしょうか?」

 ナリスたちは今、コニーの酒場にいる。情報交換のためだ。

 シィーラはひき肉の腕を見せるべく厨房へと乗り込んでいる。迷惑そうな店主の非難がましい目は無視しておいた。やる気最高潮の妖精の進撃は誰にも止められない。

 「そうだな……魔道具を扱う店は幾つか知っているが、特段怪しいもんは売ってないはずだ。ダリドアリと関係してそうな店もあるが、これといった話は持ってないな。少し探りは入れてみるが、期待薄な気がするぜ」

 現状では見聞屋には何も情報はないらしい。今後の動向に気を付けてもらいつつ、薬師の方も確認しておく。

 「薬師のヤムタワ?ああ、それなら知っている。珍しい薬草の類の出所はたいていあいつだ。高めの値段だが効果はそれなりに保証されてるんで、一定の需要があるし、評判は悪くない。ただ、扱ってるものの中には相当ヤバめのものもあるって話だ。あいつが何か関係してるのか?」

 ナリスがヨデールの森での話を聞かせると、見聞屋の驚きは先ほどの比ではないほど大きかった。

 「なに、ロッコだってっ!?本当にあいつと知り合ったのか?そいつは物凄い偶然だな……いや、これが運命ってやつなのか」

 どいう言う話なのか尋ねようとしたところで、「まぁ、落ち着け」と言いながらブリッツは地エールを流し込む。

 どちらかというとブリッツ自身が平静を取り戻すための間だったようだ。

 「えっとだな。今日は例の占い師の方の報告をしに来たわけだが、その前にそっちの質問が飛んできたから答えてたが、本命はこっちだ。それで、その話にロッコは絡んでくる。いや、正確にはまったく出てこないんだが、その先に関係するというか……とにかく順を追って話す」

 まだ動揺というか興奮気味のブリッツが話した内容はこうだった。

 ダーヴナーヴについて見聞屋に調査依頼していことは大まかに三つ。

 一つ目がダリドアリ教徒の施設のために土地整理が行われているのかどうか。結果は疑惑の判定。確かに教徒のための施設増設は計画されているが、基本的には献身的な教徒の所有地を接収している形で、教徒以外の土地を買い上げるという手段はほとんどなかった。ゆえに、他の意図があると思われる。

 二つ目もそれに関連するもので、その施設増設の主導はどこかという話だが、ダリドアリ教の穏健派というのが答えだった。ただし、前述のように占い師の土地をわざわざ召し上げる必要性がないので、何者かが別の目的でその土地を狙っている可能性が高い。

 ブリッツがそこを深く掘り下げて調べたところ、ある穏健派の若手議員派閥の存在が浮かび上がってきたという。それはレクト派と呼ばれる集団だった。その中心的存在が、レクト=イスパ=ベーネラという貴族で、ダリドアリ教の若者たちを束ねているリーダーの一人だった。レクトは上昇志向が強い野心家で、常に街長のピリエに気に入られようと何かしら画策していた。

 今回の発端は、どうやらダーヴナーヴの土地のある噂を聞きつけたことがきっかけらしい。そしてその噂に信憑性を感じたのか、本格的にあの土地を狙っているということだ。肝心の噂の内容については諸説あるらしく定かではなかったが、要するにお宝的なものが眠っているという一点に尽きる。それを何としてでも手に入れたい、そういうことだろう。

 三つ目は土地問題で、こちらの味方になりそうな議員への橋渡しだが、ここで先のロッコの話がつながる。

 驚いたことに、あのロッコ盗賊団の頭領はデルデ=ガルデの街の歴史ある地元貴族の勘当された嫡男だという。今はその弟であるセホイヤ=ジジット=ヤンカーが当主となって、左区の有力議員になっており、彼なら助けになってくれる可能性があるとのことだった。

 「え、あの人が貴族の嫡男ですか?」

 ロッコを見知っているだけにどうにも信じられない。ナリスの驚きに見聞屋は苦笑する。

 「まぁ、そう思うのも無理はないよな。ヤンカー家ってのはデガの街じゃまあまあ古い家柄で格式もそれなりにあるんだが、アイツはガキの頃からやんちゃ坊主でな。しょっちゅう揉め事を起こして一族の鼻つまみ者扱いだったんだ。案の定、成人してすぐに家の貴重品を盗んだ罰とかで勘当された。その後、悪友と共に町の外に出たって話を聞いて以来、あんまり噂も聞かずにいたが、ヨデールの森で盗賊団まがいのことをしていたとはな……」

 「個人的に知っていそうな口ぶりですね?」

 「いやいや、ちょっとした顔見知り程度で知り合いってほどじゃない。地元だから知ってるだけだな。だから、オレよりはアンタらの方が親しいと思うぜ」

 こちらも別に親しいという間柄ではない。単に命を狙われただけだ。

 「とにかく、セホイヤを取り込みたいならロッコを頼るのは案外悪くない案かもな。ロッコは家族とは折り合いが悪かったが、あの兄弟だけは仲が良いって噂を聞いたことがる。勘当されたときも、弟だけはずっとかばっていたって話だ。実はセホイヤとつながりをつけるための方法が行き詰まっててな。ロッコの行方は知らなかったけど、ここで出て来るのはもうそういうことだろ?」

 ロッコの名に驚いていたのはそういう理由らしい。確かに見逃してやった恩を盾に利用できなくはない。

 「そのセホイヤって議員さんなら、ダーヴナーヴさんの土地問題をどうにかできるんですか?」

 「ああ、材料と条件次第でな。仮にレクトの弱みをオレたちが手に入れたとしても、そいつを本人にぶつけたところでこの問題は片付かない可能性が高い」

 「ええと、どういうことです?」

 「要は政治的問題だからさ。さっきも言ったが、レクト派閥が婆さんの土地を狙っているからには、レクト自身が手を引いても解決しない。他のレクト派の人間が簡単にあきらめないことは目に見えてる。既に婆さんに働きかけている以上、半端にやめることはできないし、おそらくその成果を街長かその周辺に献上する段取りまでつけてあるはずだ。レクト一人が抜けても中止にはならないってわけだ」

 「……今の話で行くと、セホイヤ議員という方が話を持ち出しても同じことなのでは?」

 ナリスにはまだ分かっていないようだ。政など庶民に理解できるはずもないので当然ではあるが。

 「それが全然違う。どこの馬の骨とも知れんオレたちみたいなのがレクトに弱みを使って手を引けって言うのと、同じ土俵に立っている街議員から同じ材料を持ち出されるんじゃ、天と地の差があるのさ。政治ってのはある種の陣取り合戦だからな。左区側が右区側の一部の弱みを握っているってことは、物凄い有利なわけだ。しかも、レクト派閥にとってはそれはすなわち右区の議員内の中でも、自分たちが重大な損失を出したことを意味するわけで議員生命そのものが危うくなる。そんなこと、どこにもバレたくないだろ?」

 「ああ、なるほど……もしも私たちがそれを暴露しても、信用度という点でうやむやにされることもあり得ると。だからこそ、ある程度地位があり、対立的な立ち位置のセホイヤさんが交渉することが最適だということなんですね?」

 「ああ、交渉次第だし、まずレクトに本当に弱みがあるかどうかってのも問題だが、まぁ、十中八九なんとかなるだろ」

 「何かつかんでいるんですか?」

 「いいや。けど、まっさらな人間なんていない。みんなどこかにやましい傷を持ってるもんだ。特に、貴族なんてもんはな。大丈夫だ、ネタの方はオレがきっちり見つけてやるさ」

 ブリッツは頼もしすぎるくらいにやる気だ。救われた恩を感じているのだろう。しかし、すぐに表情が曇る。

 「ただ、婆さんの土地については……正直、オレには聞き出す自信がない。外に漏れ聞こえているくらいだから、実際何か隠しているんだろうが……そっちは手を出せないな」

 ダーヴナーヴの土地に宝があるのかないのか。そのレクト派とやらが動いている以上、何かしらはあると見るのが妥当だろう。

 (そこはこちらで担当しよう。ブリッツはダーヴナーヴと何か複雑な事情があるのじゃろう。関わらずともよい。一度進捗がてら、地下に何かあるのか、わしらが本人から聞くのもよかろう)

 「分かりました。そちらは私たちで確認します。ハカの様子も気になりますし」

 「ハカ?ああ、婆さんに預けたって娘か。相当特殊なんだろうな、気にいられるなんてよ……」

 魔紋を剥がされたという点では確かに特殊ではあるが、それだけではないようにも思えた。ともあれ、今は他に聞くべきことがある。

 (あと、この街の地下の坑道について尋ねてみて欲しい。今までそんな話はまったく出てこなかったゆえ)

 「……ああ、例の右区の地下に広がってるっていうアレか。坑道跡に見えるって話だったな。正直、見聞屋界隈でも驚いている。そんな話今の今まで聞いたことがなかったからな。ただ、一部の古株がちょっと気になったことは言っていた。この街の隠し資金のことだ」

 「というと?」

 「いや、どこの上層部でも資金繰りってのはいつでも至上命題だろ?デガの街はいわゆる中継都市で、訪れる旅人やら商人が落とす金がほぼすべてで、特産品などもろくにない。安定した収入があるわけじゃないのに、わりと長く存続しているのは不思議だと思わないか?」

 「つまり、何かしらの収入源があると?」

 「その可能性の一つが、地下鉱山っていう話でな。かなり昔にはこの一帯には貴重な鉱石だか魔石だかが採れて、そいつを隠し財源として持っていたって話さ。どこまで本当か分からないが、もしも地下に坑道があったのなら信憑性は大分増すだろう?」

 「でも、鉱山って山ですよね?地下にあるっておかしくないですか?」

 「いや、それがそうでもない。一般的には鉱山って地上の山を想像するけどよ、ずっと昔は地形ってのは今とはまったく違う状態だったってのは事実らしい。要するに、かつては山だったものが今は地下に埋もれている、なんてこともあり得なくはないわけだ。だから、鉱山って呼んでいても地下にあるっていうのはわりとある話らしい。採掘するのに地面を掘って坑道を作るっていうのも、穴掘り師とかの中じゃ普通にあることなんだとよ。正直、そういう仕事を知らないとまったく分からない世界だよな」

 「なるほど……じゃあ、地下に坑道跡というのはおかしくはないのですね。しかも、この街にかつて鉱石が取れた過去があるなら、より不自然ではないと……」

 「ああ。だからこそ、これから地下での攻防が激しくなりそうなんだよな。デガの剣の奴らとダリドアリ教の間で、もう既にかなりの緊迫状態って話だしよ」

 その状況を生み出したのはおそらくアーリリッタだ。偶然を装ってそのような流れを作り出し、局面を一気に動かそうとしたとみられる。魔力狩りの犯人が今後、その影響でどう動くかという展開を期待しているのだろう。

 「その地下坑道とダーヴナーヴさんの土地の件はつながっていると思いますか?」

 「まぁ、そう結びつけたくはなるよな……ただ、あの婆さんがそういう鉱石を持ってるとかって話は聞いたことがないし、何よりその鉱山関係は街のお偉いさんのみに口伝で伝わっていただけっていうのが納得感のある秘密なんだよ。それならオレたち地元の見聞屋すら知らなかったってのもうなずける」

 確かに、自分たちの街の地下にそんな坑道が広がっていたことを知らないというのは、見聞屋としては間抜けで手落ち感が否めない。

 「逆に言えば、現街長のダリドアリ教側の一部は知っていたということですか?」

 「いや、それも違うと思うな。あいつらは所詮余所者で、代々この街にいた地元民じゃないから、たとえ長になったところで過去のそういう秘密を共有されたとは思えない。かといって、前代である左区の代表の方が、じゃあ知っていたかっていうとこっちも疑わしいんだよな。今回の動きを見るとその坑道を初めて調査していたっていう話らしいし……」

 「ふむふむ、じゃあ、本当に最近まであの地下坑道というのは知られていなかった、あるいは見つけられていなかったという感じでしょうかね」

 「ああ、少なくともオレはそう踏んでいる。だからこそ、まだ貴重な鉱石か魔石が残っているかもって、両陣営がやっきになって探し始めるんじゃないかってことさ」

 普通に考えれば、長らく放置されていたことになるので、その可能性は薄いとは思われる。だが、人間の欲というのは理性で止まるものではない。

 実際に確認するまでは、都合のいい希望にすがってしまうものだ。その意味で、地下坑道を巡る攻防はしばらく活性化の一途を辿るだろう。

 そんな話が一息ついたところで、「お待たせー」とシィーラが大皿を持ってやってきた。

 そこには大量の肉団子が載っている。

 妖精は当然のようにそのまま席に座り、「食べよ、食べよー!」と自分から摂取し始める。

 「自分で食べたかったから頑張って手伝ってたのね……」

 「ほんにゃわ、はばりまへひょー」

 物凄い勢いで肉団子を頬張っている自分の浅ましい姿から目を逸らしながら、次に向かうのは占い師のところかロッコの方か考えていた。

 決して現実逃避ではない。断じて、絶対に。

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