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FairyTame-妖精交換(仮)-  作者: 雲散無常
第十章:破片の芯
86/225

10-3


 「それで、結局どうなったのですか?」

 どこか既視感のある疑問をナリスから投げられる。

 場所も同じで、寄り道亭の離れの小屋の中だ。拠点なのだから当たり前ではあるが。

 右区の集会所での騒動から更に一悶着あった後の帰宅だった。儀式を見守るはずが、おかしなことになった顛末の報告をしていた。

 (うむ、結論から言えば、色々と妙なことになったとも言えるし、知りたい情報を得たとも言える……)

 「ええと、つまり?」

 (いや、少し待ってくれ。もうしばらくすれば、やってくる者がおる。その者を交えて話した方がよい)

 「え?ここにですか?」

 (そうじゃ。第零騎士団ヌーリャ関係者ゆえ、心配はいらぬ。ただ、少し面食らうかもしれぬが……)

 「はあ……ゼーちゃんにしては随分と遠回しというか歯切れが悪い言い方ですね」

 自分でもそう思うので反論はない。どうしてもそういう言い方になってしまうのは、相手が相手だからだ。

 「うにゅー、まだ寝ちゃだめなのー?」

 目を擦りながら子供のようなことを言っているのはシィーラだ。今日は料理屋で大分仕事をこなしたらしく疲れている様子だ。休ませてやりたいところだが、顔合わせを済ませないと後で面倒になりそうなので我慢してもらうしかない。

 (もうしばし待て。そろそろ現れるはずじゃ)

 「なんだよー、話も変なところで終わってるしー。変なおじさんが床から出てきた後、どうなったのー?」 

 意外にも話をちゃんと聞いていたらしい。続きが気になっているのはいいことだ。

 (じゃから、これから来る者を交えてじゃな……っと、着いたかもしれぬ)

 妖精ユムパを宥めていると、待ち人が到着したらしい。扉がノックされる。ナリスが応答しようとするがかなわない。

 「あ、こら……」

 「いいから、いいから!こんばんわー」

 こちらが対応する前に勝手に扉が開いて、子供が入ってくる。

 どこか見すぼらしい服装の浮浪児のような出で立ちだが、茶髪のお下げ髪は軽い編み込みがなされていて手入れは行き届いていた。気品すら感じさせる雰囲気から、どこかの元貴族が身をやつして貧困層になったといった背景が透けて見えそうだ。

 その後ろからしかめっ面のニジェが入ってくる。

 「ええと……ヌーリャの方、なんですよね?」

 状況からナリスは相手が第零関係者だと察したものの、いかんせん子供だったので困惑している。当然の反応だ。わしも同じだった。

 「ふむふむ……そっちのきみがナリスで、こっちのつかみどころがない感じのきみがシィーラやね?」

 「にゅにゅ?あんた、何者ー?子供っぽいのに、子供じゃないっぽいー」

 「あらあら、抜けてるように見えるのに、わりと鋭いやないけ?さすが変な鳥を使い魔にしてるだけあるやないの」

 二人の間で何やら妙な緊張感が走った。お互いに思うところがあるらしい。見つめ合ったまま固まっている。

 「アーリリッタ=ノーツェン、変に新人を委縮させるのは止めなさい。シィーラ=エンドーラ、彼女は第零でも特殊な立ち位置にある糸の一人。なぜかこの街にいたので紹介するために連れて来た。覚えておくように」

 ニジェが仲介するように説明する。

 「え?子供も騎士団に入れるのですか?」

 「うちをなめとると痛い目にあうで、ナリス。ううん、ナリスお姉ちゃん。ちょっと向こうを見てくれる?」

 「え?あ、はい?」

 ナリスが素直にアーリリッタの指差す方向に視線を移す。急に口調と声音を変え、童のような調子でお願いをされて無意識に従った結果だ。

 「あの、何を……?」

 「うん、これ返すね。あと、それ、デザインあんまりイケてないよー」

 再びナリスがアーリリッタを見ると、差し出された手にナリスの髪留めが握られていた。あの一瞬で盗まれたものだが、本人はすぐには気づかない。何が起こったのか理解できていないままそれを受け取って、数秒してから混乱する。

 「え?え?あれ?」

 (その娘は正真正銘第零騎士団の者じゃ。見た目に惑わされてはならぬ……とはいっても、こうして目の前にしてもいまいち信じられぬゆえ気持ちは痛いほど分かるが……)

 まったく同じ感想を抱いたので、ナリスが困惑するのも無理はない。

 「ふーみゅ、アリアリアッタだっけ?」

 「アーリリッタ!人の名前を間違えるなんて失礼ですわよ?そんなことも覚えられないほど愚かなら、アリリと呼べばよろしくてよ?」

 「おお?別人みたいな声ー、すごーい!」

 妖精が驚いたように、アーリリッタという童女はいくつもの声を使い分け、完全に別人のように演技できるという特技があるらしい。しゃべり方や声の高さ、アクセントや抑揚まで完全に別物で、目を瞑って聞いていると何人もの人間がそこにいるようにすら感じるほど、その違いは見事だというのは経験済だ。

 そして、その特技こそが第零騎士団で重宝されている。見た目が子供で、無邪気な貧しい童から高貴な貴族娘までこなせるとなれば、様々な場面で情報収集はやりやすい。特殊な立ち位置だとニシェが言ったのは、そうした役割で主任務ではなく支援系の補佐役として仕事をすることが期待されているからだ。

 ゆえに、今回もボーランの手助けのためにこの街に来ていたが、シィーラという二人目も投入されたので、こちらに役立つ情報を渡してくれるという流れだ。

 「本気で凄いと思ってるわね……かなり素直なおバカさんなのかしら?あの使い魔の主ならもっと知的な魔法士を想像していたのだけれど……まぁ、いいわ。シャダクって仮面野郎に手こずっているらしいから、このアリリ様が有益なネタを仕入れといてあげたわよ。ひれ伏して崇め奉りなさい」

 今度は尊大なお嬢様のような振る舞いで、小さな胸をそびやかしている。コロコロと演技を変えるのはリップサービスの変化形態のようなことなのだろうか。

 「ヒレ肉のガメタテ祭りってなにー?」

 酷い聞き間違いで、そんな意図は台無しだった。

 「……天然の痴れ者だったようね」

 「茶番はそれくらいにして本題に入って、アーリリッタ=ノーツェン」

 「……あなたの尊名呼びもぶれませんわね、ニジェ?まぁ、いいでしょう。実はわたくし、デガの盾というか剣の方からのアプローチで今回の件について、情報集を試みていたんですけれども――」

 そうしてアーリリッタはこれまでの経緯をざっくりと語った。

 結論的には、わしが見守っていたあの儀式の場に彼女はいたのだ。それもあの床下から顔を覗かせた間抜けな侵入者側で。つまり、あのごま塩男はデガの剣の人間だということで、その手引きをしたのがこのアーリリッタだった。

 彼女は右区の地下に張り巡らされていた昔の地下坑道らしきものを探り当て、それをデガの盾に教えることで信用を得たらしく、且つその調査を彼らに任せていた。今回もその探索に同行しているときに、上に何かありそうだと示唆したところ、あの間抜けな状況になったとのことだ。というか、話しぶりからしてわざとそうなるように仕向けた節がある。

 ニジェ曰く、アーリリッタの性格は悪戯好きでしばしば状況を混乱にもたらす悪魔という意味で、戯言のアヌティの二つ名を持つ。アヌティというのは運命の神ファティの娘で、わりとよく当たる占いをする女神の名だ。ファティの場合は神託という形で厳かで希少なものだったが、アヌティの方は人間に親しみを持っていたのか軽い気持ちでお願いしても占ってくれるという気安さがあって、民衆に人気があった。ただし、必ず当たるわけでもなく、幸福をもたらしたり災厄を引き起こしたりすることも多かった。

 そんな気まぐれなアヌティの名を冠されるのも納得できる。アーリリッタは基本的に自分が楽しむことを優先しているような雰囲気があり、真面目な任務には不向きに見受けられた。だからこそ、遊撃隊のような立ち位置で自由にやっている今の立場が活きているとも言えるので、うまく嵌まればこの上なく役立ちそうな気もする。嵌まれば、だが。

 残念ながら今回の件はそうではなかったということだ。

 ダリドアリ教の儀式の真っ最中に飛び込む羽目になったデガの剣の地下調査隊は、その後地下坑道での逃走を経てなんとか逃げ切ったが、その地下坑道の存在は明らかになってしまった。ダリドアリ教側もほんの一部しかこの地下については知らなかったということで、今後は地下での縄張り争いなどが活発化することが予想される。それを見越してのアーリリッタの策略だという話だが、どこまで本気かは分からなかった。

 だが、状況が動きそうなことは確かだ。ダリドアリ教も足元に広がる地下に反勢力が気づいたとなれば、それなりの対策を講じるはずであるし、デガの盾側もこれをもっと積極的に活用しようとするだろう。ここから一層激しい攻防が行われるはずだ。

 ところで、地下坑道と表現したが、正確なところは分かっていない。少なくとも水路のような造りではなかったのであり得る可能性としてそう言っているだけで、実際に坑道のために作られたのかどうかは今の所不明だ。デルデ=ガルデの街が昔、鉱石の産地だったという話もない。

 「……ということは、儀式は中断されたということですよね?」

 「ええ、怪しげな何かが行われていたのを防いだということで、わたくしの見事な策が的中したということですわ」

 「完全に偶然の結果だろうが……とにかく、その混乱の最中にそこの使い魔とアーリリッタ=ノーツェンが出会って今に至るということだ」

 ニジェが胡乱な目をアーリリッタへと向ける。

 「そこの丸い鳥もどきのことは知っていましたの。あのような場所で鉢合わせするとは思いも寄りませんでしたわ」

 (これは嘘じゃぞ。こやつ、おそらくはあの場にわしがいたことを知っておった。あるいはボーランが現れることを計算していたのやもしれぬが、とにかく関係者がいることを前提に動いておったことは確かじゃ。見た目に騙されずに慎重に対応するがいい。かなりの食わせ者じゃ)

 アーリリッタは有能ではあるが、その嗜好性ゆえに毒にも薬にもなる可能性がある。その危険性をシィーラたちに知ってもらうことが重要だ。

 「それで、シャダクの情報とやらはどういったものなんでしょう?」

 「というか、ナリスさんでしたかしら?なぜあなたが当たり前のようにこの件に首を突っ込んでいるですの?本来、この場に居合わせることもおかしいのではなくて?そのことについて、先程からバカみたいに呆けているシィーラさんから何か弁明はありまして?」

 「うにゅ?べんめーってなにー?特に何もないよー?」

 「……それすら分からないとは、一度その空っぽの脳を取り換えた方がいいのではなくて?」

 「ほぅほぅ、そんなことできるのー?面白そー」

 にへらと笑うシィーラ。

 「………」

 アーリリッタは妖精を挑発するような態度をわざと取っているように思えるが、相手が悪いとしかいいようがない。どんな皮肉も嘲笑も妖精には通じない。そのことに気づいたのか、

 「なんや、バカらしゅうなってきたわぁ。ド天然にカマかけることほど無意味なことないねんな。きみらがニコイチだってのも聞いとるし、おもろいからいいねんけど、これでどうやってヌーリャに抜擢されたん?ごっつ不思議やわぁ」

 急にまた口調を変えてアーリリッタがぼやいた。これが素なのだろうか。内容に関してはまったく同意せざるを得ない。第零騎士団は曲者を集めているとしか思えなかった。

 「まぁ、ええわ。シャダクに関してやったな。一応、うちも色々調べてみたんやけど、なかなか手強い相手やで?デガの方も全然情報集まっとらんかった。けど、怪しい場所の話があってん、そこを調べてみればいいんやないか思うてな。うちが直接調べてもいいんやけど、ボーランの兄ちゃんかシィーラの兄ちゃん、どっちかの方が適任ちゃうかなー思うとって、いっそどっちにも情報渡して鉢合わせしたらおもろいやんけ、とか今は考えとるのよ」

 童顔の表情には似合わない人の悪そうな笑みを湛えて、アーリリッタが続ける。

 「とにかく、そんなわけでここから先は自分らの足で稼いでちょうだいってことやね。あれ、何やその目は?情報まだないやんけって突っ込みたがっているみたいやなー?ちゃうよ、ちゃうんよ?うちは一応もう一つそれっぽいの手に入れてるねん。けど、それときみらがこれからつかむネタ合わせたら裏が取れるっちゅう話で、いい感じやろ?そういうことやで?」

 「ほんとー?自分でやるのが面倒なだけじゃないのー?」

 「なんや、シィーラ君。うちのこのいたいけな瞳を見ても同じこと言えはるの?まったく嘘偽りない純粋なお目目をしてるやろ?」

 「うーん、曇ってるねー」

 「はぁ?きみ、なかなか言うやないの!喧嘩売ってるんやったら買うてもええで?こうみえてもうち、『あどけなく怖がる振りしてる間に金的かます拳』三段の名誉師範やで?いてこましたろか?」

 しゅっしゅっと小さな手を握り締めてアーリリッタがその場で機敏に動く。なるほど確かに可愛らしいが、その直接的すぎる流派らしき名前はいかがなものか。

 「おっとぉ、あたしの『コボコボにしてやんよ拳』とやりあうのかー」

 「こ、こぼこぼ……?ってそれ言うならボコボコやんけー!!」

 盛大に突っ込んだ後、アーリリッタが固まった。なぜかどこか清々しい顔だ。

 「……自然にうちにつっこみさせるなんて、きみ、やるなぁ。ちょいと見直してもいいかもしれへんな」

 「良く分かんないけど、見直してもいいよー?」

 「ってそっちが許可出すんかーい!!……ド天然怖いわー。連続技かますやん、めっちゃ普通に流れてきたやん。ニジェ君、この子逸材かもしれへん」

 「いえ、茶番はもういいので、話を進めてくれる?」

 「……きみ、ごっつ冷静に流れぶったぎるやん……」

 ともあれ、ニジェの進行でどうにか話が前へと向かった。シィーラとアーリリッタはいつのまにか意気投合していたが、変人の感覚はやはり理解しがたい。嵐のように二人が去った後、ご機嫌のシィーラと困惑気味のナリスが残される。

 「……結局、いまいち何があったのか分からなかったんですけど……」

 (そうじゃな。話が色々ズレた上に、例のGに関してはまったく触れておらぬ。かいつまんで話すと、儀式は半端に終わり、デガの連中を追ってダリドアリ教の一部と地下で逃亡劇が繰り広げられていた頃、わしは仮面の男を追っていた。妙な力を使っていたのが気になってな)

 「ああ、そちらを追っていたんですね。あれ、でもアーリリッタさんと会ったのは……?」

 (うむ。結局、あの仮面の男も地下坑道の一部を使って逃走したのじゃ。ただ、あの会場の下にも同じようなものがあるとは思っていなかったのじゃろう。別口で現れたアーリリッタに大層驚いていた。とにかく、そうして追い詰めたられたと思われたその時、仮面の男は妙なものを使って消えた。おそらく、魔道具の一種だと思われる。あやつは様々な魔道具を持っているようで、それが妙な力の正体だとわしは推測しておるが)

 「えー、逃げられちゃったのー?鳥なのに役立たずー?」

 (鳥なのに、の意味は分からぬが否定はできぬな……煙幕のようなものを出すと同時に魔力遮断の効果もあったようで、逃げ出した方向すら見失ってな。不意打ちとはいえ、まんまと混乱させられて取り逃したのは事実じゃ。じゃが、次はもう油断せぬ)

 「魔道具、ですか……それで、Gの人の方はどうだったんですか?」

 (あちらはあくまで像の方にこだわっておったようでな。実は仮面の男は逃げる際に、なぜか像も持ち出していたんじゃが、途中でそれを落とした。というか、今思えば何某かの手段でGの者が攻撃して落とさせたのかもしれぬ。わしは本人を追っていたゆえ像には目もくれなかったが、Gの方はその回収を優先して途中で脱落しておった)

 「なるほど。では、あの場にはいたけれど、像を回収して帰って行ったと」

 (そういうことになる。あの像そのものに何か秘密があるようには思えなかったが、あちらは何かつかんでおるのかもしれぬな)

 「何か魔札を張ったら、効果が出たようなことを言っていませんでしたか?その場合、像の方は何でも良かったのでは?」

 (いや、それがそうでもない。魔道具は特性によっては、対象が何であるかによって効果に違いが出ることはままある。その意味では、あの像単体だけで調べても分からないのは納得がゆく。Gの方はそれらについて見当がついておる可能性がある)

 「つまりー、ゼーちゃんは見抜けなかったってことー?」

 シィーラがなかなかに辛辣なことを言ってくる。あの時点でその可能性に思い当たらなかったのは事実なので、厳しいが間違ってはいない。

 「ふみゅー、最近のゼーちゃん、わりといいとこなしって感じー?残念だねー」

 追い打ちをかけられた。アーリリッタの毒舌演技が微妙に乗り移ったかのようだ。変な影響を受けたのでなければいいが。

 「シィーラ、言い過ぎだよ?一人で凄い頑張っているんだから」

 「ついてくるなって言ったのはゼーちゃんだもの。過信ってやつだねー、かしんかしんー」

 なぜか煽られるが、やはり返す言葉はない。

 「そういうわけで、次の場所にはあたしも行くことにしまー。いいよねー?」

 なるほど、それが狙いだったか。妖精が言っているのは、アーリリッタからの情報で教えられた場所で、シャダクの手掛かりがあるという怪しげな酒場だった。誰を主軸に探るか悩んでいたのだが、選択肢はなくなってしまったようだ。

 不安しかない気持ちで、わしはシィーラにうなずくしかなかった。

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