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FairyTame-妖精交換(仮)-  作者: 雲散無常
第九章:陰謀の糸
81/225

9-8


 デルデ=ガルデの街に来て、一月ほどが経っていた。

 魔力狩りの真相と妖精の杖捜しという目的に関しては、未だ決定的なものは何一つ掴めていない。

 容易なことではないと思っていたが、それ以上に難航している気がしないでもない。

 寄り道亭の離れの小屋の上、真夜中の静寂の中でこれまでに分かってきたことを一人整理してみることにする。

 まず、ダリドアリ教に関しては全容がまだまだ見えていない。

 ピリエ=ノーグウェメ率いる街長の穏健派と過激派らしい裏派と呼ばれる一派があり、イビサ村で幼い子供たちに実験をしているのは後者だろう。闇の御子なる魔力の素養が高い人間を作ろうとしているようだが、その意図は不明だ。

 そもそも、かの教団は教義などが曖昧で活動の目的そのものが漠然としている。妙な儀式を幾つかしていることは分かっており、その詳細と目的についてもまだ謎だった。街の運営管理については、主な拠点の右区で陽の光を避けて夜に行動するといった指針を打ち出し、歓楽街を大体的に形成している点は思ったよりも悪くはない。

 魔力狩りに関与しているかどうかの決定的証拠はないが、現場での保安隊の立ち回りなどを見る限り、たいした捜査もせずに隠蔽工作に回っている雰囲気があるので何らかの関りはありそうだ。組織構造が一枚岩ではなさそうなので、どの派閥が何に関連しているのか、今後はその辺りも探る必要はあるだろう。

 死体を処分していた謎の男の正体も気がかりだった。下級貴族風のあの男の所属がどこなのか知ることも重要かもしれない。また、関連物としてニゲル草という未知の薬草のことも調査しておくべきだろう。右区では恒常的に食材に混ぜられている疑いがあり、一部の教徒に精神的な影響を与えている疑惑がある。たまたま知り合ったヤスネという教徒のこともあるので、引き続き調べる方針だ。

 教団絡みと言えば、占い師ダーヴナーヴからの依頼の件もある。館の立ち退きを迫られているのをどうにかしろと言われているが、情報がまだ足りない。ブリッツの働き次第ではあるが、彼自身がヤーゼルの眼とのいざこざで面倒事を抱えていたりもして、どこかでこちらも関わらねばならない事態が起こり得る。

 こうして振り返ると、どうにもすべてが中途半端な感覚が否めない。

 どこかで動いているらしい第零騎士団員と連携を取れれば情報が増えそうだが、向こうにその気がないのかまったく気配がないのも問題だ。一歩一歩着実に進むしかないとは分かっているが、個別で動くにしても一度すり合わせる方が合理的だと思わないのだろうか。諜報活動における個人主義の弊害な気がしてならない。

 他方で、妖精の杖に関してはほとんど進展がない。

 そのための情報を得るために、ダーヴナーヴの依頼をこなさねば始まらないといったところで、開始地点にもまだ立てていない状態に近い。

 ただ、ヨデールの森に妖精ユムパから教えられた不思議な泉があるという話が出たとき、シィーラがユチャパーラなる妖精の水という単語を思い出した。これは思いがけない収穫で、相変わらずそれ以上のことをまったく思い出せなかったとはいえ、いずれ森に出向いて探してみる価値はあるかもしれない。

 できれば図書館で得た他の単語、ポロダッカやシジェリゴの方も意味を思い出して欲しいものだ。今回のように、何かがきっかけで連想してくれればよいが。

 まだまだ調べることが多いと再認識していると、遠くの民家の家を飛ぶ人影を見た。

 いつぞやもそんな風景を見た気がする。例の忍者組織の者だろうか。ダリドアリ教のことを探って飛び回っているのだろう。

 結局のところ、すべてはあの教団に何らかの形でつながってくる。できるだけ避けたかったのだが、そううまくはいかないらしい。

 ナイヤン沼の歩みで行くしかないか。

 かの沼には雑食な魔物の主がいて、騒がしくすると食べられてしまうと言われていた。ゆえに、ゆっくりと慎重に歩いて反対側へと向かえばいいのだが、急いでいるときに渡し板などを並べて一気に駆け抜ける方法もあった。が、失敗して途中で落ちれば一巻の終わりで、どちらを選ぶかという話だ。

 無理に急ぐよりは着実に進むべきだ。堅実な道こそ近道である、と思いたい。

 デルデ=ガルデの街の夜はそうして更けていく。



 「はい、どうぞー」

 素朴な顔立ちの童が、慣れない手つきで料理を運んでくる。

 交流会でイビサ村から来たタガンという少年だ。寄り道亭で給仕の真似事をしているようだ。

 マワリと親しくなったシィーラだけに、タガンとも積極的に交流するかと思ったのだが、まったくそんな素振りはなかった。子供に興味を持ったわけではなく、やはりマワリが特別だったらしい。何がそんなに良かったのか。妖精の嗜好は良く分からない。

 朝食を食べ終え、今日はブリッツの報告を待ちながら左区で情報集めをしようかというところで、一部の客の会話が気になった。

 「おい、聞いたか?」

 「ああ、例の小競り合いでデガの剣のナドリゴがやられたんだろ?」

 「そうそう、んで、やったのが裏派の雇ったヤーゼルの眼の連中だったって話だからな。近々報復で派手に一騒動ありそうだぜ」

 「けどよ、それって噂に過ぎないわけだろ?裏派が黒幕だって証拠がなけりゃ、動けないんじゃないのか?」

 「んなこと言ったって、そんなの公然の秘密じゃねぇか。ナドリゴは幹部の一人だぜ?黙っておとなしくできるはずがねぇよ」

 「んー、それでもデガの盾としちゃ、ヤーゼルの眼を下手に刺激したくないだろうしなぁ……どっちにしろ、そこら辺で揉めてそうだな。今日は会合に顔を出すのはやめておくか。上がピリピリしてそうだ」

 違いない、と二人して苦笑して別の話題に移っていった。

 寄り道亭には反ダリドアリ派のデガの盾所属の者が常連客として比較的多い。彼らもそうなのだろう。

 デガの剣と裏派といえば、両者とも武力行使もいとわない過激派だ。人死が出るほどの争いがあったのかもしれない。その原因が気になった。少し探るべきか。

 シィーラは行く当てがあるのかないのか、街中をぶらりと歩き始めたのでナリスと共についてゆくことにした。

 自分から率先して動いているので、何か目的があるのかナリスが訊く。

 「んー、そういうわけじゃないけど、何か気になるものがある気がするんだよねー」

 曖昧過ぎて良く分からないが、何らかの勘が働いているのならそれに任せるのもいいだろう。妖精の直観は馬鹿にはできない。

 シィーラがその何かを見つけるまで、昨夜まとめた所感をナリスに話す。

 「やっぱりダリドアリ教は避けて通れないみたいですね……」

 小声でナリスは嘆息する。一般的な感性の持ち主なら、関わり合いになりたくない気持ちは同じだろう。

 (そうじゃな。魔力狩りとあの占い師の依頼に関わるかもしれぬ以上、ある程度踏み込んで調べる必要がある。今夜辺りからわしはそちらを重点的に探るつもりではあるが……どこから手を付けるべきか考えあぐねていたものの、先程のいざこざの話を聞いたこともあるし、例の童たちのことも鑑みれば、やはり裏派に注目すべきだと思っておる)

 「はい。わたしもそこが怪しいと思います。でも、魔力狩り絡みとなると、ゼーちゃんの隠蔽の魔法でも厳しいところはあるのではないですか?」

 (あるな。じゃが、逆にそこが本命とも言える。隠したいからこそ、魔防壁などで守っておるゆえに)

 「一人で危ない真似はしないでくださいね?」

 (うむ。こちらも突っ走る予定はない。隙があれば侵入は試みるが、無理してまで強行策で行こうとは思っておらぬよ)

 「その辺りの情報を、先に現地入りしたナーリャの方が持っていればいいのですが……」

 (持っていたとしても、それを共有する意思がなければどうしようもあるまい。まったく姿を現す気配がない以上、当てにすることはできぬ)

 「連携前提ではないのなら、なぜわたしたちもここに投入されたのでしょうか……?」

 (進捗が思わしくないゆえ、というのが考えられそうな一番の理由ではあろうが……連絡員からも未だに情報が降りてこないから分からぬな)

 放任主義は有り難いが、あまりにも自由にさせ過ぎではなかろうか。今回の任務はシィーラにとって初回だということを考えると、肝が据わりすぎている。新人に対しての教育が足りていないと言わざるを得ない。

 「進捗と言えば、ブリッツさんからの連絡も遅い気はしますね。難航しているのでしょうか」

 ダーヴナーヴの件は簡単に調べられるとは思っていない。しかし、既に一巡りは経っていることを考えると、何らかの連絡は確かに欲しいところではある。途中経過であっても動きやすくなる可能性はある。

 (ふむ。コニーの酒場に顔を出して言伝でも頼むとしようか。自宅らしきものは見つけているが、あの男はたまにしか帰っていないので待ち構えていてもあまり意味はないじゃろう)

 「では、シィーラのアレが終わったらそちらへ向かいましょう」

 アレ呼ばわりされているシィーラは、現在壁に向かって手を当てて何やらうなっている最中だ。

 何をしているのか、本人ですらおそらく分かっていないと思われる。こういう奇行は既にわしらは何度も見ているので慣れてしまった。あまり、慣れるのもどうかとは思うが、少なくとも人前ではない状況なので気にしないことにしている。

 妖精の行動にいちいち疑問を差し挟むのは素人のすることだ。

 「んにゅー、なんか違うなー」

 何がだ、と問いかけたくなる気持ちをぐっと押さえて見守る。条件反射的に突っ込みたくなるが、重ねて言うが無意味だ。分かっていても口にしたくなる、させるその才能は認めなければなるまい。妖精の難儀なところだ。

 裏通りの崩れかけた壁をコツコツと叩きながら、シィーラは進んでゆく。

 その壁は家屋の壁ではなく昔の内壁の名残のように思えた。城下町などでは攻められた際に、内部で迎撃する必要が出てくるために何層かの壁を街中に張り巡らせている場合がある。デルデ=ガルデの街にそのような防御機構が存在したのかは不明だが、街中を歩くと時折こうした壁を見かけた。歴史のある街だと長年の改築や増築、変更跡として現存しているものも多い。その類かもしれない。

 「ぐぬぬぬ……途切れちった!」

 「何を探してるのか分かっているの、シィーラ?」

 ナリスはたまらず聞くが、

 「分かんないけど、もうなくなったのは分かったー。今日はもういいやー」

 やはり要領を得ない返事だった。気になるものがあったが、今はもうその気配がなくなったということだろうか。壁を調べていた意味はさっぱりだが。

 (良く分からぬが、気が済んだのならコニーの酒場に行くぞ?)

 謎を残したまま移動する。今日は少し天気が薄暗い。一雨来そうな予感がしつつも、ブリッツの行きつけの酒場に到着した。

 合言葉の数字も持っているが、既に酒場の主人とは顔見知りになっているので必要なかった。

 というよりも、相手の方がなぜかこちらを見かけた途端に声をかけて来た。

 「おい、あんたら。ブリッツを最近見たか?」

 「いえ。どうかしたのですか?」

 主人の様子が少しおかしい。やたらと太い腕をさすって、不安な兆候を見せていた。

 「しばらく顔を見せていないんだ。連絡もない……そうか、何も知らないならいいんだ。悪かったな」

 小声でそう言って厨房へと戻って行く。心なしか、猫背になっている。

 ブリッツの身を案じているようだ。何か心配事があるのだろうか。前回はニャリスの状態だったはずだが、ナリスの雰囲気に気づいた様子もなく、かなり焦っているようにも見えた。

 「何かあったのでしょうか……?」

 「行方不明ー?」

 (見聞屋がつかまらないのは職業柄よくあることだとは思うが、主人が気にしているところをみると、何か理由があるのやもしれぬ……というか、今朝方聞いた噂と関連付けすると嫌な予感がするな)

 「あ、ヤーゼヌの……関係あるのでしょうか?」

 (分からぬが、後で灰溜まり付近を調べてみよう。占い師絡みの一手目を任せている以上、雲隠れされるのは困る)

 こういうときに情報源として個人一人に任せていると身動きが取れなくなってよろしくない。かといって、第零が諜報機関の特性上やたらと関係者を増やすわけにもいかないジレンマが出てくる。秘匿事項が多いことの弊害だ。

 「そうですか。でも、無理はしないでくださいね。ただでさえ、連日連夜あまり休んでいないのに」

 (睡眠がほとんど必要ない身体ゆえ大丈夫じゃ。時折、休息は取っておるしな)

 「ほんで、今日はこの後どうするのー?」

 シィーラは肉団子を頬張っている。軽く何かを頼まねば悪かろうという配慮で注文したのだが、妖精は既に軽くの量を超えて食べている。自分の身体が勝手に肥え太るのが怖い。その分、運動は必ずさせてはいるのだが。

 「ヤスネさんのところに顔を出していきますか?ニゲル草についてはまだ進展はあまりないですけれど……」

 ニゲル草か。

 実のところ、わしには一つの推論が出来上がっていた。ただし、まだ確信には至っていない。可能性は高いと判断していても、なかなかに酷い内容でもあるので軽はずみには口にしたくない。 

 (そちらももう少し待ってくれぬか?例の儀式をもう一度別角度から確認しようと思っててな。それ次第で、何か掴める気がしておる)

 「あ、そうなんですね。そうなると、後は――」

 「じゃあ、じゃあ、あたしが肉団子を作る人になるー?」

 急に何を言い出すのか、この妖精は。一瞬、言っている意味が分からずにナリスと共に固まった。シィーラは続ける。

 「ほら、そろそろお金が無くなってきたーって言ってたでしょ?んで、マワリのとこみたいに料理作ればお金稼げるんでしょ?肉団子を食べれて、お金も入ってかんぺきー?」 

 「ええと、どこかのお店でシィーラが働くってことかな?」

 「そそ、肉団子うましっ!!」

 動機が結局そこなのは置いておくとしても、それでも自分からこういうことを言い出すとは珍しい。路銀のこともおまけ程度とはいえ、考慮に入れていることを考えると素晴らしい進歩ではないだろうか。今までまったくその方面には無頓着だったのだ。

 ナリスがどうしますかという顔でこちらを見る。

 正直、シィーラに務まる仕事があるとは思えない。ましてや料理だ。悲惨なことになる結果が目に浮かぶ。

 一方で、自発的に妖精がこういう申し出をしてきたことを評価したい。これはいい兆候と言えなくもない。どんなことであれ、やる気を出したことに対して阻害したくない気持ちは大きい。

 (真面目に働く気はあるのか?)

 「肉団子を覚えたい!自分で好きなだけ作れるんでしょー?」

 質問とずれてはいるが、並々ならぬ興味を持っていることは確かだ。

 (ふむ……で、あれば……)

 様々な可能性と妥協点を考慮して瞬時に頭を巡らせる。師匠も常々言っていた「即興的な考えというのは一瞬浅はかに見える時もあるが、後々になって神の一手だということもままあるものじゃ。その場しのぎであっても、効率的に思えたなら打ってみるのも悪くはないぞ」と。

 そんなことを思いだしながら、一つの妙案が浮かんできた。

 (分かった。途中で投げ出さないという条件を呑むならば、お主が働ける場所を探すとしよう)

 「ほんとにー?やったー!」

 「……いいのですか?」

 ナリスが驚いたような顔で確認してくるのでうなずく。

 (一つ考えがある。そのためにナリスにも一緒にやってもらうことになるのじゃが――)

 思いついた計画を打ち明ける。自分外に頼れる仲間がいることは、本当にいいものだ。特に、妖精という制御不能な厄介な種と行動するときには。

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