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FairyTame-妖精交換(仮)-  作者: 雲散無常
第九章:陰謀の糸
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9-7


 大陸の西部と言えば、魔法大国ネーズ=ヴァーズであることはこの世界の住人は皆知っている。

 魔法教会の総本山があり、ほぼすべての周辺国を従えている巨大な国だ。

 しかし、その正式がネーズ=ヴァーズ連邦であることや、ネーズとヴァーズの州に分かれており、実際にはネーズ州の魔法教会を取り囲むようにヴァーズ州があってその州の中に中小国が存在するかたちになっていることは、ほとんど知られていない。正確には、西部人以外にはあまり気にされていないとも言える。

 要するに、魔法大国ネーズ=ヴァーズというのは実質上の国としてはネーズ州を指しており、ヴァーズ州の方は幾多の属両国のようなものである。

 改めてそんなことを思い返したのは、偶然目撃した拉致犯がそのヴァーズ州の間諜らしいことが分かったからだ。

 ただ、ヴァーズ州と一口に言っても前述のようにかなり広大な範囲を示すため、具体的にどの国なのかは未だ不明だ。さすがに大陸に存在する国すべてを把握してなどいない。大国ならまだしも、乱立する小国は興廃も早いので現地にいなければ知る術はなかった。

 ともあれ、ガープなる変態男こと呪紋使いは、ヴァーズ州のいずこかの謎の忍者組織員二人によって尋問されている最中だ。

 「さて、ではもう一度訊くぞ?貴様が罪なき子供たちに刻んだ呪紋は、『闇の御子』なる人工的にマナの素養が高い人間を作り出す実験のため、ということでいいのだな?」

 「あ、ああ……オレの素晴らしい精を流し込み、同調することができたヤツが、より高みへと昇ことができる……けひひひ……アがるだろう?オレが成し遂げられなかった更なる魔力の可能性に、至れるかもしれないんだぜ……けひ、けひひひひ……」

 半裸で両手を縛られて吊るされた状態でも、ガープは気にした様子もなく、どこか悦に入った呆けた表情で答える。状況はあまり理解していない。事前に妙な薬を飲まされていたので、その影響だろう。非道な行いを知っている身としては、同情する気にはなれない。

 「……それで、その呪紋がうまいくいかなかった場合はどうなる?」

 「失敗?し、し、し、失敗だとっ!!!そんなことはないっ!オレの計算は完璧だっ!!間違えるはずがないだろうがっ!!!」

 突然叫び出したガープを、一人が横手から手刀で黙らせる。呼吸を止められる急所を突いたのだろう。変態はうめいて大人しくなった。

 「くだらん貴様の妄想はどうでもいい。訊かれたことだけに答えろ」

 「……けひ……み、御子になれんガラクタは朽ちるだけだ」

 「朽ちる?死ぬと言うことか?」

 「当たり前だ……あの呪紋は魔力を大量に取り込むためのものだ。処理できなければ、溢れて暴発するだけだろうぜ……けひひひ、その前に身体で稼がせてるみたいだがな……けひひひ」

 「黙れ、外道がっ!!」

 下卑た笑いを漏らすガープを再び黙らせ、忍者二人が少し離れた場所で小声で相談する。

 「どうやら実験内容は想像通りのようだな」

 「ああ、救いがない……既に相当数があそこにはいたな?保護してもどの程度持つか分からぬのなら……」

 「現時点で処分してやる方が幸せかもしれんな……解呪できる可能性があるかどうかも不明では、上は絶対に保護なんてしないだろう。そんな余裕があるはずがない」

 「……どうであれ、我らだけがここで決められる問題ではないな。主任に判断を仰ぐか」

 「そうだな。例の儀式の件もあるし、こうしてこの下衆を捕らえた以上、悠長に構えている暇はないが……」

 と、不意に男の一人がこちらを見上げた。

 隠蔽の魔法が看破されたとは思えなかったが、その眼光鋭い眼差しはこちらを怯ませるのに十分だった。

 慌てて飛び去りたい気持ちをぐっと耐える。下手に動くのは気配の揺らぎを悟られることになるからだ。やがて何事もなかったかのように逸らされた目線を確認して、その場を後にすることにした。

 これ以上は気づかれる危険がある。何か違和感を感じたことは間違いない。侮れない勘の良さだ。

 彼らがヴァーズ州の間諜組織であるなら、あの非合法な輩のことは任せるべきだ。ある程度の自治権があるとしても、デルデ=ガルデの街はどこかの属領都市のはずなので、おそらくはその関係組織が探りを入れていたのだろう。ダリドアリ教などという得体の知れない宗教団体が街中に蔓延っているとなれば、当然の如く現状を憂慮して然るべきだ。

 その辺りのごたごたに巻き込まれる気はない。一方で、あの子供たちを放置することもないだろう。他に責任を押し付けるようではあるが、こちらにできることには限りがある。

 気が付けば、既に日が暮れようとしている。思ったよりも時間が経っていた。

 シィーラたちと合流すべく、宿屋に戻ることにした。

 それなりの情報は得られたと思う。その取得方法については予定外ではあったが、成果としては悪くない。

 想像以上にイビサの村でも妙なことが起きているものの、こんなご時世ではどこにでも裏の事情や世界というものがある。人間の業というものは深いものだ。

 苦い思いを抱きながら帰ると、部屋では二人が待っていた。

 「あ、ゼーちゃん遅いぞー!」

 窓から入り込むと、開口一番妖精ユムパに文句を言われる。

 (すまぬ。少し遅れた。その様子だと何か収穫があったようじゃな?)

 「お帰りなさい。多少、掴めたものはあると思います」

 ナリスも心なしか嬉しそうに言う。情報を得られた充足感があるのかもしれない。いつもより自信がありそうな雰囲気があった。

 (それは重畳。では、互いに情報交換をするとしよう。まず、わしの方からじゃが――)

 例の呪紋や謎の組織などを含めてナリスに説明する。

 途中でシィーラは腕立て伏せなどを始めたが、寝ない努力をしているだけ頑張っているので良しとしよう。あまり、内容が頭に入っていなくとも。

 「……その組織がどこかはともかく、内容に関して正しいのだとしたら、ダリドアリ教は何らかの理由で闇の御子という魔力の高い子供を欲しがっているということですか?」

 (そうじゃな。少なくともあの変態男はそう信じて呪紋を刻んでおった。シィーラは特に、あの呪紋がどういった効果を及ぼすかは分からなかったんじゃな?)

 「ほむ?効果って何が?」

 しっかりと聞いていなかったようなので繰り返すと、片手逆立ちに姿勢を変えて答える。

 「ああ、アレが何かは分かんなかったよー?ただ、変なマナの流れだったから消しただけー」

 (魔力に影響するということは確かだったということか)

 「何にせよ、決して良いことではなさそうですね……では、あの子供たちについてはその組織の方に任せてしまうという方針ですね?」

 (うむ、こちらも多方面に手を出せるほど、余裕はないからな……)

 ちなみに、呪紋を刻まれたあの子供たちの余命が少ない話は省いている。ナリスに余計な負担をかける必要はないという判断だ。例の組織が救うために全力で動くという保証はまったくなかったが、敢えて伝えることもあるまい。現実は非情だ。

 「なるほど。じゃあ、そちらは魔力狩りにとりあえずは関連していなさそう、ということで……ハカが今後も無事で過ごせるなら問題なさそうですね」

 (ふむ……魔力狩りとの関係性は正直まだ不明ではあるが、分かりやすくつながっていることはないというところじゃな)

 呪紋の追加調査に行って結局丸投げする結果になったのは不本意ではある。

 「んー、じゃあさ、これでとりあえずは一杯楽ちんってやつ?」

 (……一件落着と言いたいのなら、それはまだ早い。言った通り、ダリドアリ教が魔力狩りに関わっている場合、これらがどこで結びつくやもしれぬからな。今後も留意する必要はある)

 「留意っていうのは、覚えておくってことだからね、シィーラ」

 ナリスが機先を制して説明する。また無意識に小難しい言い方をしていることに気づく。なかなか、この癖は直らない。

 (とにかく、こちらの収穫はそのくらいだ。次はそちらの話を頼む)

 「はい。まずはわたしたちもダリドアリ教方面から。儀式という事に関して思い当たるものがあるか聞いたところ、幾つか噂話がありました。一つ、復活を求めるために夜な夜な特殊な方法で祈りを捧げている。一つ、信者を増やすために特別な会合を開いている。一つ、結束を固めるために暗所で長時間一緒にいる。一つ、懐柔するためにいかがわしいことをしている、などです」

 すらすらと暗唱するナリスの能力はなかなかのものだ。記憶力がいいというだけではない。要約する地頭の良さも垣間見える。

 (ふむ……思ったよりダリドアリ教について、村の者も知っているようじゃな)

 「街から離れた人たちもそれなりにいるようです。ただ、噂話程度なので信憑性があるかというと微妙かもしれません」

 「なんか、みんな嫌ってたよねー」

 (元々嫌悪感のある者の話であれば、偏向な見解であることも考慮せねばならんな……)

 「変更?何か変えるのー?」

 (いや、偏った傾向、要するに嫌いだと思っているものに対しては何もかもが嫌に見えるようなものじゃ。嫌いなものゆえ、あることないことでっちあげても問題ないという極端な考え方もあり得るゆえ、気をつけねばならぬ」

 「嘘つきがいるってことー?じゃあ、せっかく聞いたのに無駄だったのー?」

 「嘘も含まれているかもってことだよ、シィーラ。全部を信じ込まないでってことね」

 (ともかく、儀式に関しては分かった。他はどうじゃ?)

 「はい。ニゲル草の方ですが、その名前に心当たりがある村の人はいませんでした。街から来た人が少しだけ、聞いたことがあるというような反応でしたね」

 「ここの料理にも入ってないしねー」

 (つまりは、この村経由の食材ではないということじゃな。寄り道亭でもほとんど感じていなかったゆえ、信頼できそうじゃ。逆に、デルデ=ガルデの右区を中心に出回っているということになる)

 「そうですね。ただ、ニゲル草と関連しているかは分かりませんが、ヨデールの森に変わった薬草があるという話は聞きました。具体的には、一時的に痛みを和らげるものだそうで、かなりの効果を発揮するのだとか……」

 (その手のものはどこにでもあるとはいえ、ニゲル草がどこから来ているかが分からぬ以上、注意しておく必要はあるやもしれぬ……あるいは例の薬師絡みということもあり得る。心に留めておくとしよう)

 「その怪しい薬師という人のことも少し聞いてみましたが、時折よく利く薬草を卸してくれる商人はいるそうです。ただ、人柄は良く友好的に話していましたので、同一人物かどうかは微妙です。ヤムタワという名前も出してみましたが、心当たりはなさそうでした。どうせ、偽名で商売しているので当然でしょうけど……」

 (そうじゃろうな。盗賊団側に伝えているその名も本名かどうかは怪しいものじゃし、本人が直接動き回っているともあまり思えぬ)

 「あれ?名前を嘘ついちゃダメなんじゃないのー?」

 シィーラは筋肉トレーニングに飽きたのか、ベッドにだらけた格好で寝そべっている。

 (悪人は平然と偽名を使う。逆説的にだからこそ悪人なのかもしれぬが……)

 「そういえば、あたしの場合はどうなるのー?ゼーちゃんのエンドーラって名前を借りてるけど、これって本当の名前じゃないよー?あたし、悪い人なのー?」

 急にそんなことを言い出す妖精に、わしとナリスは顔を見合わせる。今更過ぎる疑問だ、とお互いに思ったに違いない。同時に単なる気まぐれで深い意味もないと理解している。

 「……それと、ダリドアリ教の教義や実態に関してはやはり村の方にはほとんど知られていないようです。ただ暗いところを好んで昼間は動きたがらない、といった漠然としたものだけです。関心が薄いだけだとも言えますが、街の方よりもその傾向が顕著な気がしました」

 ナリスは何事もなかったかのように交わすことにしたようなので、こちらもそれに乗る。

 (村には教徒はほとんどいないようじゃしな……じゃが、あの地下に出入りしている者がそれなりにいたことを考えると、まったくいないということも不自然に思える……)

 「はい。一応布教活動をするためなのか、十数人の教徒が集団で暮らしているそうです。あまりしつこく勧誘するようなことはしない約束だそうで、村側としても拒まなかったらしいです。夜間の田畑の見回りなどを積極的に行っているようで、比較的良好な関係を築いてるみたいですね」

 (なるほど。それがあやつらの隠れ蓑になっておるようじゃな)

 ダリドアリ教に無理に近づこうという村人もそうはいないだろう。適度な距離感で教徒側にとっては都合がいいはずだ。

 「教団に関してはそんなところですが、妖精関連で少し面白い話が聞けました」

 (ほぅ……?)

 本当の目的であるそちらに関しても情報収集しておこうと項目に足してはおいたのだが、あまり期待はしていなかった。

 「村のお婆さんが言うには、ヨデールの森には昔から不思議な泉があって、万病に効く体に良い水を湛えているそうです。その泉を教えてくれたのが、言い伝えでは妖精だったという話です」

 (妖精から教わった?それは妙じゃな……彼らの言葉は人間には聞こえぬはずじゃが?)

 シィーラと言葉を交わせているのは、わしと入れ替わった特殊な状況にあるからだ。

 「あっ、そういえばそうですね……でも、直接しゃべったとは限らないのでは?案内するだけなら、連れて行ってもらえばいいだけですし……」

 (ああ、確かに。教えると言っても、やり方は他にもあるか。横やりを入れてすまぬ。それで、その泉はまだ存在するのか?)

 「お婆さんはあるって言い張ってましたけど、その家族は皆単なる伝説だとか伝承なだけだと否定的でしたね」

 (ふむ……)

 少し考え込む。こんな辺鄙な村に妖精という存在が出て来ること自体が珍しい。やはり、デルデ=ガルデの街に妖精の杖があったことの証左になるかもしれない。イビサは一番近い村だ。妖精が訪れたことがあるのなら、経路上で説明はつく。単なる与太話ではない可能性はある。

 ただ、気にかかる点もある。泉と妖精に関連性があまり感じられない。仮にその案内をしたのが賢い犬だとしても整合性は取れている。要するに、妖精である必然性がない。

 (その不思議な泉とやらの物語というか、経緯に関しては何か具体的な話はあったのか?言い伝えというからには、その手の背景となる説話的なものがあると思うのじゃが?)

 「はい。簡易ですけど、ある時村長の子供が魔物に襲われて酷い火傷を負ったとき、治すにはその泉の水が効くと、たまたま通りがかった妖精が教えてくれた、というものです」

 (たまたま通りがかった?その部分についてもう少し詳細はなかったか?)

 「残念ながら。わたしも気になって聞いてみましたが、昔は偶然妖精を見かけることもあったとか、その程度のものしかありませんでした」

 いつの時代か分からないが、確かに以前の大陸では妖精がそこかしこに存在していた。あり得ない話ではない。

 そちらか得られることはもうなさそうだったので、シィーラに一応尋ねてみる。

 (妖精が知る泉について、何か思い当たることはないか?)

 「泉ってでっかい水たまりだよねー?ユチャパーラなのかなー?」

 (そうか……ん?今何と言った?)

 まったく期待していなかったのだが、シィーラは未知の単語を口にした気がする。

 「ほえ?水たまりー?」

 「そっちじゃないよ、シィーラ!いま、ユチャなんとかって!」

 ナリスにも聞こえていたようだ。わしの勘違いではない。

 「ああ、ユチャパーラ?人間の言葉だと何だろ、妖精の水みたいなー?」

 (「何か思い出したの」か!?)

 図らずも二人の叫びが重なっていた。

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