8-6
「こっち、こっちー!」
子供の元気な声が辺りに響く。マワリがだだだっと駆けてゆき、その後ろをシィーラが追いかける。
「どっちー?」
微笑ましい子供の遊びのように見えるが、一方は大人だ。しかも自分の姿をしている。無言で視線を逸らして、ナリスに話しかける。
(一家はデガの盾というわけではないのじゃな?)
「はい。立場的には中立です。ただ、傍から見れば完全に含まれて見えていますね。常連さんがほぼそちら側なので」
寄り道亭は左区と右区の境界線に近い場所にある。立地条件的に監視所のようなたまり場になっていることは初日から何となく察していた。そのせいもあって、ハリヴェル一家がデガの盾側に思われるのは当然だろう。
(ダリドアリ教に対する感情は、左区の住民でもかなり温度差があることは分かっておる。過激派のデガの剣以外は日和見主義的で理解は得られるじゃろうから、平時は問題なかろう)
逆に言えば、非常時にはその限りではないということだ。
今いるこの広場の人々もどう動くのかはその時まで分からない。この一巡り近くで感じたのは、この街は大分危うい気配がするということだ。どう転ぶか分からないものが多すぎる気がした。だからこそ、不安を紛らわせるために皆何かに所属して群れているのかもしれない。
露店で楽し気に何かを買う者、大道芸で道行くものへ笑顔を向ける者、昨夜の酔いが抜けきれずに木陰で吐いている者、偉そうにそんな者たちを睥睨して権力に浸っている治安隊の者。それぞれが今だけを見つめているように思える。そして、そこから外れている者を気にしている者はいない。
ブリッツはおそらく、そちら側にいる人間だ。ここ数日で分かったことをつなぎ合わせるとそういう結論になる。
あの見聞屋が善人であることははっきりした。ヤーゼルの眼から脅迫を受けている経緯は分からないが、人質とされているのは妹夫婦の子供、つまりは甥であることが分かった。彼らの住居は灰溜まりに近い一帯にあり、目を付けられやすかったと推測される。通り道にあるというだけで大分理不尽ではあるが、避けられない悲劇だったようだ。いざこざか何かがあり、その代償をブリッツが払っているといったところだろう。
もっと大通りの方へ引っ越せばいいのだろうが貧しい家計でままならない。ブリッツが間を持って取引を持ち掛け、手出しさせないでいるのが実情らしい。貧乏くじを引いているとしか思えないが、他人のために自分を犠牲にできる人間が悪人であるはずもない。好意的な評価に値する。
もう一人の騎士団員とは依然として接触はしていないものの、この街に詳しいことは確認できた。至る所に知り合いがいてよく話している。おそらく虫と呼ばれる情報提供者だ。すべての会話は拾えなかったが、多くの伝手があることは悪くない。
ブリッツを信用して使うことはほぼ決定事項だった。ナリスにはそう伝えてある。
当初はブリッツを襲撃でもして秘密をしゃべるかどうか試してみることも考えていたが、ヤーゼルの眼とのやりとりを見る限り、通すべき筋はきちんと持っていると判断できたのでもうその必要はない。
「それで、まずは何を依頼するつもりですか?魔力狩り関連については様子見というお話でしたけど……」
事件が起きるまでは特に何もすることがないので放置する方針だった。現時点で何か先手を打てる要素はほぼない。下手に動くのは下策だと判断して待ちの状態だ。犠牲者が出るのを待つというのも不謹慎な話ではあるが、適当に当たりを付けて調べれば奇跡的に犯人の手掛かりを手に入れられるなどという夢物語は起こり得ない。静観が最善の策だった。
(あの者にはこの街に詳しい人物をまずは紹介してもらおうと思う)
「詳しい人……ということは、妖精関連の方を依頼するということですか?」
(うむ。地元の人間のようじゃし、何かいい伝手があると思っておる。この街の歴史から探っていって、それらしい何かがあるか確かめる)
「なるほど。そう言えば、右区の議会館?でしたっけ。そちらの方はいいのですか?」
(ああ、まだ言っておらんかったか。既にそちらは夜の偵察で当たりはつけてある。じゃが、魔法士の見張りがおって隠蔽の魔法が察知されそうゆえ、何かいい手を考えついたら忍び込む予定じゃ)
この妖精もどきの鳥の状態では眠る必要があまりない。休息は魔力の回復に有効なので適度に入れているが、活動時間が縛られないのはこの上ない利点だった。昼間はブリッツを尾行しつつ、夜はダリドアリ教徒の生活を知るという二重の監視が可能で効率が良かった。
「夜も忙しそうにしていましたが、そんなことまでしていたのですね。お疲れ様です」
(なに、シィーラをお主に安心して預けていられるゆえの自由行動じゃ。わしこそ助かっておる)
妖精はどこまでいっても妖精だ。人間社会に大分慣れたとはいえ、根本的なところは変わっておらず、自由奔放でわがままで予測不可能な動きが多い。長く目を離すことは推奨できない。今でこそマワリと勝手に自由にさせているが、一昔前では危なくて二人きりになどさせられなかった。
それにしても、シィーラは子供嫌いかと思っていたがマワリとは大分打ち解けたと見えて、距離が大分近い。気に入っていることがありありと窺えた。ナリスによると、感性が似ているのではないかとのことだ。街中にある落書きを二人してよく眺めては、常人には理解できない表現でふたりで頷き合っているという。
童の感性と同じというのはどうかと思う一方、芸術方面の観点から見れば特殊な感じ方をしているとも取れるので、一概に馬鹿にはできない。生憎とそっちの方面には疎いので、もしかしたら才能があるということなのかもしれない。騎士団の半裸の男の影がちらつき、ネリオスの美的感覚とも共感していたことを思うと嫌なものがこみあげるので、この件は深く考えるのは止めておくことにした。
とにもかくにも、現状はいたって穏やかな日々といえる。魔力狩りの事件は起こっておらず、この街の表舞台に目立った動きはない。裏ではそこかしこにきな臭いものが潜んでいるのを感じるが、それはどこにいても存在するもので現時点では気にするほどではなかった。少なくとも、自身に関わってこない限りは。
「では、指定された酒場に伝言を頼むということですね?」
(ああ、それなんじゃが、おそらく今夜ブリッツ自身が現れそうゆえ、その場で捕まえてしまおうと思う)
コニーの酒場の位置を把握するついでに覗いたところ、主人が常連客とそのような話をしていたのをたまたま聞いてしまった。偶然とはいえ、丁度いい機会だろう。
「それはまた好都合ですね。それじゃあ、夜まで適当に過ごす感じですか?」
(いや、この間にヤスネたちに会いに行こうと思う。あれからしばらく経ったゆえ、落ち着いておる頃じゃろう)
「例の幼馴染の二人ですね。あまり関わらないようにすると言っていましたが、考えを変えたのですか?」
(そういうわけでもないんじゃが……例のニゲル草とやらが、割とダリドアリ教の中で蔓延っているようでな。詳しく知っておくべきかと思っておる)
ヤスネ・ニオヤゼワはダリドアリ信者ではあるが、懐疑的な信徒だった。両親が突然入信したためになし崩し的に教徒にさせられたものの、ダリドアリ教そのものの意味を理解できないがために悩んでいた。幼馴染のオーリが反アドリアリ派であることも影響しているのかもしれない。
しかし、両親は完全にダリドアリ教を妄信しており、深淵合宿なるものに参加するほどの敬虔な信徒になっていた。今も家に帰ることなくどこかで修行のようなことをしているらしいが、詳細は明かされていないとの話だった。ヤスネの両親は心根の優しい善良な人間だったのだが、ある日を境に娘の話にも耳を貸さなくなるほど豹変し、それまでの生活も捨て去っている。何か裏があると怪しんだヤスネが調べたところ、ニゲル草が関係していそうなところまでは突き止めたが、その先の一手が足りなかった。
その調査をなぜかシィーラたちに依頼してきたというのが前回のあらましだ。通りすがりに助けただけなのでその場では当然断った。こちらにもやるべきことがあり、他の厄介ごとに首を突っ込んでいる暇はなかった。だが、無下にするにも寝覚めが悪いので気にかけておく程度の気休めの約束はしていた。
実際に、ダリドアリ教関連の施設を盗み見た感触として、何かの香を焚いている光景はよく見かけたので、あまり健全とは言えない効果のために使っている可能性は大いにあると判断した。だからといって、ニゲル草自体にはそれほど危険な成分は効能はないということは判明している。それはオーリの知り合いの薬剤師のお墨付きをもらっていた。ニゲル草は非常に珍しい植物らしく、薬剤師も初めて見る種だという話ではあったが。
「でも、ニゲル草自体は危険ではないというお話でした。何か他に掴んだということですか?」
(うむ。可能性の話じゃが……ニゲル草と何かを混ぜることによって効能が変わるというような推測をしておる。あの時は面倒で適当に流しておったが、その後も至る所で怪しい匂いを嗅がされ続けての。さすがに考えざるを得なかった)
「何か人体に影響があると?」
(おそらくな。ゆえに、ヤスネに自覚症状についてもう少し聞いてみようと思っておる。その後の容態も一応確認する意味でな)
ヤスネ自身がニゲル草を摂取していた。いや、させられていた、というべきか。両親と共にその影響下にあったのは間違いない。体臭に馴染むくらいになっているほどなのだから、そう考えるのは当然だろう。しかし、ヤスネはそれほど以前からの変化はない。少なくとも自分はそうおもっていた。
しかし、オーリに言わせれば瞬間的に変わることはあるという。それはダリドアリ教に関連するときで、ダリドアリ『様』と呼ばせる時などもそうだ。懐疑的であれば固執する必要はないはずなのだが、毎回絶対に訂正させられる。そうしたちょっとした違和感が続いているようで、そのせいもあって調べて欲しいと頼まれていたのだ。その感触はおそらく正しい。ダリドアリ教に対して疑っている素振りを見せる一方で、ヤスネは妙にダリドアリ教に肯定的なこともある。そのちぐはぐさはこちらも感じていた。
マワリとシィーラを連れていくかどうか迷ったが、妖精が乗り気だったのでそのままヤスネの家まで向かった。大通りから三つばかり外れた住宅街の一角だ。
おおよその位置しか把握していなかったので、適当に歩きながら探すことにする。通りは閑散としており、所々の家の壁には張り紙が無造作に張られていた。『ネクラは出ていけ』『イカれた宗教野郎』『裏切り者』などと過激な嫌がらせの文言が目に付く。反ダリドアリ派の仕業のようだ。左区であっても、やはりダリドアリ教徒はそれなりに存在しているということだ。
こんな状況でも信徒でいる利点があるのだろうか。得体の知れない不気味さがこういうところからも滲み出ている。ちなみに、ネクラというのはダリドアリ教の蔑称とのことだ。
さらにしばらく進むと、一軒の家の前でその張り紙を剥がしている男がいた。
もじゃもじゃ頭の見知った顔、オーリだった。
「おっすー」
シィーラが気安く声をかけると向こうも気づいて笑顔になった。もともと人の好さそうな青年だが、その表情がさらに明るくなる。再会を喜んでいるようだ。
「やあ、シィーラさんにナリスさん。こんなところまでようこぞ」
「来てやったぞー!あ、こっちはマワリねー。んで、これはオーリ」
ズボンの袖をくいくいと引っ張られていたので、シィーラはマワリを紹介する。
「マワリでしゅ。よろしくなの」
「おっと、これは可愛い子だね。僕はオーリ。よろしくね」
その頭を撫でようとして、ぱしゅっとその手をはたかれる。
「れでぃはかんたんにナデナデさせてやらないの」
「アハハ、そいつはごめんよ。それで、わざわざ尋ねて来てくれたというのはヤスネに用があるってことですよね?」
「はい。ここが彼女のお宅ですか?」
「そうです。では、外じゃアレなので中にどうぞ」
ヤスネの家だというのにオーリが勝手知ったる様子で中に上げてくれる。幼馴染というのはここまで許しているものなのだろうか。経験がないので分からない。玄関でオーリは手にしていた張り紙をくしゃくしゃに丸めている。その視線に気づいたのか「これはこの辺ではよくあることでしてね。勧誘行進があった一帯は、たいていこんな感じになるんです」と肩をすくめた。
「勧誘行進、ですか?」
「うん。ダリドアリ教の布教の一環でして。大勢が半日ほどかけてとある通りを端から端まで練り歩くんです。一軒一軒家を訪ねてって感じで。もちろん、強引に入ってきたりはしないけど、何せそぞろぞろと数が多いから圧倒されてるうちに話を聞くだけって感じで中に入れちゃう人も多くて。そうやって、入信する一家も結構いたりするんです。というか、ヤスネの家もそうだったわけですけど」
苦笑交じりにオーリが説明しながら「ここで待っていてくれませんか」と広間の一つに案内してくれる。あまり陽光が入らない薄暗い部屋で、質素なテーブルと椅子が置いてあるだけの部屋だった。その暗さこそダリドアリ教徒の好む色合いなのかもしれない。
オーリはヤスネを呼びに他の部屋へと出ていく。
「なんかいい匂いがするねー」
くんくんとマワリが部屋の匂いを嗅ぐと、シィーラも同意して二人で笑い合う。そういうところも波長が合うようだ。これほどの香りが部屋に充満しているのはなぜなのか。ニゲル草は希少だという話だったが、何か特別な入手手段があるということなのだろうか。今も空間に残るほどに。
何の変哲もない小部屋を見渡すが特に気になったものはない。生活感もあまりない。親が帰ってきていないという話なので、それも無理からぬことかもしれない。
「……えっと、わざわざありがとうございます」
すぐにヤスネが顔を出して、ぺこりと頭を下げる。茶色のおかっぱ髪はあまり手入れされている様子はなかった。元気がない様子にも見えるが、普段から覇気はなさそうなので判断はつかない。伝えるべきことは既にナリスに教えてあるので、早速それらの情報をナリスが伝える。
「なるほどですね……つまり、ニゲル草が何かと混ざると効果が表れると……」
ヤスネはそう言って何かを考え込んでいる。この家の主人の立ち位置だが、座る椅子も端の方で控え目な性格が現れていた。
「ええと、良く分からないけど、そんな簡単に混ざるものなんです?いや、疑ってるわけじゃないんですけど。それに、そんなもので人が変わるものなんですかね……」
オーリが疑うのは当然だろう。外部からの働きかけで人格が変わるようなことは普通はあり得ない。精神干渉系の魔法は禁忌としてあるが、今回はどちらかというと魔道具のようなものに近い。魔草という一時的にある種の精神異常を引き起こすようなものもあるにはあるが、精製方法は複雑で高価だ。その辺の人間にたやすく使われることはない。腑に落ちない点は数多くある。
「直接的に何か作用を及ぼしたのか、どこまで関係しているのかはまだまだ不明ですし、あくまで可能性の一つです。ただ、既にナリスさんはニゲル草の効能というか影響が身体にある状況なので、何か異常を感じたらその場を離れるなり、直前の行動を疑って気を付けるべきかと思います」
「確かに……前もって何か起こるかもしれないって思って警戒していれば、すぐに反応できますね。警告ありがとうございます。ヤスネ、気を付けるんだよ?」
「はい……」
どこか心ここにあらずな調子で、ヤスネがうなずく。
「どうしたんだい、何か気がかりが?」
「ずっと考えてたんだけど……」
ヤスネが何かを思い出したように呟く。
「父さんも母さんも家では普通だったの。何度思い返してみても、言動がおかしくなったのは出て行ったあの日だけで、しかも、あの時わたしもなぜかそれを変に感じなかった。でも、オーリは前から父さんたちがおかしいって思ってたってことだよね?そこがおかしいと思って……」
「え?それは確かに……何かすれ違っているというか……合わないね」
「つまり、二人の認識に齟齬があると?」
「にんしき……そご?って何です?」
ナリスの言葉にオーリが首を傾げる。十分な教養がないと言葉の表現、単語を多くは知らないのは当たり前だ。
「ええと、すみません。お二人の記憶に食い違いがある、という話です。その時の過去の感想、といってもいいです」
「ああ、そうです。そういうことですよね……でも、何でだろう?」
(おそらく、ヤスネの方にもそれなりの影響を受けていた、と考えるのがよかろう。本人の自覚がないだけで、親御さんの言動に違和感を覚えたときとそうでない時があったのじゃろうが、そのこと自体に気づいていない可能性がある。本人は両親が出ていくときのみの違和感が強すぎて、その時だけは正気というか自身の感覚をしっかりと覚えていた、そう考えれば辻褄はあう)
ナリスが噛み砕いてそれを伝えると、オーリが辛そうに納得した。
「そうか。そういことなら僕は納得ができる。ヤスネ、君はおじさんたちは家では普通だったって言ったけど、僕にはそうは見えなかったし、君自身もどこかおかしかった。あまりそういう話ははしない方がいいかと思って黙っていたけど、やっぱり君自身も大分影響を受けているんだと思う……この際、はっきりさせた方がいい」
「わたし、おかしいの……?」
ヤスネがぶるぶると体を震わせ、自分自身を両腕で強く抱きしめる。自分の正気を疑うような状況になれば、不安になるのは仕方がない。
「そんなことはないよ、ヤスネ。あまり深く考えてはダメだ。大丈夫、今はもう僕から見てもおかしい言動は大分減ったから。確実に良くなっているよ」
励ますようにオーリがその肩に触れると、ヤスネはすがるように幼馴染を見つめる。
「ふたりはなかよしさん?」
その姿を見て、マワリが能天気なことを言いう。
「にゅにゅ、あたしとナリスの方が強いもんねー」
なぜかシィーラが対抗心を燃やして、一瞬暗くなりかけた雰囲気を吹き飛ばした。
「あー、だったら、マワリはまるといっしょー。あれ?まるはー?」
マワリが急にナリスの頭の上にいるわしを見つける。隠蔽の魔法で隠れていたのだが、こうして強く意識されると見えやすくなってしまう。特に対象を良く知っていれば尚更だ。
「まるはこっちー」
今までまったく気にされてなかったのに、あっという間に発見されて抱えられる。それほど友好を温めた記憶はないのだが、マワリの中ではわしの位置は相当高いようだ。
「あれ、そういえばその鳥、今まで全然気にしてなかった……」
オーリが急に不思議がったので、本題から逸れているためにナリスに修正させる。
「ええと、それで、その食い違いの原因を探るためにも思い出して欲しいのが、ご両親がいなくなる前と後で、何かなくなったものとかそういうものはありませんか?」
「なくなったもの……?」
「今は大分精神的……ええと、心が落ち着いているということなので、もうここにニゲル草と合わさることでよからぬ働きかけをするものがないという推測ができます。今日立ち寄ったのはその何かの手掛かりがないかと思って聞きに来たのが目的です」
「そ、そうか。ヤスネがおじさんたちと違うということは、そこにつながるわけか」
オーリが納得して手を叩く。しかし、すぐに思い当たるものがないようでうなり始める。
「だけど、そんなものあるかな……全然分からない……」
「わたしも特に……二人とも何かを持っていたということもないですし……」
ヤスネも困ったように眉根を寄せる。ナリスもそれを見て残念そうな顔を向けてきたが、わしは首を振った。
(いや、今のでまた少し範囲を絞れたゆえ無駄ではない。何も持ち出しておらぬなら、それはつまり身に着けられるくらいの何かだった可能性が高い)
ニゲル草ともう一つの何か。その手がかりのヒントは得た。もうしばらく注意を向ける必要があるようだ。




