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FairyTame-妖精交換(仮)-  作者: 雲散無常
第七章:図書館
62/225

7-6


 あくる日の午後。

 ”回収箱?”

 再びイゼッタの部屋を訪れたわしは、聞き慣れない言葉を聞かされていた。

 「そそ。ボクら魔法研究員の心強い味方だネ!」

 魔法の鍛錬らしく、灯火の魔法の形をなぜかわしの姿に作り替えながらイゼッタが言った。

 ”具体的にどういうものなのじゃろうか?” 

 「んー、そのままの意味だけど、あ、ちょっと違うか……って、あれ、四角くなっちゃった!?」

 見ると、炎でできた妙に角ばった鳥がいた。そんな造形を見ると、現在の自身の丸いフォルムの方がマシだと思えるから不思議だ。願わくば、目立たない現存の鳥のかたちが一番ではあったが。

 「くっそー、意外に難しいネ、丸っこく作るのって実はレベル高し君じゃないのかなー」

 そんなことより質問に答えて欲しいのだが、あまり急かしてもいい結果は生まないので黙って待つ。イゼッタのような性格の人間には、好きなようにしゃべらせることが寛容だ。あまり遮っても意味はない。妖精ユムパで忍耐については嫌というほど学んでいる。

 「んー、おおっといい感じ?んで、何だったっけ?ああ、回収箱だっけネ。あれは本当は買ったものが入っているんだよネ。もともとはほら、研究棟の一階にある商店回廊でさ、一気に買い物するのが研究員のボクらにはお馴染みの光景で、それをサービスで運んでくれるってわけ」

 ”つまり、購入したものをあの箱に入れて届けてくれるというわけか” 

 「うん、研究員の最大の敵って何か分かる?」

 不意に質問が飛んできた。しかし、この手の話は聞いたことがあるので推測は容易だった。

 ”研究を邪魔するものすべて、じゃろう?”

 「おっ、正解!さっすが、キミはよく分かってるネ。そう、研究する以外のこと全部が煩わしいってのが本音だよネ。だから、他のことは全部できるだけ簡略化したいってのがある。まぁ、そのために商店回廊まで作って、研究棟ですべてが賄えるようにってのもあるんだけど、そこまで行ったらお次は持ち運ぶのも面倒だって話になるじゃない?んで、あの回収箱システムができたんだよネ」

 ”じゃが、今の話では回収ではなく買ったものを入れている以上、運搬箱ではないのか?”

 「そうそう、部屋の前に置いといてくれるだけで楽ちんなんだけど、中身出した後、じゃあ、その箱はどうする?それを返却しに行くのも面倒でしょ?」

 どこまでものぐさなのかと言いたくなるが、人間は面倒なことをいかに楽にするかで発達する面があることも否めない。ある種の合理性をとことん追及する姿は、人として正しいのかもしれない。答えが見えてきた気がした。

 ”なるほど、あの箱の回収までを含めて、商店の方で受け持っているというわけか”

 「その通り。合理的でしょ?しかも、ただの空箱ってのももったいないんで、部屋のゴミ全般もあそこに詰めておけば、行きは商品、帰りはゴミって感じで一石二鳥の回収箱の出来上がりってわけだネ」

 確かにそれは便利そうだ。寝食を忘れて何かに没頭するタイプの人間は、生活をまったく顧みないときがある。部屋のごみ捨てなど絶対にしないだろう。

 ”理屈は分かったが、ゴミと商品を一緒の箱で運ぶのか?”

 「そこら辺はちゃんと密封処理をしてるネ。気にしない人もいるけど、気にする人はそれこそとことんうるさいからネ。噂では消臭魔法とかも開発してて、臭気除去に関する研究が新しくどっかで始まったって話もあるくらいさー」

 ”消臭魔法……聞いたこともないが、貴族辺りには需要がありそうではあるな。それはそれとして、もう一つ気になったんじゃが、回収箱は無造作に部屋の前に置かれているが盗難の危険性はないのか?一応、施錠はされていた気はするが……”

 「あー、それも大丈夫だネ。研究棟の回収箱はそれなりに伝統があってさ、ボクらの大分前の世代からずっと盗難数はゼロなんだ。もちろん、特殊な魔法で個別施錠されているのもあるけど、それ以上にここで窃盗でもしようものなら、物凄い恨みを買うし、バレたら即行で退団だからネ。そんな馬鹿なことをする人がいないんだよ」

 ”退団?それはなかなかに重い処罰じゃな……”

 「うんうん、さっきも言ったけど、研究者の敵は無駄な時間を取られることなわけで、もし回収箱の中身が盗まれたーみたいなことになると、犯人捜しでこの研究棟全員が容疑者になって調査が始まるわけ。過去にそれで三日間全部の研究が止まって、犯人に対する怒りが相当やばかったみたい。最終的に捕まった犯人は悪戯半分でやったみたいだけど、その迷惑で関係ない研究者仲間まで波及したわけで、あやうく私刑にされるとこだったって話が今も語り継がれてるからネ。その人が生贄になって、今の今まで回収箱の安全性を保障してるみたいなものさー」

 同僚の研究者たちの怒りを買ったら、まともに仕事などできるはずもない。経緯はどうであれ、回収箱が盗まれる心配はないという話は本当のようだ。

 それだけに、今回確かめたかったことの確証が得られた。

 回収箱を遣えば、改造魔核を外に持ち出せる。

 わしが考えていたのはまさにその経路のことだった。

 怪しい人物の部屋を調べたところ、壁の中に奇妙な空間を見つけ、そこに小物を隠せることを確認した。あいにくと実物はそこになかったが、部屋で制作してそこに保管しておけば、よほどのことがない限り調べても分からない造りだということは分かった。

 なぜなら、その壁は物理的に開けられるようなものではなく、特殊な魔法で一部が開閉できる仕組みになっているものだったからだ。たとえば、壁を巧妙にくり抜いてその上から隠蔽の魔法をかけるといった方法であれば、魔法の痕跡が残るために綿密に調査すれば見つけられる。しかし、壁そのものが二重、三重構造になっており、防音処理の魔法がかかっている壁が表面にあるという場合、魔法の痕跡はその防音魔法のもので、更に奥にあるものまでは判別できない。

 件の壁は、そうした予防が三重なので、確信をもってその調査に当たらない限りは見つけられないものだ。逆に、そこが三重になっていることでわしは確信を深めたのだが、普通はそうはならないというわけだ。

 ともかく、自室で制作と保管ができるとしても、どうやってそれを外部へと渡すのか、その点が気がかりだった。研究員の多くは回収箱の存在が示す通り、自室と研究室の往復がほとんどで、騎士団本部の敷地から外に出ることは滅多にない。というより、研究棟だけで日々の生活を送っている者がほとんどだ。

 そんな暮らしの中で、外部とどうやってやり取りをしているのか。答えは回収箱ぐらいしか思いつかなかった。

 後は、その回収箱を扱っている業者がどこなのか、ということだ。おそらくはまた特定の人物が関わっているのだろう。裏の組織とやらの潜入というより、弱みか何かに付け込んだ買収や脅迫の類だろうか。ともあれ、放火具の方はなんとか目途が立ちそうだった。



 一方で、まったく先行きが見えないままなのがシィーラの回想だ。

 ポロダッカという言葉を思い出したはいいが、何に関連するものなのかは不明、他の単語も未だになしという惨憺たる成果だった。

 気長に待ちたい気持ちはあれど、連絡係の影もちらつき始めた今、悠長に待っているわけにもいかなくなってきた。

 その第零騎士団の連絡係というのも、未だに接触はしてきていない。

 実は気のせいなのか、などと考えたりもしたが、時折誰かに見られている感覚はあるので、おそらく考えすぎなわけではない。

 何を観測されているのか分からないが、少なくとも図書館に入り浸っていることはばれているので、何かしら説明は用意しておくべきだろう。妖精云々の話は持ち出したくない、と思ったものの、閲覧記録を参照されたらこれはどうにもならないことに気づく。

 ……妖精好きだという設定にしておくか。

 最近、自分の思考が半端にまわらないときが多い気がしてきた。後から抜けている穴を見つけることの頻度が上がっている。痴呆が始まっているなどとは思いたくない。シィーラのせいで幼稚な思考に引きずられているのだろうか。いや、他人のせいにするのはよろしくない。

 などと、出口のなさそうな思考を巡らせていると、不意にシィーラが「あっ!」と叫んだ。

 今日も今日とて、図書館の個室でうんうんとうなっていた妖精だが、不意に意味の分からぬ単語を口にした。

 「ハーグリン、ドべナンナ……?」

 何か思い出したのかと思ったが、次の瞬間身体を激しく震わせた。悪寒が走るという生理現象を大仰に表現したような分かりやすい痙攣だ。もちろん、シィーラにそんな芸当ができるはずがなく、自然に起こった反応に間違いない。

 (どうしたんじゃ?)

 「あわわわっ……!!?」

 シィーラは質問に答える代わりにその場に倒れ込んで気絶した。

 (おい、大丈夫か!?)

 図書館の個室の机に突っ伏す姿はいつも通りとはいえ、その急激な変化は心配するには十分だった。まるで何かの毒にあたったような反応だったが、そんなはずはない。

 ぺしぺしと羽でその顔を叩く。

 青ざめている自分を見るのは気分がいいものではない。最近はどうにも他人の姿のような気さえしていたが、長年過ごしていた容姿が簡単に離れるはずもない。こういうときは、我がことのように感じて同調してしまう。精神的にまだつながっているのだろうか。

 幸い、すぐにシィーラは目を覚ました。

 がばっと上半身を起こして、周囲を見回すとわしと目が合う。

 「ゼーちゃん、大変だよっ!?」

 (ふむ、大変なのはお主だったぞ?というか、身体は大丈夫なのか?突然意識を失ったように見えたが?)

 「うん、それは平気。というか、さっきの言葉、忘れてっ!」

 (なに?そういうわけにもいかぬじゃろう。お主のあの様子、何かを思い出していたな。関連するキーワードに相違ない。ハーグリン――)

 「だわわわっ!ダメ、絶対っ!それ以上!忘れれ!!」

 急に止めに入るシィーラ。珍しく慌てている。

 (しっかりと覚えておるが、口にせぬ方がいい言葉ということか?)

 「しょう、多分、そう、きっと!」

 いつにも増しておかしな言い方になっていた。もう少し詳しく説明を迫ると、どうやらあの言葉は妖精にとって特別な意味があるらしい。思い出したと同時にそれに気づいて、無闇に口に出したことで身体が拒否反応を起こした、という流れのようだ。

 そんな禁忌の単語というのは人間には存在しないゆえ、逆に真実味がある。それだけ大事な言葉のようだが、その意味するところは相変わらず分からないというなんとももやもやしたものだった。それに、そういう言葉は人間には発音できずに、良く分からぬ言葉の羅列になるのではなかっただろうか。

 「それとはまた別の特別、すっごい大事ななんちゃらなのー」

 (特殊性が違うというわけか……だとしても結局、それでは何の手掛かりにもならぬではないか……)

 「そうだけど、あれってなんか……いやいやいや、声に出しちゃいそうだから考えちゃだめ、考えちゃだめ……」

 本気で嫌がっているようなのでそれ以上詳しくは聞けなかったが、わしはしっかりと記憶している。

 ハーグリンドべナンナ。

 耳慣れない響きで、なるほど妖精の言葉としてふさわしくも思える。ただ、妖精であるシィーラが口にしてはならないと言っている以上、そのような単語か言葉が記述されているとは到底思えない。この線で何かを追うのは不可能だろう。

 やはり進展はないということか。せっかく思い出すものが悉く次の何かにつながらないという、このもどかしさはいかんともしがたい。

 そう落胆しかけていると、個室の扉を叩く音がしてジャコブが顔を出した。

 「発見……見つけること。奇妙、違和感、照会、要求」

 独特の話し方も慣れたもので、言いたいことはほとんど理解できる。

 自分から報告してくることは今まで一度もなかったので、何か重大なことだと思って話を聞くと、ある単語が引っかかっているという。どこかで見た記憶があるが思い出せず、思い当たるものがないか、こんなに気になるのは何か意味があるのではないか、といった要旨だった。

 「んー、精霊棒?」

 ジャコブに任せていた本は『精霊、その種族と伝承』という文献だ。100年以上前の学者がまとめた歴史本の中で、精霊が持つ棒状のものについて記述があった。だが、それに結びつくものはすぐには思い浮かばなかった。シィーラも連想するものはないようで、むむむ、とうなるばかりだ。

 「誤認……間違い。可能性、膨大。不必要、放棄」

 気のせいだったら忘れていいと言い残して、ジャコブは帰って行った。もう夜に近い。今日の司書はきっちりと定時に帰るタイプだった。こちらも引き上げることにする。

 「んー、ジャコブがわざわざ教えに来るなんて何かあるのかしらん?」

 帰り道、シィーラもそれが気になる様子で、しきりに首をひねっていた。思い出そうとしている姿勢は大変喜ばしいが、中身がまったく伴っていないのが寂しいところだ。その頭の上でわしも考えながら答える。

 (精霊棒とやらをどこかで見た、というような感じではあったな。何か棒状のものについて、他になかったか今思い出しておる)

 関連するキーワードはそれなりの数がある。肝心の精霊棒というものがいまいち想像できないため、該当しそうなものを絞り込むのが厳しい。精霊に関係する棒状のものが、すぐには思い当たらないのは先程も今も変わらない。

 果たしてそんなものがあっただろうか。

 「ぐにゅにゅにゅ……」

 二人で頭を悩ませていると、シィーラが道端の藪の中に突っ込んだ。

 「あいたぁー!」

 (こら、よそ見をして歩くでない)

 「それはゼーちゃんだって同じでしょー!」

 否定できなかった。注意力散漫すぎる。考えに没頭しすぎたようだ。ふと、そこで連絡係のことも思い出す。今の間抜けな様子をどこかで見られただろうか。一応周囲の気配は探っているつもりだが、この体たらくでは自分自身を信用できない。監視されていたかどうか、確信が持てない。

 「あ、そう言えばさー……デセウスの方で、なんか枝がどうとかってなかったっけ?」

 シィーラのその言葉でぱっと思い出したものがあった。

 (妖精の枝か!確かにあれも棒状と言えなくもないな……ふむ、二つが共通したものだとして……ジャコブはそこに何を見出したというのじゃろうか)

 「さぁねー。でもでも、あたしが茂みに突っ込んだから閃いたわけでしょー、えらくなーい?」

 結果的にはそうなるかもしれないが、認めたくはないので黙って今の可能性について再び考える。

 精霊棒については、精霊たちの中で何か特殊な儀式を行う時に持っているものらしい、という曖昧な内容でしかなかった。妖精の枝の記述にいたっては、確か妖精がまだ人間たちに見えていた頃、何人かが手に小枝を持って振っていた、という描写があっただけで、それが何を意味しているのかといった考察や見解も皆無の文だったはずだ。

 ジャコブは一体その何が気になったのか。動物的勘が鋭いことは認めているが、それは文章にも適用されるのだろうか。

 そんなことを考えながら宿にたどり着き、いつもの就寝前の会話で話してみると、ナリスが更なる手がかりをくれた。

 「そういえば、以前に妖精の話を町の人たちに聞いていたとき、例の御伽噺の中で妖精の杖という道具があったように思います」

 (ほぅ、暁のデランベルグの中にそのような描写が?杖、杖か……確かにそれもまた棒状ではあるな)

 「はい。しかもその杖は確か、時代によっていろいろ役割が違っていたような……当時の吟遊詩人が好き勝手に編集した、みたいな話をしている人もいたような気がしますが、そういうものなのですか?」

 (ああ、演劇の中の話じゃな?脚本などはその当時の流行も取り入れるであろうし、細々としたところが違うというのはよくある話ではある……じゃが、大元はそうそう変わらぬゆえ、その妖精の杖というのも少し当たってみてもよいかもしれぬな)

 暁のデランベルグは、妖精王と共闘したデランベルクが大魔族ジェキリを倒すという冒険譚だ。本格的な演劇でもあり、流れで巡業している小芝居でも取り上げられる題材だった。古典創作だと思っていたが、すべてが虚構と考えるのも早計だったかもしれない。えてして、こういう嘘の物語には一握りの真実が含まれているものだ。視野が狭まっている。柔軟な思考をもっと心掛けねば。

 「はい。妖精の杖の役割には、いくつかの型があったように思います……ちょっとよくは思い出せないのですが」

 「ふみゅー、妖精王が人間と一緒に行動するとかってあり得ない気がするけどなー」

 (妖精王について何か思い出したのか?)

 「うんにゃー、ただ、そう思っただけー。なんか偉い人過ぎて、ぐよーんって感じだだものー」

 ぐよーんが何か分からないが、本能的にシィーラが否定しているのなら、妖精王という存在は人間が定義する一個人という範疇ではないということだろうか。

 推測が多すぎて取捨選択が難しい。

 それでも、この妖精の杖について少し探ってみるのはありだと考えていた。

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