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FairyTame-妖精交換(仮)-  作者: 雲散無常
第七章:図書館
61/225

7-5


 放火具についての謎はまだ多い。

 個人で改造魔核を使って放火具を作れたとしても、その改造魔核は騎士団所有のもののはずだ。貴重なものだと思うのだが、幾つもあるのだろうか。それとも量産できるのだろうか。できたとしても、それを持ち出すことが容易なはずがない。さすがにカナニルに露見したらただではすまないものを、厳密に管理しないということはないだろう。

 だとすれば、犯人が改造魔核そのものを複製する技術があるということになる。

 どのくらいの技量があれば可能なのか、資材などは高価ではないのだろうか。疑問は尽きない。ヨーグも答えを持っていなかった。すべてを知らされてはいないという。

 狙われている裏組織を監視する任務のみ請け負っているとのことだった。複数あるそれらの拠点を定期的に巡回しているとのことで、これまで忙しかった理由としては十分納得できる。ジェイク絡みの改造魔核なんて代物が関わっている以上、人手も増やせずに少ない人員で張り込んでいるようだ。ご愁傷様としか言いようがない。

 とはいえ、今や自分も巻き込まれているので他人ごとではなかった。考えるべきことが多すぎる。

 いずれにせよ、魔核そのものについてもっと知る必要がある。

 機械に関しては、師匠はよく知っていたがわしはあまり興味がなかったので概要しか知らない。大陸での機械となれば北稜方面が真っ先に浮かぶだろう。機械大国と呼ばれるウェデランズ共和国があるからだ。北稜という名を冠すだけあって山地で険しい山々が多い。それだけに鉱山も多く、機械制作の材料に適しているとも言える。

 そんな厳しい土地柄ゆえに、常に高低差が存在する中での生活が基本となる。その不便さを緩和するために昇降機という機械が生み出され、その利便性によって機械至上主義に近い文化が根付いているのが北稜の特徴だ。この昇降機には魔核が使われているが、現在のそれとは大分違うものだという話だった。

 その辺も詳しくは分からない。ただ、魔機構カナニルは、その前身である魔核を発展させて現在のような巨大組織になった経緯がある。北稜だけに留まらず、大陸全土に進出したその理由には、何か事情がありそうだが公にはされていない。

 そう言えば、昔師匠がカナニルと何か絡んだことがあるような話をしていたことを不意に思い出す。まったく興味がなかったので聞き流していた。機械全般をもう少し知っておくべきだったと後悔する。どんな知識も無駄ではないとつい最近シィーラに諭していた手前、過去の自分が恥ずかしくなってきたので思考を切り替える。

 とにかく、わしの役割は騎士団内部の怪しい人間を探ることだ。魔法研究部隊の該当班は分かっている。後はその研究棟の場所が分かれば、隠蔽の魔法で鳥であるわしがこっそり監視して、不審な動きをしている者を見つけ出す、という単純な方法を実行するだけだ。

 足掛かりとしては、やはりイゼッタを頼るのがいいだろう。大枠の魔法部隊同士、何か噂話も持っていることを期待したい。

 シィーラが妖精ユムパに関する何かをキーワードから思い出す間に、わしは単独で頑張らなければならないようだ。

 秘密裏に動いている以上、ネリオスを使うこともためらわれる。見聞屋側がその手を封印しているのだから、横からわしだけが手を出すというのも違うだろう。本音を言えば、ジェイクのことも含めて打ち明けてしまってもかまわないのだが、それは最終手段にしておく。

 方針が決まれば迷っている暇はない。例の連絡係がいつ現れて、この地を離れることになるか分からない。

 イゼッタの部屋の窓から忍び込んだ。

 跳ね上げ式の窓のため、外から開けるのが多少面倒だったが不可能ではない。

 主人は不在だったので書斎机で待たせてもらう。さすがに、秘密の多い魔法部隊の宿舎内を飛び回るわけにもいかなかった。

 何もしないというのも芸がないので、筆談魔法の改良に勤しむ。インクがないと書けないという条件をどうにかできないか思案する。要するに、インクの代わりとなる媒質があればいいはずで、それを魔法によって補うことができるはずだ。実際に筆談魔法でインクを使っているのかと言えば怪しいと思っていた。後に気づいたが、インクの量は減っていなかったからだ。

 ならば、筆談魔法の文字はおそらく、インクを媒介にして魔法が何らかの溶液で代用していると考えられる。その際のインクそのものを魔法で代替できるはずだという推測である。

 代用の代替という訳の分からない経路に思えるが、要は初めから魔法でインクの代わりが務まるのならばそれで問題ないという発想だ。

 最初の筆談魔法の構想時点で紙とインクは必須で、ペンなどの書くものはなくともどうにかなるという曖昧な条件で始めたのがあまりよろしくなかった。妖精魔法のでたらめさを信じて、媒介物がなくともなんとかなる方式に乗っかるのもありだと最近は思えてきた。だとしても、さすがに紙そのものまで魔法で用意するというのは厳しいだろう。

 それらは感覚的なものなので、明確な線引きはおそらくできまい。ただ、少なくとも自身で納得できる部分があればそれは実現できるという根拠のない自信がある。最終的に精神論に落ち着きそうなのが妖精魔法の怖いところではある。

 微妙な気持ちになりながら魔法構築の脳内実験をしていると、いつのまにかイゼッタが戻ってきた。

 「わーお、使い魔君じゃないか!さてはお姉さんにいじられたくて飛び出してきちゃったな!可愛いとこあるネ!」

 開口一番、勝手に入ってきている鳥に対しての言葉とは思えない態度だ。勘違い甚だしいが、咎められるよりはマシではある。

 ”少しばかり聞きたいことがあって邪魔しておる。無作法ですまぬ”

 「いいよ、いいよー。キミなら大歓迎さ。ついでその羽ちょっとむしってもいいかナ?」

 ”知りたい情報を持っているなら、一枚くらいは提供するのもやぶさかではない”

 人間に置き換えるとかなり猟奇的な発言をされている気もするが、イゼッタの場合は研究欲が溢れてるだけだ。羽くらいですむなら問題ない。

 「おお、いいネ!それでそれで、何を聞きたいんだい?」

 部屋に戻ったばかりだというのに、そのままこちらに応じてくれるようだ。手間が省けてありがたい。時間は無駄にできないので、ありがたく本題に入らせてもらう。

 ”実は最近、騎士団内の魔法部隊において、ある危険物の研究が行われているようでな。何とは言わぬが、外部に漏れると騎士団全体に影響が出る代物じゃ。それが流出しているということが発覚した。その話は知っているか?”

 「あー、何となく分かったよ。件の組織の門外不出を改変したヤツだって聞いたけど、本当だったんだネ?」

 かなり濁した言い方をしたが、さすがに伝わったようだ。改造魔核などと不用意には言えないことは暗黙の了解という前提だ。

 ”まさしく、それを流してる犯人の目星を付ける役を持っておる。何か話せる情報があれば、教えてもらいたい”

 「うひゃー、なんでまたそんなことに?ってか、流出ってマジでやばいじゃない。でも、ああ、そっか。それで、あの辺がピリピリしてたのか」

 何か心当たりがあるらしい。

 ”該当部隊がどこなのか教えてくれまいか。研究室みたいなものがあれば、そこもお願いしたい”

 候補者の名前はヨーグから聞いているが、間違いがないか確認しておきたかった。

 「ふむふむ、なるほどなるほど……」

 イゼッタが満面の笑顔を浮かべた。よからぬことを考えている人間の顔だ。

 「じゃあ、まずはその丸っこい体を抱きしめさせることから始めよっか。大丈夫、お姉さん優しくするからぁ」

 何がどう大丈夫だというのだろうか。手をワキワキさせながら迫り来るイゼッタにしかし、今は逆らえなかった。取引とは非情なものである。時には、望まぬことも耐えねばならない。

 その後、愛玩動物の気持ちを知るはめになった数十分を忍び、目当ての情報を引き出した。

 「いや、堪能しちゃったわー。満腹、眼福ぅ。あー、そういえば少し疲れてたんだった、急にどっと来たなー。ボクはもう寝るから後は適当によろしくネ」

 そのままベッドに倒れ込んだイゼッタの寝息を背に、速やかに部屋から抜け出した。

 大分信用されているようだが、あまりに無防備なのでそれでいいのかイゼッタよ、という思いを胸にそそくさと行動する。今は時間がすべてだ。できるだけ速やかに仕事をこなしておきたい。

 次の目的地は地下研究所の一室だ。出入口は限られているようだが、鳥ならば入り込む隙はあるはずだった。

 

  

 「ポロダッカ?」

 耳慣れない言葉にナリスが首を傾げた。

 いつもの宿屋の部屋の中、就寝前のたわいない話をしてる最中に突然シィーラが「ああっー!」と奇声を上げた後に放った単語だ。

 (何か思い出したのか?)

 以前にも不意に何かの記憶が蘇った際に、今のような反応があった。

 「うん、なんか今ぱっと浮かんできたのー!きっと関係あることだよね?」

 (それをわしらに聞くな。お主が思い出したことじゃろう?)

 「んー、でも、ポロダッカって言葉だけで、それが何なのか良く分かんないだよねー……」

 (こらこら……そこが重要なのだぞ?何を見ていたときに思い出したのか、そこをはっきりせい)

 「えー、そう言われても、いま急に来たんだものー!昼間見ていた何かだと思うけど……ぐにゅにゅにゅ……?」

 つまり、日中に眺めていたキーワードの何かが引っかかって、今頃『ポロダッカ』という単語が想起されたということか。記憶が突然蘇るということはあり得る話だけに、思い出せないことを深く責めることはできない。

 とはいえ、シィーラの記憶頼みなところもあるので、どうにか思い出してほしいところだ。実際ここまでに何も成果が出ていないだけに、妖精には本気を出してもらいたい。どうやれば効率が良くなるのか分からないのが難点ではあるが。

 (とにかく、思い出す努力をもう少し頼む)

 あまり強く言えないので、その程度に留める。

 と、何かが身体を一瞬震わせた。

 すぐに窓の外に目をやる。宿屋の窓は開閉式で、普段は半分だけ開いて夜風を入れている。その視界の隙間から何者かがこちらを盗み見ている気配がしたのだ。幾度となく見慣れた景色だ。固定された視界の中で、いつもと違うものがあればすぐに分かる。

 しかし、その異物は刹那に消え去っていた。曲がり角からこちらを覗いていた影が違和感の正体だったが、さすがにそれだけでは特徴は掴めない。今すぐに飛び立って追いかけるというのも一つの手だが、単なる人影の手がかりだけでは相手を特定はできないだろう。一方で、心当たりはある。

 あれは例の連絡係に違いない。

 ついにロハンザの街に到着したのだろう。即座にこちらに接触するのではなく、監視から入っていると考えれば納得はいく。

 「どうかしたのですか、ゼーちゃん?」

 (ふむ、連絡係が監視状態に入った可能性がある。ニャリスに警戒するよう伝えておいてくれ。おそらく、同居しているナリスの生活も調査しに来るやもしれぬ)

 「えっと、直接何か聞かれたりするんでしょうか?」

 (いや、おそらく直接的に何か行動をしてくることはないじゃろう。ただ、あまり不用心に妖精だの先の改造魔核だのは口にしない方がよい。シィーラもだぞ?)

 「ほっほーい」

 本当にわかっているのか怪しい返事だが、信じるしかない。

 「そういえば、その魔核の方はどうなったのですか?昼間、イゼッタさん経由で調べていたんですよね?」

 (うむ。件の研究室に侵入して、候補者の内、怪しい者を一人特定はした)

 「え?もう犯人が分かったんですか?」

 (いや、まだ確定ではないんじゃが……不審な点があったゆえ重点的に追うべきかと思うておる)

 「ほへー、それってどうやるのー?」

 ベッドの上で意味不明な体操をしていたシィーラが、興味を持ったのかその動きを止めた。視界の隅でちらちらと自分の身体を使って奇妙な動きをしていたので、物凄く気が散ったために僥倖だ。かといって下手に聞くと、訳の分からない理屈で結局どうでもいい理由か、くだらないきっかけなことがほとんどなので無視するのが一番だという教訓を得ているため、気軽に問いかけてもならない。面倒な妖精の性分は今も健在だ。

 話の本題ではないので戻そう。

 (単純な話じゃ。その者の部屋を調べる。どういうやり方であるにせよ、自身で改造魔核を作っている、あるいは複製しているのなら、自室以外に作業場所はないとみておる。他はどこも人目があるからな)

 「んー、でも、その部隊の人たちって怪しまれてるんでしょー?部屋とかもみんな見てるんじゃないのー?」

 意外に鋭い指摘がシィーラから入った。首肯して答える。

 (監査部隊の人間が一通り部屋も検分したようだ。だが、実際に本人も立ち会っての調査ゆえ、完全に調べ尽くしたとは言い難い。研究職の部屋じゃからな、下手に触れてはならぬものもあると言われれば、おいそれと手を出すわけにもいかなかったことは想像に難くない)

 「ですが、その改造魔核の流出の方が一大事なのでは?優先度的に、探し出す方が重要そうな気がしますけど……」

 (絶対に自信があれば強硬手段も取れるじゃろうが、あくまで疑わしいという理由ではそこまで強引に出れなかったのじゃろうな。20数人が容疑者で、そのどこか一人に背信者がいたとしても、他の多数の不興を買うのも厳しいといった事情があると思われる。特に重要な研究をしている魔法部隊で、全員が優秀な人材だという話であれば尚更じゃ)

 「なるほど……無理に調べて証拠が何もなかった場合、被害が大きいということですね」

 (うむ。それに、犯人側に立って考えると、部屋を調べられてすぐにバレるようなリスクを負うとも思えぬしな……)

 「ええー?それじゃあ、ゼーちゃんが調べても意味がないってことじゃないのー?」

 (そのものズバリがあるとはわしも思っておらぬ。じゃが、優れた魔法士であるなら何らかの魔法で隠蔽工作はしておろう。その不自然な魔法の痕跡を見つけ出すのが目的じゃな)

 自室で制作したとしても、それをどうやって隠したのか、外に持ち出したのか、その辺りも焦点となる。

 「なんか大変そー」

 他人事のようなシィーラの言葉はあれだが、今はそれでもいい。直接的にわしらにはあまり関係がないことだからだ。重要な方に集中してくれさえすれば、だが。

 (こちらはともかくどうにかする。お主はどうにか関連するものを思い出せ。そのポロダッカ以外にも、何でもいいから思い出せるよう頑張って欲しい。このままでは、図書館に入るまでの苦労が報われぬ)

 「それなー。なんかいい方法ないのかしらん?」 

 「記憶の思い出し方とかって、あまり聞いたことがないよね……斜めから叩くとか、あれは迷信だろうし……」

 ナリスもいい知恵はないようだ。

 「え、叩くと思い出すのー?」

 (やめい。ショック療法というものはあるにはあるが、精神的な病に対して刺激を与えると思わぬ反応が引き起こされるという現象であって、決して叩くという行為に正当な意味があるわけではない。手っ取り早く試すために誰かが言い出したことが広まったにすぎぬ)

 「あ、そうなんですね」

 (諸説あるゆえ確かではないが、少なくともその方法で記憶が戻ったとしても、たまたまでしかないであろうよ)

 「たまたまでも、可能性アリー?」

 (だから、やめい。滅多にないことじゃ。そんなものに頼るな)

 シィーラは加減を知らない。自分の身体が不当に傷つく未来しか見えなかった。

 何かが進んでいるようで停滞している、そんな曖昧な日常はしかし、連絡係の影が見えたことでそろそろ終わりを告げるのかもしれなかった。

 いよいよ、期限が迫ってくるのを一人感じていた。

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