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FairyTame-妖精交換(仮)-  作者: 雲散無常
第六章:昇級
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Interlude X-2



 大陸における決闘の起源は、農民と領主との対立にあった。

 当時の領主である貴族が課す重税への対抗として、農民側の最終手段が決闘だった。

 そのルールは単純で、領主側一人に対して農民側が三人までの参加、農民は丸腰で領主側は武器も防具もありという条件だけだった。

 丸腰では勝ち目はないと思われるが、その差を埋めるための三人だ。つまりは、誰かが犠牲になってでも貴族を拘束して、その間に他の者がどうにかするという捨て身の戦法が前提である。明らかに不利な条件でも、一時期はかなりの数の決闘が行われたという記録があった。

 それほどの覚悟で挑んでもいいほど、耐えがたい状況があったということだろう。

 時が経つにつれ、そのような形の決闘はなくなった代わりに、貴族間の勝敗を決するものとして再び決闘が浮上する。一対一の剣術勝負だ。共に馬上で槍を装備しての一騎討ちという形式などもあったが、その他の方式はすべて廃れて剣術での勝負が一般的になった。

 「そんな始まりだったのか。けど、気になったんだけどよ。農民が丸腰でも魔法を使えばどうにかなったんじゃないのか?」

 ニャリスが素朴な疑問を投げかけてくる。

 (ああ、その時代の魔法というものは、限られた人間しか使えなかったんじゃ。当時の魔法教会も、選定した者にしか魔法を教えることはなかったゆえ、ほとんどの農民たちは魔法を使えなかったんじゃ)

 「へー、そんな時代があったのか……昔から誰もが使えるもんだと思ってた」

 (遠い昔の話じゃからな。そういうわけで、貴族は献金などすれば魔法を伝授されたが、農民にその術はなかった。つまり、貴族はいざとなれば魔法も使えて圧倒的に有利だったわけじゃな)

 「そりゃぁ、本当に勝ち目がないな。でも、よくあったってのか……よほど厳しい状況で追い詰められてたんだな……」

 (決死の闘争で『決闘』じゃからな。文字通り死ぬ気で挑んでいたこのじゃろうて)

 「なるほどな。けど、そうなると貴族のいざこさで決闘ってのは今度は大げさに聞こえるような……?」

 (そんなこともないぞ?貴族というのは家格が何よりも大事じゃからの。その優劣の勝負は生死に匹敵する。一度でも格下となれば、あらゆる面で影響が出てくる。価値観の違いじゃろうな)

 「体面ってやつか。貴族どもが無駄に着飾ってるのはなめられないようにって話は聞いたことがあるけど、そういうところと関係してるのか……奴らも奴らで面倒だな」

 (何に重きを置くか、そういう生き方の問題かの)

 「てゆーか、そんなことよりニャリスはもっとこっちに集中してー!」

 先程から、ニャリスとシィーラは一対一で剣を交えて訓練していた。その合間の会話である。

 ホージンという男と決闘をする流れになったため、予行練習代わりにニャリスに相手になってもらっている形だ。ニャリスもずっと鍛錬を積んでいていたので、その成果を見るのにも丁度良かった。

 「つっても、シィーラの攻撃は単調だからよ……もう少しひねった方がいい」

 「ひねる?こう?」

 「いや、腰をひねれって意味じゃねぇよ!?」

 単に攻撃を繰り返しても意味がないことを教え、相手の体勢を崩すための足さばきやフェイント、次の技へつなげてゆく連続技の重要さを身体に叩きこむ。

 「ぐぬぬっ……ニャリスのくせに生意気っ」

 「お前に言われたくないな」

 両者に同時に教えていたのだが、ニャリスの方が呑み込みが早かった。シィーラには以前にも教えた気がするのだが、なぜなのか。

 (お主はもう少し本気でやれ。今回は絶対に負けられぬのだぞ?)

 「ちゃんと真面目にやってるってー!でも、なんかさ、もっとガッて感じでかっこいいのないのー?一撃でシュッ、ダガーン、みたいな?」

 (そういう重い一撃はここぞというときに使うものじゃ。そのための隙を作るために、今磨いているような小技などが必要だと知るがよい)

 「うーん、なんか、面倒だなー」

 「そんなことを言ってるから、上達しないんだろ?アタシの攻撃も受け切れないようじゃ、誰にも勝てないぜ?」

 「なにをー!」

 ニャリスはいい意味でシィーラを刺激してくれているようだ。発破をかけてくれるのはありがたい。

 二人はしばらく夢中で剣を振るっていた。実戦形式のこうした訓練は確かな手ごたえを感じるものだ。その昔、自分もそうした剣の手ほどきを受けたことを思い出す。相手は剣聖とも称されるほどの使い手だったが、大分性格が歪んでいて、散々からかわれながらだったので苦い記憶でもある。

 そんなことを考えていると、シィーラの動きも大分良くなっていった。負けず嫌いなところがあるので、ニャリスに押されている実情が気に入らなかったのかもしれない。

 「あれ、そう言えばよ、その司書って人のお偉いさんが推薦してくれるなら、結局のところ、例の貴族のバカたちはどうでもよかったってことか?」

 それでもまだ余裕があるのか、ニャリスがまた口を開いた。最近ナリスとばかり会話をしていたので、この機会に色々話したいのかもしれない。

 (いや、どうでもいいとまではいかぬな。確かに、イゼッタにたまたま捕まったことがマルメにつながったわけじゃが、あの貴族たちの話も無駄ではなかった。特に、エジデルト家関連のごたごたを知れたのは悪くない)

 「ああ、逆恨みで見習いにされたってやつか」

 (うむ。更に言えば、それが思わぬ形でいい方向に働いてもいてな。マルメが言うには、魔剣持ちが騎士見習いというのは本来あり得ない待遇と言うことになり、不正が行われたのは確実という話になって、一部の貴族騎士の摘発につながった。騎士団内部で不正の横行が多かったらしく、その尻尾をつかむきっかけになったというわけじゃ)

 「へー、じゃあ、まったくの無駄ってわけじゃなかったんだな」

 裏でデセウスに取引を持ち掛け、他の面子を吐かせたのでその通りだ。あの大貴族と知り合いでなければ、弱みを握って脅せる立場にいなければ、叶わなかったことは間違いない。   シィーラの入団申請の書類については、魔剣の存在も改ざんされていたため、騎士団側にとっても看過できない不正だったことも大きい。マルメの推薦でも、さすがに騎士見習いから一足飛びに上級騎士と言うのは難点の一つだったのだが、本来は下級騎士で魔剣持ちという条件であるなら、ホージンも許容できるということだ。

 加えて、先の腐敗貴族たちの摘発に一足買ったという実績もマルメの推薦の後押しとなって、決闘の運びの決め手となったのだ。最終判断が決闘という形が正しいのかどうかは疑問ではあるが。

 「あの貴族の人、最後は誰でも裏切る勢いだったねー」

 (お主が過度に脅したからじゃろうて……)

 「ゼーちゃんが、好きにやれって言ったんじゃん!」

 だからといって、問答無用で跳び蹴りをかますのはどうかと思う。手を出してから痛い目にあいたいのか、という定番のセリフは本末転倒だろう。従者の方も、突然の攻撃に何もできていなかった。

 (今後はあの貴族たちも下手に手は出してこれなくなったという意味でも、悪くない道筋ではあったがな)

 「じゃあ、本当に、今度の決闘とやらに勝てば、図書館に入れるってわけか。なかなか長い道のりだったな」

 (ああ、本当にな。妖精ユムパを調べるのは、とんでもなく骨が折れる……) 

 妖精というものは不明すぎて、想像以上に謎が多すぎた。本来ならば、妖精本人にいろいろ聞けばいいのだろうが、妖精と言う種族そのものが自身に無頓着すぎて話にならない。とにかく自由すぎて、住んでる場所や家族構成はおろか慣習に文化、種族としての特性、その他もろもろの人間の常識が一切通用しない。

 故郷がどこかと聞けば、故郷とは?と逆に聞かれ、定住する文化がないことがなんとなく分かった。家族という概念もなく、知り合いの妖精同士ですら会うまで互いに忘れていることが多いという不可解さだ。すべては今現在を生きるという信条が大元で、過去にこだわらない、振り返らないという性質があるためだと思われた。

 他に生き残りというか、人間寄りの妖精が今も存続しているのならば、その者を訪ねたい。そのための手掛かりを得るために、図書館で妖精についての調査が必要だった。

 「んりゃりゃ!」

 シィーラの妙な気合いの声と共に、ニャリスの手から剣が弾かれた。魔法剣のため、その時点で剣そのものが消失する。

 「あ、くそっ……!まいった」

 「うっしゃぁーー!!」

 いつのまにかシィーラの連続技が決まって、形勢逆転して勝利していた。それまでのニャリスの優勢が嘘のようだ。押されていたシィーラだったが、徐々に相手の技を吸収して自身の連続技につなげるようになっていた。この辺りは訓練の成果だろう。考えるよりも先に身体が自然に適応した結果だ。

 シィーラ自身が自覚せずとも、ここまで培ってきたものは実を結んでいるということだ。

 (ふむ。今のが狙ってできるようになればもっといいんじゃがな……)

 「なにをぅー!たまには素直に褒めてよねー」

 激しく動いて疲れた二人は、地面に身体を投げ出して座り込む。

 ここは街の近くの森で、ニャリスがよく鍛錬していた場所だ。少し奥まった位置にあるため、人はほとんど通らないこともあって静かだった。

 「やっぱり、人とやり合う方が気持ちいいな」

 「ニャリスも訓練所に入りたかったのー?」

 「いいや、そんなことは思ってない。アタシはナリスを守れればいい。そのために鍛えてるだけだ」

 「今は寝てるのー?」

 「ああ。昨日は店の客がやたら多かったんだ。どっかの酒場が火事にあったって話で、そっちの客が流れて来てた」

 (火事?最近、その手の話を良く聞く気がするな。放火魔でもいるのか?)

 「そんな噂も聞いてる。警備隊の連中が不審なやつを見なかったかって、ウチの店にも来たしな」

 「ええー、宿屋は大丈夫なのかなー?」

 「ウチの住人は曲者が多いから大丈夫だろう」

 回水亭で長期滞在しているわしらのような者は複数いた。互いに交流は持っていないが、詮索しなくても訳アリなのはそれとなく分かる。真っ当な暮らしはしていなさそうだが、悪人でもないことも確かで、それなりに自衛できる強さもある。基本的に住処を守るのは共通の習性だと思われるので、その意味で留守中でも安心という面があった。

 「時折、あの見聞屋も顔を出しては様子を聞いてくるしな」

 (ヨーグか。忙しそうな合間に、ご苦労なことだな……)

 「なんでヨーグ?特にいま、依頼してないよねー?」

 「アタシが知るか。ちょっと覗いてすぐに帰ってくし、意味がさっぱりだ」

 ナリスもニャリスも人の好意には鈍感なようで、ヨーグの強いアピールはまったく響いていない。少し不憫に思えてくる。ずっと忙しそうなのは、もしかしたら今回の火事騒動にもつながっているのかもしれないが、今は興味がない。

 「ああ、あとはアレだ……ロアーナとはどうなったんだ?」

 「ほへー?どうってー?」

 「いや、だから……なんか合体したいとかどうとか言ってただろ?」

 ニャリスは顔を逸らしながらそんなことを言う。その方面での恥じらいはあるようだ。対して、シィーラは性に関するそのような感情は皆無だ。

 「ロアーナとはもうバンバン合体したよー、気持ちよかったー」

 「ば、ばんばん……!?」

 「うんうん、あれ、どっちかっていうとババーンかも?」

 「ばばーんっ!?」

 ロアーナは強化遠征後から無事戻ってこれたことで、シィーラの評価をかなり改めたようだ。性欲を溜めていたこともあって、シィーラをそれ以上抑えきれなかったため、誘ってみてもいいと許可を出したところ、即行で話を付けて事に至った。ロアーナがどういう感情で受け入れたのか定かではないが、その後ぎくしゃくした様子もなかったので、赤毛の狂犬も性に関しては奔放なところがあったのか、逆に勢いで乗って蒸し返したくないのかのどちらかだ。特に確かめようとは思わない。

 中身はシィーラでも自分の身体なので避妊だけはさせたが、複雑な心情だったのは言うまでもない。一緒にしようよと気楽に誘われたが、冗談ではなかった。

 妖精の繁殖は快楽を伴わないらしく、この手の刺激をあまり覚えさせるのは得策ではない。妖精が人間の悦楽を知りすぎると、おそらくは自堕落な生活一直線になるのは目に見えているので、過剰に与えてはならないということは経験済みだ。こんな特殊な管理をしなければならないとは、まったく思ってもみなかった。

 師匠に話せばきっと笑い転げるに違いない。

 他人の話ならば自分もきっと笑えたのだろうが、当事者としては洒落にならないのが辛いところだ。

 強引に話題を変える。

 (それで、ナリスの魔法の方はどうだ?)

 「ん?ああ、魔力向上のためとかいうあの妙なやつか?毎日きっちりとやってるみたいだぜ。何が変わってるのかアタシには分からないけどよ」

 ニャリスが剣術の鍛錬をしているせいか、ナリスの方も魔法をもっと覚えたいという申し出を受けて、まずは魔力の基礎を上げるための下地作りをしてもらっている。ざっくりと言えば、単なる精神力の強化ではあるが、案外馬鹿にならない。魔法には集中力が必要なことから、どんな状況でも冷静に対処できる平常心を保つことは重要で、そのための瞑想方法を教えたのだった。

 (真面目なナリスならば、続けることで確実に成果は出る。焦らずに精進するように伝えておいてくれ)

 ナリス自身は今、休息のために眠っている。二重人格である彼女たちの利点はその臨機応変な交替にあるとも言えた。

 「へいへい。効果があるのか知らねえけど、本人はなんだか満足げだったからな。言われなくても勝手にやってそうだ」

 訓練方法が合っているということなのだろう。落ち着きのないシィーラ辺りだと、一分も立たずに投げ出すに違いない。向き不向きというものはやはり大切だ。

 「そんなことより、もっとやろうよー!今の感じ、悪くなかった気がするー」

 休息を終えて、シィーラが立ち上がる。

 今日の妖精はまだまだやる気のようだった。

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