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FairyTame-妖精交換(仮)-  作者: 雲散無常
第五章:偵察任務
45/225

5-9


 「結局よ……私らは何と戦ってたんだ?」

 ぽつりとロアーナの声が闇に響く。

 焚火の薪が静かにパチパチと爆ぜる音の中、その言葉はやけに大きく心に落ちてきた。

 「そう言えば、まだ話してなかったねー」 

 偵察任務最後の夜、生き残った偵察試験班は雑魚寝状態で焚火を囲み、星空を見上げている。昼間にアルバの魔眼によって、最終的な砦情報は手に入れていた。推測通り、敵側の妨害はもうなかった。任務完了ということだ。明日、本部の拠点へと帰投する。

 改めて情報を整理し、整合性を取るための想像で埋めると、あらかたの全体像は見えていた。シィーラには既にそれを話しているが、他の者にはまだだった。任務が最優先で完了していなかったためだ。今は違う。

 「ゼーちゃんの推理によるとねー」

 シィーラが語り始める。正直、真相は分からない。おそらく、判明することもない。当事者はもういないのだから。ゆえにこれはあくまで推測に過ぎず、戯言かもしれない。それでも、戦いに身を置いた者としては、やはり敵対した者が何者であったかということは気になるものだ。

 敵の対偵察部隊。おそらく5人が最小単位だ。構成は魔獣使い、魔法士、魔法士の魔力担当二人、遊撃役。魔力担当の者は、あるいは予備も含めて何人かいた可能性は高い。ここは代役が利く。問題は魔獣使いと魔法士、遊撃役の三人だ。例の仮面を被っていたと思われる者たちで、三つ子だと推理した。

 双子や三つ子などには、不思議な共感覚、共鳴といった力が宿るという説がある。具体的には、離れた場所にいても同じ感覚を覚えたり、ふと心で思ったことが伝わったりというものだ。証明はされていないし、実証もおそらくは不可能な一種の世迷言だ。それでも、そうした報告は数多くあり、それゆえに双子などは恐れられたり気味悪がれたりしてきた。人間は古来より、理解できないことを恐れ、排除する傾向にある。忌み子などという風習もそこに根差しているものだ。彼らのあの仮面にどのような意味があったかは定かではないが、ろくなものではないだろう。

 ともあれ、三つ子である彼ら三人の中で、何らかの感覚共有があったと仮定する。そうすると、魔獣使いが猿やシーミャもどきの目を通した視覚を共有、もしくは特殊な伝達方法で理解できた可能性がある。そのおかげでこの三人は同一の場所で固まって行動する足枷から解き放たれていた。通常ならばすぐそばで言葉なり何なりで見たもの、見ているものを伝えなければならないが、そうした手間が共感覚ですべて省ける。

 遠距離から正確な位置を狙い撃つような行為は、正直言葉で伝えるにはかなり難しい。おおよその方角は固定できても、心臓の一点を狙うなどという繊細な修正は厳しいだろう。だが、視覚を一瞬でも共有できたなら、決定的な瞬間にその感覚で射抜くことはできる。当初は照準を指で定めるような形で、魔獣使いが射手を統制していたのかとも思っていたが、共感覚の方が説明がつく。

 そしてもう一つの混乱の元が、遊撃役の一人だ。遠距離魔法を放つ者が二人いるかのような錯覚を引き起こしたこの者は、おそらく暗殺者のような立ち位置だっと考えられる。野生の猿やシ-ミャもどきという監視の目とは別に、近距離で獲物を狙う影の者。ひたすらに潜伏を続け、混乱に乗じてのみ決行することで、絶対に自身の姿を晒さない。共感覚が可能だとすれば、この遊撃役の目を通してもこちらの位置が特定されていたのかもしれない。どちらが先で後にせよ、二つの方法で敵側はこちらを監視していたということだ。

 「ほとんど反則技じゃねぇか……」

 ロアーナの感想はもっともである。魔力探知を逆手にとって、こちらの方角を絞る手も巧妙だった。あの魔石の反射によって位置を割り出すという発想も新しい。これから先、あのような方法は主流になるかもしれない。対策方法は今なら幾つか思い浮かぶが、前提としてその前知識が必須だ。あの時点では打つ手はなかった。

 「あの、そもそも、魔力探知で人が見つからないように潜伏することは可能、なんですか……?」

 アルバは遊撃役がこちらの近くに潜んでいたという仮説が信じられないようだ。この世界のあらゆるものはマナを含み、ゆえにこそどんなに微量でも魔力を持つ以上、警戒しているそばでまったく見つからずにいることが不可能だと思うのは自然なことだろう。

 (気配と魔力。人が生きる以上、無意識にまとうそれらを完璧に隠蔽できるかどうか。答えは否、じゃろう。じゃが、限りなく減らし、且つそれらを周囲に紛れ込ませれば、ほとんどなくすという状態まで持っていける。それが人のものではないと錯覚させれば、実物を見るまではそうとは思わない、というようなことじゃな。それに、手練れの暗殺者や悟りを開いて無の境地に至った賢者などは、すぐ隣にいても気づかれない、といった芸当が不可能ではないと言われておる)

 実際、妖精ユムパのシィーラでも同様の隠蔽ができることは身をもって知っていた。

 「今回の相手は、それほどの手練れだったということですか……」

 改めて自分が対峙していた敵の恐ろしさを思い知ったのか、アルバはぶるっと震えて自らを抱きしめた。

 「感覚共有なんてものがあるかどうかは知らねぇけどよ、三つ子だったとして、あの仮面は何の意味があったんだ?完全に視界塞いでいたんだろ?」

 シィーラが面白半分に一つ持ってきていたが、不吉なので捨てさせた。その時に見た不可思議な形状がロアーナは気になっているようだ。

 (生まれつきどこかに機能不全がある身体の者は、代わりに他の五感が鋭敏になるという話がある。たとえば、盲目の者が聴覚が研ぎ澄まされて常人の何倍もの音を聞き分けられる、といった感じじゃな。そういう意味で、自ら視覚を塞ぐことで他の五感を伸ばす、といったような修行も実際にあるにはある。共感覚をより強めるために、わざと視覚を閉ざしていた可能性がある。あくまで仮説じゃがな)

 「へぇ……お前が言うとなんかそんな気がしてくるな。本当かどうかは別として、妙な説得力があるわ。立派な詐欺師になれるぜ、ゼーチャン」

 「へっへっへ。ありがとー」

 (いや、おぬしが感謝する道理はない。そもそも、褒められておらぬ)

 「まぁ、敵側はそれでなんとなく分かったけどよ。ショーラルはどうなんてんだ?途中から勝手に消えてたのはみんな気づいててて、敢えて触れないでいたみたいだけどさ……やっぱり逃げたのか?」

 途中で完全にいないものとして扱っていたのは事実だ。それどころではなかったという状況もある。ギリギリの戦況で逃げ出した者にかまっている暇はなかった。それらが落ち着いた今、様子もおかしかったこともあって、ショーラルについてはある疑惑がある。それを口にするかどうか迷っていたのだが、今後も騎士団に関係する以上、教えておくべきだと考えた。

 (ショーラルに関しては……騎士団側の密偵の可能性が高い)

 驚く面々を前に、怪しい点を列挙していく。

 そもそも、今回の強化遠征において、騎士団側の意図が何かしらあったこと。そのためには確実に状況を把握するための監視員が必要なこと。しかし、正騎士のエオルは同行まではしていなかったこと。つまり、すぐそばで観察する者が必ず一人はいたはずだ。 

 「けど、あいつが合流したのは本番の偵察任務からだったぜ?その前の森んときは私らとは別行動だったよな?」

 (例の奇妙な森の方は、別の人間がいたと思っている。森の民オムロの住処に出入りしていた誰かだ。というのも、おそらくこの監視の理由のすべては、相貌の実に関心があったためじゃ)

 「どゆことー?」

 代弁するシィーラにも分かるように説明する。

 騎士団側とは言ったが、実際は傭兵騎士団訓練所の話で、中でも所長のヤヤークが主導だと思われた。ヤヤークは訓練所運用のためか何らかの目的、おそらくは資金調達のための裏仕事をしている可能性があった。そのひとつが相貌の実を使った複製事業だ。

 現段階では推測だが、ほぼ間違いないと見ている。その詳細は今は関係ないので省き、ヤヤークはこの強化遠征も何らかの取引の結果として利用していると思われた。そうでなければ、問題のある者ばかりが集められるはずもない。実際、魔眼を埋め込まれたということからも、実験的な意味合いが強かったのは皆も認めるところだろう。まともな訓練生なら、魔眼などという怪しいものを素直に受け入れるはずもない。強制的に従わざるを得ない人材を選別したのだ。

 「はーん、所長が黒幕ってことか?」

 ロアーナは半信半疑ながらも、否定的ではなかった。

 この強化遠征にはおそらく他の者の思惑も絡んでいる。あのジェイクという怪しい男だ。確証はないが、ヤヤークに魔眼の実験体の提供を求めたのではないかと睨んでいた。この辺りは見聞屋のヨーグに探らせているので時期に分かると踏んでいるが、ロアーナたちが詳しく知らなくてもいいと判断して伏せる。知っていてもらいたいのは、所長には裏の顔があり、訓練所には気を付けるべきだということだ。

 「じゃあ、ショーラルは今頃所長の所に戻っているのー?」

 (いや、あやつの行動には不可解な点が多い。密偵としての動きというより、単に臆病風に吹かれて逃げ出したのではないかとみている)

 「最後の方で調子悪そうだったこととか?」

 ショーラルに関しては正直に言えば完全に推測だった。証拠は一切ない。だが、ゼクスの死に関与していると思っていた。急に魔眼が暴走したあの夜、普段は手伝わない夕食の支度で何か仕込んだ可能性がある。そして、その効果がおそらく想定外のものでゼクスが結果的に死に、怖くなったのではないかと考えていた。また、翌日に魔獣が襲ってきた原因も、ショーラルではないかと疑っている。招魔の笛か何でおびき寄せたのではないだろうか。

 「え、なんでー?」

 (そのどさくさに紛れて逃げようとしていたと考えている。だが、高位種プニヴィナのサムクスまで呼び込んでしまったのは、またしても予想外だったのか、あのときに一人で離脱することができなかったと見ている)

 「それが本当なら、とんだうっかり野郎だな……けど、あいつならありえそうというのが何とも……」

 「今思えば……凄い怯えていたように見えていたのは確かです……ショーラルさんがゼクスさんの死に関係しているということはどういうことなんですか?」

 アルバがおずおずと聞いてくる。相変わらずの人見知りな性格だが、多少は緩和されている気もしないでもない。魔眼を使っている間は、なかなかの自信を漲らせて頼りになっていたものだが、普段はやはり小心者の態度だ。

 (料理に何か混ぜたのだと思うが、その効能がおそらく聞いていたものと違ったのだと推測できる。たとえば、魔眼を安定させる効果のある粉だと聞かされてゼクスで試したが、実際は暴走の引き金になった、とかじゃな)

 「なるほどー、使ってみたら結局殺す原因になっちゃった、みたいなー?ゼクスが急におかしくなったのって、ご飯食べた後だもんねー」

 「あいつが夕飯の支度を手伝ったのもあの時だけだったしな……筋は通ってるな。そうか、やたら顔が青くなってたのも、自分が原因だって分かってたから、か……」

 (正直、あの小者はあまり問題にしていないが、魔眼に関しては少々懸念がある)

 「魔眼のなにー?」

 (そもそも希少な魔眼を、いや複製だとは言え、訓練生に使うのかということじゃ。適性を検査したとはいえ、本来なら正騎士団員の中から選ぶべきものであるし、それを訓練生で試すというのが解せぬ。厳選して誰か一人、という話なら分かるが、四人、いや五人に移植したというのがどうもな……)

 「言われてみると、そうだねー。なんでだろー?」

 「あの、それ……なんですけど……」

 その答えは意外にもアルバが持っていた。正確には、ナルファが推理していたというべきか。弓使いがぽつりと漏らした「この魔眼って多分、傷物じゃない?あいつら、あたしらで試してるのはきっとそっちなんだと思う」という言葉がすべてだった。

 「ん、それはどういう意味なんだ?」

 当時のアルバ同様、ロアーナも理解できなかったようだ。

 (傷物、というのはこの場合、何らかの理由で正常な状態から弾かれたものを指していると思われる。たとえば魔石商売などでは、大きさに対して必要十分な魔力をため込めるものを正規の商品とし、推定以下の魔力しか保有できないものはクズ石などと言って価値が著しく下がり、まっとうな値では売られない)

 「ちょ、ちょっと待て!それって、アルバたちはハズレを引かされたってことか?」

 ロアーナの正直な見解に、アルバの顔が曇る。今初めてその意味が分かったようだ。

 魔眼は貴重だ。その複製を幾つも作るにあたって、完璧に綺麗に複製できないものもあるだろう。その中でのちょっとした失敗作、あるいはそれに近いものを捨てるには惜しいという考えは誰でも抱く。それらが本当に使えるかどうか、訓練生で試したのでないだろうか。そう考えると、先程のショーラルがゼクスに試した何かというものも、魔眼の安定剤という線でもかなり信ぴょう性を帯びてくる。試験薬的な何かを試してみるよう命令を受けていたのかもしれない。

 (こういった場合の傷物では、貴重であればあるほどその度合いは狭いとも言える。要するに、明らかにダメなものは容赦なく捨て去られ、正規品にギリギリ入らないかどうかのモノが選別されているはずじゃ。騎士団側とて、無駄に人員を減らしたいわけではない。ある程度の品質は保っているものを使ったことは間違いないじゃろう)

 四人の魔眼の魔力暴走の兆候が、その影響なのか本人の魔力統制の加減だったのかは、微妙なところではあるが。少なくとも、アルバの魔眼は問題なく機能しているように思える。不安要素がまったくないわけではないが、必要以上に気にすることもないはずだ。もういここにはいないナルファに真相は聞けないが、そのことに深く言及しなかった彼女も、多少不安に思いながらも大丈夫だろうと楽観視していたのだと推測する。

 「どちらにせよ、わたしはもうこの魔眼と付き合っていくしかないですから……」

 アルバはぐっと拳を握り締めた。その大きな碧眼の瞳は決意に溢れている。片方は灰色の虹彩で魔眼になってしまっているが、暗がりではその色の違いはさして気にならない。この遠征を通して、アルバは心が少し強くなったように思う。片目を入れ替えた代償がそれに見合うのかどうかはわからないが、少なくともアルバを死なせずに済んだことには安心していた。

 「そうだねー、凄い武器を手に入れたってことだもんねー」

 能天気にシィーラが笑うが、その武器は戦争に使うものだということを忘れている。今回の件でアルバが有用なことは証明されたがゆえに、今後の居場所も確定される。最前線の斥候部隊に組み込まれることは間違いない。本人もその覚悟だったとは思うが、軽率だったと思わずにはいられない。他人の選択なのでそこまで干渉する気もないため、言っても詮無きことではあるが。

 「疑問……分からないことへの問い。ドグオン、不明。報告、詳細?」

 それまで黙って聞いていたジャコブが、今度はドグオンについて訊ねてきた。あの砂漠の民については、現在消息不明となっている。本隊の拠点へ既に戻っているのかもしれないが、正直、どういう行動を取るか読み切れていない。上への報告をどうするのか、ジャコブは聞いているのだろう。

 ドグオンについては、おそらくもう騎士団へ戻ってくることはないと踏んでいた。班長であるシィーラと袂を分かった時点で、指揮官への不服従で軍規違反であり重罪だ。訓練生に軍規が適用されるかどうかは微妙なところではあるが、少なくとも評価は下がることは絶対だ。そうなれば、ドグオンの本来の目的はもう果たされない。あの時、そこまでの覚悟でドグオンは離脱したのだと思っている。

 ゆえに、報告としては任務遂行中に消息不明ということにするつもりだった。ショーラルは完全に逃亡で自業自得だが、ドグオンについては色々と助かった面もあり、最後の決別も信用させ続けることができなかった点はこちらの落ち度でもあるので、あまり悪者にするつもりはない。

 「けど、あいつがもう本隊に戻ってて、滅茶苦茶こっちのことを悪く言ってたら?」

 (その場合は事実を言うまでじゃ。ただ、あやつは馬鹿ではない。そんな主張はせんだろう。証人の数が違い過ぎて、勝ち目がないことは自明の理じゃ)

 「偽装……ごまかすこと。対応、随時。了解、同意」

 臨機応変に対応することで了解した、という意味だろう。最後の同意という感情をみるに、ジャコブもドグオンを気に入っていたか、認めていた節が見られた。一方でショーラルに関してはまったく興味がないこともまた興味深く感じてしまうが。

 「そうか……じゃあ、本当にこれでとりあえず終わりってことだな……」

 ロアーナは感慨深げに言うと、そっと立ち上がって皆に葉っぱで包んだものを渡して回った。

 「なにこれー?」

 シィーラが受け取ったそれを見て、その意図が分かった。夕方にジャコブと隠れて何かしていたのは、このためだったらしい。

 「私は傭兵だからな。逝っちまった仲間の贐ってのはこのやり方しか知らねぇ。本当はその場で一番いい酒でやるんだけど、ないからジャコブに手伝ってもらって即席で酒もどきを作ってもらった。味はいまいちだけど勘弁な」

 「はなむけ?」

 「餞別……旅立ちに際して贈ること。基本、祝事。微妙、奇妙」

 「ああ、本当は『手向け』らしいけど、生き死にで生きてる戦士にとってはさ、戦って死ぬことも本望って意味で、贐って使ってるわけ」

 「ほーん、それで?」

 「まともに弔ってやれなかったデデたちによ。せめて、私らがこの酒で見送ってやるって話だ」 

 (人間の死者を墓に埋めるというように、人は死んだ者を悼むときに儀式的なものをする。それを見送る、送るという表現するのじゃ)

 妖精であるシィーラにも分かるように補足する。

 「どうすれば、いいの……?」

 アルバもこの儀礼には同意して乗り気のようだ。その場に残すしかなかったことが心残りだったに違いない。

 「別に難しいことは何もねえ。遺体に酒を数滴垂らし、別れの言葉を言ってから飲み干すってだけだ。今回はもうないからな、あいつらの眠るこの森の土に垂らして、全員分まとめて飲み干そうぜ。丁度、四人だ。一人ずつ名前を呼んでやろう」

 そう言ってロアーナは、シィーラに顔を向けた。最初は班長からということらしい。自分で音頭を取った以上、締めるつもりなのだろう。

 「じゃあ、オキ=ウェーディーに!」

 「ナルファ=ゴラクソンさんに……」

 「デデ……」

 ジャコブはそこで言葉に詰まる。おそらく尊名、正式名フルネームが分からなくなったのだろう。シィーラがささやいて教える。人間にとって名前は重要だと教えていたので、しっかりと記憶していたようだ。改めてジャコブが呼ぶ。

 「デデ=ラニオマル」

 「最後に、レキ=ウェーディーに。景気よく眠れや!」

 ロアーナが葉で包んだだけのコップもどきの中のものをぐいっと飲み干す。皆もそれに続いた。

 「ほげー!まじゅい……」

 それでもすべてを飲み干したシィーラは、一言力強く言い放つ。

 「次こそは、班長としてみんなを守るから!ごめん……!」

 もう次などないのだが、その心意気は成長と言えるだろう。気持ちは伝わったのか、ロアーナたちは静かにうなずいた。

 偵察試験班、最後の夜はそうして更けていった。

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