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FairyTame-妖精交換(仮)-  作者: 雲散無常
第五章:偵察任務
43/225

5-7


 魔獣使いという職業は滅多にいない。

 動物を飼い慣らす時点で相当の技術が必要であるのに、更にその対象が魔獣にまで及ぶとなれば、その難しさは推して知るべしである。

 だからこそ余計に、その技術は貴重であり有効で脅威でもあった。戦場に魔獣使いが一人いるだけで、戦い方は変えなければならないと言われるほどだ。

 そんな厄介な者が敵側にいることを知って、偵察試験班の面子が焦らないわけがなかった。

 「冗談やない。偵察潰しに、そんな大物出してくるっちゅうのか?信じられへんわ」

 左わき腹を抑えながら、ドグオンが悲鳴に似た声を上げた。

 「だいたい、そないな遠回しなことするか?魔獣使いなら直接やらせればいいんちゃうか?招魔の笛使って誘導してたのにおかしいやんか?」

 (魔獣使いと言えど、あらゆる魔獣を使役できるとは限らないじゃろう。複数を操るというのも難しいじゃろうし、婉曲……遠回しに見えても理にかなっていると思う)

 「そうかもしれんけどもやな……まあ、それはええわ。そんで、その魔獣使いが猿の目を通してこっちの場所特定して、狙撃みたいに遠距離魔法で狙って来てる?ほんまにそうなんか?」

 ドグオンは大分懐疑的になっていた。今までは素直に信じてくれていたが、自身が負傷し罠を張る作戦が失敗したことを受けて、こちらの推論を全面的に信用できなくなったのだろう。気持ちは理解できる。既に、ナルファが犠牲になっているのだ。疑いたくなるのは当然だ。

 紺色の髪の弓使いは、胸を魔法で貫かれて絶命していた。例のかかしの魔法探知を逆手に取った反射装置で、的になっていた可能性がある。シーミャもどきを最速で片づけたつもりだが、間に合っていなかったということだ。そのわしの見立ても、ドグオンは信じ切れていない。実際、ナルファの後にドグオンやオキが魔法で撃たれたことから、こちらの主張は矛盾していることになるのだが、猿の目もひとつだけではないという推論が立つ。そこに納得がいっていないという意味でもある。

 とはいえ、他にもシ-ミャもどきがいて今この時も狙われているという可能性は高い。そのために樹々が密になって遮蔽物に囲まれた場所に陣取っている。藪に雑木、低木が重なっている茂みは多い。

 オキも同様に魔法で撃たれていて、意識不明の重体だった。ナルファのように心臓近くを射抜かれてしまっている。ドグオンは三人目の的だったようで、警戒していたことと魔法障壁がかかっていたタイミングが良かったのか、急所を外せたようだ。

 「大体辻褄は合ってるだろ。他にそれっぽい魔法攻撃もないし、その前提で考えてもいいんじゃねえか?」

 ロアーナはまだこちらを支持してくれている。

 「いや、今も狙われてるっちゅうんなら、もっとバンバン飛んできてもよさそうなもんや。ほんまに狙撃みたいな魔法なのか確証は持てん。猿を通しての監視言うのも、さっきの笛持ってた奴と違って実際に見ておらんしな、いまいち信じ切れへん」

 「そりゃ、この藪がちゃんと隠してくれてるってことだろ。まぁ、確かに狙撃みたいな遠距離魔法がどういう感じなのかは分からねぇけどよ。実際、やられてるわけだから、その対策はしなきゃな」

 「だからこそ、その魔法云々の信憑性が重要なんやないか。正直、わいは今この時間も惜しい。すぐにここを離れるべきやと思う」

 「今動いてたら、それこそいい的になるんじゃねぇか?」

 「だから、そいつはその遠距離魔法前提の話だからやろ?ったく、話が前に進まんわ」

 ドグオンとロアーナの会話の着地点は見えない。

 「うにゅー?ドグオンはとにかく移動するべきーってことー?」

 「そうや、敵が今この時も手ぐすね引いて狙ってるに決まっとる。隠れながら撤退すべきや」

 (ここから撤退しても、ジリ貧になるだけじゃ。その後はどうしようとしているのか聞いて見るがよい。ここで反撃に転じないと奮戦した意味がなくなる)

 「撤退してその後はどうするのー?具体的に何かあるー?」

 「こんな状況じゃ、出発点に戻るしかあらへんやろ。偵察任務の半分くらいはこなしてるはずや。試験班にはここらが限界や」

 (その理屈はおそらく通るまい。完遂するまで帰ってくるな、という命令だ。おまけに、この状態では無事に戻れる保証もない。撤退は悪手じゃ)

 「そないなこと言うても、無理なもんは無理やで!ここからどうするっちゅうんや!?」

 シィーラではなく、わしに向かって詰問してくるドグオン。今にもその手で握りつぶして来そうな勢いだった。かなり苛立ちが溜まっている。

 (落ち着くがよい。打開策としては、わしが囮になって相手の居場所を特定する。そこから反撃に転じる以外、突破口はない。遠距離魔法は少なくとも一人では行えぬものとして、複数人が固まっているとしか考えられぬ。そこを一気に叩く方向で考えておる)

 「囮やと?鳥が?なるはずあらへんやろ!」

 分身魔法があるのだが、口で言っても信じられるはずがないのでもどかしいところだ。なんと説明しようか逡巡したところへ、一本の矢が飛んできた。近くの樹の幹に刺さる。

 「くそっ!近くにおるで!わいはもう行くっ!死にたくないやつはついてこいっ!」

 (待て!これはおかしい。迂闊に動くな)

 制止も空しく、ドグオンは駆け出してしまった。

 「あっ、おい!勝手に――もう遅いか。どうするんだ?」

 ロアーナがこちらを見る、心配そうにデデも無言で視線を向けてくる。ジャコブは辺りを警戒して言う。

 「困惑……良く分からないこと。敵意、皆無。気配、不明」

 近くに気配も敵意もないということだろう。で、あればあの矢は何なのか。

 完全にこちらをおびき出すための罠だ。おそらく、無作為に放ったうちの一つだ。こちらの位置がバレているわけではないと思われる。しかし、弓の有効範囲はそれほどあるわけではない。一般的には50メートルがせいぜいだろう。その範囲内で人の気配がまったくしないというのは在り得ない。

 現状、特に皆が警戒している最中で見逃すことはないはずだ。

 となれば、これもまた考えられるのは一つだ。

 (例のシ-ミャもどきに弓を与えてる可能性がある。今は動かぬのが得策じゃ)

 「また猿なの?そんなに万能なことある?」

 レキが懐疑の声を上げる。そう思われるのも仕方がない。実物やその現象を自身で確認しない限り、人はなかなか信じようとはしない、できないものだ。

 「どちらにしろ、わたしはここを動けないわ。オキを……置き去りになんてできない」

 その腕の中には、意識不明の妹オキがいる。治癒魔法はかけてあるが、正直気休めの延命措置でしかない。リナーレ教の神官のみが扱える治療魔法がないと、オキの回復は見込めない。即効性の回復魔法が必須な状態だ。誰の目にもそれは明らかではあるが、口に出せないままでいる状況だった。

 ドグオンの場合と違い、オキの方はかなり致命傷を負わされている。その命は風前の灯火だ。ただの負傷兵ならば連れ帰ることを前提に行動しなければならないが、戦死寸前の場合は諦めることも考慮に入れる必要がある。戦争においては多数を生かすのが鉄則だ。瀕死の味方を守るために、健全な生者が死ぬようなことは合理的ではない。

 方針をはっきりと告げる必要があるが、タイミングが重要だ。ドグオンが離脱して戦意が下がっている今、更に和を乱すようなことは軽々しくは言えない。一方で、時間を無駄にしている暇もない。早急に次の行動に出ることは必須だった。

 (矢の刺さった方向から逆算して敵の方角は絞れるが、おそらく移動しながら射ってるはずだ。最低二体での可能性も考慮すると、こちらが動くのを監視している個体がいる。移動するときは一斉且つ迅速に行い、発見と同時に攻撃までの一連の流れが望ましい。やはりわしが囮をするしかないようじゃ。その間、待機で皆は納得できるか聞くがよい。これはすなわち、ドグオンを見捨てることにもなる)

 「班長はみんなを守るんじゃないのー?」

 シィーラは意外にも班長の責務に目覚めかけているのかもしれない。その役割を忠実に全うしようという気概が感じられる。それは喜ばしい兆候だが、成長に結果が必ずしもついてくるとは限らない。

 (すべてを守るにはわしらは未熟だ。今はできる限りの最善策を取るしかない。つまり、一人より二人を生かす方法じゃ。ただし、これが任務である以上、魔眼持ちであるアルバを最優先で守ることも忘れてはならぬ。まだ作戦は終わっていない。班長には目的完遂の責務もある)

 「難しいなー……」

 珍しく元気があまりない様子でシィーラはこちらの意図を皆に伝える。

 「ドグオンの方がいいって人は、追いかけるのもありかなー。お薦めしないけど、強制はよくないしねー」

 驚くべきことに自分なりの考えもしっかりと含めていた。最後のくだりはわしは何も示唆していない。やはり、色々と思うところがあったのだろう。

 これからどう動くべきか。それぞれが示した方針の可否について考えている。

 初めに結論を下したのはレキだ。選んだのは第三の選択肢だった。

 「わたしはここで降りるわ。オキを放っておけない。ここから動けないから、あなたたちの手助けもできない。ごめんなさい……」

 これが単に同道しているだけの関係であるなら、心情的にもレキの言い分を認めたいところではあるが、残念ながらそういうわけにはいかない。戦時の任務だ。そのような勝手は許されないし、許すべきではない。断固とした態度で否定せねばならない。

 (その道理は通らぬよう言え。レキの気持ちは分かるが、その結果皆の危険が高まる。オキはここに置いてレキは生きるために戦わねばならない。ドグオンを追うか、皆と行くか、二つに一つで例外はない)

 「そんなこと知らないわよ!この子はわたしの妹なの!こんなところに放置なんか絶対にしない!」

 レキは一層頑なに叫んた。オキの身体を必死に抱きしめる。

 わしが何か言う前に、シィーラがぽつりと言った。

 「ナルファはあの場に放置したのにー?」

 何気ない一言だが、重い言葉だ。弓使いの遺体は野ざらしとまではいかないまでも、名もない茂みの中に打ち捨てられたままだ。丁重に弔っている暇はなかった。その差は何なのか、と暗にシィーラは言っている。姉妹と他人との差ではあるが、同じ仲間という属性でもある。レキは何か言いかけて、静かに呑みこんだ。後ろめたさがあるのだろう。

 「生きるために犠牲にしなきゃならないのは、みんな同じでしょー?」

 レキは顔を伏せたまま何も言わない。その様子を見かねたのか、

 「……まぁ、なんていうか……私はお前についてくぜ、シィーラ。やらなきゃやられる状況ってのは確かだろうしな。逃げ回ってるのは性に合わない」

 ロアーナが黙り込んだレキの代わりとばかりに意志を表明する。

 それにジャコブ、アルバ、デデも続いた。最後のデデは、そっとレキの肩を叩いてオキは自分が背負うというジェスチャーを見せて屈んだ。デデの行動を制限することになるので許可できないと言いたいところだが、この状況で妥協案さえ否定するとレキが一層孤立してしまうため、迂闊に拒否できない。

 尚もしばらく躊躇ったレキだが、ゆっくりとデデに「お願い」と妹の身体を預けた。

 デデは任せろとばかりの笑顔を見せ、その背中にオキをおぶった。これでもう今更それを止めろと言えなくなってしまった。本当はそれでも止めさせるべきなのだろうが、せっかくまとまった雰囲気を壊せなかった。ドグオンを見捨てた形になっている上、レキまで離反させると班として機能しなくなってしまう。

 (ならば、今から分身魔法でわしが囮になる。きっと遠距離魔法が飛んでくるゆえ、その方向を見定めたら一気に詰めて走るがよい。大規模魔法扱いならば連続では撃てないという予測だ。分身魔法に関しては、前に見せた共有のようなものだと説明するがよい。写し絵を投影するといった形ならば、なんとか納得できよう)

 方針が決まれば、後は実行するだけだ。時間に余裕はない。

 魔力の消費が激しいので分身魔法は使いたくないが、生身の誰かを囮にするには危険すぎた。

 皆に神経を集中させるよう言い含めて、自分の分身を樹々の間に立たせる。全方向から見える開けた場所が一番確認しやすいが、隠れている身でそんな所に出る者はいない。わざとらしさは排除しなければならなかった。

 「おお、すげえそっくりじゃねえか……まるで本物みたいだな」

 普通に動かしても違和感がないほどの分身だ。ロアーナが驚くのも無理はない。本当はそこから動きを入れてより囮に近い行動を取りたいのだが、静止した状態の写し絵という建前なので下手に動かせない。

 だが、木陰で休んでいるといった雰囲気は出せているので、監視の目がどこかにあれば十分に狙えるはずだ。

 全員が固唾をのんで見守っていると、それほどの間を置かずにその一撃はやってきた。

 魔法の一閃。注意していなければ気が付けない。

 それはあっさりと分身であるシィーラの身体を貫いた。

 やはり遠距離の矢のような直線状の魔法だった。魔力を凝縮させた小さな魔法であれば、より遠くへ威力を減退することなく飛ばせる。推測は間違っていなかった。

 ただし、その魔法の一撃が二つあったことは誤算だった。

 囮の身体を貫いた魔法は二発だったのだ。まさかの事態だが、ここで足踏みするわけにはいかない。

 「嘘だろ!?いま、二方向から来なかったか!?」

 「西からのものを確認したわ!」

 「北……南の反対。魔法、射手、二組?」

 「むにゃー……どっちに行こう?」

 (西方面を追え。着弾がわずかに早かった。距離が近いはずだ)

 「よーし、みんな西で捕まえるよー」

 シィーラが決断を下すと、動揺しながらも一行は続いた。やるべきことは決まっている。二組の大規模魔法というのは想定外ではあるが、連続性がないことは外していないだろう。続けての第二波がないからだ。むしろ、同じ対象に向けてほぼ同時に射出されたことが気になる。

 二組いたとしても、通常ならば時間差で攻撃してくるはずだ。この二組の間で連携が取れていない可能性が高い。実際の射線からしても、違う場所にいることは間違いないので、それぞれが独自に動いていると思われる。ただ、同じ範囲を監視しているのは確かなので、どうにも違和感があるのも確かだ。

 大規模といったが、実質は3、4人で実行しているのではないか。魔力供給役と実質の射手、照準役といったところか。少数精鋭という意味では可能性はあるが、それが二組というのはにわかには信じがたい。一組だけならばありえそうだが、同様の質でもう一編成というのは腑に落ちない。

 シィーラに抱かかえられる本体に戻りつつ、思考を巡らせる。

 ここに至っても、未だに相手が見えない。このような状況での突撃など無謀もいいところだが、その場に留まれなかったのも事実だ。

 戦況は刻一刻と移り変わるものである以上、それに即していい流れを掴むのが定石だ。今は果たしてどちらなのか。

 何かを振っ切ったかのようなオキが静かに言う。

 「固まった魔力を前方に確認したわ。少し北東方面。もしかしたら、まだこっちを狙っているのかも」

 走りながらの魔力探知は正確性が心もとないが座り込んで悠長にやっていられる状況ではないので、怪しいところに賭けるしかない。

 (ジャコブに、猿の気配がないか確認するように指示を)

 森に慣れているジャコブは、この場においては特に重宝する。

 「不明……分からないこと。明快、皆無。気配、微量」

 はっきりとは感じられないが、何かいる可能性はあるといったところか。どちらにせよ、場所が特定できなければ意味はない。

 オキの示した方角に敵がいることを信じて今は走るだけだ。

 森の中を一行は疾走する。

 できるだけ音をたてないようにはしているが、今は速度が重要だ。敵に次の動作の余裕を与える前に叩きたい。叩かねばならない。

 もう次の一手はない。

 攻勢に出る最後の機会だ。

 やがて魔力反応がある場所に近づく。皆に速度を落とさせる。

 (ここからは慎重に忍び寄るぞ、目標を確認し――)

 シィーラに指示を飛ばそうとして、違和感を覚えた。

 目的の魔力が移動していない。

 その意味に今更ながらに気づく。魔力を一気に消費し過ぎて思考力が落ちていた。いや、言い訳に過ぎない。もっと早く気づくべきだった。

 (警戒しろ!これは向こうの囮だ!)

 警告はまたしても遅すぎた。

 頭上から大量の竹槍が降ってきた。罠にかかったのだ。

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