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FairyTame-妖精交換(仮)-  作者: 雲散無常
第五章:偵察任務
41/225

5-5


 いつものように焚火を囲みながら、今後の指針について話し合う。

 (仮説として、魔眼発動中に何らかの要因で魔物をおびき寄せる効果が出ている可能性はある)

 「なにそれ!聞いてないんだけど!?」

 「……騎士団側が、全部の情報明かしてないっちゅう話やな?」

 ドグオンの言葉に、レキが疑問を投げかける。

 「でも、まがりなりにも私たちは作戦を遂行する上で必要な人員でしょ?生死にかかわるようなことを隠すことなんてあるのかしら?魔眼移植とか、一応手間暇かけてるわけだし……」

 「せやな。使い捨ての駒やとしても、わいらの無駄死にを望むはずはない。せやから、不確定な情報っちゅう可能性なんやないか?そないなこともあるっちゅう話で確実やない。そないなもんなら、敢えて話して不安がらせるのも微妙やろって判断や」

 ドグオンの推測には同意できる部分がある。実際、今日は魔物が寄ってきたが、前回はそんなことはなかった。何か条件が違う可能性もあるが、そこを含めて確実性はないということだ。 「だとしたら、次からは魔地域付近は避けた方がいいんじゃないの?」

 「そうすると、今度は向こうの偵察潰しの的になるんじゃねぇのか?」

 ロアーナが竹筒で水を豪快に飲み干しながら、皮肉げに言った。

 「そっちも問題やな。魔力探知合戦で、わいらの方が不利かもあらへんってことが今日判明したわけやろ?なんや、対策せなあかんな」

 「その辺り、具体的にはどういうことなんだ?今までは平気だったわけだろ?」

 皆の視線がシィーラに向けられる。正確にはその頭の上に、だが。少し説明がいるようだ。

 (魔力探知というものは本来言語化できないものなんじゃが、大雑把に理解するためだけに簡単に言うとじゃな――)

 前提情報をまずは共有するため、簡略化して話す。魔力探知とは、小さな魔力の波を飛ばしてその反射から対象が何かを判別するようなものだ。世の中のあらゆるものはマナを含むため、魔力反応というものは単純に言ってすべてに起こり得る。ゆえに、その中から自らの経験と感覚によって取捨選択して、必要な対象を絞り込んでいく作業とも言える。更に噛み砕けば、こういう振る舞いの反応があれば、それは何某というように自分の中での分類をすることだ。

 それらは基本過度に一般化したものなので、個体による例外は常にあり、似たような反応があれば間違いもする。いずれにせよ、重要なのは魔力、マナの動きから推測するということだ。 「よく言われるのは、魔力の浮き沈みが大きい対象があれば、それが人間ってことね。魔法を使う時に一番顕著に現れるから」

 拙いシィーラの代弁にレキが補足する。

 「いまいち分からねぇけど、そこにいるかどうかの気配を読むみたいなもんじゃなくて、動きが激しいやつを見つける、みたいなもんなのか?」

 「それも見方の一つとしては間違ってはないけど、そもそも、そこにいるかどうかの当たりもつけなきゃいけないわけ。あたしがセタスアよ、みたいに自己紹介してくれないから、人だと思ってたら実はただのリスでした、みたいなこともあるし」

 「ええ!?そりゃかなり違うじゃねえか。そんなに区別つかないもんなのか?」

 ナルファはやれやれと言った感じでロアーナに指を突き付ける。

 「あのね、魔力探知ってのはそういう繊細なものなのよ。魔法士なら誰でも簡単にできる、みたいに思わないでくれるかしら?」

 「そうなのか……って、お前は使えないんじゃないのか?なんで、そんな偉そうなんだよ」

 「ふん。あたしは代弁してあげてるだけよ。いつもはうるさいどっかの誰かが大人しいからね」

 その視線の先にはショーラルがいた。確かに今日はやけに静かだった。いつもなら小言を嫌というほど呟いていてもおかしくはない。

 「そういや、あんさん、やけに静かやな。顔色も悪いし、調子悪いんか?」

 「あ?ああ……たいしたことはない。今はかまわないでくれたまえ……」

 本当に気分が悪そうだ。うつむきがちに焚火を遠く見つめている。体調不良かもしれない。本人の望む通り、放っておくのがいいだろう。

 「んで、原理というかどんな感じかは分かったけど、それが今日はどうなったんだ?」

 (おそらく、距離が近づいたことでより強固な敵側の魔力探知の網にかかったのじゃろう。今まではごまかせていた魔力の質の変化に気づいたということかもしれぬ)

 「なる……ほど?つまり……どういうこった?」

 分かっていなさそうなロアーナにレキが説明する。

 「基本、魔力探知に対抗するため私たちは防御結界、というほどではないけれど、薄い魔力の膜みたいなので皆を囲っているわけ。そうしてると、相手の索敵魔力に対してこちら側の本当の魔力を偽装というか、他の何かのように擬態できるから、特定されないようにできるわ。でも、魔力っていうのは当然発動者から近いほど強いわけで、今までそれでごまかせていたものが、精度が上がったことでバレたかもしれない、そうこの人は言ってる」

 「そんな膜を張ってたのか?知らなかったぜ」

 「ちょっと、あんた、魔法士舐め過ぎじゃないの?」

 「いや、なんか前にもそういう隠れた手助けみたいなことしてるってのは聞いてたんだけどな。ほら、目に見えないとすぐ忘れるっていうか――」

 ナルファに詰め寄られてたじたじとなるロアーナを尻目に、ドグオンがやや真剣な面持ちで言う。

 「ほんで、こっから先、その対策として何かでけへんのかい?相手との距離が詰まってごまかしが利かなくなってるいうなら、尚更何か手を打たんと」

 (このような場合に取れる策は二つじゃな。先に見つけて黙らせるか、おびき寄せて罠にかけるか。相手の探知能力が未知数な以上、防御を強めても有効かどうかの判断がつきにくい。今後、魔眼を安心して使うためにも、この厄介な相手は排除しておくのが望ましいじゃろう)

 シィーラはこれを「先にヤル!」と端的に言い表した。間違ってはいないが、まとめすぎだと思わないでもない。

 「ほぅ、こっちから仕掛けるってわけやな?けど、敵さんの居場所分からんへんのとちゃうか?」

 そこに関しては少し考えていることがあったので、おそらく発見はできると踏んでいた。だが、それには魔眼の力が必要だった。できればアルバに助力を頼みたいところだが、暴走しかけたせいか、今もまだ眠っている状態で調子が良好とはいえない。明日には回復しているかもしれないが、連続で使わせることに抵抗があった。

 「……魔眼で何させようってわけ?言っておくけど、動き回ってるような相手を見るのは無理よ?全体図を俯瞰して視るような感じなのに、その中の一点だけを追うとかしんどすぎるからね」

 ナルファが嫌そうに釘を刺してくる。ショーラルは顔も合わせずに拒否の態度だ。弓使いの方を説得するしかなさそうだった。

 (その辺は分かっておる。協力して欲しいのは、その魔眼の一部を共有することじゃ)

 「共有?何を言ってるの?」 

 これを説明するのは非常に困難で、おそらく納得させることはできない。普通の魔法の概念では不可能だからだ。妖精魔法という特殊性によるところが大きい。共有という表現も実はかなり理解しやすい方向に寄せているだけで、実際に行おうとしていることとは違う。

 ゆえに、ここで示さねばならないことは、ただ可能だという既成事実だ。原理は理解されなくてかまわない。

 「えっとね、一応魔法使えるでしょー?簡単なのでいいから何かやってみてー?」

 「なに、バカにしてるの?あたしは本業は射手だけど、魔法だってちゃんと使えるわよ?」

 こちらの意図を誤解したのか、ナルファは不満げにその両手に氷塊を生み出した。両手に同時に発現させる魔法というのは、実は高度なもので誰にでもできることではない。それはとにかく、魔法が発動したのでわしはすぐさまその氷塊を、シィーラの足元に映し出す。

 「え……?」

 急にもう一つ現れた氷塊の存在に、ナルファが絶句する。

 (先ほど言った共有の意味をこう思ってくれればよい。ナルファが魔眼で見る視点の一部を、切り出して表示させる。そういう風にじゃな)

 「共有ってそういう意味なんか……ごっつ凄いやんか。他人の魔法の……ええっ!?それってほぼ干渉魔法やないか!?」

 「そんなの無理なはずよ……仮にできたとしても、本人の同意もなしに?」

 レキも驚きに目を見開いていた。こうなることは分かっていたのであまり披露したくなかったが、緊急事態だ。ある程度こちらの能力を晒してでも、向こうの魔法士を潰さねばならない。悠長に待っている暇はないのだ。

 「ゼーちゃんはできるのだー。というわけで、そっちが魔眼使ってる間に、こっちでその途中のやつを引っ張り出して勝手に探す、みたいな作戦だよー」

 「なんちゅう無茶苦茶な……けど、それなら確かにあっちの魔力探知対策は無効化できそうやな。目視なんて想定しておらんやろうし……」

 「いや、それでもクソ広いこの森の中で、そんなに都合よく見つけられるもんなのか?」

 当然、該当しそうな範囲や方向は魔力探知で絞り込む必要はある。そこもわしの魔力探知なら広範囲に可能なのでどうにかなるだろう。今まで相手の存在をつかめていないのは、一度目の探知で怪しく思っても、次の索敵時には相手側が何らかの対策を講じて悟らせなかったためだ。相手側も魔力探知は警戒しているため、一度でも見知らぬ魔力の揺らぎがあれば、何らかの対応をすぐに打ってくる。その対策が不明なため、こちらは確証を得られないわけだが、魔眼によって姿を捕らえられれば、おおよその活動範囲が分かるという寸法だ。

 「二段構えで捕らえるっちゅうわけか。なるほどな」

 「……何にせよ、やるしかないんでしょ?」

 ナルファは渋々ながらも同意してくれたようだ。やたらとわしを指でつついてくるが、今は我慢する。魔法担当が鳥だと知れば、誰もが疑いたくなる気持ちはわかるつもりだ。

 「敵を先に見つけるってのは分かったけど、魔物の方はどうするんだ?魔眼で寄ってくるとしたら、そっちも何か対策必要なんじゃねぇか?」

 (それは可能性の一つであって、確定事項ではない。原因が不明な以上、魔物に関しては今まで以上に警戒するとしか言えぬな。魔地域からの距離は、今までより少し離そうとは思うが……)

 「そっちはやけに消極的だな?まぁ、原因が分からないんじゃ、しょうがないのか。そんで、肝心の砦の方の情報はどの程度集まったんだ?今日は邪魔が入るまで結構いい感じだったんだろ?」

 「ああ、収穫は多かったはずやで。ざっと見返してたんやけど、割といけてるんちゃうか?おおよその人数と将校の数、補給部隊も見つけたし、なんやわけわからん投石機まで確認できてるわ。後は内訳と将校、指揮官の特徴とかがあれば完璧やで」

 「っていうか、それはもう十分なんじゃねぇのか?」

 「まだや。一番重要なのはやっぱり数やからな。おおよそって曖昧な数じゃあかん。きっちりこれやって言える総数を確認せんと。その上で他の偵察隊の数と突き合わせて、初めて確証が取れるんや。あやふやな情報はかえって混乱を招くだけよってに、慎重にならなあかんのや」

 ドグオンが大体言いたいことは言ってくれた。やらねばならないことはまだ終わっていない。ここが正念場だろう。

 各自に気を引き締めさせ、その夜は就寝することにした。明日は長い一日になることは間違いない。



 翌日は早朝から動いた。

 相手側もおおよそのこちらの範囲は絞っているはずで、ここからはどちらが先に見つけるかにすべてがかかってくる。

 「使いやすい場所って言われても、あたし自身まだよく分かっていないのに……」

 ナルファがぶつぶつ言いながら辺りを見回している。今日の主役と言っても過言ではない重要な役割をしてもらうだけに、好きにさせていた。魔眼を使用するに当たって、本人が一番やりやすい場所を探しているところだ。いいから早く決めろ、と言いたげなロアーナの視線には気づいていたので、黙って待つように言い聞かせる。

 魔法というものは発動者の精神状態が強く影響するものだ。魔眼が、魔法にあたるのかどうかは議論の余地があるが、心情が反映されることは確実だろう。

 ちなみにアルバは今朝目覚めており、最悪の場合にはまた頑張ってもらうことも考慮している。体調はそれほど悪くはなさそうだった。逆に、ショーラルは昨日に引き続き顔色が悪い。機嫌も悪いようなので、こちらは放置気味にしている。魔眼持ちの優先度としてはもともと低いので、あまり支障はないだろう。

 それからしばらくして、ナルファはやや小高い丘状の場所を選んだ。早速魔眼を使ってもらう。予め、魔力探知で可能性の高い方角は定めてあった。今回は砦という大目標がないため、一定の射線上をゆっくりと眺めてもらう感覚になる。

 その視覚情報を魔法で共有して、暗幕に映し出すのがわしの役割だ。我ながら無茶なやり方だが、今は四の五の言っている場合ではない。また、映像として映し出しているつもりでも、その見え方は人によって違う。魔眼による視覚情報が特殊なためだ。それらは特に魔力に関係するため、魔法に長けているものがそこから情報を読み取り、残った者で周囲を警戒するという体制だ。

 手筈の方は昨夜の時点で説明し終えているので、索敵はすぐに開始された。ぶっつけ本番で内心うまくいくかどうか怪しいところもあったのだが、読み出そうとしている者から文句が出てこなかったので、各々で探すことはできそうだ。見つけられるかどうかはまた別問題ではあるが。 

 今の所、ナルファの魔眼も安定して発動している。長引けば長引くほど危険は増すので、ここからは時間の勝負でもある。皆は集中して、無言で作業を続けていた。

 じりじりと時間だけが過ぎる。

 誰からも報告はない。

 そもそもの方角が違ったのではないか、そんな懸念がにじり寄ってくる頃、オキが「あっ」と声を上げた。

 「見つけたのか!?」

 短気なロアーナがやっと来たかとばかりに聞く。

 「いえ、そうではないのだけれど……奇妙なものがあった気がして……」

 早速、オキの言う辺りを取り出して拡大してみる。すると、樹々の間に見慣れぬ人工物があった。

 「これは……案山子?」

 「かかし?こないな森の中にそんなもん必要あらへんやろ?」

 「だから気になったんでしょ?それに、この案山子、頭の所に魔石が嵌まってない?」

 レキの指摘でその部分を注視してみると、確かに魔石らしきものが見えた。そして、その反射が指向性を持っていると気付いたとき、すべてを悟った。

 (いかん!逆探知されておる!周囲を警戒せよ、魔眼は一旦中止じゃ!)

 シィーラがすぐさま警戒を呼び掛けると、戸惑いながらも皆が即応した。わし自身も周囲への魔力探知を実行する。すると、強い魔力を持った何かがこちらへと向かってくるのが分かった。

 レキたちも同様に感知したようだ。

 「魔物っぽいのが北東から近づいてきてるわ!」

 「え、北東?東からも来てる。どういうこと?」

 同じ方向ではあるが、確実に違う集団だ。何にせよ、目標はここだということだ。一体何が誘因しているのか。

 「よう分からんけど、とりあえず移動せなあかんてことやな?どこへ向かう?」

 「北と東から来てるなら、西か南じゃないのか?」

 定石ならばそうだが、何かが引っかかった。ふと気になって、聴覚を鳥というか妖精のそれに切り替える。

 途端に何か不快な騒音のようなものが聞こえてきた。その音の先を辿る。

 (ジャコブにあの辺りの樹の上を探ってもらえ。不審な何かがいるやもしれぬ!)

 警戒していたジャコブはすぐさま駆け出した。その長い腕を遺憾なく発揮してするすると木登りをする様は、ある種の猿のように見えた。

 何事かと皆が見守る中、ジャコブが早々に帰ってくる。いつも無表情なジャコブだが、やや戸惑った様子なのはその腕の中に本当の猿がいるからだろう。

 「捕獲……捕まえること。奇妙、騒音。笛、違和感」

 さすがジャコブだった。一見何の変哲もないその猿の口には、明らかに自然物ではない笛がくわえられていた。頭の中で一つの線がつながる。

 (その猿が吹いているのは招魔しょうまの笛だ。魔物が誘導されている理由じゃな) 

 先制をしかけたつもりだったが、ここに来て罠にかかったことを確信した瞬間だった。

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