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FairyTame-妖精交換(仮)-  作者: 雲散無常
第五章:偵察任務
38/225

5-2


 魔眼というものに対して懐疑的だったのは事実だ。

 稀に不思議な特性を持って生まれる人間がいる可能性はあるとは思うが、ならば魔腕や魔脚持ちがいてしかるべきだと思うのだが、その手の話は聞いたことがない。なぜ、魔眼持ちだけが存在するのか。正直、眉唾だと思っていた。

 しかし、実際にその力を目の前にしてその考えはあっさりと覆った。

 ロハンザ騎士団が禁忌を侵してでも欲しがる価値はあると納得できてしまう。

 偵察任務の二日目。

 一人用の防御結界を敷いて、その中で魔眼の能力を開放する試みを始めた。

 丁度良く原地域ではなく魔地域に差し掛かる場所があったので、それを利用することにした。事前に魔力探知である程度の魔物を発見した状態で、それを魔眼持ちの四人にだけは知らせず、何が見えるか確認してもらうという形式を取った。

 結果、四人がそれぞれに納得のいく情報をもたらしたのだ。

 「……本当に見えるんやな。こら、騎士団が汚い手を使ってでも増やそうとしてるんも納得やわ……」

 ドグオンが呆れ半分に賞賛する。

 「ふん、簡単に言わないでくれたまえ。その反動で僕らは……うぷっ、少し失礼する……」

 ショーラルがふらふらと林の中に消えてゆく。おそらく吐いているのだろう。今回の試験で唯一暴走しかけたのが、あの貴族男だった。そのおかげで新たに分かったこともある。魔眼が能力を発しているときは、灰色の瞳が紅くなる。まるで魔物のそれのようだった。魔眼という名は案外そこから来ているのかもしれない。

 そして暴走しかけるとその瞳が赤黒く濁る。血涙が溢れるといよいよ危険という話だが、その手前で今回は抑えつけた。理性が飛ぶという表現はあながち的外れでもなく、あのショーラルの言動がおかしくなるのを目の当たりにして、何も誇張はなかったと理解した。

 止め方は物理的に気絶させるという荒療治だ。魔力をぶつけて相殺しようと試みたが、波長をとらえきれずに断念した。防御結界の方は多少効果があったが、どの程度まで耐えられるのかは未知数で、気休めと言われても反論はできない。精神的な余裕を若干生じさせる意味では、それでもありではあるが、毎回用意できるわけでもない。

 魔眼の有用性に関しては確認できたものの、安定した運用方法についてはまだ模索中といったところだ。時間をかけて安全に行いたいのは山々でも、実戦任務中にそれは叶わない。手探りでしかし足早に、無茶をしながら進むしかないことが良く分かった。

 (少し休憩した後、今日の拠点候補まで歩くよう皆に伝えるがよい。途中、先程見た魔地域を抜けるゆえ、魔獣を倒す必要もある)

 「ほほーい」

 シィーラが相変わらず緊張感のない声で返事をする。魔族以外では動揺することはないらしい。

 「……偵察隊ってのが魔眼持ち一人に対して四人くらいつく理由、分かった気がするぜ。暴走を止めるためなんだな?」

 ロアーナがやれやれとばかりに小声で呟いた。そのための要員であることは確かだが、それだけでもない。道中、これから相対する魔物対策でもあるのだ。魔眼持ちは視るために著しく魔力を消費する。本人がどれだけ強くとも、他の戦闘や行動で余計な魔力を使わせないためだ。偵察部隊である以上、主要な役割の者を守るのは当然ではあるが。

 四人と言っているのは、基本的にロハンザ騎士団の正規偵察部隊は5人一組という話だからだ。その点、今回魔眼持ち四人に対して、他の役職はまったく足りていない。おそらく、騎士団側は訓練生の魔眼持ちを使い捨ての駒として換算しているのだろう。まともに使えるようになるのはせいぜいが一人だという計算だ。

 皆、そのことには気づいているだろうが口にはしていない。その反骨心がバラバラの集団をまとめている一因でもある。

 「そら、洒落にならんで、ほんまに。毎回、あんな暴れられたらたまらんわ。あんなヒョロ長貴族でも、デデを吹っ飛ばしたんやで?そこの皮肉屋の兄ちゃんやったら、無傷で済む自信ないわ」

 魔力の暴走と一口に言っても色々な形がある。一般的には発動しようとしている魔法が精製途中で失敗し、行き場を失った魔力が周囲に四散して破壊的な影響をもたらす、といったようなところだろうか。魔眼の暴走の場合、眼球から魔力が逆流して持ち主の身体に悪影響を与え、精神的・身体的制御不可能な状態になるようだ。その結果として、魔力で肉体的強化が施される上、でたらめに攻撃魔法を撃ったり、強化された肉体で周囲を攻撃したりする。

 理性を失っているので、おそらくはその溢れ出る魔力を本能的に発散するための代替行為だと推測された。無意識下の防衛機能も低下しているため、本人の身体も内部的に破壊しかねない危険な状態だ。逆に言えば、放置すれば自ずと自壊するということでもある。敵地の真っただ中でなければその選択肢もあるだろうが、偵察任務中にそんな騒音のもとを野放しにはできない。ゆえにこそ、暴走したら殺せ、という非情な処置が奨励されているわけだ。

 「俺が正気を失ったときは覚悟しておいた方がいいな……斬りまくる自信があるぜ」

 ゼクスは魔法剣の使い手だ。取り押さえるのは容易ではないだろう。

 「そんな自信持たんでもろて!?」

 先程のショーラルの鎮圧は比較的うまくいったが、それでも抑えつけるのにデデやロアーナ、ジャコブといった肉体派が総出で対応した経緯がある。剣技に優れたものが相手では、手加減している余裕はない。

 「それでも、思ったよりいけそうではあったわよね……」

 ナルファの声が若干明るいのは、楽観的な希望を見出したせいかもしれない。想定していたよりこちらの実力が高かったのだろう。

 だが、わしは逆に不安を覚えていた。

 初動の初動、言わば初期における軽い症状の暴走であれだったのだ。少しでも対応が遅れると、それだけまずい状況になるということだ。問答無用で意識を刈り取るような方法があればいいのだが、対象が拘束されて動かないのならまだしも、こちらの言葉に耳も傾けられないような興奮状態では不可能に近い。結局、強引にねじ伏せるしかないわけで、そうなると無傷というのは夢のまた夢だ。

 何か策を講じなければと思いつつも、ここに留まっているわけにもいかなかった。任務の期限は迫っている。

 (とりあえず、ショーラルが戻ったら先に進むぞ。次に魔眼を使う場合は、体調が良好な者の自己申告制としよう。おそらく、精神状態もかなり影響するようじゃからな) 

 こちらの評価ではアルバ、ナルファ、ゼクスの順になるが一回だけでは判断できない。最悪の場合を想定しなければならない立場なので、慎重であるべきだった。

 エオルの言葉が思い返される。

 「暴走して手に負えないと判断した時は、容赦なくすぐに殺せ。被害を最小限に抑えることが班長の務めだ。半端な対応をする者ほど早死にするぞ?」

 その判断はわしに委ねられていることになる。シィーラに任せるとおそらくはあっさりと殺す決断をして危ういだろう。微妙なさじ加減など考慮できそうになかった。

 


 二日目も何事もなく終わった。

 魔地域で魔眼の情報確認を終えた後、問題の砦へと着実に歩を進めた。

 いよいよ明日から本格的に砦を偵察することになる。魔眼で視る際にはそれぞれに視やすい場所があるらしく、そうした位置取りを模索しながらになりそうだ。当然、敵側の偵察潰しも本格的になる。より警戒しつつ進む必要があった。

 「そういえば、あんたって例の魔剣使いよね?普段持ってないけど、魔剣ってゼクスの魔法剣みたいに魔力で作るもんなの?」

 夜。いつものように微妙な距離感で焚火を囲んで食事を取っているとき、ナルファがそんなことを聞いてきた。

 「違うよー。いつもはゼーちゃんが隠してるだけー」

 「隠してる?隠蔽系の魔法でってこと?常時そんな魔法かけてるとか、魔力消費どうなってるのよ?」

 「その人の魔力貯蓄量、あまりにも常識外だから考えるだけ無駄よ。というか、普通の人間は魔剣持てないわけだし、その時点で基準がもう狂ってるわ」

 レキが投げやりに補足する。魔剣について彼女から何か言われた記憶はなかったが、思うところはあったようだ。

 「ああ、魔剣はマジでヤバいぜ。あっという間に魔力を吸い取られる。こいつはちょっとおかしいんだ」

 ロアーナは経験したことがあるので、実感がこもっていた。言い方は気になるところではあるが。

 「魔剣か。本物なら一回やり合ってみたいもんだな。けど、もしかして俺の魔法剣も吸い取られる感じなのか?」

 (いや、魔法剣の場合、魔力が固定化した状態になるゆえ、触れあったとしても問題はないじゃろう。ただし、その固定化が脆弱だと揺らいだ際に維持できなくなって消滅することはあり得る)

 「ああ。衝突して乱される的なことか……面白い、やっぱ試してみてぇな」

 「止めたまえよ。そんなことで無駄に魔力を消費すべきではない。魔眼の安定化に全力を注ぐべきだ」

 「はん、一番もろいお前に言われたかねぇな」

 「何だと!?平民風情が僕を侮辱するとはおこがましいにも程がある!」

 ゼクスとショーラルが言い争いを始める。足並みをそろえて和やかに、という雰囲気にはなれそうにない。侃々諤々とやりあっているのを横目に、他の者は我関せずとばかりに別の話題に移る。

 「それより、相手側の情報とかなんかないんか?わいら、魔眼の暴走ばかり気にしてるわけやけど、ここはもう戦地やで?敵さんの方を気にすべきなんちゃうか?」

 「つっても、その偵察任務を私たちがしてるわけだろ?自分たちでつかめって話じゃないのか?」

 「ちゃうちゃう。せやのうて、敵さんの偵察部隊のことや。たとえば、帝国には偵察返しとか呼ばれとるごっつい剣士がおるとか、そういうやつや」

 「ああ、アルゼーレ帝国の部隊ね?湿布剣の使い手とか、聞いたことがあるわ」

 「湿布て!!そんな剣あるかいな!そら、疾風やで、ナルファの姉ちゃん」

 「要するに、そういう二つ名があるような敵がいるかどうかってことか?けど、そもそも相手の国がどこかも分かってないのに無理じゃねぇか?」

 確かに敵国の名すら知らされていないのが現状だ。通常であれば在り得ないが、使い捨て前提の訓練生だからだろう。万が一捕まっても、何も知らされていなければ伝わる情報は少なくなる。相手側も、こちらをそういう下っ端扱いするだろうという目算だ。当事者としてはたまったものではないが、管理側からすれば合理的かもしれない。

 「わいら以外にも、偵察任務をしている部隊がいくつかあるはずや。そっちと連携して何か有益な情報とか共有した方がええんとちゃうか?」

 「無理でしょ。あたしらなんて戦力に数えられてないわよ、きっと。何かあっても教えてくれるとは思えないわ」

 「おうふ……世知辛いもんやな……」

 そんな会話をしていると、不意にゼクスが小走りに森の中に走って行った。

 「なんや、小便か?」

 先程まで言い合っていたショーラルに皆の視線が行くが「僕に聞かないでくれたまえ」と知らないようだ。

 その後もちらほらと会話を続けたが、現状を変えるほどの何かはなかった。敵と遭遇していない以上その正体の手掛かりもなく、それぞれの身の上話をするほどの仲でもなく、そのような状況でもない。話題が盛り上がるはずもなかった。それでもドグオンが皆の出身地などを聞いて共通の何かを探ろうと頑張っていたが、明るい過去を持つ者が一人もいないというような雰囲気になり、更に気まずくなっただけで場は好転しなかった。

 そうして、そろそろ眠りに就こうかという頃。

 「警戒……用心すること。空気、異変。匂い、奇妙」

 それまでほとんどしゃべらなかったジャコブが声を発した。

 同時に気づく。異常な魔力が近づいていた。まさか敵かと身構えた瞬間。

 「あー、酒が飲みてぇな……誰か果実酒とか作れないか?あれって森のなんかで作れるんだろ?」

 ゼクスが森の木陰から不意に出てきた。いつものようにぶっきらぼうな様子で、特に変わった点はない。酒が欲しいと軽口を叩いているだけ、のように見えた。

 が、その瞳が紅かった。既に薄暗い背景だけにやけに目立つ。一方で普通にしゃべっている。理性があるということだ。

 「あん?何だよ、一斉にこっちを見やがって。酒が欲しいってのはそんなにダメなんかよ?」

 「そうやない……兄ちゃん、自分で気づいてないんか?」

 「はぁ?何がだよ?」

 ドグオンがこちらに視線を投げる。どうするのかと判断を仰いできていた。多少は信頼を勝ち得ているようだ。

 いずれにせよ状況が不明だった。魔眼が暴走しているわけではないようだが、ゼクスの魔力には尋常ではない変化がある。ジャコブが忠告したほどだ。それは気のせいではないだろう。魔眼を使った様子はないが、確実にその瞳は紅い。ナルファが言っていたように、暴走前の鮮やかな紅色だ。

 と、何か違和感を覚え、はっと気づいた。紅くなっているのが右目だった。

 (皆にゼクスから離れるよう指示を出せ!)

 シィーラに伝えながら、防御結界を用意する。

 「あん?おい、急に何だよ!?」

 飛び退るように一同が距離を置く。この辺りの反応速度はさすがに戦闘稼業を目指しているだけあって、素早い。

 (ゼクスにその場を動かないように言うがよい。理性がある内は大丈夫だと判断するが、こちらの命令を無視した場合、実力行使に出る)

 「はぁ?何言ってやがる?俺はまともだぜ?魔眼なんか――あれ……なんか、視界が……」

 「んー、なんかねー。魔眼じゃない方が紅くなってるから、危険かもーって。とりあえず、その場から動かないでー?」

 シィーラの言葉で、他の皆も気づいたようだ。

 「そういや、あんさん、右目がおかしゅうなっとるな……何でや?魔眼は左目だったはずや。まさか、両目に感染するんか?」

 ドグオンの疑問はこちらも考えたことだ。ここまでの情報で、両目とも魔眼になるなどという話は聞いていない。だが、聞いていないからといってあり得ない、ということでもない。騎士団側がすべての情報を提供しているとも考えにくい。

 どう対応すべきか、試案を重ねる。少なくとも、それが危険な状態であるならば事前に聞かされていたはずだ。つまり、予想外の特殊な事態だと考えるのが妥当か。現時点では暴走状態ではないと判断できるが、この後どうなるかは分からない。

 じっくり様子見したい気持ちはあれど、その間にも暴走が内部的に進行している可能性もある。手遅れになるのだけは避けなければならない。

 ゼクス本人はたった今、自分自身の異常に気付いたようだ。それが吉と出るか否か。緊張した空気の中、誰かがごくりとつばを飲み込む音が響く。

 「――なるほど。俺が変な感じになってるのは理解したぜ。けど、別に魔力が暴走してるとかそういうことじゃねぇ。ちゃんと意識ははっきりしてる。だいたい、魔眼なんか使ってないしな」

 思っているより冷静だ。状況も把握できている。では、なぜ瞳が紅くなったのか。何かきっかけがあるはずだった。問いかける。

 「知らねぇよ。あのバカがやたら絡んできて……殴り倒しそうになったから自重してその場を離れただけだ」

 意外にも大人な対応だった。受け答えもしっかりしている。大丈夫そうだと判断したいところだが、魔力反応が異常だった。増大し続けている。まるで、溢れ出るそれを止められないかのように。シィーラに確認させる。

 「えっと、慎重に答えてねー。本当に、ちゃんと抑えられるかどうか、だって。いま物凄い勢いで魔力垂れ流してるんだけど、制御できてるー?」

 いつもの軽い口調だが、シィーラには魔剣を構えさせている。ゼクスの魔力は危険域に到達しそうだ。急激な魔力の増大で限界を超えたとき、それは魔眼の暴走と同義だ。いや、おそらくは魔眼によって魔力の膨張現象に近いものが起きていると推察される。人が体内で保有できる魔力は有限であり、通常はそのために魔法や別の形で魔力を放出するようになっている。

 だが、その保護機能が異常をきたすことが、魔力の暴走というべき現象に言い換えられる。ゼクスはその一歩手前の状態に見える。その身に余る魔力が制御不能になり、所かまわずまき散らされる事態は避けねばならない。

 その魔力の暴発は身近にいる者に対して危険であると同時に、瞬間的な魔力増大によって敵方の関心を引く可能性がある。あるいは、魔物をおびき寄せる要因にもなり得る。不利益しかなかった。

 果たして、ゼクスの答えは――。

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