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FairyTame-妖精交換(仮)-  作者: 雲散無常
第五章:偵察任務
37/225

5-1


 最初に脳裏を過ぎった思いは一つ。

 荷が重すぎる、だった。

 またもや見知らぬ森の中に放り込まれ、偵察試験班班長などという役職を与えられた。率いる面子は先の偵察時の六人に加え、新たに四人。総勢十名の小隊だ。

 実戦投入にはあまりにも早すぎて無謀だ。本隊の応援は見込めず、完全に孤立無援状況での任務活動な上、肝心要の役目である班員たちが初戦という呆れるほどの無茶振りだった。死にに行けと言っているようなものだが、騎士団側は当然そのつもりでの投入だった。

 「死ぬ気でやれ、何としてでも生き抜いて報告しろ」要約すれば、それが命令のすべてだった。

 ようやく名前を名乗った担当官、エオル=グランパーズの有難い言葉だ。具体的な方策はほぼなし、実地訓練という名のぶっつけ本番の偵察任務だ。

 前回と同じ偵察ではあるが、より本格的な情報収集だ。何しろ、対象が戦時相手の砦だ。敵の総数と構成内容、各隊長たちの特徴、兵站、主に輸送部隊などの規模など多岐に渡る。完全に戦争状態の敵であるため、相手側も斥候を放って警戒している中での偵察だ。本来なら、素人同然の訓練生如きが出る幕ではない。

 そのための予行練習が、先日の森の民の偵察だとエオルは嘯いていたが、絶対に後付けだろう。

 しかし、何を言っても命令は覆らない。やるしかない以上、成功率を上げるしかない。いや、生存率と言った方がいいだろうか。戦争において情報は生命線だ。相手の総数が分かれば、情勢を正しく判断でき、騎馬兵がその内どれだけいるか、槍兵、魔法兵などその比率を知っているかどうかで、戦局をより勝利に導けるかが決まる。

 当然、お互いにそうした情報の探り合いになるため、偵察部隊というのは優先度の高い排除の対象だ。

 ましてや砦の周辺警戒たるや、哨戒任務に心血を注いでる者が多数の中をかい潜っての情報収集となる。経験豊富な手練れでも厳しいところを、新米にも満たない訓練生では話にならない。それでも派遣するのは一応の勝算があるからだ。

 それが、魔眼という奥の手だった。

 騎士団側から初めて明かされたその秘密は、今回の強化遠征の真の目的であり、その適性試験というのが実情だったのだ。

 「……それで、これからどないするねん?」

 ドグオンが後ろをちらちらと見ながら、ため息まじりに声を上げる。

 「とりあえず、あいつらがどの程度できるのか試さなきゃならねぇんじゃないか?」

 「でも、試運転ですら暴走する可能性があるって話よね……いざとなったら、殺してでも止めるしかないとか、軽く試すような真似していいのかしら?」

 「いいんじゃなーい?どっちにしろ、使うしかないんだしー」

 燃えるような赤毛のロアーナにウェーデー姉妹の姉レキが疑問を挟むと、能天気なシィーラがあっさりと確信をつく。身も蓋もない言い方だった。決して間違ってはいないのだが。

 「ちょっと!!他人事だと思って、てきとー言わないでくれる?こっちは命かかってんだから」

 不満を投げてきたのはナルファだ。紺色の髪の弓使いで、女だてらに勝気な性格が伺える。

 「まったくだ。だいたい、僕らが任務の肝要な役目を担っているというのに、なぜ訳の分からない君のような粗忽者の下につかねばならないのかね?上流貴族たるこの僕、ショーラル=ヒ-ベン=ローポリアが班長にふさわしいと思わないか、なぁ、君たち!」

 大仰な仕草で賛同を募るが、誰一人従う者はいなかった。見るからに貴族然としたその男は、魔法士のショーラルで、言動からすぐに分かる貴族至上主義の塊だった。あからさまに周囲から煙たがられているのだが、本人はどこ吹く風でいつもこの調子である。その胆力だけは褒めるべきかもしれない。

 「んなことより、俺たち自身、結局は使ってみなきゃどうにもならねぇだろ?ぐだぐだ言ってねぇでさっさとやってみようぜ。誰もやらねぇなら、俺から行くしよ」

 (待て、今は止めるがよい。試すにしても、こちらも準備した状態であることが望ましい。場所にも注意が必要じゃ。下手に騒いで敵が近辺にいた場合、目も当てられぬ)

 シィーラを通じてゼクスを止める。彼は魔法剣の使い手で、口の左側の火傷跡が特徴的な男だ。

 「んだよ、面倒くせえな」

 命がけの行為を面倒臭いと言い切るのは如何なものか。豪胆と言えば聞こえはいいが、単に何も考えていないだけの単細胞に思えるので、この男の扱いも非常に厄介だ。

 「と、とりあえず、拠点を作るんですよね?」

 その場を取りなすように言ったのは、加わった最後の四人目、アルバだ。

 驚くべきことに、訓練所で知り合ったあのペンターズの幼馴染、魔法士適性は高いのに魔法を扱うのが苦手な娘のアルバがこの強化遠征に参加していた。考えてみれば、魔法を使えずに退所寸前だったという話でもあったので、その交換条件で強制参加させられる可能性は多分にあった。そこまでして騎士団に入りたかったのか、その決意の高さは予想外だったので後で確認したいところだ。

 とにかくこの四人こそが魔眼持ち、いや、魔眼を強制的に埋め込まれた今回の偵察の要だった。

 「……せやな。何するにも、まずは安全地帯の拠点確保やな。こないな森の真っただ中であーだーこーだ言っててもしゃあないわ」

 どこかギスギスした雰囲気のまま、一行は拠点に向いた場所を探して歩を進めた。



 夕刻。暗闇が迫る森の中。

 初日の拠点候補を見つけた。川辺の近くで一方は断崖で壁になっており、四方に晒されていない場所だ。

 まだ敵側の砦からは遠いため、相手の偵察班はいないと思われるが、用心に越したことはない。交戦中の最前線に位置する戦域である以上、油断はそのまま命取りになる。

 先日の森とは違ってこの森には厄介な魔力の場はないようで、こちらの魔力探知はかなり有効だと思われた。近くに怪しい反応がないことは確認済みだ。途中で狩った鹿肉を焼きながら、改めて今後の方針を話し合う。

 (まずはやはり、魔眼についての情報のすり合わせを行うべきじゃな。一応の概要は説明を受けたが、実際に使う者の意見と感覚を共有しておきたい。その危険性も含めて、じゃがな) 焚火を囲みながら、そう切り出した。

 「すり合わせ、ね。いったい、これについて何を吹き込まれたの?」

 ナルファが紺色の前髪をさっと払って、左目を露にする。灰色の瞳が鈍色に光っていた。対する右目は本来の色らしい茶色だ。魔眼は例外なく灰色の虹彩だと聞いている。

 (主に三点じゃな。一つ、魔眼は肉眼の何百倍の視力を確保できる。一つ、制御次第で熱量を元に物質を透視できる。一つ、視野を前方180度まで広げることができる) 

 「それはまた随分と理想の完成系を騙られたものだね。言っておくが、今のは完全に管理、制御できた理論上の話だ。そこまで使いこなせている者は、実に5%にも満たないということを覚えていて欲しいものだよ」

 鼻を鳴らしたのはショーラルだ。同様に不満げなゼクスが続ける。

 「おまけに、制御に失敗して魔力が暴走すると、血涙を流しながら狂っていくんだよと、笑えるだろ?」

 (魔眼に魔力が必要で、その制御ができなくなると理性を失うという話は聞いたが、具体的にどういうことじゃ?最悪、失明するくらいだと思ったのじゃが)

 「詳しくはあたしらだって分からないわよ。ただ、眼球って神経が脳とつながってるとかで、魔力が暴走するとそのまま頭の中までぐちゃぐちゃになるって話だったわ。そうなったら、まともに考えることもできなくなって、狂人になって手あたり次第攻撃しまくる、とかそういう説明だったわ……実際、一人そうなる寸前のも見たしね……正直、あんな風になるくらいなら、死んだ方がマシよ」

 元々、彼らは五人だったという。こちらが森の民の偵察任務に就いていた時期、魔眼適性のある五人はその移植をしていたらしい。そして、最初の試運転で一人が制御に失敗、魔力暴走により発狂したので、すぐさま殺されたという経緯は聞かされている。

 「失敗したときは心配しなさんな。あんじょう逝けるよう始末してやるさかい」

 「君たちのような下賤の身の者の手にかかるのは、御免こうむりたいものだよ」

 「わいらだって、何も好き好んでやるんやあらへんで。自分から戦力削ってどないせいっちゅう話や」

 不毛な言い争いになりそうなので方向を変える。

 (その暴走を止める手段というのは、本当に殺すしかないのか?魔力が関係しているのなら、外から別の魔力で抑えつけるとか、結界を張るとか何か方法がありそうなものじゃが?)

 「あるにはある、って言ってたけど、戦地で呑気にやってる暇なんかないって言い分だったわね。手練れの魔眼使いになら、そういう特別な処置を施す価値があっても、あたしらみたいな新兵にその価値があるわけないって。まぁ、半分駄目元の扱いなのは分かってるし、自分の価値は生き抜いて証明するしかないわ」

 ナルファは既に割り切っているところがあるようだ。覚悟が決まっているということかもしれない。

 「ふん、君は魔法を分かっているのかね?魔力というものは繊細なのだよ。外部から干渉するなどという行為は、正しく相手の魔力に合わせて共鳴または相殺するための波をつかみ取る必要がある。精密な防御結界魔法陣の中でならまだしも、とっさに対応するには熟練の技術と稀な感覚がなければ到底無理だ」

 (つまり、その防御結界内で試してみれば、より安全ということであろう?やらない手はない)

 「僕の話を聞いていたのかね?そんな簡単に防御結界を構築できるはずがない。自分一人分の防御壁とはわけが違うのだよ。基本的に結界というのは、大規模魔法に分類され、複数の魔法士で作るものなのだよ」

 そんな基礎は分かっている。このショーラルという男は、たいした魔法士ではなさそうだ。いや、魔眼適性があるのだからそうでもないのだろうか。単に、貴族特有の優越感で目が曇っているだけなのかもしれない。

 「そんで、お前たちは少なくとも魔眼を入れて一度は成功したんだろ?実際、どう見えるんだ?えらく遠くまで見通せるって話だけど、どんな感じなんだ?」

 ロアーナは話の流れを無視して前向きな面を尋ねる。失敗した場合の暗い想定だけでは沈みがちな会話を、意図的なのかたまたまなのか、うまく変えてくれた。

 「どんな感じって言われてもね……正直、気持ち悪いわよ。焦点が合わないっていうか、距離感がなかなか掴めないまま、頭がくらくらしたわ」

 「そうだな。凡人の君たちには一生分かるまいが、視野というか、どこまで見るかという調整もしなければならない。とにかく膨大な情報量があるので、その処理で眩暈を起こすのだよ。信じられないほど繊細な制御が求められるのだが……」

 ショーラルの声が急に尻すぼみになる。

 「ふん、その調整ってやつをうまく続けられる自信がねぇんだろ?長時間見ようとすると、魔力が暴走しそうになって怖くなるってところか?」

 「なな、何を言うか!僕は単に繊細な手腕が必要になると言いたいだけで――」

 「あー、分かった、分かったから言い争いはやめえや。要するに、慣れるために使おう思うても、他の心配事でうまく集中でけへんいうことやろ?まぁ、気持ちは分からんでもないけどな、腹くくらんといかんちゃうんか?その目ん玉入れた時点で、もう後戻りはできんやろ?」

 魔眼とは本来、先天的なものだ。極稀に生まれつき、特殊な力を持った眼をした者がいる。その能力は様々で、対象を見るだけで魅了や石化、精神的なものから物理的な状態操作など強力な効果を及ぼす。危険性を伴うため、魔眼持ちは基本的に魔法教会が管理下に置くことが大陸の習わしになっている。

 だが、実際には御伽噺のようなもので、ここ百年で実在した記録は公にはなかった。ただし、非公式には魔法教会内に未来視ができる魔眼の持ち主がいるという噂は兼ねてからある。

 そんな希少な魔眼をなぜ、この四人が持っているのか。

 そこに先の相貌の実が関係してくる。驚くべきことに、騎士団は魔眼を複製していたのだ。元となった魔眼をどこから手に入れたのか、それを移植する術をどう身につけたのかは不明だが、実際にアルバたちに施術されている以上可能になっていると考えるべきだ。

 ただし、その移植は完璧なものとは言い難い。事前に適正を調べてはいるものの、移植後に拒否反応が出たり、埋め込んだ後もうまく扱えなければ暴走したりと、かなり危険な代物だ。魔法教会が慎重に扱う前提のものだと思えば、当然と言えば当然ではあるし、国によっては違法となるだろう。前例を聞いたことがないので、魔法教会がどう裁くかは不明ではあるが、ロハンザ騎士団側は絶対に公にはしないだろう。

 ここまで秘密裏に事を運んでいたことも、それらを鑑みると納得が行く。そんな危うい魔眼持ちにさせられた四人は――おそらくは現段階の者すべてに言えるのだろうが――実験体と言っても過言ではない。既に実戦投入に耐えうる成功例があるとのことだが、果たして全体の何パーセントが無事なのか、厳しい数字が出てくるのは間違いない。

 色々と思うところはあるが、今は不安定な魔眼を使って任務をこなすしか道はなかった。

 (明日、防御結界を敷いた上で試してもらう。どの程度の時間を継続できるのか、どれくらい遠くまで見えるのか、最低限知っておくべきことがある。任務の期限もあるゆえ、ゆっくりとお主らの覚悟を待っている暇もない。すまぬが、そのつもりでいて欲しい)

 「……あんたに言われなくても、やるしかないことは分かってるわよ」

 「けっ、せいぜい頑張って見張っててくれや。お前らに止められるとは思えねーけどな」

 ナルファとゼクスが捨てセリフを残してその場を去ってゆく。もう休むのだろう。会話を勝手に切り上げられた形になるが、これ以上無理に引き留めても溝は深まるばかりだと判断してそのまま行かせる。

 「非協力的な奴らだな、こっちが手助けしてやるって言うのに……」

 「君はさっきから何様目線で言ってるのかね?僕らは君には想像もできないほどの重圧と戦っているのだよ、勝手なことを言わないでくれたまえ。だいたい、赤毛なぞ不吉でたまらない。協力したいというのなら、せいぜい近づかないで欲しいものだよ」

 ショーラルはロアーナに向けて鼻を鳴らすと、寝床へと足を向けた。あの男の地域では赤毛は毛嫌いされる対象のようだ。大陸では珍しくもないが、そう言えば残った者の間絵は話題に上ったことがなかった。それ以上に色々と個性派揃いだったせいもあるかもしれないが。

 その夜はそのまま、各自で就寝する運びとなった。それぞれに不安を残したままで決していい終わり方ではなかったが、一朝一夕でどうにかなるものでもない。流れに任せた方が良いこともある。

 一方で、確認しておかねばならないこともあった。

 その夜。皆が思い思いの場所で眠りにつく頃。

 アルバを呼び出して、近くの川辺で話をすることにした。

 (それで……なぜ、こんな強化遠征になど参加した?得体の知れぬ魔眼すら入れて……ペンターズは知っているのか?)

 「ペンタ君には……知らせてません。騎士団に入るためには、もうこれしかなかったのです」

 (なにゆえそこまでして騎士団にこだわる?魔眼まで入れてしまった今、詮無きことかもしれぬが、お主はまがりなりにも貴族であろう?他に道もあったはずじゃ)

 アルバはその質問にしばらく無言を貫いていたが、やがてあきらめたようにぽつりぽつりと語り出した。

 彼女の正式名はアルバ=ベベット=ロスライで、昔はそれなりの名家だったが今では完全に斜陽貴族とのことだ。ロスライ家はトンドルマ家に代々仕えてきた従者の家系で、現在の主というか、アルバの対象としてはペンターズがその位置にあたるという。元を正せばそのトンドルマ家の凋落がロスライ家の衰退にもつながっているのだが、両者の結びつきは強く、そうなった今でも従者と主という関係は残っているということらしい。

 そのペンターズがロハンザ騎士団に入るということで、当然の如くアルバも付き従わねばならないというのが概要だ。

 しかし、ペンターズはそこまで望んでいないようにも思えた。主従のしきたりについては、アルバがより意識しているだけに見える。

 「私の家はもうありません……両親は屋敷を売り払って、家名も捨てて、どこかに去りました……でも、私は……」

 その言葉で合点がいった。アルバにはもうペンターズを頼る道しかなく、そのための大義名分が従者という関係性なのだろう。ある種の依存になってしまっているが、本人は気づいていない。そんな関係を持ち出さなくても、おそらくペンターズは手を差し伸べるだろうが、負い目を感じるアルバには必要なものなのだと推測はできた。

 話しぶりからして、家族よりも主としてのペンターズを選んだということか。その執着が今回の参加にまで及んでいるのなら、その覚悟は認めるしかない。魔法を教えた身として、できるだけ守ってやりたいとも思う。

 そのためにも、先程より具体的に魔眼についての情報を話してもらう必要があった。人見知りなことは知っているので、あの場では言えなかったこともあろう。

 「ほいじゃ、もっと詳しく話してちょー」

 こういうときのシィーラの緩い雰囲気は悪くない。アルバのような小心者にとって心地よいはずだった。

 その後、もう少し掘り下げた魔眼の知識を知ることができた。

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