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FairyTame-妖精交換(仮)-  作者: 雲散無常
第四章:強化遠征
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4-2


 見知らぬ森で誰かを捜索するというのが困難なことは明白だ。

 まして、探している人間がどのような行動を取るか予測ができないとなれば尚更なことは言うまでもない。

 自然に慣れている者ならば、まずは水源となる川を探すべきだということを知っているだろうが、不慣れな者ほど闇雲に動き、目印となるものも探せずに徒労で体力を無駄に奪われるものだ。あるいは獣道を探して、その後を辿ると有益な場所に出るということもある。

 そうした知識があるのかないか、ウェーディー姉妹については何も分からず、指針が立てられなかった。

 だが、妖精ユムパのような鳥のような何かになった今、そうした常識は必要なかった。

 わしにはある意味、反則的な魔力探知があった。人間が使うそれとはまったく違った形の魔法だ。

 本来の魔力探知というのは、ざっくりと言えば小さな魔力の波を飛ばし、その反射から対象が何かを判別するというものだ。森羅万象、あらゆるものにはマナが含まれていることから、多かれ少なかれ何らかの反応をするため、その振る舞いの違いで分かるという話だ。単純に考えても取捨選択するものが無数にあるため、ある程度の経験と推察能力が問われる上、その有効範囲も基本的にはそれほど広くは伸ばせない。脳で処理できる範囲には限界があるからだ。

 だが、わしの場合はそうした制約があまり引っかからない。妖精の感覚による判別がかなりの精度で自動化されているような状態で、特に自然界のものは無意識的に瞬時に分かるため、恐ろしいほどの速さで範囲内の全体図が理解できる。その有効範囲も魔力の大きさに比例しているため、信じられないほど遠くまで見通せることは既に知っていた。これはおそらく、妖精が本来持っている能力らしきものが影響していると考えられる。

 そもそも妖精とは、精霊リータスの種族の一分類であり、その存在を考えれば自ずと納得がいく。精霊とは精霊神スピータのマナが自然と融合して物質化した生命体と言われている。精霊神は自然の調和を司った存在で、精霊はその手足となって自然保護やバランスを保つ役割を担っていたとされ、神がいなくなった後も残った精霊たちはそういった自然保護のために活動をしているというのが一般的な考え方だ。

 そうした背景を踏まえれば、わしが使う妖精魔法のようなものが自然と融和性が高いのは自明の理であり、魔力探知の効果が破格なのも当然と思える。

 ゆえに、わしは森の中で動き回っている生命体を探し当てることができた。

 自然物を排除し、動物や魔物を選り分けて、人間のみを見つける。すぐに該当する二人組が見つかった。先行したドグオンたちとはまったく違う方向に向かっていた。おかしなことにその距離がかなりある。普通に歩いた速度ではあり得ない。もしかしたら、何らかの魔法の類で移動したのかもしれない。

 その意図は何であれ、これで偶然はぐれたという可能性はなくなった。自ら率先して第一班から離れたのだろう。そのまま放置する選択肢も浮かんではいたが、理由も分からずに切り捨てるというのは許されない。班長である以上、この班をできるだけまとめて全員で帰還することが求められている。評価されるためにここまで来たのだ。適当な対応で台無しにするわけにはいかなかった。

 とにかく姉妹には話を聞いてみなければならない。後を追うしかない。

 最悪なのは、その先にまた見知らぬ人間の反応があることだ。そちらは三人組だ。このままいけば鉢合わせする進路だった。もしかしたら合流するつもりかもしれないが、おそらくは違うだろう。いずれにせよ、確認する必要がある。

 ロアーナたちに知らせている時間はなかった。

 (姉妹の居場所は分かったが、急がねば敵らしき者たちとぶつかる可能性が高い。急いで移動するぞ)

 「ほいさっさー」

 シィーラはこちらの指示する方向へすぐさま走り出した。妖精だけあって、自然の中では活き活きとしている。いつもより体の動かし方も滑らかだ。併走する者がいなければ、かなりの速度が出る。森というか、大自然の真っただ中というのはわしらにとって最適な場所だった。

 だからこそ、思ったよりも早く追いつけた。距離はそこそこ離れていたのだが、途中で向こうが止まったことも影響している。

 そして、現場は最低な光景の一歩手前であった。

 「おいおい、隠すんじゃねぇよ。こっちの足がもう一本曲がるぞ?」

 下卑た声が飛び、卑猥な野次が他からも入る。

 「や、やめなさいっ!それ以上、その娘に触らないでっ!!!」

 強気な口調ではあるものの、半ば震えながら叫んでいたのは姉妹の片割れだ。衣服は一切身に着けておらず、手で胸と股間をかろうじて隠して立っている。状況からして、男たちに命令されて辱めを受けているのだろう。

 見つめる先にはもう一人の双子が横たわっていた。こちらは服は着ているものの、両腕を一人に抑えられ、その片足には小太りな男の足が乗っている。もう片方の足はあらぬ方向に折れ曲がっており、脅しとして既に壊された後のようだ。力づくで嬲られている光景だった。

 あるいは仲間と合流したのかもしれないと邪推したが、完全にその線は消えたようだ。ならば、することは一つで迷いはない。

 (隠蔽の魔法をかけるが、背後に回るにはちと距離が近すぎる。このまま横っ面から突っ込んで、まずあの太っちょを斬れ、その後に腕を押さえている男、残りの順だ。奇襲で一撃でも当てれば即死させずともどうにかなるじゃろう。分かったな?)

 「あいよー」

 どんな場面でもいつもの調子のシィーラは、今回も動揺することなく落ち着いている。頼もしくもあり、少し恐ろしくもある。人間味ある感情をもう少し感じたいところではあるが、今は目の前の処理が先だ。

 相手は外道な山賊で、一見してそれほどの実力はない。

 即断実行でシィーラは飛び出した。

 隠蔽の魔法と特殊な気配によって、男たちはこちらに気づけない。薙ぎ払った初撃の一振りでずんぐりした胴が下半身と切り離された。続けて、腕を押さえていた男が驚きながらも立ち上がりかけたところに、返す一撃を加えて後方へ吹き飛ばす。

 「な、なんだ、おまえはっ!!!?」

 残る一人が慌てながらも幅広の剣を構えてすぐさま構える。なかなかの反応速度だ。ためらうことなく、シィーラはそちらへ再び飛び込んでゆくが、その時、妙な音がした。

 ピィーーー、と長く続く甲高い笛の音だ。吹き飛ばした男が最期の抵抗とばかりに何かの笛を鳴らしたようだ。

 はっとして周囲を探るが、他の人間の気配はない。ならば、今、何を呼び寄せたのか。

 嫌な予感がして、シィーラを引き留める。

 (待て!警戒しろ、何かがおかしい!)

 「ほむ?」

 シィーラが足を止めた瞬間、地面が突如盛り上がった。

 そこから不意に飛び出してきたのは巨大なムカデのような身体の一部だ。あの笛の音は、魔物をおびき寄せるものだったのだろう。死なばもろともとばかりに道連れにでもする気か。

 何かが引っかかったが、対処が先だ。

 (先にこれをく排除するがよい!あの娘が危ない)

 ムカデの蠢く足を斬り飛ばしながら、シィーラは裸の姉妹の元に向かう。この巨大な虫の魔物の前では、あまりに無防備だ。恥じらいもあってか、まともに魔法も発動できそうにない。かろうじて恐怖は抑え込んでいるが、すぐにその場から離れるという選択が取れていなかった。

 「ふんがぁぁぁー!!」

 気合いを込めてシィーラが地中に魔剣を突き立てる。実際には、潜伏しているムカデに向かって、だ。その身体がつながっている以上、剣先から魔力を込めれば全体に行き渡る。魔剣の威力は伊達ではない。

 地面の下で何かが激しく蠢く気配がした後、静寂が訪れた。あっという間に片付いたようだ。

 基本的に攻撃は最速最大の先制が一番の妙手だと教えていたので、見事に実践した結果だ。悪くない。

 ただ、その間に残りの男が一人逃げ去っていた。巨大ムカデの出現が分かっていたということか。色々と聞かねばならない。生け捕りにするために追いかけるようシィーラに指示を出す、はずだったのだが。

 「逃がすはず、ないわ……」

 低く怨嗟のこもった声がしたかと思うと、無数の氷の矢が森の木立の中を素早く飛んで行った。

 裸のまま、姉妹の一人が魔法を放って男を殺したのだ。軽く魔力探知をして、その死亡を確認する。尋問するには遅かったようだ。笛を鳴らした男の方も、巨大ムカデの出現の中心から避けられなかったようで、ズタズタに引き裂かれて息絶えていた。

 何があったのか、何者なのか、姉妹の方から聞くしかなくなったということだ。

 



 折れた足の治療を終え、ロアーナたちと合流しようと森を歩いてゆく。

 その間、シィーラと姉妹の間に会話はない。自然音だけが辺りを埋め尽くしている。

 既に事情は聞き終えており、事のあらましは理解した。詰まるところ、姉妹の勝手が招いた自業自得だというのが結論だ。

 ウェーディー姉妹は共に魔法士で自らの力量を過信していたため、二人だけでこの任務をこなして評価点を稼ごうとしていたらしい。他の面子が気に入らなかったのか、胡散臭かったのか、人間関係周辺の不信感と何より自尊心が強そうな性格も相まって、班の皆で協力しようという気は皆無だったのは確かだ。

 シィーラの先導から外れて独自の経路で索敵をしている内に例の三人組を発見し、不意を突いて仕掛けようとしたところ返り討ちに合ったというのが実情だ。あまり同情の余地はない。自分たちの失態を認めたところは評価できるが、渋々話した感が否めないので潔かったとも言えない。融通の利かないところは今後も面倒臭そうだ。

 妹のオキの左足は完全に折れており、まともに歩けない。シィーラが背負っていくのが手っ取り早いのだが、頑なに拒まれたので姉妹で二人三脚のように遅々とした歩みになっている。その点に関しては申し訳なさを覚えているのか、他の面では譲歩する姿勢も見られた。どうやら、この姉妹は人間不信に陥っている側面があるようだ。お互いのみを信用して、その他を敵とみなしている傾向に見える。何か事情があるのだろうが、踏み込むほど関わる気もないので詳しくは聞いていない。

 ただ、今後に関しては協力しなければ見捨てるしかないことを分からせたので、とりあえず今回のように勝手な真似は控えることは合意できたと思う。結果的に二人を救った形にもなったので、多少はこちらを信用してくれたと考えたいところだ。「少しはできるみたいね、話ぐらいは聞いてあげるわ」という言葉が果たして感謝の意がどうかはともかく、少なくとも無視はしないという意味だと取っておく。

 「んー、なんかこの森やっぱ変じゃなーい?」

 (ふむ?具体的に何が気になるのじゃ?)

 違和感はわしも覚えていたので、シィーラとすり合わせしたいところだ。妖精の自然に対する感覚は鋭い。

 「んー、なんかゆらゆらしてるー?いろんなものが混ざりあってる、みたいなー?」

 (混ざり合う、か……)

 シィーラの独自の感覚を咀嚼する。何となくは言いたいことが分かりそうな気がした。考えながら言葉にしてみる。

 (普通のこうした自然というものは、原地域と魔地域という二つのものに大別される。大雑把に言って前者が一般的な動物の生活地帯で、後者が魔物の生息域じゃ。ここらは原地域じゃと思っていたが、先程の巨大ムカデは明らかに魔物ゆえ、お主が言う混ざっているというのはそういうことかもしれぬな)

 「ほむほむ。その二つの分け方は前になんか聞いた気がするなー。そかー、そういうゆらゆらなのかもー?」

 ここで言う『ゆらゆら』とは不安定だという印象なのだろうか。仮にこの森の魔地域に足を踏み入れているとしたら、魔力反応がないのはおかしい。そもそも、あの巨大ムカデも察知できていなかった。自然内での魔力探知には自信があり、それは今も揺らがない。見落とすという可能性は少ない。

 ならば、何か他に原因があるはずだ。地中にはもともと効きが悪いという性質はあっても、あれほどの魔物が無反応というのは考えにくい。そこでふと仮説が浮かぶ。

 シィーラの頭から飛び降りて、地中深くに片足を突っ込んで魔力探知を展開する。下方向へと指向性を持たせた方法だ。

 すると、驚くほど平坦な反応しか返ってこなかった。手応えがない。正確には、反射が不規則に動いて一律的な反応に見え、何も特定できない。

 (なるほど……この辺りの土は特殊なマナを含んでいるのやもしれぬ。乱反射して打ち消し合っているのか……)

 「どゆことー?」

 シィーラに軽く説明すると、ぶつぶつと繰り返して声に出していた。それが聞こえたのか、レキがぼそりと言った。

 「大地への魔力探知は元々不可能なはずよ。物理的な厚みが永遠の課題なのは魔法士として常識でしょ。地層がある以上、魔力の浸透率はほぼ完全に遮られる」

 確かに通常の魔力探知であればその通りだ。それを超越するわしの魔法でも無効化されていることが問題なのだが、その説明は難しい。ただ、姉妹の魔法知識はなかなか高いようだ。良いきっかけなので話を振ってみる。

 (先程の混ざり合っている可能性を聞いてみてくれ。何か面白い着眼点があるやもしれぬ)

 「……ここが魔地域じゃないことは私たちも分かっているわ。けれど、実際魔物に襲われた以上、近くにあったのかもしれない、とは思う……」

 いや、調べた範囲でそんな反応はなかった。魔地域であれば少なくとも魔物の反応は分かるはずだ。

 「ほーん……じゃあさー、下だけその魔地域とかになってるんじゃないのー?」

 「ないわね。そんな話は聞いたことないもの」

 姉妹は一蹴したが、わしは一理はあると思った。魔力探知が無効化されるほどの奇妙なマナを含んだ土地だ。この森の地中がおかしな状態であることは確かで、その可能性の一つとして合点がいく点はある。

 だが、その場合は気が休まらないという話でもある。常に下からの脅威に気を付けねばならないということだ。この森がどこかは分からないが、わざわざ眠らされて連れてこられている時点で特殊な森なのは間違いなく、常識外であることは考慮に入れておくべきだ。

 あまり魔力探知を過信するなということか。反則的に有利に進められて、わりと楽観視していたがそうもいかないらしい。

 「それにあの魔物、急に出てきたけれど、どういうことなのかしら……」

 (犬笛のように、魔物を呼び寄せる笛の類じゃろう。即呼応してきたことは不思議じゃが、地中の比較的浅い層にいたのなら分からぬ話でもない)

 シィーラが説明すると、姉妹は怪訝な顔をした。

 「魔物を呼び寄せる?そんなことをして何の得があるというの?」

 正式には確か招魔しょうまの笛と呼ばれるものだ。主に探索者が使うもので、古代遺跡などで囮役の者がそれで魔物をひきつけ、その間に本隊が手薄になったところを進むといった形で使うことが多い。

 「なるほど、探索者が……いろいろと考えるものね……」

 納得したのか、少し感心したようだ。それを皮切りにぽつぽつと会話が生まれる。シィーラはゆっくりな歩みで暇をしていたため、二人のことに少し興味が湧いたようで適当に質問を繰り出していた。これで互いの壁が少しは薄れれば悪くはない。

 一方で、わしはこの森がどこなのか見当をつけようとしていた。

 ロハンザの街から馬車で行ける距離で、所要時間はおそらく一日。有名な森ではなく、おそらくは小規模なもの。該当する場所は記憶にはなかった。大陸の詳細な地図が頭にあるわけではないので、当然と言えば当然だ。北や南方面でないことは地形上から判断できるので、東か西方面であることは確かだ。

 と、そこで自分が鳥であることを思い出す。

 上空から俯瞰すれば良いでないか。単純な解になぜ気づかなかったのか。

 シィーラに一言告げ、森を突き抜けるべく跳び上がる。

 そして、3分後、完全に挫折した。

 「あれ、どったのー?」

 (……この森はやはりおかしい。一定の高度に見えない壁のようなものがある。この森自体が結界のような何かの中心であるようじゃ) 

 鳥としての飛ぶ利点は活かせないことが分かった。

 同時に、何か見知らぬ視線のようなものを感じた。当然、視認できる範囲にも魔力探知にもそのような反応はない。

 色々なものが常識外れに感じる。一筋縄でいかない森であることだけは確かだった。

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