2-8
結局、何も分からないまま解放された。
何のための査問委員会だったのか、事件に関係のない質問ばかりされた気がする。まるで何かの適性を見極めていたような、得体の知れない背景さえ感じた。
ろくでもないことに巻き込まれそうで、どうにも嫌な予感を止められない。
「これで……よかったんでしょうか?」
訓練所の外周のベンチに腰掛けて一息ついたところで、ナリスが不安そうに聞いてくる。
(ああ、ナリスはよくやってくれた。問題ない、感謝する。ただ、あやつらの意図は最後まで謎じゃったがな……)
「全然、意味わかんなかったねー」
未だ呆けた状態のシィーラが、ベンチに半ば横になっている。だらけ切った情けない姿だが、魔力切れの辛さは分かるので小言は言わないでおく。
(一応、聞いてはおったか)
「まーねー、何のことだかさっぱりだったけどー」
「ええと、今回の件の事情聴取、的なことで呼ばれたんですよね?あまりそのことに関して訊かれた記憶がないのですが……」
(建前だったのかもしれぬが、比重が何か他のことにあっただけで、一応形式的には成り立たぬこともない。いずれにせよ、今の手持ちの駒で推測するのは厳しい。沙汰を待つしかあるまい)
「サター、サター、サター……」
意味が分からないまま問いかける気力もなくしたのか、シィーラはただ繰り返した後に沈黙した。眠ってしまったようだ。
「大分、疲れてるみたいですね」
(一気に魔力を使ったからな。慣れていてもかなりの負担じゃ。初めてでは無理もない)
「それじゃあ、もう少しここで休んでいった方がいいですね」
(うむ。急な呼び立てで申し訳ない上に、まだ引き留めることになるが店の方は大丈夫か?最悪、わしが見張っているから帰ってもらってもかまわぬが)
「それは大丈夫です。有難いことに大分信用されてきたので、多少の融通は効かせてもらえるようになりました」
それは重畳。正直、この状態のシィーラを無防備に置いておきたくはなかった。不測の事態に備えて深く眠らぬような訓練はさせていたが、魔力が尽きた状態でそれができるかどうかは未知数だ。できれば避けたい。
(ならば、もう少し甘えさせてもらうとしよう。まだ、何か接触があるやもしれぬしな)
「え、どういう意味ですか?」
(まだ何も終わってはおらぬということじゃ。査問会が何の意図だったにせよ、結論が出てはいない。何より、向こう側としても一枚岩には思えなかったからな。どこからか誘いがあっても不思議ではない)
「それは何か、派閥争いのようなものがあると?」
ナリスはなかなかに聡い。地頭がいいのだろう。しかるべき教育を受ければ、学者にでもなれそうだった。
(問題はどこに与すればよいのか分からぬ、ということじゃな……)
もっと情報が必要だった。そのための手段と言えば、と思ったところでまるで計ったようにヨーグが現れた。
「おっと、こんなところでナリスさんと会えるなんて光栄ですね。せっかくですので中でも案内しましょうか?あまり、見るべきものはありませんがね」
「あれ、ヨーグさん?こんにちは」
「はい、こんにちは。それにしても珍しい、ここで会うのは初めてですね。ああ、シィーラさんが大立ち回りをしたそうで、その影響ですか?」
ちらりとベンチに横たわっているシィーラに目を向ける。
あまりに白々しい茶番だったので、それ以上は遮った。
(道化に付き合う必要はないぞ。こちらを探していたのは明白じゃ。ここは普通に通り過ぎるような場所ではない。何を聞きたいのか、少し強気で尋ねてみてくれないか。時間の無駄じゃからな)
ナリスは戸惑いながらも要求に答えてくれた。
「ええと、わたしたちを探していたんですよね?用があるのならもったいぶらずにどうぞ」
「おっと……そう、ですね。ナリスさんたちもお疲れですよね。すみません、失礼しました。実は今回の件で少し知りたいことがありまして」
いつもと違うナリスの態度に驚いたのか、ヨーグは少し早口になって続けた。
「査問会が開かれたそうで、その内容について詳細が知りたいと思っています。返礼としてささやかではありますが、今後の情報料の減額をお約束しますよ。こういうのは鮮度が大事なので、今この場限定の取引です。いかがですか?悪い話じゃないと思いますよ」
「……」
ナリスは何も答えない。わしの判断を待っているのだろう。理想の対応だ。
ヨーグの言動に特段おかしな点はなさそうに思える。査問会のことを聞きつけたのが早すぎる気はするが、常に訓練所に網を張っていることを鑑みれば頷ける話ではある。見聞屋が情報を得るために対価を払うというのも一見矛盾しているように見えるが、仕入れと卸しの概念があれば不思議はない。
ただ、その返礼で今後の情報料というのは引っかかる。確かに今後も見聞屋は利用したいと思っているが、特に継続契約もしていない状態でその形態の対価は違和感が残る。こちらが今度も確実に利用するという前提に立っていることになる。しかも、減額の割合が不明瞭ながらも個人でそんな裁量権はないはずだ。単なる言葉の綾や先走りともとれるが、見聞屋という信用が重要な職業に就いている者が、そのような軽率な真似はするはずがない。
となれば、ギルドの了承を得ている可能性が高い。査問会が終わった途端に接触してきたことも踏まえると、見聞屋ギルドとしてそれほどまでに今回の情報が欲しいということだ。同時に、こちらが断らないという確信も持っていることになる。それは事実ではあるが、従順に従う道理はない。
方針は決まった。
(返礼はこちらにも情報を流すことで合意するように持って行って欲しい。具体的には、訓練所上層部の派閥や、その力関係、今後わしらが付くべき勢力じゃな。交換条件という形でかまわぬ。譲歩することなく一点張りで良い)
おそらく、現状の主導権はこちらにある。最初から強気に出たのもこのためだ。見聞屋が欲しがるものを持っている限り、こちらが折れる必要はない。
果たして、ヨーグは簡単に折れた。余計な交渉はせずに取引を成立させたのだ。やはり、それだけ早く情報が欲しいということだ。今回の件の一体どこが重要なのか分からないが、乞われるままに査問会の内容を話す。これ以上の引き延ばしは関係性を悪化するだけだ。
「……なるほど。なかなかの面子が揃っていたんですね」
ヨーグはやや険しい顔で遠くを見つめた。仄かな風がその独特に編み込んだ髪の一房を揺らす。砂漠の民のみが可能な複雑な編み方で部族の秘伝とも言われているが、最近は真似たものが洒落としてどこかの国の貴族で流行っているという話も聞く。ヨーグのそれも、もしかしたらそんなファッションとやらの一部なのかもしれない。
やがてヨーグは懐から小さな手帳を取り出して何かを書きつけると、小さな鳥の足にそれを巻き付けて空へと放った。鳥便、通称ポッポ便と呼ばれる連絡手段だ。ポッポという鳥は長距離を移動可能で知能も高く、番の場所が本能的に分かるので、これを利用して目的の場所に手紙などを送れる。緊急の連絡手段として、街中でも利用されることはあるが、専門の飼育が必要なために高価であり一部の貴族や王族などしか扱うことはほとんどない。
よくよく今回の情報が貴重だったと見える。もう少し高く見積もって吹っ掛ければよかっただろうか。打算的な考えが頭をもたげる。
「さて、ではこちらの番ですね。この訓練所陣営の情勢図を知りたいということでしたね……一介の訓練生であれば必要ない情報ですが、今のシィーラさんの状況を考えると確かに知っておいて損はないと思います」
ヨーグはそう前置きをしてから、上層部の力関係を話し出した。
ロハンザ訓練所では主に三つの勢力があるらしい。所長率いる安定派、主任指導官ホルムが推進する革新派、平指導官たちによる修練派だ。簡潔に言えば順に目指す主体として、訓練所そのものの効率的な運営、訓練所の価値・地位向上、訓練生の質の底上げとなる。この内三つ目の修練派は人数では一番多いが、構成する者が指導官ということで基本的には積極的に大きな声を上げるわけではなく、単なる立場の表明といった趣が強い。
要するに、問題となるのは安定派と革新派ということになる。表向きは当然、所長であるヤヤークの安定派が一強ではあるが、ホルムに賛同する者もそれなりにいるという。革新派というのが具体的に訓練所に勤める騎士団員の地位向上などを掲げているからだろう。実際、訓練所の指導官は皆ロハンザ傭兵騎士団の正式団員ではあるが、本隊ではなく分隊員と呼ばれているようにやや格下に見られる風潮があって、そこに不満を持つ者も多いようだ。
先の査問会で垣間見えた、所長と主任の確執はその辺りにあったらしい。その点は少し明瞭になったが、相変わらずこちらへの影響と関わりが見えない。単なる争点のきっかけに過ぎなかったのか、それより深い関係があるのかまだ不明だ。
そしてもう一つ、あの人物の謎が残っている。ジェイクと呼ばれた素性不明の男だ。ヨーグが一番関心を示した人物でもある。その説明は要領を得なかった。
「ジェイクについては未だ謎の多い要注意人物としか言えないんですよね……歯切れが悪くて申し訳ないのですが、まだ何も確信を得たことが言えず、不確かなままお伝え出来ないというのが正直なところです」
慎重に言葉を選んでいることから、裏を取っていないだけで危険人物だと認識していることは伝わってきた。見聞屋ギルドが警戒しているということは、何かが裏にあるのだろう。直接言葉を交わした身としても、素性不明であまりに怪しいということしか分からない。ただ者ではないが、その異常さをうまく説明することができなかった。
特に気になるのは査問会に参加していた点だ。運営陣には関係ない立場だと思われるが、そんな人間がなぜあの場にいたのか。ヨーグもその点を気にしているように思えた。
「とにかく、あの男には注意してください。風向き次第で大変なことになりそうです。それと、個人的な忠告ですが、しばらくは夜の仕事は控えた方がいいと思いますよ。では、私はこれで失礼します。ナリスさん、訓練所案内はいつでも承りますので、気軽にお声掛けくださいね」
ポッポ便で報告しても、直接足を運んでの伝達もあるのだろう。ヨーグは足早に去っていった。意味深長な警告を残して。
「最後のは……?」
(彼奴なりの気遣い、といったところじゃろうな。今後、わしらの周辺で監視の目が厳しくなるやもしれぬ。しばらく様子見するのは確かに理にかなっておる)
「監視、ですか?」
(ジェイクとやらがこちらを何か試していたとするなら、次は普段の素行にまで及ぶじゃろうて……どうにも、想像以上に厄介そうじゃな)
ナリスの言うように、これからの風向きは気を付けねばならないようだ。
その後の数日は、驚くほど穏やかに過ぎ去った。
訓練所が襲撃され、少なくない数の訓練生死傷者が出たにも関わらず、何事もなかったかのように平常運転が続いた。
どこから漏れたのか、あるいは故意に広められたのか、襲撃者をせん滅した者がシィーラだと発覚し、畏怖と称賛と憎悪が増えたくらいだ。最後の主な原因は、巻き込まれた訓練生がいたことに起因している。どんな戦場においても仲間殺しは忌避対象、翻って敵対対象となる。やむを得ない処置だったと確信しているが、人間の理性と感情は別物だ。合理性がない道理でも物事が動く場合もある。
特に例の貴族まわりの輩が煽っているようで一部の集団からはあからさまな嫌がらせを受けている。直接的なものがまだないから無視しているが、過剰になるようならば一度しつけておく必要があるかもしれない。訓練所ではそうした訓練生間のいざこざには基本的に関与しないことになっているので、指導官たちの抑止力にも期待できなかった。もし可能だとしても、死亡した貴族絡みとなれば上層部は静観して何もしないことも考えられる。その辺りの決着もどうなっているのか、査問会の方から未だ連絡はないままだった。
どこか宙ぶらりんの状態ではあったが、漫然と過ごしていたわけではない。こちらとしても、できるだけ情報は集めていた。まずは襲撃者たちの素性だ。査問会ではまったくといっていいほど、その点に触れていなかったので気にはなっていた。よくあることのように言っていたので、後ですぐに何か分かると思っていたのだが、意外なほど何も出てこなかった。
得られた情報としてはロハンザ傭兵騎士団に恨みを持った人間、ということだけだ。各国へ赴いて戦争に参加している性質上、そうした敵が至る所で発生するものゆえ誰も気にしていなかった。戦闘屋になろうという者が集まる場所だ。このくらいのことで動揺などしていられないという意味では理解できるが、根本的におかしなことがある。
なぜ訓練所を襲撃してきたのか。ロハンザ傭兵騎士団への恨みであるならば、傭兵騎士団の本部を襲うのが筋であって訓練所では話が違う。訓練生はまだ騎士団員ではない。自力での情報収集による見積もりがまったく間違っていたので、ヨーグに再び力を借りた。
見聞屋の返答はシンプルだった。
「ヤンヌラ・タッタの化かし合いですよ。恨みを抱いてる彼らにとって、訓練生も正式な騎士団員もたいして変わらないんです。おまけに、本部は守りが固いですから、必然的に訓練所が狙われるわけです。一説では、それもあってわざとこっちを手薄にしてるという噂もあります。騎士団の手を煩わせず、訓練生は実戦形式で鍛えられて丸儲けというわけです」
訓練生が騎士団員と同じ穴のむじなというのは納得がいかない。そこを一括りにするのは無理がないだろうか。ちなみに、ヤンヌラとタッタというのは動物の名で、声真似がうまいことで知られている。互いに互いを真似た声でおびき寄せて狩りをしようとしたところ、結局は人間に狩られたという話からの諺だ。かなり古い言い方で普段はあまり聞かない。ヨーグは年輩の人間と過ごしていたのかもしれない。
襲撃者の素性については、滅亡した小国の生き残りというところまで見聞屋はつかんでいたが、例の呪具の出所までは分かっていないということだった。物騒なので、既に壊して無力化したとも聞かされた。その出所が分かったところで、復讐のために闇市で手に入れた場合、襲撃者たちの出自とは関係がない可能性が高い。ある種の逆恨みが原因であるなら、そもそも襲撃者が何者であるかはどうでもいいことではある。
何か深い理由があって襲われたのであれば今後も警戒の必要があると思っての調査だったが、その線は気にしなくてもいいようだ。
ただし、筋違いの相手に命を賭して襲撃をかけるほど、憎しみに身を捧げる者を生み出す傭兵騎士団というのは、戦場で一体何をしてきたのか。単なる戦争要員に留まらず、略奪行為でも働いたのではないかと勘繰りたくなるが、戦争においてそうした行為はむしろ当事国の物資補給などの側面も強いため、他国の傭兵などにやらせるはずがない。腑に落ちないものを感じながらも、思考は襲撃者たちよりもそれに対応する訓練所運営陣の方に傾く。
実戦形式を取り入れるために、敢えて防備を甘くしているという話は本当なのだろうか。
実力主義を標榜していることからもありえそうではあるが、想定の死傷者の数はどうなっているのか。ある程度のまとまった数で攻められた場合、被害は今回のような規模ではすまないはずだ。いや、その場合は事前に何か手を打つのかもしれない。
ここはロハンザの街だ。自らの足元で、そうした大規模な企みの兆しがあれば察知できないことはない。事前に管理されたものであると考えれば、なるほど納得できてしまう。となれば、例の貴族の死については訓練所運営側の責任とも言えなくはない。
別途、運用資金についてもヨーグから報告を受けていた。訓練所はロハンザ傭兵騎士団の一部ではあるが、運用体制とその資産に関してはかなり独立しているらしい。所長の権限が大きいということだ。金回りの方からあのヤヤークという男の立場を確認したかったのだが、思いのほか強大な役職のようだ。ただし、資金は潤沢とは言えない財政状態のようだった。
色々と見えてくるものはあるが、訓練所に所属している身である以上立場は弱いことに変わりはない。査問会で匂わされたように、理不尽を突き付けられた場合の対抗策は持っておきたかった。何か決定的な弱みを持つことが理想的なのだが、簡単にしっぽは掴ませまい。
いやはや、考えることが多すぎる。
シィーラがもう少し機転の利く性格であったり、思慮深い行動ができるなら何か変わるのだろうが、期待する術はない。ようやく魔力も回復してきて、いつもの気ままな言動に戻ってきたところだ。逆にその無頓着さが今は頼もしいかもしれない。
仲間殺しの汚名を一部で着せられている状況は、普通の精神状態ではきついものだ。その点、興味のないことにはまったく無関心を貫ける妖精の特性は最強である。何を言われようとされようと、完全無視できるという面の皮の厚さは相手側を辟易させるほどだった。
何にせよ、独力で何とかしなければならない状況は変わらない。
もともと独立独歩を基本とした生活基盤で育っただけに、いつも通りと言えばいつも通りだ。いや、自分の身体じゃない状況はいつも通りではない。平常とは何か、時折忘れてしまうほどこの環境に慣れてしまっているということか。気を付ける必要がある。
「異常な状態が恒常化すると、そこで定着することもある。この特性を利用した変態固定化魔法を作ったことがあるんじゃが、こっそりと本人が気づかない一部を変えてゆくことで知らぬ間に改変するという恐ろしい効果を発揮してな。悪魔魔法などど不名誉な評価をされて封印されたものがある」
不意に、師匠のそんな失敗談を思い出した。迷惑な魔法はどうでもいいが、異常が定着するという言には含蓄がある。やはり先達の言葉には重みがあるものだ。そういえば、呪具に関しても何か言っていた覚えがある。記憶を探って取り出す。
「本物の呪具というのは厄介じゃぞ。できるだけ近づかぬようにするのがよい。魔石を異石へと変えてしまうほどの歪んだ魔力が澱のように溜まっておるのじゃ、生半可な淀みではないゆえ壊せぬ。まぁ、最近巷に出回っておる粗悪な紛い物ならば問題ないがな」
どうやら警告を受けていたらしい。滅多に出くわすこともないので忘れていたようだ。
異石には人間の執念や高位魔獣の精神要素が融合しているとされる。解析不能な非物質的なその成分こそが、呪具を呪具たらしめていた。中には、異石に宿った精神的な何かが人格を持って、しゃべる呪具という伝説級のものまである。実際に見たことはないが、魔族の人格が封じられた魔剣の話を師匠から聞かされた覚えがあった。そうであれば、在り得なくはないとも思う。魔剣もまた、分類的には呪具と言えなくもない。
記憶を反芻するうちに、何となく点と点がつながって見えてきた気がする。
なるほど、もう少し探る必要があるようだ。
一人思考を巡らせていると、逆立ちしているシィーラと目が合った。
平衡感覚を鍛えるための修行の一環だ。
「ねぇ、ねぇー?人間の目って逆さになると逆さになって不便だよねー」
何を言っているのか良く分からないと思うが、これは前に聞いたことがあった。妖精は視界を任意に変えられるそうで、人間に見える世界とはまったく違う視点で世界を見ているという。つたないシィーラの言葉では正確に想像もできないのだが、そのような視界を持っていたのなら、人の視覚は不便だろう。
(逆にその不便さに慣れることによって、人はより強くなれるのじゃ。適応力というものが養われるからな)
「てきとー力?」
いつもの間違った返答を聞きながら、むしろその力を鍛えられているのは自分の方のような気がしていた。