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Non Killing Ninja’s Conquest Story ~不殺忍者の征服譚~  作者: かなぐるい
第三章 桃源コーポ都市と暗黒アンダー都市
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第七十五話 協力の条件

▼セオリー


 目を覚ますと、そこは知らない天井だった。

 身体を起こそうとして脇腹に違和感を覚える。何故か腹部を中心にして力が入らない。そのおかげで上手く身体も起こせない始末だ。仕方がないので首を捻って辺りを見回す。

 ベッドの近くには椅子が置いてあり、そこには男性が腰かけていた。なんだか見覚えがある気もするけれど誰だったか。ぼんやりとした頭で考えていると、先に相手の方が覚醒した俺に気付いて声をかけた。


「あっ、起きたんですね。ここは城山組の事務所です。分かりますか?」


 その声には覚えがある。もっとがなり立てるような喋り方だった気がするけど、今はずいぶんと大人しいというか、丁寧な喋り方をしていた。


「アンタ、城山組の?」


「そうです、城山組若頭のゲンと申します」


 いや、全くキャラが違くないか。

 もっとコテコテな関西弁みたいな感じでがなり立てていたじゃないか。今やしおらしく椅子に座って、物腰も柔らかな様子だ。頭だけはパンチパーマで気合いの入った髪型だけど、逆にそれがギャップとなって浮いている。


「なんかキャラ違くないか?」


「お恥ずかしながら、周りはNPCだけだと思っていたので、ずっとロールプレイをしていたんですよ」


「ロールプレイ? ……待てよ、ってことはまさかプレイヤーなのか」


「そうですよ。甲刃連合系ヤクザクラン城山組に所属している中忍頭です」


 後ろ手に頭を掻きながら照れたようにして話すゲンはライギュウと戦っていた時とはまるで別人だった。衝撃の新情報に思わず脱力してしまう。首から力を抜いて、頭を枕に預けた。ボフンと柔らかな音が室内に響く。


 急に殺伐としたゲーム世界から現実に引き戻されたような感覚があった。あまりにもゲンの受け答えが普通のプレイヤー過ぎたからだ。別にそれが悪いことではない。むしろ、こっちが勘違いした結果なので自業自得だ。


「にしたって、プレイヤー相手ならもっと交渉の仕方はあったのになぁ~」


 頭を枕に預けたまま、呻くように言葉を漏らす。

 俺は城山組若頭がNPCだとばかり思っていた。だからこそメタ的な視点から協力を仰ぐのは無理だろうと推測し、貸しを作ることで協力を取り付けようと思っていたのだ。

 しかし、実際には城山組の若頭はプレイヤーだった。それなら協力を依頼する交渉などいくらでもやりようはあっただろう。つうか、若頭にプレイヤーをえ過ぎだろ。これで蔵馬組の若頭までプレイヤーだったりしたらどうしようか、きっと変な笑いが漏れてしまう気がする。


 俺が無駄に骨を折ったことを嘆いているのを、ゲンは一体どうしたのかと目を丸くして見つめている。そんなところで部屋の扉が開いた。


「あぁっ、セオリー! 良かった、目を覚ましたんだね。身体の方は大丈夫?」


「お、やっと起きたか」


 エイプリルとシュガーだ。扉を開けて俺が起きていることに気付くと、エイプリルは飛びつくようにしてベッドの脇に縋りついた。


「すまん、心配かけたみたいだな」


「本当だよ、ここに運ばれてきた時なんていつ死んでもおかしくない状態だったんだからね」


 エイプリルは憤慨して俺の腕をポカポカと叩く。それから自身の胸に手を当てて、心底安心したように息を吐いた。

 俺のことでこんなにも一喜一憂してくれるとは良い腹心を持った。主人冥利に尽きるというものだ。俺はエイプリルを安心させるように背中へ手を回すとポンポンと優しく叩く。


「ほら見ろって、大丈夫だよ。腕だってちゃんと動くぜ」


「もう、調子良いんだから。今後は私の目の届かない所で命張らないでよね」


「…………善処するよ」


 俺の返事は納得のいくものではなかったようで、グルルと唸りながら俺の腕を両手で握りしめていた。まるで、もう一人ではどこへも行かせないぞ、と威嚇しているかのようだ。

 しかし、このままだと話が進まない。俺はエイプリルを一旦置いといて、シュガーへと視線を移した。シュガーは俺の視線に気づくと口を開く。


「とりあえず、お前が寝てる間に城山組の組長とは話をつけておいた」


「さすが仕事が早いな。それでどうだった?」


「こっちからはお前が事前に言っていた、双方が対等という条件での協力体制を敷くことへの打診をした。反応的にはわりと色よい返事を貰えたよ」


「おっ、本当か。そりゃ良かった」


「城山組の若頭を救って、なおかつライギュウとも良い勝負をしたってのが向こうさんにも魅力的に映ったようだ」


 シュガーが言うには城山組の目となる諜報員がまだ広場には隠れていたらしい。そいつらの報告により、俺たちの戦いぶりは城山組の組長のところまで届いていた。そのため、協力体制に関しても前向きに検討してくれたみたいだ。広場での作戦がまったくの骨折り損だったわけでは無いようで安心する。


「ヤクザクランはメンツを何より大事にしますからね。身内を助けられたとあっては見て見ぬ振りはできませんよ」


 助けられた張本人であるゲンが若頭だったことも要因としてはあるのかもしれない。若頭はヤクザクランの中で言えば組長の次に存在感のある人物だ。城山組からしてみれば屋台骨を失わずに済んだわけで、俺たちへの大きな借りができたわけだ。この貸し借りの関係は俺の作戦通りだ。俺はゲンへと視線を移すと笑って声を掛けた。


「ゲンの耐久力や粘り強さは広場で見てたんだ。次にライギュウと戦う時は頼りにさせてもらうからな」


「はい、手を取り合って頑張りましょう」


 俺はゲンの言動に苦笑いになりつつ握手する。やっぱり見た目と言動にギャップがあって変な感じになるんだよなぁ。見た目はパンチパーマをばっちり固めたヤクザスタイルなのに、言動はその辺にいるサラリーマンみたいな物腰だ。多分、この柔らかな物腰が素のゲンなのだろう。普段から染みついた行動はなかなか消せないものだ。


 それはともかくとして、心強い味方を手に入れることが出来た。ウチのパーティーの人員と比べてもゲンはカナエに次ぐ耐久力を持っていると言っていいだろう。RPGでいう所の盾役タンクを張れる人材だ。タンクとはパーティーの盾であり、居ると居ないのとでは安定感が断然変わってくる。

 そもそもカナエはアタッカーに回したい人材であったため、タンク役を担える者が他に加わったことも大きなメリットだ。


 ゲンが味方に加わることで広がる戦術の幅に俺の心は踊りっぱなしだ。さて、いかようにしてライギュウの野郎にリベンジしてやろうか。そんなことを考え始めたところで、水を差すようにシュガーが口を挟む。


「おっと伝え忘れていたけどな。協力体制を敷くには一つ条件がある」


「条件……?」


「そうだ。城山組が対等な相手として協力体制を敷くのに、相手がただの一パーティーだと示しがつかないそうでな」


「示しがつかないねぇ。それもメンツの関係か」


「そうだな、クランとパーティーが同列となるとクラン側は侮られていると感じてしまう者も出てくる。そうならない為にはこちらも同じ規模の存在にならないといけない」


「同じ規模って言っても俺たち三人しかいないし、急に人員増やすなんて無茶だろう」


 俺の発言を受けてシュガーは笑った。サングラスをクイっと直すと、まるで俺へと教授するように説明してくる。


「何も規模と言うのは所属する人数だけを指すわけじゃない。組織としての格が同列であればそれで良いのさ」


「ヤクザクランと同格の組織になるってことか。そんなんどうやってするのさ?」


「簡単な話だ。ヤクザクランを結成すればいい」


 それは思いもかけない言葉だった。ヤクザクランを結成する?

 そんな馬鹿げた話が本当に可能なのか。しかし、シュガーはしたり顔で話しているし、若頭のゲンは掌に拳をポンと押し当てて「なるほど、その手があったか」といった顔で頷く。


 え、ちょっと待って、本当にヤクザクラン結成するのか?

 というか、もしかしなくてもそれは俺がとても面倒な立ち位置になりそうな気配がビンビンに感じられるのだけど、そこんとこどうなんですかね。おい、笑ってないで何とか言えよ、シュガー。


「じゃあ、この紙を渡しとくぞ。クラン結成届の書類だ。今回は特別に城山組の組長が見届け人として組の認可を出してくれる。書き終わったら組長に見せてこい」


 シュガーはそれだけ言うと部屋を去っていった。部屋に残された俺はポカンとした顔のまま、ただただ呆然と『クラン結成届』と書かれた書類を見下ろすのだった。


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