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Non Killing Ninja’s Conquest Story ~不殺忍者の征服譚~  作者: かなぐるい
第三章 桃源コーポ都市と暗黒アンダー都市
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第七十二話 ライギュウという男

▼セオリー


 ライギュウは両手を広げると俺の方へ身体を向けた。どうやら完全に城山組の若頭からは興味を失ったようだ。その瞳には俺たちしか映っていない。しかし、そこで水を差すような声が届いた。


「ライギュウさん、城山組の若頭は生かしておくと面倒です。息の根を止めに追いましょう」


 それは広場に置かれた台座の上でライギュウとともに演説をしていた蔵馬組の若頭だった。彼の判断は冷静で正しいと言える。ライギュウに対して多少なりとも手傷を負わせることが可能だと分かった時点で城山組の若頭はなにものよりも優先して始末すべき対象となった。

 ライギュウを最高戦力として君臨させるためには、誰にも負けない圧倒的強者であることが保障されていなければならない。そうでなければ、先代の元締めであるライゴウのように反発する勢力を黙らせ、暗黒アンダー都市を牛耳ることなどできはしない。

 しかし、当の本人であるライギュウにはそこまで考える冷静さは無かった。


「それなら蔵馬のモンにでも追わせろ。ずいぶんと弱らせてやったんだ、それくらいできるだろぉ」


「しかし、万全を期すならライギュウさんの力が要ります」


「くどいわ、ボケ。俺は食い逃した獲物の相手で忙しいんだ。そっちはそっちで勝手にやれやぁ」


「……っ、分かりました。追手に組の者を放ちます」


 蔵馬組の若頭は言っても無駄だと判断したのか、ライギュウに背を向けて周囲の蔵馬組の構成員を呼び寄せる。そして、いくらか指示を飛ばすと構成員たちは一斉に城山組の若頭が逃げた方へと走り出した。

 ひとまずは第一関門の突破に成功した。蔵馬組が追手を差し向けたようだけれど、十把一絡げの構成員くらいなら護衛についているノゾミとタマエ、それからこっそりと後を追っているエイプリルもいるから問題ないだろう。


 第二関門はライギュウをできるだけ長くここに留めることだ。

 あんまりにも早く俺たちがやられてしまえば歯応えの無さで苛立ったライギュウが城山組の若頭を追いかけてしまうかもしれない。そうならないためにも程よく歯応えのある相手を演じなければいけない。

 というか、偉そうに演じるとか言ってはみたけれど、あまり呑気なことは言ってられない。相手は格上の実力を持っている以上、全力で戦うことに他ならないからだ。


 俺の隣にはいつかと同じくカナエが斧を両手に構えて立っている。シュガーは後方で待機だ。戦力的には前回と同じ。しかし、前回はライギュウに先手を取られて襲われるというイレギュラーな要素があったけれど、今回はこちらも準備万端だ。


「水を差して悪かったなぁ。さあ、やろうや。どこからでも掛かってこい」


 蔵馬組も広場から姿を消し、今や俺たちとライギュウだけが残っている状況だ。

 じりじりと間合いを測りつつ、ライギュウとの距離を縮める。前回襲われた時は三十メートル近い距離があったにもかかわらず、それを一瞬で縮めてきた。ライギュウの瞬発的な俊敏さはかなりのものだ。なるべくならこちらから先手を取り続けたい。


 そこで参考にするのは、先ほどまで戦っていた城山組の若頭の戦い方だ。

 俺は先の戦いを見ていてずっと疑問に思っていた。ライギュウの俊敏さはかなり高い。しかし、城山組の若頭は超至近距離で攻撃を避けることが出来ていた。それは何故なのか。


 あの戦いの最中、若頭の動きは特別早かった訳ではない。どちらかと言えばライギュウが拳を振り回す速さが遅くなっているように見えた。ライギュウの持ち味である距離を一瞬で詰める瞬発力や高速の拳が鳴りを潜めていた理由は何か。

 それは若頭の動きが関係していたのだろう。攻撃ごとにサイドステップを踏み、ライギュウの周囲を付かず離れず、絶えず円を描くように回避していた。それに対してライギュウは攻撃を当てるために脇を締めて左右へとフック気味に拳を振るっていた。その点こそ俺たちが襲われた時との違いだ。


 つまり、どういう理由か分からないけれどライギュウの持つポテンシャルは直線的な突進や前方への攻撃においてのみ有効となるのだ。

 逆に、至近距離の相手を対象として腕を畳んだ状態で放たなければならない攻撃は苦手なのだろう。言ってしまえば奴はまさに猪突猛進を体現しているのである。


「カナエ、回り込むぞ」


 俺とカナエは左右に散開してライギュウの身体を中心として二手に分かれる。それからライギュウの拳を掻い潜りつつ、それぞれの得物である斧と咬牙で斬りつける。ライギュウの左腕を『仮死縫い』が付与された咬牙で切り裂くと薄皮一枚程度のダメージが入る。しかし、今回はダメージが足りなかったようで、すぐさま返す刀で剛腕が振るわれる。

 攻撃と回避をセットにした一連の流れを数回繰り返ししてみると分かる。たった数十秒のことなのにもかかわらず、まるで何十分も戦い続けたかのような緊張感と疲労感が襲い掛かってくる。


「これは冷や冷やするな」


 拳が通り過ぎた後に巻き起こる風圧が髪の毛先を撫ぜる。その風圧の強さからは拳の破壊力が伺える。

 理論上はライギュウのベストパフォーマンスを封じることが出来るとはいえ、しくじれば死が見える中、剛腕の嵐の中を避け続けるというのは精神の摩耗が激しい行いだ。改めて若頭の胆力と実行力に舌を巻く結果となった。

 だが、俺たちは二人がかりだ。弱音ばかりを吐いちゃいられない。せめて一矢報いるくらいは、というかあわよくば『仮死縫い』で仮死状態にしてやりたいところだ。


「鬱陶しい戦い方だなぁ。仕方ねぇ少し本気を見せてやるか」


 しかし、ライギュウの方も俺たちの意図を察してか、次なる一手を放つ。両腕を上へと振り上げると、声を張り上げながら地面へと叩きつける。


「『雷神術・壊雷拳』」


「マジかよ……!」


 突然の忍術行使に驚いた俺は一瞬だけ、行動に遅れが生じる。そして、次の瞬間には辺り一面が真っ白な光に包まれた。それに続けて重く低い爆発音が轟く。

 俺の身体は何か固い物体の直撃を受けて後方へと弾き飛ばされた。そして、幾度かのバウンドを経て地面に転がり落ちた。なんとか一撃死は免れたようだけれど体力ゲージが大幅に削り取られた。砂煙が立ち込める中、なんとか体勢を立て直すと前方を見据える。


(大丈夫か?)


(あぁ、大丈夫だ。とはいえ体力を半分持ってかれたけどな。ヤバすぎ)


 シュガーから念話術で連絡が入る。俺は安心させるようにおどけた調子で状況を報告する。実際、笑うしかない威力だ。

 煙が晴れていくとライギュウの姿が現れる。そして、周囲の惨状を見て何が起きたのか察した。

 ライギュウの前方にぽっかりと人ひとりが横たわって入れそうな大穴が開いていたのだ。まさかとは思うけどアレは拳を叩きつけて開けたのか。にわかには信じがたい。いや、信じたくない。というか、もしかして俺が受けたダメージって余波で飛んできた地面の破片が当たっただけのものか?


「おいおい、直撃したらどうなっちゃうんだよ」


「これを見てまだ軽口を叩けるたぁ、いい根性してるじゃねぇか」


「軽口叩かなきゃやってらんねーだろ、こんなん」


 俺は咬牙を握り締めるとライギュウを見据えて構え直す。先の一撃で距離を離されてしまった。この間合いは良くない。向こうは一度の踏み込みで踏破してくるだろうけど、こっちには有効な攻撃手段が無い。

 焦りを表に出さないよう不敵に笑みを浮かべながら少しずつ距離を詰める。そんな俺の様子を見てライギュウは口角を上げた。


「楽しいねぇ」


「何がだよ」


 ライギュウは両腕を広げて仁王立ちしたまま笑う。俺は不可解なライギュウの言動を疑問に思い尋ねる。もしかしたら時間を稼いで離された間合いを再び縮められるかもという打算もあった。


「俺がちょっと本気を見せると誰もが逃げて行っちまうんだよ」


「そりゃあ、そうだろ。俺だって逃げ出したいくらいだ」


「ははっ、そいつぁ嘘だな」


「……どうしてそう思う?」


 ライギュウと俺の視線が絡み合う。

 奴の目には闘争という炎が燃え続けている。死と隣り合わせの戦いの中で、それでも目には喜色を浮かべている。まさに闘争こそが楽しみとでも言わんばかりに輝いていた。


「今まで戦ってきた輩は誰も彼もが最後は諦め、負けを悟った」


 声色に数多の相手に対する失望の色が多大に含まれる。しかし、それを払拭するように頭を振り、それから人差し指を俺へと向ける。


「だが、お前は違う。……そう、その目だ。お前はまだ勝ちを諦めちゃいない。戦意喪失せずに次の戦いへ向けて準備を整えている。武器を構え、機を窺い、あまつさえ再び俺との距離を詰めてきている」


 どうやら俺の浅はかな行動は見透かされていたようだ。しかし、見透かしてなお攻撃を仕掛けて来ない所を見るに、この会話はライギュウとしても意義をもって話しているのだろう。


「つまり、自分を前にして臆せず向かってくる奴が現れて嬉しいってか?」


「そうだ、その通りだ。そして諦めずに向かってくる者には全力という礼儀でもって返すこととしている」


 ライギュウはそういうと天を仰いだ。すると中空に薄黒い雷雲が発生し始めた。ここは地下だ。上に空は無い。しかし、雷雲が生まれているということはライギュウがなんらかの方法で発生させているということだ。


「さぁ、刮目して見るがいい。『雷神術・雷鬼降臨』」


 ライギュウの詠唱とともに異常に発達した雷雲から雷が零れ落ちる。その目指す先はライギュウ自身だ。光の筋が地へ伸び、直後に轟音が轟く。光に包まれ、ライギュウの姿は見えなくなった。そして、光が収まった後に再びライギュウの姿が映し出される。



 しかして、そこには雷を帯びた一匹の鬼が立っていた。


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