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Non Killing Ninja’s Conquest Story ~不殺忍者の征服譚~  作者: かなぐるい
第三章 桃源コーポ都市と暗黒アンダー都市
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第六十九話 クエスト失敗と解散宣言

▼セオリー



 そう、あれはまるで、———鬼。



 ホタルはそれだけ答えると、ムロの方へと近付いていった。そして、青白い電子巻物を表示させる。


「ムロさん、今までありがとうござました」


「どういうことっすか、若頭?」


「……芝村組は現時点をもって、……解散します」


「そ、そんな!」


 ホタルはそう言って電子巻物を操作した。すると、同時に俺の目の前にも電子巻物が表示される。



『クエスト失敗:ヤクザクランの立て直し」



 どうやら、今の操作でクエストの失敗条件を満たしたようだ。おそらくはクランの解散を実行したのだろう。目の前で一つのクランが消滅するところを目の当たりにしてしまった。それは唐突に迎える終わりだった。ホタルはライギュウという脅威を前に心が折れてしまったのだ。

 ホタルは再び瓦礫の山へと向き直ると、今度は小さな身体で辺りに散らばる瓦礫を運び始めた。


「若頭、俺も手伝いますよ!」


 ムロが声を上げる。そして、ホタルと一緒に瓦礫の撤去作業を始めた。普通のゲームであれば破壊されたオブジェクトは時間が経てば勝手に消滅するけれど、このゲームではいつまででもそこに残り続ける。ホタルにとっては様々な思い出が残る場所だろう。最後くらいは自分の手で片を付けたいのかもしれない。


「俺たちも手伝っていいか?」


 俺はホタルの傍まで寄ると声をかける。ホタルは驚いた様子で俺を見た。


「芝村組は解散しました。食客の資格も無くなってるはずですよ」


 そう言われて取得した資格の欄を表示させる。たしかに『芝村組食客』の資格が失効になっていた。


「たしかに、俺はもう食客では無いな」


「だから、セオリーさんはもう自由です。ボクたちのことは気にせずにゲームを楽しんでください。巻き込んでしまって、すみませんでした」


 ホタルはペコリと頭を下げる。負け戦に巻き込んで申し訳ない、という気持ちがありありと見える。でも、これで終わりじゃ俺の腹の虫が収まらないんだよなぁ。


「じゃあ、自由にさせてもらうぜ」


 俺はそう言って、瓦礫の撤去を手伝い始めた。黙々と瓦礫を運ぶ俺を、ホタルは驚いた眼で見つめてくる。エイプリルとシュガーもやれやれといった表情で俺に追従してくれた。

 それから一時間もしない内に瓦礫の撤去は完了した。本来なら一日がかりで終わらせるような作業だったけれど、疲れを癒すノゾミ、怪力のカナエ、暴風を操るタマエのトリオが八面六臂の活躍を見せ、作業時間を大幅に短縮してくれた。


 作業後、ムロはホタルからの芝村組解散宣言を受けて、芝村組の若衆へと連絡を取っていた。この連絡が行き渡った時、ゲーム的データとしてのクラン解散だけでなく、この世界の人々に認知される認識上の解散も済むというわけだ。


「セオリーさん、手伝ってくれてありがとうございました」


「なに、乗り掛かった舟だ。気にするなよ」


 俺たちが見送る先で、最後の瓦礫を載せ終えた運搬車が出発する。運搬車は撤去作業の途中で若衆頭のムロが手配してくれたようで、瓦礫を正規の処分場所まで持って行ってくれるとのことだ。こういった細々とした手配を抜かりなく済ませるあたり、ムロはなかなか目端の利く人物のようだ。

 遠ざかっていく運搬車を見届けてから、ホタルへと向き直る。


「本当に解散して良かったのか?」


「元々、大組長は解散を指示していましたから、これで本来の状態に戻ったんですよ。むしろ、ボクがもっと早く決断していれば、他の若衆頭のみんなは死なずに済んだのに」


 ホタルは組を存続させたことで、構成員を死なせてしまったと考えている。だからこそ、これ以上の死を生まないために芝村組解散を宣言したのだろう。もちろん、このまま徹底抗戦したところで、蔵馬組をバックにつけたライギュウに打ち勝つのは難しかっただろうし、ここらが潮時なのは分かる。


「解散っていう決断に至るのは理解できる。……だけどよ、ライゴウの意志を尊重するなら、ライギュウの所業を放置するのも違うんじゃないか」


「大組長の意志、ですか?」


「ライゴウは芝村組の解散を望んでいたんだろう。だが実際のところ、ライギュウは勝手に芝村組の看板を持ち出して利用しようとしてるだろう。ライゴウが生きていたら、それを許しはしないんじゃないか?」


 シュガーの情報によれば、蔵馬組を中心にライギュウを芝村組の組長へと据えようと、あちこちで情報操作が行われているらしい。つまり、言ってしまえば芝村組ホタル派は解散したけれど、芝村組ライギュウ派は存続してしまっているわけだ。まあ、ライギュウ派と言ってもそっちはライギュウ一人なんだけど。


「ですが、ボクたちにライギュウをどうこうする術はもはや無いですから……」


「そんなもん、俺たちが力になる。それに元はと言えば、俺もライギュウに喧嘩を売られてるんだ。出張って行って、一発くれてやらないと気が済まないんだよ」


 俺はホタルに笑いかけた。


「だからさ、もし良かったら俺のパーティーに入らないか? 上手くいけばライギュウをぶっ飛ばす所を特等席で拝めるぜ」


 俺の言葉がダメ押しになったのか、ずっと塞ぎ込んだような表情をしていたホタルが今日初めて噴き出した。


「ふっ……、ふふっ、あはははは! どうしてそんなにやり返す気満々なんですか」


「そりゃあ、やり返さなきゃ向こうはもっと好き放題する一方だぞ」


「でも、これだけの被害を一撃で起こすような相手ですよ。怖くないんですか?」


 ホタルが辺りを手で指し示す。瓦礫を撤去した結果、何にもない平地が広がっている。ほぼ一撃の下にこの惨状を生み出したことは驚嘆に値する。だけど、恐れは微塵も感じない。


「だいぶ感覚が麻痺してきてるのかもな。ライギュウなんかより、大怪蛇イクチの方が何倍も怖かったよ。……それに、やられっ放しは性に合わないんでな」


 俺の言葉を聞いて、ホタルは何事か考え込んでいるようだった。そして、「考えさせてください」と言ってその場を去った。

 ひとまず相互フレンドには登録できたので連絡は取り合える。ついでに仮住まいの拠点も伝えたので、何かあればそちらを訪れるだろう。


今回は切りの良いところまでで少し短め。

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