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Non Killing Ninja’s Conquest Story ~不殺忍者の征服譚~  作者: かなぐるい
第三章 桃源コーポ都市と暗黒アンダー都市
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閑話休題 エイプリルのバレンタイン大作戦 その1

今日は急だけど番外編の更新です。

バレンタインの話になります。


※注意

この話は時系列的には現状のメインストーリーより未来の話になります。

そのため、急に知らない言葉や知らない人物が生えてくることがあります。

その辺は大らかな気持ちで飲み込んでください。

▼エイプリル


 二月十四日。この日はバレンタインデー。日頃の感謝を込めて、大切な人に贈り物をする日だ。

 山奥の隠れ里にいた時には忍者修行に明け暮れていたため、そういったイベント事とは疎遠な生活を送っていた。しかし、だからと言ってバレンタインデーを知らなかった訳ではない。教官忍者の先生が定期的に世間に広まっているイベント事に関して教授してくれていたからだ。先生曰く、「世に疎ければ世に紛れることなどできぬ。至上の忍者ならば俗世間の知識も貪欲に吸収すべし」とのことだった。

 ただ、知識としては知っていても、実際にバレンタインデーの日に贈り物を用意して誰かに渡すなんてことは今まで一度も経験が無い。私にとっての初めてだ。


「なるほど、それで俺に白羽の矢が立った、と」


「シュガーならセオリーの好みも知ってるかなと思って」


「うむ、腐っても現実世界では十年近くの付き合いになるからな。十年も経つと嫌でも相手のことが分かるようになっちまう」


「お願い。私に協力して!」


「まぁ、そのくらいのことならお安い御用だ」


「ホント?!」


 シュガーの言葉に期待が膨らむ。私だって本当ならセオリーとはずっと小さなころから切磋琢磨しながら忍者修行をしてきた仲だ。しかし、セオリーを含むプレイヤーたちの視点からは忍者修行で切磋琢磨してきた期間というのは早送りで再生された映像のように目まぐるしいものだったらしい。つまり、その期間中のセオリーの所作に、セオリーの意志はあまり介在していなかったということになる。

 そうなると、山奥の隠れ里から抜け出して共に過ごした期間こそが、真にお互いが相手を認識して過ごした期間ということになる。その換算だと、私とセオリーの付き合いは一年にも満たないこととなる。シュガーの十分の一だ。

 しかし、ポジティブに考えれば、単純計算でシュガーは私の十倍はセオリーのことに詳しいことになる。私の周りには敵が多い。そんな中でシュガーを味方につけることは大きなアドバンテージになる。


「それで贈り物の案とかは考えているのか?」


「うーん、そこが今一番悩んでいるとこなのよね」


「初っ端から(つまづ)いてるわけか」


「だって何が喜ばれるのかも分からないし……」


 この一年でセオリーが喜んだり、楽しんだりしていた状況というと、忍具屋の隠し扉を起動させようとした時や新しい忍術・忍具を試していた時などだ。つまり、忍者としての体験自体を純粋に楽しんでいることが多い。


「なるほどな、たしかに俺たちからすれば、ココはゲームの世界だ。忍者として体験を求めてこのゲームをしている訳だから、笑顔が見られるのも必然的にそういった瞬間が一番多くなるだろうな」


「それなら、私が忍具を作ってプレゼントすれば喜ばれるのかな?」


「それはまぁ、喜ぶだろうけど、うーん……」


 シュガーの返事は歯切れが悪い。その理由は私にだって分かる。セオリーは私が作った忍具を愛用してくれている。つまり、日頃から渡しているものと代り映えしないのだ。


「もしくは、物じゃなくても良いかもな。セオリーは気持ちを大事にする男だ。エイプリルが気持ちを込めてアタックすれば、それを無下にすることはないだろう」


「物じゃないって言うと?」


「つまり、エイプリル自身がプレゼントになる、とかな。つまり、感謝の気持ちを述べる、というわけだ。あいつは体験を求めている。古風な手だが手紙を渡してやったりすれば、あいつも初めての体験になるだろう。想いが強く伝わるかもしれん」


「わ……、わ……私がプレゼント?」


「ん? まぁ、そんな感じだ」


 私はシュガーの提案にただただ驚くしかなかった。最初の一文を理解するのに時間がかかり、理解した後で頭の中が真っ白になった。頭の中でシュガーの提案を反芻する。


『エイプリル自身がプレゼントになる、とかな……あいつは体験を求めている……あいつも初めての体験になるだろう。想いが強く伝わるかもしれん』


 私がプレゼントになって、初めての体験……! あぁ、ダメだ。顔が火照り、耳まで赤くなっていくのを感じる。いくらなんでも、それはさすがに性急すぎじゃないだろうか。でも、セオリーとの付き合いはシュガーが一番長い。その彼が言うのだから、意外とセオリーはそういうことに興味があるのかもしれない。


 そうだ、今シュガーの言ったことをもう一度考えよう。『あいつも初めての体験になるだろう』、たしかにそう言った。つまり、お互いに初めての体験になる、ということだ。……それなら、少しだけ私も興味がある。セオリーの初めてを奪いたいし、奪われたい。

 よし、エイプリル。覚悟を決めろ。周りの敵に先を越される前に、私が勝ち取るのだ。そうと決まれば細かいところを詰めていこう。


「ちなみに、セオリーはありのままの私でも受け入れてくれるのかな。それとも何か趣向を凝らした方が良いのかな」


「ありのままのエイプリルでも問題ないとは思う。飾らない、というのはエイプリルの良さを全力でぶつける、ということだ。しかし、純粋な実力勝負になってしまうことにもなる」


「実力勝負……」


 頭の中で仮想敵を思い浮かべる。逆嶋の街で私の次に腹心となった女性が思い浮かんでくる。彼女はモデル顔負けの長身に加え、すらりと伸びた手足が特徴的だ。セオリーのためなら何でもしそうな雰囲気を醸し出しており、目下のところ最大の強敵だと考えられる。

 そして、純粋な体型で勝負すると悔しいが彼女には負けているという自覚がある。


「ダメ、実力勝負だと敵わない。セオリーのツボを押さえた搦め手が欲しいところね」


「ほう、俺から見ると実力勝負でも問題ないと思うが貪欲だな。だが、その求めるもののためなら貪欲にもなれる、その姿勢は気に入った。ならば、あいつの趣味嗜好から考えられる至高の女性へとエイプリルを飾り立てよう」


「よろしく、シュガー!」







 そうして、私とシュガーの秘密の準備が始まった。私には忍具作成という便利な技能がある。この技能は応用範囲が非常に広く、大概のものは忍具だと言い張れば作成できる。つまり、衣装や小道具のようなものも作成できてしまうのだ。


「やはり、セオリーと言えば(うさぎ)だろうな。あいつは兎に目がない」


 セオリーは過去にうさ耳の少女を仲間にしていたという。つまりはそういうことだろう。うさ耳を作成リストに書き込む。


「言葉は飾らない方が良い。むしろ直接的なくらいが、あいつには伝わるだろう」


 それは私としてはかなり恥ずかしい提案だ。というか、直接的な表現ってどんな風だろう。


『バレンタインのプレゼントは私だよ、食べて!』


 うぐっ、これは無理だ。どんな顔してこんな恥ずかしい言葉を吐くと言うのか。もっとオブラートに包んだ表現にしよう。さすがに少しくらいはセオリーにも察してもらわないと私ばかりが精神を摩耗している。


「ただ、普通が過ぎる体験は刺激が足りないだろう。途中で少し捻りを加えるのも良いかもしれないな。あぁ、最初に気持ちを伝えて、最後に物を使うか。……手紙&プレゼント、これだ!」


 シュガーの言葉は、私には刺激が強すぎた。正直、最後の方の一文はちゃんと聞き取れなかった。とはいえ大体は聞き取れた、大事な所は聞き洩らしてないだろう。

 それにしたって、お互い初体験なのだからそれだけで刺激は十分だろうに、さらに捻りを加えて、物を使う……? 物って何なの? 分からないけれど、とりあえず刺激をプラスできるものを用意しておくってことだろう。作成リストに加える。






 それからバレンタインデー当日までの残された期間で、シュガーのアドバイスを頼りに、私は材料を集めて衣装を準備した。


 うさ耳を装着する場合の正装をバニーガール衣装というらしい。それはシュガーを介さず、自分で調べた。確かに刺激的な衣装だ。これならモデル体型のアリスとも渡り合える。

 それから、難題だったのは一捻り加えるための物だ。マンネリしないための刺激を追加するアイテムということだろうけど、そういった知識に関しては疎いのでなかなか分からない。誰かに聞くと言うのも、恥ずかしさが勝ってしまい切り出せずにいた。あとは自分の想像からなんとかするしかない。


 悶々としながら考えを巡らせる。しかし、初めての体験のことを考えると、それだけで顔は火照り、耳まで真っ赤になるのだ。その先のことなんて考えもつかない。というか、シュガーの提案してくれたプランはさすがに一足飛びで詰め込み過ぎなのではないだろうか。

 あんまりにも急ピッチで関係を進めるというのは、私としては違うと思う。もっとゆっくりと関係を育んでいく過程も大事にして良いのではないだろうか。




 なんだか頭も冷めて、冷静に物事が見えてきた。これまでの私はなんだか熱に浮かされていたようだ。そうして冷静になれたおかげで、一つ名案を思い浮かんだ。当初の案である贈り物に立ち返ろう。

 それから私は材料となる鉱石を採掘しに鉱山へと向かった。そして、材料を手に入れた後、忍具作成であるものを作った。



 それは対になる指輪だ。



 指輪の内側にそれぞれ相手の代名詞となる紋様を刻み込んでいる。セオリーの方の指輪には私の『瞬影術』の紋様が、私の方の指輪にはセオリーの『不殺術』の紋様が刻まれている。この指輪を身に着けることで、常に相手の紋様が自分の身体に跡として残り続けるのだ。我ながらなんと名案だろう。


 それからはバレンタインデー当日までの残された期間でできる限り完成度を高める作業に没頭した。バニーガールと指輪。これが私の武器だ。あとは、直接想いを伝えるだけ。

 言葉を考えると顔から火が出そうになる。そして、その恥ずかしさを紛らわす様に衣装と指輪という武器を研ぎ澄ましていったのだった。


すまない、今回の話は続くんだ。


だが、安心して欲しい。

続きは明日更新する。更新時刻は同じく15時だ。

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