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Non Killing Ninja’s Conquest Story ~不殺忍者の征服譚~  作者: かなぐるい
第六章 ワールドクエストと宇宙怪獣攻略
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閑話休題 サマーバケーション その5


 夏合宿三日目、昼過ぎ。

 昼食を終え、午後に入ると今日は浜宮がサプライズイベントを用意していた。


 場所を移し、セミナーハウス内にある会議室を借りる。宿泊用の部屋と比べると明らかに広々とした部屋だ。さらにテーブルとイスを部屋の隅へ寄せることで中心に広い空間を作ると浜宮は部屋の四隅にカメラを設置した。


「よし、概ね準備は完了したな……」


「浜宮先輩、大丈夫ですか?」


 浜宮は準備を終えるとホッと一息ついて水を飲んだ。淵見は心配して声を掛ける。

 なにせ、午前中は酷かった。朝食はほとんど喉を通らず、昼食もなんとか半分食べた程度である。


「……うむ、多少は良くなってきた」


 頭を手で押さえつつ浜宮は答えた。つまりは二日酔いである。

 昨晩の飲み会では結果的に淵見を除く三人が飲酒していた。その内、浜宮は少々アルコール度数の高いものを飲んでいたらしい。

 飲酒しつつも早々に寝落ちしていた鷹条や誤って飲酒したが缶一本だけだった神楽は朝になると平然としていたが、浜宮だけは昨夜の酒によるダメージが残ったままだった。


「酒、強くないんだから無理しないでくださいよー」


「しかし、せっかくの飲み会で飲まないというのも……」


「懲りてない。ほどほどにすべき」


「う、うむ」


 神楽と鷹条にもたしなめられて浜宮はシュンと小さくなってしまった。

 淵見は知らないが、浜宮は昨年も合宿で同じように二日酔いでグロッキー状態となっていた。そのため、鷹条と神楽からすれば「またか」という感情が湧き上がっていたのである。

 そんなこととは露知らず、浜宮が小さくなってバツの悪そうな表情を浮かべているのを見た淵見は「酒を飲めるようになっても失敗しないようにしよう……」と心に刻んだのだった。




「さて、気を取り直して本日のサプライズイベントだ」


 反省も束の間、浜宮は気を取り直して声を張り上げる。

 それを合図に各々が自身のVRダイブ用ヘッドギアを取り出した。


「ヘッドギアを用意しろって話でしたけど、何するんですか?」


 淵見が尋ねると、浜宮は深く頷いて説明を始めた。


「今回はAR、すなわち拡張現実に関する実験を行う。まずは姫のヘッドギアをパソコンに繋いでみよう」


 神楽のヘッドギアが浜宮のパソコンへ繋がれていく。


「挿入されているゲームカードは『降霊巫女様珍道中』か。では、姫はヘッドギアを装着し、他のメンバーはARグラスを掛けたまえ」


 浜宮に言われるまま神楽はヘッドギアを装着した。淵見と鷹条も浜宮に渡されたARグラスと呼ばれる特殊な眼鏡を掛ける。


「キャラクターデータ再構成よし。アバター化よし。……四点式AR空間、起動!」


 浜宮はタンタンタン、ターンっ! とタイピングを終える。と同時に淵見と鷹条の視界に変化が表れた。


「おおっ、ルミナが目の前に居る?!」


 最初にリアクションをしたのは淵見だった。彼の視界では、神楽とともに遊んだゲーム「降霊巫女様珍道中」の主人公キャラ、ルミナが部屋の真ん中に立っていたのである。


「わあ、すごいよ。目の前に淵見くんがいるー!」


 次に驚きの声をあげたのは神楽である。ヘッドギアを装着した状態で声をあげている。その口振りだと神楽には淵見が目の前に見えているという様子だ。しかし、淵見の目の前に居るのはルミナである。


「もしかして、このルミナが神楽先輩なんですか?」


「その通りだ。この部屋は現在、仮想現実と同期されている。この中では任意のアバターとなって自由に動き回ることができるのだよ」


 浜宮の言葉通りルミナこと神楽は身軽な様子で室内を飛び回ってみせた。ゲーム内で出来る動きなら大体できるようだ。しまいには札を取り出して投擲するのも見せてくれた。


「ルミナになって現実世界を歩き回れるなんて不思議―!」


 神楽は感動している。特に降霊巫女様珍道中はステージの決まった拠点防衛ゲームだ。普段と違う場所で、ルミナのアバターになっているのは新鮮な体験なのだろう。


「では一度、終了します。次は淵見くんのヘッドギアを持ってきてくれ」


 神楽のヘッドギアが外され、次は淵見が指名される。

 手馴れた流れで同じように淵見のヘッドギアとパソコンが接続された。


「うむ、リクエスト通り『‐NINJA‐になろうVR』を持ってきてくれたな」


「一応、言われた通り持ってきましたけど、今度は俺がゲーム内アバターで動けるんですか?」


「いいや。もちろん、それもできるがもっと面白いことができるはずだ」


 浜宮は不敵に笑うと淵見にARグラスを手渡した。今回はヘッドギアを装着せず、淵見もARグラスを掛ける側のようだ。


「キャラクターデータおよび人工知能AIの解凍中」


 浜宮がパソコンの画面で何か操作をしている。


「今度は何を?」


「うむ、最近の研究で分かったんだがね。『‐NINJA‐になろうVR』はヘッドギアの中に式神などの従僕化させたモンスター等のデータを格納していることが分かったのだ」


「式神を格納、ですか」


「そうだ。そして、聞くところによれば淵見くんはユニークNPCを配下にしているという」


「あぁ、エイプリルのことですね」


「つまり、……おや、解凍が完了したようだ」


 浜宮は再びタンタンタン、ターンッ!とキーボードを叩き、ARを起動させる。


「……マジっすか」


 淵見は言葉を失った。

 何故なら目の前にエイプリルが存在()たからだ。





 静かにゆっくりとエイプリルが目を開く。

 完全に目を覚ました後、辺りをキョロキョロと見渡した。

 それから淵見、神楽、鷹条、浜宮の順で一人ずつ凝視していく。


「ここはどこ?」


 エイプリルの警戒したような声が聞こえた。音の出どころは浜宮のパソコンのスピーカーだ。


「浜宮先輩、こっちの声って聞こえるんですか?」


「ARグラスにマイクが付けてある。意志の疎通はできるはずだ」


 浜宮の答えを聞き、淵見はそれならとエイプリルへ向き合った。


「えーっと、何と説明したもんかな」


 向き合ったはいいが淵見としてもいきなりのこと過ぎて説明が上手く思いつかない。


「とりあえず、エイプリルに分かるように説明すると、ここはいわゆる現実世界というか」


「もしかしてセオリーなの?!」


 ハッとしたような顔をしてエイプリルは淵見へ近寄った。なんで分かるんだよ、と淵見は思ったがこれまでもゲーム中で腹心たちの異常な鋭さは経験済みだ。なにか特殊な嗅覚が備わっているのかもしれない、と思うことにした。


「よく分かったな。そう、俺はセオリーだ。……なんか改まって自己紹介するのむず痒いな」


「名前を呼ばれた瞬間に分かったよ!」


「そういうもんなの?」


 ちらりと浜宮へ視線を送ると、顎に拳を当てて首を傾げていた。実際はそういうもんでも無さそうだ。


「それから向こうの二人がコヨミとタカノメだ」


 続けて淵見は神楽と鷹条を手で指し示しながら紹介した。

 エイプリルはぴょんと跳ねるように向きを変え、マジマジと二人を見た。


「普通の服なんだね」


 第一声の感想はそれだった。たしかにコヨミは巫女服、タカノメは改造軍服のような衣装を着ているので、それと比べれば今の神楽と鷹条は普通の女の子な服装だった。


「まあ、ゲーム内と現実だとだいぶ違うわな」


「そう! そうだよ、ここが現実ってどういうことなの?」


 エイプリルは淵見へ詰め寄ると疑問をぶつけてきた。とはいえ、淵見も詳しいことは分からない。視線で浜宮へ助けを求めると、待ってましたとばかりに浜宮が前へ出てきた。


「フッフッフ、ではユニークNPCエイプリル君に説明してあげよう!」


 それから得意のマシンガントークで拡張現実による仮想空間と現実空間の同期など、今回使用したシステムの説明をし始めた。その説明は30分ほど続き、エイプリルは途中から半分話を聞いていなかった。






「つまり、今私に見えてるセオリーが本当のセオリーってこと?!」


 目を丸くしてエイプリルは淵見を見た。ぺたぺたと淵見の身体を触ろうとするが、さすがに仮想現実の住人であるエイプリルは触れることができない。スカッと空を切ってしまう。


「申し訳ないが身体接触の方はまだできない。あくまで視覚を現実と同期させているだけだからな」


 身体に触れようとするエイプリルへ、それはできない、と浜宮は伝えた。

 しかし、エイプリルはその説明を聞いてさらに突っ込んだ質問を投げ掛けた。


「今はまだ、ってことはいずれ接触もできるようになりますか?」


「断言はできない。しかし、触覚を含む五感全ての仮想現実との同期は目標の一つだ。達成されれば可能となるだろう」


 浜宮の目標は仮想現実と現実世界の境目を限りなく薄くすること。今回行った実験はその過程に過ぎない。淵見のヘッドギアからエイプリルを呼び出したのも、人工知能を搭載したAIが問題なく現実を認識できるかをテストしたかったのだ。


「もし、淵見君とエイプリル君が良ければ今後も実験に協力して欲しい」


 浜宮の目的を知ったエイプリルは二つ返事で協力したいと答えた。淵見も大学に在学している間は問題ないと答えた。

 こうして浜宮の思惑とエイプリルの思惑が思わぬところで合致したのだった。淵見はその場のノリで「おぉ、なんかすごい研究してるんだなー」くらいの考えで協力を承諾した。





 なにはともあれ、浜宮の実験は成功した。人工知能を搭載したAIに現実世界を認識させ、会話をすることができたのだ。


「ところで、どうしてセオリーはコヨミやタカノメと一緒に居るの?」


「えっ、それは、あの~……大学の合宿というか」


 そして、淵見の方はエイプリルから根掘り葉掘り質問攻めに遭い、洗いざらい現実世界での事情をゲロったのだった。

これにて番外編である「夏合宿」編の書きたかったイベントは書きました。次回以降はしれっと本編に戻ってくる予定です。

今回の話の結果、何ができるかというと今後エイプリルを現実世界で登場させることができるわけですね。

まあ、本編でそれが活かされることは無いと思いますが、今後の番外編ではちょくちょく現実世界でエイプリルが出てくるかもしれません。

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