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Non Killing Ninja’s Conquest Story ~不殺忍者の征服譚~  作者: かなぐるい
第五章 世界の軛と関東サーバー統一
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第百九十一話 真剣勝負……とはなんぞや?

▼セオリー


「あなたの術は毒か何かでしょうか? かなり強力ですね。毒に耐性のある私が蝕まれるほどとは……」


 八重組の忍者と思われていたくノ一の抜け殻、その地面の下から現れた蜘蛛は足の二本を負傷していた。おそらく俺が『仮死縫い』で突き刺した箇所だ。どうやら『仮死縫い』を麻痺毒のたぐいと勘違いしているらしい。

 穴から出てきた蜘蛛は小柄だった。全体的に黒っぽい身体に黄色い横縞が入っている。何の変哲もないありふれた見た目をした蜘蛛だが、仮死縫いで負傷した前足の二本だけが特徴的な金色に輝いていた。


「その金の足は……。まさか、ツチジョロウか!?」


 ダイコクの驚いたような声が洞窟内に響き渡る。


(知っているのか、ダイコク)


 俺は何か情報を知っている様子のダイコクへこっそりと『念話術』で尋ねた。


(うむ、おそらくヤツはツチジョロウ。十年以上前、関東一帯を恐怖に陥れたユニークモンスターだ)


 ダイコクの説明に今度は俺が驚いた。今回の相手は思った以上に大物だったらしい。というか、どうしてヤクザクランの序列争いにユニークモンスターが出てくるんだ。こんなの普通に考えたら俺たちに勝ち目はないじゃないか。


(討伐されたとばかり思っていたが、八重組が隠れて飼い慣らしていたようだな……)


(ユニークモンスターって飼い慣らせんのかよ)


 飼い慣らすってそんな簡単な話なのだろうか。ゲーム的に考えると、おそらくモンスターをテイムしたみたいな扱いなんだろうけど、ユニークモンスターの逸話を聞く限り、とてもテイムできるような生物ではないように思える。


(手段は知らぬが、目の前に実物がいるのだ。そうとしか考えられん)


 ダイコクは目を見開いてツチジョロウと呼ばれた蜘蛛を見ていた。その様子は俺が初めて大怪蛇イクチを目の当たりにした時に似ている。つまり、この反応がツチジョロウの脅威を如実に表しているわけだ。

 とは言うものの、正直俺はあまりピンと来ていなかった。イクチなんかは目の前に現れた時の存在感やスケール感からして空気が重くなったような迫力があったのだけど、目の前にいるツチジョロウからはそれほどのプレッシャーは感じられない。


「……貴方は母のことを知っているのですね」


 少し黙った後、蜘蛛はポツリと意外な言葉を漏らした。


「母、だと?」


「えぇ、ツチジョロウは私の母です」


 ダイコクが目を白黒させている。衝撃の事実である。ユニークモンスターツチジョロウには子どもがいた! いや、まあ、そりゃいることもあるか。


「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね。なかなか姿をお見せいただけなかったので申し遅れました。私は母より『虚巨群体』を受け継いだ一人娘、名をアーティと言います」


 名乗りを上げたアーティは礼儀正しく頭部を下に向けた。おそらくお辞儀をしたのだろう。見た目は蜘蛛なのであまりよく分からないけれど。


(『虚巨群体』の名を再び聞くことになろうとは)


 ダイコクが『念話術』で言うには、『虚巨群体』とはかつてのツチジョロウが冠した二つ名のようなものなのだという。いわゆるイクチの『大怪蛇』の部分みたいなものだろう。


(かつてのツチジョロウと同じ能力を持っているのであれば、ヤツの眷族は無限に産まれるだろう。いよいよもって儀式忍術どころの話ではなかったな)


 当初、俺たちは儀式忍術によって蜘蛛を召喚し続けているのだと考えていた。しかし、ダイコクの話によれば、今回に関してはユニークモンスターであるアーティの持つ能力で無限に蜘蛛が生成されている、ということらしい。


(おいおい、無限って本当か。なら、今の状況はもう詰んでるってことじゃないか?)


(いや、逆だ。今こそが千載一遇のチャンスでもある)


 何やら矛盾している。ヤバいユニークモンスターだと分かったのに、ダイコクの方はむしろ今がチャンスだなどと言っている。現状、俺もダイコクもアーティの蜘蛛糸に四肢を絡めとられ、身動き取れない状況なのにもかかわらずだ。


(かつて、関東一帯がツチジョロウによって恐怖に陥れられた時、何に一番苦労したかと言えば、ツチジョロウ本体の居場所が分からなかったことにある)


(ほうほう)


 なるほど、無限の軍隊を生み出しているのは本体だけだから、その本体さえ倒せれば事件は解決というわけだ。しかし、その本体を見つけ出すための方法に難儀していたわけか。だが、今の状況はどうだろう。蜘蛛を無限に生み出す本体、アーティは俺たちの目の前にいる。これを千載一遇のチャンスと言わずして何を言うか、という話なのである。


(言いたいことは分かったか? お前さんの『支配術』のおかげで敵の急所まで潜り込めた。あとは何とかして本体を倒すのみ)


 ダイコクとなんとか作戦を練ろうと素早く思考を回転させていると、黙ったままの俺たちを見たアーティは続けて話を切り出した。


「……私は母の死と同時に生まれました。ですから、母のことはほとんど知りません。良ければ、母のお話を聞かせてもらえませんか? この戦いが終わると、私は再び結界の張られた座敷牢に戻されてしまうのです」


 そんなことを言い出したものだから、思わず俺とダイコクは顔を見合わせてしまう。気付けばライギュウの方へ向かってきていた蜘蛛軍団の攻勢も止まっていた。肩で息をするライギュウが不思議そうに蜘蛛たちを見ているので、こちらの状況をライギュウへ『念話術』で伝えておいた。


「真剣勝負の真っ只中で敵と雑談に興じようとは、ずいぶんと舐めてくれるな」


 ダイコクは剣呑な雰囲気を纏って返答する。こちらはなんとかしてアーティを倒そうと画策していたのに、当の相手は俺たちと戦うことよりも会話を優先したと言い出したのだ。相当舐められているか、相手として見られてすらいないのか。


「怒らせてしまったならすみません。八重組の組長はとても慎重なお方なのです。ですから、私が外で自由に人と会話できることなどほとんどありません。今がその貴重な機会なのです」


「む……、そうか」


 切実な様子のアーティにダイコクは若干ほだされ気味だ。どうやら強面のわりに情へ訴えてくる攻撃に弱いらしい。


「でもよ、そんな秘密にしときたい切り札なら、序列決めなんかに切るか?」


 何の気なしに俺が疑問を放り込むと、アーティとダイコクの二人から「えっ?」という視線を向けられた。あれ、なんか変なこと言いました、俺?


「……お前さん、それは本気で言っているのか?」


「だって、そうだろ。序列決めって言ったって一位の座は冴島組が譲らないんだから、序列二位から四位なんて団子みたいなもんだろ」


「うぅむ、その考えは少しばかり違うな。序列二位とそれ以外では大きな差異がある。分かるか?」


 ダイコクは俺を試すように謎を投げ掛けてきた。二位とそれ以外の違い? なんだそれ。俺の顔にハテナマークが浮かんでいるのを察したらしいダイコクは早々に答え合わせをしてくれた。


「それは冴島組の若頭になれるか、という差だ」


「えっ、もしかして序列二位になると冴島組の若頭になれるの?」


「慣例通りであれば、序列二位の組長が冴島組の若頭に据えられる。知らんかったのか」


 目の前のアーティも頭部をコクコクと上下させている。どうやら、本当らしい。それは初耳だ。


「そうなってくると、この序列決めってかなり大きな意味を持つ戦いなんじゃないか?」


「だから、さっきからそう言っておる」


 いまさらな俺の認識にダイコクは若干の呆れ顔だ。アーティの方も困惑しているように心なしか見える。まあ、蜘蛛の表情なんて読めないんだけども。


「なるほど、だから八重組も切り札であるアーティを切ったわけだ。でも、ドローンで映像とか流れちゃってない。切り札なのに大丈夫?」


 俺たちの戦いはドローンにより撮影され、控え室の仲間たちの衆目に晒されている。そうしたら、切り札も大公開してしまったに等しい。


「それは大丈夫です。ドローンは入り口で絡め捕ってしまいましたから」


 な~るほど、通りでドローンが飛んでないなと思ったよ。

 さて、これで俺の疑問は大体解決してしまった。ダイコクの方は昔話に花を咲かせる気満々のご様子。アーティもよく知らなかった母の話が聞けるとあってワクワク顔だ。いや、蜘蛛の表情なんて読めないんだけども。


「長い話になる。座って話しても良いか?」


「はい、分かりました」


 ダイコクの口車に乗せられて、アーティは俺たちの四肢を縛っていた糸を緩める。こうして口八丁で縛りプレイを脱したのであった。

 さて、晴れて自由になったわけだし、隙を突いてアーティを攻撃! といきたいところだけど、ダイコクは深くあぐらをかいて座り込むと、遠い目をしながら「……あれは俺がまだ三十代の頃だ」などと喋り始めてしまったものだから、もうどうとでもなれだ。

 はいはい、分かりました。俺もその昔話聞くよ。ついでにライギュウの体力回復と俺の気力回復もできて一石二鳥だね。ダイコクの野郎、真剣勝負の真っ只中ってどの口が言ったんだよ!

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