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Non Killing Ninja’s Conquest Story ~不殺忍者の征服譚~  作者: かなぐるい
第四章 八百万カンパニーとツールボックス
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第百十九話 第六感 ‐シックスセンス‐

良い区切りが見つからなかったので、いつもより少しだけ長いです。

神楽かぐら 夜ミ子(よみこ)


 無事に今できるVR適応検査が終わった。

 あとは明日までARグラスを装着してもらって長時間の集中力を検査するだけなんだけど、この分だと淵見くんに関しては長期集中力の方は普通の結果で終わりそうかな。


 パソコンに表示された結果によると、鷹ちゃん先輩は昨年と大きく変わりない。記憶力に関する分野が平均より高めと出ているけど、これはおそらく集中力を長く保たせることのできる特性が関与しているんだと思う。

 それ以外は平均といったところ、とはいえ鷹ちゃん先輩の真価はARグラスで測る集中力の長時間持続の方だ。昨年より伸びているかどうかはそれを見ないと判断するのは難しいかな。


 それに対して、淵見くんの結果は面白い。

 四方八方から飛んでくる弾丸を避け続けるゲームや学校に潜入してきたテロリストを撃退するシミュレーションでかなり良い成績を収めている。

 動体視力や身体能力が飛躍的に向上しているわけではない。動体視力や反射神経はそこそこ良い評価だけれど、それでも常人の範囲に収まるブレだ。


 では、何が影響して良い評価を叩き出しているのか。


 それは予測する能力だ。

 人間には誰しも危険を察知する能力があるという。虫の知らせ、なんて言葉もあるくらいだから、そんなに珍しい能力ってわけじゃない。それが常人の持つ危険察知能力と同種のものであるならば、だけれども。


 常人の危険察知というのは、本人すらも気付いていないような僅かな環境の変化を無意識下で感じ取って、それが違和感に繋がることで察知できる。

 それはつまり、逆に言うと自身の五感が感じ取れる環境の変化みたいなものがあるからこそ違和感を察知できるのだ。


 しかし、淵見くんは最後の検査の中で連続して襲い来る死の危機を初見で回避し続けた。

 最後の検査に関しては危険を察知するというレベルを超えており、危険を予知しなければ回避が困難なものだ。つまり、彼の危険察知は五感以外の何かを駆使しているわけになる。

 もはや、超常的な領域に足を踏み入れているレベル。一体、彼は何を感じ取っているんだろう。



 そんな淵見くんのVR適応検査の結果は「第六感シックスセンス」だった。

 そう、検査ゲームの方からも五感を超えた領域に足を踏み入れた能力であることが証明されたのだ。


「第六感に秀でてる、ってことですか……?」


 淵見くんはモニターに映し出された検査結果を見て、そう呟いた。

 そもそも第六感は誰しもが持っているものではないので秀でているという評価は妥当か判断が難しい。とはいえ、彼のVR適応は分かった。


「うん、とっても面白い能力だね」


「どうなんですかね。せいぜい危険を察知するのが人よりちょっと早いくらいだと思うんですけど」


「そんなことはないよ。一番分かりやすく発現していたのは危険察知の能力だったかもしれないけど、きっと他にも影響を及ぼしてると思う」


 淵見くんはこれまで自分のVR適応の能力を主に危険を察知することに使っていたみたいだ。でも、その力は第六感という力が持つ一部分でしかない。

 検査ゲームの結果によると、淵見くんはVRの世界において、他の人が感じ取れていないような、もっと本質的な何かを掴んでいるはずなのだ。


「何か覚えはない? 他の人は感じていないのに、自分だけゲームから感じ取れたこととか」


 あたしも自分で言ってて難しいことを聞いているなとは思う。だけど、VR適応は自分で自覚すると途端に強みとして化ける可能性が高い。

 今のままだと淵見くんは自分の能力を「危険が普通の人より鋭敏に察知できる」()()のものだと思い込んでしまうかもしれない。それは自分の能力の限界を決めてしまうことに繋がる。

 それではせっかくの才能が勿体ない。「第六感」でできる百パーセントのパフォーマンスを探ることが今後の彼自身の為にもなる。


「うーん、そうですね。最近のゲームだと‐NINJA‐になろうVRの固有忍術は他の人と発現に至る道のりがちょっと違うかもですかね」


「うんうん、どう違うの?」


「地元の友人とか、あとゲームしてて知り合ったプレイヤーに聞いた話なんですけど、普通、固有忍術は戦いが始まってすぐに発現するらしいんですよね」


 淵見くんの話を聞いて、あたしは「‐NINJA‐になろうVR」を遊んだ最初の頃の記憶を掘り起こす。たしか、固有忍術は山奥で謎の忍者に襲撃された時に発現したはず。

 それと同時に少し苦い思い出が蘇る。あたしはチュートリアルで襲撃された時、最初はパニックに陥ってしまっていた。そして、ペアになっていた女の子の忍者が一人で立ち向かっていったけれど、逆に仕込み杖のようになった刀で斬り伏せられてしまったのだ。


 そうそう、それでカッとなって固有忍術の『祓魔術ふつまじゅつ』を発現したのだ。

 結局、襲撃してきた忍者は倒せなかったけれど、時間を稼ぐことができたおかげで教官役の忍者が間に合い、あたしは事なきを得た。ペアの女の子は助からなかったけれど……。

 その時のことは今でも心に刺さったトゲのように残り続けている。嫌なことを思い出しちゃったなぁ。


 おっと、過去を思い出していたら脱線してしまった。淵見くんはあたしがチュートリアルのことを思い出している様子なのを察してか、話すのを止めて、こちらを確認するように見てきている。


「うん、そうだね。あたしも忍者の襲撃を受けてすぐに発現した記憶があるよ」


「それなんですけど、俺は襲撃してきた忍者との戦闘が終わった後に発現したんですよね」


 ふぅん、なるほどね。それじゃあ、淵見くんは固有忍術無しで忍者の襲撃を乗り切ったってわけかな。それは十分に凄いことだけれど、彼のVR適応を考えれば納得もいく。


「固有忍術無しだと最初から使える忍術って『集中』くらいでしょ? よく教官が来るまで耐えきったね」


「いや、耐えきれなかったですよ。俺もエイプリルも二人とも斬られて瀕死になりましたね」


 あれ、そうだったんだ。チュートリアルだからゲームオーバーになることは無いだろうし、彼は教官役の忍者に助けられたのかな。


「それで俺自身はたぶんプレイヤーだし死なないだろうと思って、エイプリルを助けようと思ったんですよ」


 そういえば、淵見くんの話で名前がさっきから出てくるのを聞いて思い出した。あたしもチュートリアルでペアになっていた女の子はエイプリルちゃんだった気がする。でも、考えてみれば当たり前か、チュートリアルのペアはだいたい同じだろうし。


「エイプリルってチュートリアルでペア組む子でしょ。あれってストーリー上絶対に助からないキャラなんじゃないの?」


「俺も少し思ったんですけど、それでも出来る限り足掻きたくって」


 彼はそう言いながら、頭を掻いて笑った。

 NPCへの思い入れが強いのだろう。しかし、それだと大変だろうな。「‐NINJA‐になろうVR」はゲーム世界において重要なユニークNPCだろうと運や巡り会わせが悪いと呆気なく死ぬ。


 最近で言えば、桃源コーポ都市の企業連合会は一人のプレイヤーの手によって大きな転換期を迎えた。企業連合会の会長は失脚させられ、シャドウハウンドの中央本部をまとめていた隊長も過去の悪行を詰められて失踪してしまった。


 例に挙げたNPCは重要NPCの中では悪役側のキャラクターだったけれど、同じことがプレイヤーから人気の高いキャラクターで起こることも当然ある。

 このゲームの世界は理不尽だ。人の生き死にが身近にあり過ぎるのだ。だから、一度プレイヤーであることを忘れて、NPCの視点に立ってみると驚くほど殺伐としていることに気付く。

 とはいえ、そんな世界だからこそNPCを生かす為に足掻くプレイヤーたちは尽きないのだろうけれど。


「それで、足掻いた結果はどうだったの?」


「なんか運良く上手くいって、二人とも助かりました」


「えっ、そうなの!?」


 てっきりゲームの設定として助けられないものだとばかり思い込んでいた。それを彼はあっさり助けてしまったと言う。


「そっか、淵見くんはあの子を助けられたんだね。すごいよ、あたしには出来なかった」


 なんだか、少しだけ肩の荷が下りた気がした。あたしが助けることのできなかった少女は、彼のおかげで無事にその先に広がる生を享受することができたのだ。願わくは、そのまま長生きして欲しい。


「そうそう、それでここからが本題なんですけど」


「うんうん。……うん?」


 正直、ゲーム中で死亡がほぼ確定しているNPCを助けることができた、という時点で特殊だ。だから、これが本題だと思っていたけれど、彼としてはエイプリルを助けたことは特別なことではなかったらしい。

 うん、いいよ。もうすでに一回は驚いたわけだし、あとは何が来てもどんとこいだ。彼の第六感は他に何をしでかしたのか、聞いてあげようじゃないか。


「瀕死のエイプリルを助けようと思った時に、心の内側から思念みたいなものを感じたんですよ」


「思念……? さすがに聞いたことないなー。念話術みたいなものを受けた訳じゃないよね」


「チュートリアル中なんで、それは無いと思います。というか、今思い返すと念話とも違う感覚でしたね。こう、心の内側から囁いてくる感じというか」


 ふむん、全然分からない。

 そもそも彼の第六感が作用しているのなら、あたしが分かる訳もない。もう少し彼の話を聞いてみよう。


「最初はエイプリルの傷を治したい、塞ぎたい、って念じていたんですけど、心の声が『それは無理』って感じに囁いてきたんですよね。それから色々考えた結果、教官が助けに来るまで命を繋ごうと思って、死なせるな、殺させるな、っていうのを一心に願ったらエイプリルを助けられる固有忍術が発現しました」


「……たしかに固有忍術が発現するプロセスが他の人とはちょっと違うみたいだねー」


 今の一連の流れは考え方によっては、固有忍術を自分の願う形へと変化させたとも取れる。つまり、ゲームのシステムに働きかけたってこと?

 いや、そんなことはできない。さすがにプログラムされていないものを無から生み出したりなんかはVR適応であってもできない。あくまで上限は設定されているプログラムの範囲内に収まるはずだ。上限を突破することはできない。


「鷹ちゃん先輩はどう思う?」


 あたし一人の手に負えるものじゃないかもしれない。助けを求めて、横にいる鷹ちゃん先輩の方を向く。しかし、彼女もお手上げのようで、ジェスチャーでそのままお手上げしていた。


「先輩に聞こう」


 お互いお手上げになってしまった中、鷹ちゃん先輩は苦肉の策として案を出した。


「先輩って、浜宮先輩?」


 答えは分かり切っているけれど、あたしは聞き返す。それに対して、鷹ちゃん先輩は無言で首肯した。

 たしかに、それが一番ではある。でも、今年四年生になって就職活動が忙しいだろうから、あまり迷惑を掛けたくないんだよね。でも、あたしたちで分からない以上は致し方なしか。


「浜宮先輩って誰ですか?」


「電脳ゲーム研究会の前会長だよ。そして、このVR適応検査ゲームを開発した張本人でもあるね」


 そう、彼がこのVR適応を検査するためのゲームを作った。検査結果も彼が設定したものだ。それならば制作者本人に聞くのが一番手っ取り早いというわけだ。


セオリーが固有忍術を発現させる回は第一章の二話です。

実は、彼の固有忍術は他の人と比べると特殊な発現プロセスを辿っていました。

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