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Non Killing Ninja’s Conquest Story ~不殺忍者の征服譚~  作者: かなぐるい
第二章 不殺の支配者と逆嶋バイオウェア
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第十一話 お礼の治療とお嫁さん?!

2021.11.14 治療後の安静期間を編集。

▼セオリー


「今回は世話になったね」


「いえいえ、当然のことをしたまでですよ」


 テーブルを挟んで対面の椅子に座ったおキクさんが深々と頭を下げるのに対し、俺は手を横に振って対応する。ランが駄菓子屋に戻ってから経緯を説明すると、おキクさんの顔色は見る見るうちに青くなったり、赤くなったりと変化していった。そりゃあ、可愛い孫が危険な目にあっていたと知ればこうもなるだろうなぁ。

 そして、最終的には店内の奥にある居住スペースに案内され、俺は椅子に座らされているわけだ。駄菓子屋の奥の居住スペースは普通に洋間だった。


 おキクさんはお茶や駄菓子を次から次へと取り出しては「本当に助かったよ。ありがとうね、さあ、お食べ。いくら食べてもお代はとらないよ」と猫撫で声で話していた。どうやら孫のランをかなり溺愛していたようで、助けた俺たちへの対応が最初に会った時とは比べ物にならないくらい優しいものとなっている。その変貌ぶりには思わず呆気にとられていたけれど、同じく席に座るエイプリルはあまり気にせず駄菓子を口に放り込んでいた。


「そうだ、ケガを治して欲しいって話があったね。ランの作る夕食はまだしばらくかかるだろうし、今の内に治してあげるよ。こっちへ来な」


 おキクさんはそう言うと立ち上がり、他の部屋へと案内してくれる。お金の方はまだ工面できていないけれど、治療をしてくれるというのなら大助かりだ。俺とエイプリルはおキクさんに従って奥の部屋へと付いていった。コタローは「駄菓子食べて待ってるね」と言ってひらひらと手を振りながらその場に残ることを選択した。


 部屋を出て廊下の奥へ進み、突き当りにある最奥の扉を開けると階段が地下へと続いていた。そこを降りていくと異質な扉があった。それまでの木造の扉と違い、金属製の扉だ。さらに目線の高さには小窓がついており、加えて鉄格子がはまっている。まるで収容施設か何かの一室のようだ。これまでの部屋と比べて異質過ぎて怖い。


「さあ、お入り」


 重い音を伴って開いた扉の先は、コンクリートが打ちっぱなしにされた殺風景な部屋だった。テーブルが一つ設置されており、その手前に向かい合わせで椅子が二脚置かれている。奥の壁際には一台のベッドと医療品の保管された棚が置いてあった。


「あんたは向こうのベッド、お嬢ちゃんはそこの椅子に座りな。切れた腕はテーブルの上に置いといておくれ」


 俺は包帯でグルグル巻きにした右腕をテーブルの上に置いてからベッドに座った。エイプリルも指示通り椅子へ腰かける。その間におキクさんはテキパキと棚から替えのガーゼなどを取り出していった。

 準備を終えたおキクさんは俺の腕を掴み上げると緑色のオーラで腕を覆っていく。


「次に腕が切れた時は氷漬けにしな。治すのが遅けりゃ、くっ付けても腐るからね」


 ジロリとおキクさんに睨みつけられ、俺は思わず何度も首肯していた。たしかに現実でも指を切り落としてしまった時などには氷水を入れたポリ袋で二重に包んで冷やしながら病院まで持っていくと良い、って聞いたことがある。

 腐った片腕を想像してぶるりと震える。怖すぎる。もしかして三日間包帯ぐるぐる巻きで放置してたら手遅れだったんじゃ……?


「よし、そしたらベッドに横んなって肩を出しな」


 上着を脱いで上裸になった俺は、右肩をおキクさんに向けて横になる。


「ふう、そしたらジッとしていなよ。……『捕縛術・四肢鎖獄』」


 おキクさんがそう唱えると、ベッドの下から鎖のついた手錠が伸びて俺の左腕と両足を拘束した。


「えっ、なんで?!」


「肉体の切断面を接着する際に神経を接続しなきゃならないんだ。そして、それが激痛を伴うわけさ。暴れられると困るから拘束させてもらったよ」


 そんなの聞いてないんですけど?!

 俺の驚きを隠せない表情を見て、おキクさんはニヤっと笑う。


「まあ、あんたらプレイヤーは痛覚が鈍いらしいから大丈夫だと思うけどね。念のためさ。……さあて、繋げるよ」


 おキクさんは手早く肩の包帯を取っていくと俺の肩にも手を置き、緑色のオーラで包み込む。

 腕の断面と肩の断面を慎重に近づけていくと断面部分から緑色のオーラがうねうねと動き出し、何千もの小さな触手となって蠢き出した。そして、双方向の触手が絡み合うようにして断面同士をより近づけていく。

 様子を見ていたエイプリルはその触手のようなオーラに嫌そうな顔をした後、目をそらした。集合体恐怖症の人とかには辛い治療かもしれない。


 そんなことを考えている内に、腕と肩の断面が完全にくっ付く。プチプチと腕と肩の間で筋肉の繊維や神経が繋がれていくような奇妙な感覚に襲われる。たしかに接着面を中心に熱さが広がっていく。斬られた際の熱さと比べても遜色ないことを考えると現実であれば相当な痛みなのだろう。そうして、さらに30分ほど経ち、しだいに腕の感覚が戻ってきているのが分かるようになった。


「よし、こんなとこだね。ただし今日と明日は絶対安静だよ。腕を動かすのも禁止だからね」


 すぐに腕を動かしたくてうずうずしていた俺は、般若のように恐ろしい顔で念押しするおキクさんの迫力に圧倒されて腕を動かすのを諦めた。その後、さらに動かせないようにギプスで腕と肩を固定させられた。せっかく治ったけれど自由に動かせるのはまだ先みたいだ。

 次にエイプリルの背中の傷も治療された。俺のように切断されたりということではなかったので手早く済み、なおかつ綺麗に傷跡も残らず治った。


「ふぅ……、これで大丈夫さね。今後は無理するんじゃないよ」


「「ありがとうございました」」


 額にかいた汗を拭ってそう言うおキクさんに二人とも心からのお礼を返した。


「それじゃあ、頑張ってお金を工面しますね」


「なんだい、お金なんてもういいさ。ランを助けてくれたお礼だよ」


「いや、そういうわけにもいかないですよ。クエストの練習がてら、サクッと稼いできますよ」


 額に浮かんだ汗や疲労感を見るに医療忍術はかなり繊細で気力消費の激しい忍術のようだ。それをお礼だからといって簡単に享受するのは忍びない。


「ふん、良い男じゃないか。ランを嫁にくれてやってもいいね」


「「えぇっ!」」


 思いがけない言葉に俺とエイプリルの声が重なる。それを聞いたおキクさんは、ひっひっひと悪い魔女のように笑った。


「冗談だよ、からかって悪かったね。それならお金の方も頑張って稼いできな。利子無しでいくらでも待っててあげるからね」


 そう言って、先に扉を開けて階段をすたすたと上がっていく。それを尻目に俺とエイプリルは赤くなった顔を思わず見合わせてしまった。


 治療を終えた後はランが作ってくれた夕食を食べた。感覚ダイブ型VRゲームは味覚も感じることができるため俺は料理に舌鼓を打つ。料理はよくある家庭料理のロールキャベツだったけれど、ランの作ったロールキャベツはほどよく煮込まれた優しい味に仕上がっていた。






 食後にコタローとはフレンド機能を使ってフレンドになった。フレンドはチャットと呼ばれる個別のメッセージによるやり取りや相手のログイン状態などを知ることができる便利な機能だ。フレンドになって損はない、ということで即決した。

 その際にコタローはエイプリルにもフレンド申請を送ろうとしたが上手くいかなかった。おそらくフレンド機能がプレイヤー間でのみ使える機能だからだろう。

 特に隠し立てしていることでもないため、コタローにはエイプリルがユニークNPCだということを伝えた。伝えた際にはかなり驚いていた。まあ、たしかにゲームで最序盤からユニークNPCを連れているのは特殊だと俺でも分かる。


 その後、エイプリルの件を納得したコタローは「何かあればフレンドチャットを飛ばしてね」と言って居なくなった。フレンドチャットを飛ばすと事前に設定した現実の携帯端末に着信が来るようになっているため、ゲームにログインしていないプレイヤーと連絡を取る時に便利なのだという。


 そして、俺もそろそろ現実における夕食の時刻が迫ってきていた。

 ランとおキクさんからは「もし泊まるところがなければ腕が治るまで泊っていっても構わない」と言って貰えた。今から泊まれる場所を探すのも手間がかかるということで、お言葉に甘えさせてもらい、客間の一室を借りてエイプリルと使わせてもらうことにした。

 そういえば、ログアウト中のエイプリルの状態はパーティーに入ったことで何か変わるのだろうか。出血ダメージ問題が解決したので長時間のログアウトももう問題ない。


「俺、これからしばらくログアウトするわ」


「うん、分かった。ここで待ってるね」


「一応、早めに戻るつもりだけど現実とこっちの時間って違う速さみたいだから、エイプリルの方でも好きに活動してて大丈夫だからな」


 この「‐NINJA‐になろう VR」の世界の中では時間経過が現実の四倍で進む。つまり現実で一日経過すると、ゲーム内では四日間が過ぎていることになる。これは時間経過を現実に合わせるとプレイヤーが特定の時間帯にしか遊べなくなる、という欠点を無くすための措置だ。

 もし、現実の時間経過と同じように進んでしまうと忍者が本格的に暗躍し始める夜中の時間帯にプレイヤーが集中してしまったり、年齢が幼いプレイヤーが参入しにくくなったりなどといった弊害が出てくる。それを解消するための四倍速時間だ。

 ただ、NPCであるエイプリルとパーティーを組んでる身からすると困った部分もある。例えば一日俺がゲームにログインしないでいると、エイプリルの方では四日間も待ちぼうけを食うことになるのだ。それはさすがに申し訳ない。


 というか、そもそも普通のNPCとパーティーを組む分にはそこも問題にならないんだろうな。ノーマルNPCであれば不整合な現実はシステムによって整合性が取れるように改ざんされる。

 例え俺がこれからゲーム内で四日間居なくなったとしても、ランやおキクさんは上手く整合性のとれた記憶に改ざんされるのだろう。そして、俺がログインした時点で辻褄合わせが行われるに違いない。

 そう考えると、知識権限という特殊な技能を得てしまったエイプリルはこの世界では孤独になりやすいのかもしれない。情報改ざんを回避できるというのは、裏を返せば周囲と記憶の共有がうまくいかないことに繋がりかねないということだからだ。


 ……早めに戻ってこよう、俺はそう心に決めながらログアウトしたのだった。

おキクさんは元忍者であり、知識権限を持ったユニークNPCです。

そのため、プレイヤーを認知しています。


医療忍術を得意とするNPCは、プレイヤーの死と復活を身近に感じることの多い立場です。

プレイヤーが復活する度に記憶を改ざんをしていく、というのを繰り返すと段々と整合性をとるのが難しくなっていきます。そして、その無理やり作られた整合性はやがて齟齬を生じさせ、NPCのAIに負担をかけてしまいます。

そうならないために、記憶改ざん処理が一定以上に増えてしまったNPCには知識権限を与え、NPC自身が自分の中で整合性をとれるようします。

また、医療忍術が得意なNPCがそういった立場になりやすい、というだけで、他にも一定以上プレイヤーと関わるNPCの中には知識権限を与えられた者が増えていきます。

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