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Non Killing Ninja’s Conquest Story ~不殺忍者の征服譚~  作者: かなぐるい
第三章 桃源コーポ都市と暗黒アンダー都市
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第九十五話 盗賊ギルドとか暗殺ギルドって良いよね

▼セオリー


 あれから三日経った。

 今日は企業連合会の会合が行われる日だ。俺は迎えの者が来るまで、城山組の事務所でトウゴウ組長と談笑していた。話していた内容は他愛もない。桃源コーポ都市における巨大コーポからヤクザクランへの違法な依頼の数々を教えてもらっていたのだ。


 大半のコーポは駆け出しの時はまず警戒区域で商売をする。そこから資本金の規模が大きくなるにつれて保障区域や滅菌区域に出店できるような巨大コーポへと成長していくのだ。

 しかし、企業連合会はそういった将来の商売敵となるだろう成長途上の小さなコーポを次々に潰していた。その潰す手段で最もポピュラーだったのが、ヤクザクランへの破壊活動依頼である。そして、ヤクザクランの破壊活動に対して、シャドウハウンドは本腰で捜査することもなく事件自体を有耶無耶にする。

 まさに現在の桃源コーポ都市ではこういったコーポクランとヤクザクランと警察クランの癒着、腐敗が横行しているのである。


「興味深い話だったよ」


「どうせ、地下の俺たちは上の連中からすりゃ体のいい捨て駒よ。上がどうなろうと知ったこっちゃねぇ」


 どうやら地下に住むヤクザクランたちは不満の多い現状だったようだ。


「だからよぉ、お前さんが上の体制をぶっ壊すって聞いて清々してたんだ」


「まぁ、上手くいくかはまだ分からないけどな」


「かかかっ、良いじゃねぇの。答えが分かり切ってる博打なんて面白くもなんともねぇ。せいぜい気張れよ」


「あぁ、できる限りのことをしてくるよ」


「セオリー組長、企業連合会の使いの方が来ました」


 丁度良くゲンが部屋に入ってきた。どうやら時間が来たみたいだ。俺は腰を上げると、事務所の出入口へ向かう。玄関先にはフードを目深に被った人物が来ていた。しかし、その特徴的な金髪縦ロールは完璧に隠し切れてはいない。


「貴方が暗黒アンダー都市の新たな元締めですわね?」


「いかにも、俺が元締めを継いだ不知見組組長のセオリーだ。君が連合会の寄越した迎えか」


「はい。ワタクシはリリカと申しますわ。所属はあまり大きな声で公言できませんので名前だけで失礼致します」


 リリカは俺に深々とお辞儀をした後、俺だけに見えるようにフードの隙間から胸元を開いてみせた。そこにはシャドウハウンドのエンブレムの描かれたピンバッジが輝いていた。


「なるほど、身元は分かった。では、よろしく頼む」


 リリカはフードの乱れを整えると、俺を先導するように歩き出した。俺は見送りに玄関まで来ていたゲンに軽く手を上げて別れを告げた後、リリカに付いて行った。






 警戒区域まで出ると大通りに車が停められていた。どうやら会合場所までは車で送ってくれるらしい。それも黒塗りの高級車だ。やたらと胴体の長い車に思わずテンションが上がる。


「こいつは豪勢な迎えだな」


 気付けば周囲を歩く人々から少なからず注目を集めてしまっている。


「さあ、中へどうぞ」


 俺がマジマジと高級車を眺めていると、リリカがドアを開けて早く乗るように催促してきた。現実でもそうそうお目に掛かれない高級車だからもう少し見ていたかったけれど、リリカとしては注目をいたずらに集めたくなかったのだろう。

 察した俺はリリカに従い後部座席へと乗り込む。そして、俺に続くようにして隣にリリカは座った。


「護衛も兼ねておりますので、隣に座らせていただきますわ」


「あぁ、分かった」


 軽く言葉を交わした後、リリカの合図で運転手が車を発進させる。しばらくの間はゆっくりと窓から街並みを眺めていよう。これまでは徒歩で街中を移動していたから車移動は新鮮だ。見知った街並みもいつもと違って見える。




 しばらく走り、車がゲートを越えたことで街並みが警戒区域から保障区域へと移り変わる。そこまで来て、隣のリリカから感じられていた緊張感が少し解かれた。


(フゥ……、これで一安心ですわね)


 隣に座るリリカから念話術が届く。キリっとした表情で道の先を睨み付ける横顔とは裏腹に、ホッと一息ついたような雰囲気が窺える声色だ。


(山場はこれからじゃないのか?)


 なんだか一仕事終えたような様子のリリカに俺は疑問を返す。


(もちろん、最大の山場はこの先ですけれど、警戒区域を抜けるのも山場だったんですのよ)


(そうだったのか?)


(元締めがどれだけ色々な人に狙われているのか、貴方は理解していませんのね)


 ため息交じりにリリカが答える。


(こちらが把握している限りで黄龍会、カササギ団、ツールボックスの三組織が貴方を狙っていましたのよ)


 なんと、どうやら知らない所で俺を狙う動きがあったらしい。しかも、黄龍会は知っているけれど、他の二つは初耳の組織だ。


(知らぬ間にモテモテになっていたのか。それで黄龍会は知ってるとして、カササギ団とツールボックスの二つは何なの?)


(カササギ団は広域指名手配中の盗賊クランですわ。クランに所属するメンバーが全員プレイヤーということもあって中々尻尾を掴めていない組織ですのよ)


 へぇ、盗賊クランなんてのもあるのか。ロールプレイングゲームなんかだと盗賊シーフは宝箱を安全に開けたり、奇襲に長けていたりとパーティに無くてはならない存在だ。

 そんな事情もあってか、プレイヤーが操る職業としては比較的人気が高い。このゲームにおいても安定した人気がありそうだ。それにしたってクランメンバーがプレイヤーだけというのは極端なものだけど。


(もう一つのツールボックスは暗殺専門のクランですわ。このクランはNPCのみを対象に暗殺するので詳しい情報はシャドウハウンドでも得られていないのです)


 狙われた相手は漏れなく死んでしまい、プレイヤーのようにリスポーンして情報を得るという手が使えず、詳しい情報も掴めないわけか。なるほど、ずいぶんと厄介そうな団体さんにばかり目を付けられたものだ。

 というか、もしかして俺を早く車に乗り込ませようとしていたのは、そういった危険な連中の手から離れさせようとしていたのか。でも、俺はプレイヤーなのにNPC専門の暗殺クランに狙われるのは腑に落ちないな。


(なんでツールボックスは俺を狙うんだ? 俺はプレイヤーだぞ)


(暗黒アンダー都市の元締めにプレイヤーが就いた前例が無いからでしょうね。ですから、貴方のことをよく知らない者たちの中には、貴方をNPCと勘違いしている者が少なからずいる可能性もありますわ)


(マジか。それなら俺はプレイヤーだって公言して回れば暗殺の可能性が減るかな?)


(フフッ、その場合はプレイヤー専門のPKプレイヤーキラークランが狙ってきますわね)


 なるほど、八方塞がりという訳か。いや、今後狙われ続けることは元締めに就くと決めた時から覚悟していたことだ。もはや今更だろう。


(それで、その三組織はどうしたのさ?)


(シャドウハウンドが対応していますわ。桃源コーポ都市に入り込んだ外部の違法クランはシャドウハウンドが対処する決まりですので)


 なるほどな、内部の対処はヤクザクラン、外部の対処はシャドウハウンドが受け持っている訳か。そして、コーポクランが双方に資金援助をすることで守ってもらうという仕組みだ。

 よくできた仕組みではある。しかし、非常に閉鎖的、保守的だ。それに、その仕組みで潤っているのは上澄みだけだ。裏には搾取され続けている存在もいる。


「さあ、着きましたわ」


 気付けば滅菌区域に到着していた。

 車のドアが開けられ、降りてみると目の前につい先日見たばかりのビルが聳え立っている。事前の予想通り、企業連合会の会合場所は甲刃重工の中央支店ビルだ。

 おそらく企業連合会の上層部連中は俺のことを蜘蛛の巣へ自ら飛び込む哀れな存在とでも思っているのだろう。現在、滅菌区域全域には企業連合会の息がかかった忍者が配備されており、俺の味方をする者が外部から入り込んだりできないようになっている。

 建前上は防衛のためらしいけれど、本音は暗黒アンダー都市の元締めを顎で使えるように優位な立場に立とうという浅はかな考えによるものだ。

 先代のライゴウの時は規格外すぎて手出しできなかったようだが、俺の情報はすでに向こうへある程度渡っているだろう。中忍であれば簡単に支配下へ置けると考えているだろうことが予想される。


(はっ、甘く見られたもんだな)


 俺はビルの最上階を睨み付ける。

 できる限りの根回しは済ませた。ここからはずっと俺のターンだ。

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