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血のにじむような努力

 戸田は爪が割れても、絆創膏を貼りながら毎日練習をしていた。女子マネたちが絆創膏の張り替えなどを率先してやってくれるので、僕はそれ以来戸田の指に絆創膏を貼ることもなかった。

 時は流れ、いよいよ選抜予選が始まった。ベンチ入りの規制も甲子園大会と地区大会とでは違うのだが、監督の一言で、ベンチ入り出来るマネージャーは僕1人という事になった。花梨ちゃんも綾乃ちゃんも、スコアがつけられないから、無理にベンチ入りしたいとは思わないみたいだった。


 戸田はみんなよりも遅くまで投げ込んでいた。それは、ずっと続いていた。やっと思い通りの変化球が投げられるようになったようだった。

 公式戦の前日、明日は朝が早いので、女子マネたちもとっとと帰っていた。僕は明日持って行く物を確認し、最後に部室を閉めようと見回っていた。すると、戸田はまだ投げていた。

「戸田、明日早いから、もう帰った方がいいんじゃないか。」

僕が声をかけると、戸田はこっちを向いた。珍しい。いつもは無視して投げ続けるのに。

「ああ、そうだな。・・・悪いけど、絆創膏一つくれないか。」

珍しい。戸田の方から僕に何か言ってくるなんて。

 え?絆創膏?また爪が割れた?戸田がこちらへ歩いてくる。手を見つめながら。

「どれ?」

僕が戸田の手をのぞき込むと、手には豆が出来ていて、それがつぶれて血がにじんでいた。また血が・・・。血のにじむような努力とはよく言ったものだ。本当に努力を続けていると血がにじむのだな。僕は血のにじむような努力なんてしたことがなかったよ。今更ながら、自分が一軍に行けなかった理由が分かった気がした。そして、戸田を始め、一軍にいる選手のすごさが分かったのだった。

「はい、手出して。」

僕は消毒液で戸田の手の豆を消毒した。戸田が

「っつ。」

と小さく言って、顔をしかめる。ティッシュで軽く拭き取って、絆創膏を貼った。

「サンキュ。」

そう、戸田が言った。

「え?」

思わず聞き返してしまった。だって、戸田にお礼とか、言われたこと無かったし、言われるなんて思ってなかったし。

 聞き返されても、また言うでもなく、戸田は僕の顔を見た。

 うわ、至近距離で目が合うとか、初めて・・・かも。こいつ、目が・・・かっこいいんだな。

 何を、何を考えたんだよ、僕は。びっくりした。かぶりを振って目線を外す。

「さ、帰ろっ。」

バタバタと救急箱を片付け、それも明日持って行くので鞄に入れた。

「・・・ずいぶん大きな荷物だな。分担しなかったのか?」

また珍しく、戸田が僕に話しかけてるよ。

「僕は男だからね。これくらい平気だよ。」

僕がそう言って、大きな鞄を担ぐと、戸田はくくっと笑った。

「あー、笑うかぁ?」

だが、それ以上戸田は何も言わず、歩いて行ってしまった。何だよ、もう。


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