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才能だけじゃなかった

 戸田は、新たな変化球を会得しようとしていた。キャッチャーの正継と共に、練習後にも残って投げていた。そして、正継の事も帰した後、1人でフェンスに向かって投げていた。

 僕は始め、片付かないから早く帰って欲しいなと思っていた。

「あのさあ、そろそろ帰ろうよ。部室の鍵かけるよ。」

僕が言うと、

「ああ、悪い。」

そう言いつつも、まだ投げている戸田。どうしようか迷っていると、

「あ、マネージャー、俺の荷物外に出しておいて。鍵締めちゃっていいから。」

と言う。

 はあ?自分の荷物くらい自分で出せや。と思ったけれど、仕方ないから出してやった。そして部室の鍵を閉めて帰った。


 翌日も、同じように練習後に戸田は1人で投げていた。どんだけ投げれば気が済むんだか。

「戸田、今日も荷物出しておくから。」

僕が声をかけると、ああ、と言って、ちらっとこちらを見ただけだった。

「全く、しょうがないな。」

僕は独りでぶつぶつ言いながら、戸田の荷物を外に出し、鍵を閉めた。そして何気なく戸田の方を見ると、戸田は投げるのを辞め、指先を見ていた。

 また戸田が投げ始めたので、僕は帰ろうとして足を校舎の方へ向けたのだが、

「っつ。」

という、小さなうめき声を聞いて振り返った。

「戸田?」

戸田は手と手を握りしめていた。手が痛いのか?

「どうしたの?」

戸田の方へ走り寄った。すると、戸田は顔をかなりしかめていた。左手で右手を強く握っている。

「いやちょっと、爪が割れただけだ。」

「え?爪が?どれ。」

戸田の右手を見ると、人差し指と中指の爪から血がにじみ出ていた。

「うわ、これは痛いだろ。今救急箱持ってくるから。」

僕はまた部室に走って行き、鍵を開け、中から救急箱を取ってきた。

「ほら、ここ座って。」

戸田は水道で手を洗ってから、ベンチに座った。僕は消毒液で消毒をし、絆創膏を貼った。

「もう今日は辞めた方がいいよ。」

僕がそう言うと、

「ああ。」

戸田はそれだけ言って、立ち上がった。全く、無愛想な。

 だが、僕の戸田に対する印象は、以前とはだいぶ変わった。戸田は才能があって羨ましいと思っていた。だが、才能だけじゃなかった。こうやって、誰よりも努力をしていたのだ。全然知らなかった。


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