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総理大臣は暇がお好き  作者: をををに
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01話 華麗なる大沼一族

                                   20××年 7月24日

この日記をいつかどこかで見ている”あなた”に向けて書いてみようと思う。

稚拙な僕の文章であっても、この日記がいつか発見された暁には日本の、いや、世界の人間科学に多大な貢献ができるとこと思う。

この日記が歴史的文献になることに疑いの余地はない。


僕には――、第一一九代内閣総理大臣のこの大沼辿太郎(おおぬまてんたろう)には――、前世の記憶がある。

いきなりどうしたと思われるだろう。僕自身もこんなことを記している自分に羞恥心を感じている。だがしかし、このことは紛れもない事実なのだ。


前世の記憶の存在には、今日僕が参議院特別国会において行われた首班指名選挙で、史上最多得票数の352票を集め、総理大臣に指名された時に気づいた。

女性初の参議院議長である白河民子氏が「――よって本院は、大沼辿太郎君を総理大臣に指名することと決しました。」と言い、「本日はこれにて散会いたします。」と力強く述べた。

割れんばかりの大きな拍手が議事堂内にこだましている中、脳みそが弾けるような感覚があった。


昔から「大沼辿太郎」という名前に何故か馴染みがある様な、どこかで知っているような、そんなモヤモヤを感じていた。白河議長が退出していく背中を見て、そのモヤモヤが一気に解消された気がしてとても気持ちがよくなったのも一瞬のこと。

恐怖と絶望に襲われ身体の血が引いていき、そのまま議事堂内で意識を失った。



  「大沼辿太郎」。



それは代々政治家を生業とする政治家一族の5世議員である。

大沼家の華々しい歴史は今から144年前に『議院開会の勅命』が発布されたことにより、第一回衆議院議員選挙が行われたことに始まる。実業家であった大沼喜三郎が佐倉県(さくらけん)藍賀市(あいがし)周辺を選挙地盤として当選し、以後、現代にいたるまで藍賀市選挙区では大沼家の人間が当選し続けている。

もちろん僕も藍賀市選挙区から立候補しているわけだが、この藍賀市選挙区は日本有数の無風選挙区と言われており、藍賀市民からの人気はとても高いのは言うまでもない。

初代の喜三郎を除けば、全員が首相を経験しているし、喜三郎も閣僚経験者である。そんな一族を輩出していること自体が藍賀市民の誇りであり、日本のためになると信じているらしい。

祖父の代から大沼家が所属する民主権利党は戦後ほとんど与党であり続けている盤石な基盤のある政党だ。もちろん下野したこともあるが、民権党にどんなに逆風が吹いても大沼一族は対抗馬に比例復活を許さないほど大差で当選する。




ここまで見ている”あなた”は、そんな華々しい家柄のどこに気を失うほどの恐怖や絶望があるのかと疑問視していることだろう。

――大沼家と藍賀市との間には深い深い闇が横たわっている。



藍賀市には大沼家の運営する大沼グループの子会社がたくさんある。大沼グループの子会社は鋼鉄採掘会社からブライダル会社まで幅広く存在しており、それらの会社は藍賀市に雇用を生み出し、藍賀市の経済を健康な状態に保っている。しかしそれは藍賀市に悪影響を及ぼす側面もある。


藍賀市に生きる限り、大沼家とは何かしらの関係を持つことになるといっても過言ではないのだ。


藍賀市と大沼家とは完全に癒着しきっている。藍賀市の国営の建物には何故か毎年ものすごい金額の予算が充てられているし、藍賀市の地主や影響力を持つ市議会議員らは大沼家に賄賂を送っている。そうすることで大沼家の尽力により税制優遇措置の構築や当選の確約をもらえるためだ。

藍賀市の政官財は常に大沼家に都合よく動く。まさに藍賀市と大沼家はズブズブの関係であり、そんな関係が144年も続いてしまっている。

ズブズブの関係だからこそ、何があっても当選できるほどの盤石な基盤がある。


僕が今日、36歳で史上最年少総理大臣になったのは代々行われている汚職のよって得た基盤が要因の一つであることは疑いの余地はないだろう。

しかし、ここまで汚職にまみれた大沼家だが、世間のイメージは違う。144年間ものズブズブの関係は世論にはばれておらず、確かな血筋とクリーンなイメージが世論受けはよかった。

第九八~一一一代内閣総理大臣の父の眞太郎は『政治を大規模リフォーム』を合言葉とし、改革者を演じていたため支持率87%をたたき出したこともある。父の人気も私が総理大臣になった要因の一つのはずだ。


というのも、父の眞太郎が任期満了に伴い政界を引退して以降、与野党ともに政治とカネをめぐる汚職事件が多発していた。10年で総理大臣が7回変わる異常事態が起きてしまっている。そこでクリーンな父のイメージと確かな血筋、36歳という若さなどが相まって、総理に担ぎ上げられたのだ。

きっと民権党幹部の老人たちは自由な操り人形を総理の椅子に座らせて、あとは自分たちが陰で動かせると思っていたに違いない。だがこの僕は、只者ではなかった。

まず、閣僚は全員自分の同窓生にした。当時の新聞社はこの不思議な内閣を『御学友内閣』や『おもちゃ遊び内閣』などとやじった。汚職は父よりも激しく行い、国会の不誠実な対応が何度も何度も問題になった。組閣後半年で支持率は3%を切っていた。国際的な信用度ランキングではランキングが52個下がり、先進国でぶっちぎりの最下位となった。




そしてついにその時が来てしまう。




僕は現職内閣総理大臣でありながら逮捕されることとなる。



民権党の重鎮で民権党のジャンヌダルクと呼ばれていた白河民子氏が民権党と割ると同時に、僕の数々の汚職を白日の下に晒した。この白河氏がとんでもない策士で政局を読むプロ。巧みな話術と人脈で民権党の議員の大半は白河氏についていき、僕が率いる民権党は少数与党に。不逮捕特権を行使するため臨時国会を開会しようと試みたが、優秀な我が国の司法制度によってあえなく逮捕。


そのあとのことは詳しくは知らない。


まず、前世の僕はただの庶民だったと思う。小中高と公立学校に通っていたし、高校生では地元のスーパーでバイトしていた。

共働きの両親に生まれて、中肉中背で、普通の顔の一般的な男子だった。

大学受験はレベルを下げたところを第一志望にしたから、割と楽だった思い出があるなぁ。就職先で海外転勤になったせいで、辿太郎が逮捕された前後くらいしかわからない。

確か、実刑判決が出て塀の中に入った後、白河氏が総理になって、大沼家と藍賀市の関係を徹底的に調べ上げて、大沼グループの子会社は次々に倒産。大沼家が政治家になるのは無理だろうって話になっていた気がするけど、そのあとのことが思い出せない。

赴任先でなにかしらの事件事故に巻き込まれたんだろうなって思っている。思い出せないってことはそう言うことなんだと思う…。


過去に転生なんてわけがわからない。まだ気が動転していてあんまり状況呑み込めていないけど、感覚がここまでリアルだと夢だってことにしてなんでもいいや~なんてことにはできない。

議事堂内で倒れた後目を覚ますと、超でかい大学病院のVIP部屋のようなところだった。僕が目を覚ましたことに秘書や幹部は喜んでいたけど、僕はこれから起こる恐ろしい未来を想像しただけで絶望してる、、。総理が組閣前に議事堂内で意識を失うなんてセンセーショナルな話題すぎるよね。


目を覚ました後、病室からみんな外に出てもらって、どうしたらこの窮地を乗り越えられるのかをこれを書きながら考えてる。

とりあえず思いついたの前世の記憶があるから職務遂行は困難だって言うこと。でもここで本当のことを言えば、気でも触れたかと大騒ぎになって政治的な大混乱が起きる。前世?の時からこの国は好きだったし、信用度ランキングで低い順位になるのは避けたい。


ここはもう、やるしかない。


でも、投獄されて実家をつぶして親戚に迷惑をかけるのだけはやめたい。

前世の僕は正に事なかれ主義で敵を作らない生き方をしていた。のんびりと、人当たりよく、嫌われないように生きていた(はず)。

大荒れの政界に国民が期待していることは「波風がなくなること」だろう。総理大臣になることは確定しているんだから、どうにかして元通りにしなくては。ビギナーズラックって言葉もあるもんね。頑張ろう。


とりあえず最後に目標を書いて終わろうと思う。

・汚職をすぐにやめる。

・党内の環境をよくする。

・策士の白河民子に気を付ける。


もうこれは覚悟を決めてやるしかない。これから先のことはきっと、わからないこと、慣れないことだらけだけど、とにかく精一杯やらないと。

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