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容疑者C・被害者の秘書の告白

 ええ、そうです。あの方に毒を盛ったのは私です。


 私はあの方の秘書ですが、付き合い自体は古いのです。私の父があの方のお父様の元で働いておりまして、その縁で幼い頃から顔見知りでした。あの方は子供の頃から美しい方でした。まるで宗教画に描かれる天使のように、愛らしい姿をしておりました。

 ですが、あの方の家庭状況は決して良くはありませんでした。お父様は仕事で忙しく家庭を省みることはなく、お母様はそんなお父様とは不仲でした。今思い返せば、お母様は精神的に問題を抱えてもいたようです。

 あの方に問題があるとすれば、そんな家庭環境に原因があったようにしか思えません。ですが、そんなことも含めてあの方なんです。あの方が多くの女性との浮名を流すのは、きっと寂しさの表れなんです。私にはわかります。ですが、そこらにいる女性では、あの方の複雑な心情を受け止め切ることは出来ないのです。だから、誰も皆去るしかないのです。

 あの方に最後まで寄り添えるのは、この私だけ。あの方にはただの秘書としか思われていなくても、あの方を真に愛せるのは私だけなのですよ。

 奥様? ああ……あれは単に、結婚している方が対外的に何かと好都合だからですよ。ビジネスの世界──特にお偉方は未だに保守的ですからね。でなければ、あんな金目当ての浮気女など結婚相手に選びはしません。まあ最初から、頃合いを見ていずれ追い出すつもりではありましたが。

 ですが、あの女の存在が私を駆り立てたのは確かですね。……ええ、ここに並んでいる盗聴器や盗撮用のカメラは、私が仕掛けたものです。あの方がどんな風に女性達を扱うのか、興味がありましてね。時にあの方に抱かれる女達に私を重ねて、昂ぶったこともありました。

 彼女達は、女であるというだけであの方と夜を共に出来ると言うのに、その栄誉をあっさり捨てて去って行く。私はこんなに想っているのに、秘書としてしかお側にいられない。確かに選ぶのはあの方ですが、私はあの方を自分のものにしたいという欲求を、いつの間にか抑えられなくなっていたのです。

 あの方が死んでしまえば、その墓を守るのは私だけになるでしょう。触れ合うことも語りかけることも出来ませんが、それは今もそう変わりません。何より他の誰にも、もう手は出せなくなる。

 毒はあの方のコレクションからお借りしました。あの方は化学実験を趣味としていましたので、薬品はたくさんあったんです。あの方は、自然の法則の美しさをこよなく愛する方でしたから。薬品棚に時々鍵をかけ忘れることも、私はよく知っておりました。そんな、少し抜けたところも微笑ましいところです。

 お誕生日に開催するチョコレートパーティーで、ホットチョコレートに毒を入れて渡しました。あの方がチョコレートを飲み干す様子を、私は恍惚として見つめていました。これでこの方は私だけのものになる。そう思いながら。

 ……私以外にも、あの方に毒を盛った者がいる? ……確かに、あの方は敵を作りやすい方です。そういう不届き者がいても不思議ではありません。

 ですが、あの方に死をもたらしたのは私の毒です。そうに違いありません。そうに……。私は、そう信じますよ。ええ、きっと。

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