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第七十五話 白銀の騎士人形

 それは俺が魔力を溜めた直後だった。先に攻撃を仕掛けようとしたとき、それを読んでいたかのように唐突に騎士の人形が走り出したのだ。その動きは金属の塊とは思えないほど軽やかであり、初動がブレて見えるほどの速さであった。


 その意外なスピードに俺はやむを得ず攻撃を諦める。意識を切り替え迎撃することを決めると、集めていた魔力を剣へと回す。



「エタンセル!」



 魔剣の発動タイミングは騎士の人形が持つ剣との打ち合いの瞬間を狙った。あわよくば剣を破壊するか吹き飛ばしたかったが、そう上手くはいかないらしい。


 横に転がるようにして移動し、受け身で回転してすぐに立ち上がる。


 続けて目の前に迫ってくる剣をなんとか受け流し、出来た隙に対し攻撃せずに横を抜けていく。


 距離をとり、息を整える。騎士の人形は振り返ったところだ。もう一呼吸はつけるだろう。


 少しのやり取りでも、この騎士の人形の強さがよく分かった。速さだけではなく、力もある。ただ、それより厄介なのは重量と防御力だ。


 正確な重さはわからないが、腕一本でもかなり重い。先ほどは魔剣を発動させたというのに押し負けてしまった。魔剣の爆発で一瞬止められたから避けれたが、もしそのまま受けようとしていれば叩き潰されていただろう。

 そして防御力、これについてはまだ不明ではある。しかし材質的に剣と同じだと考えた場合かなり厄介だ。正直、断ち切れる気がしない。なにせ騎士の人形の体で剣より細いところのほうが少ないのだ。仮に指などの細いところを狙っても、人間でない以上どこまで効果があるかわからなかった。



 やっぱり破壊の力を使うしかないな。ただそうすると、魔剣を発動させる余裕はなくなる。あの重い攻撃を純粋な剣技だけでどこまで凌げるだろうか……



 騎士の人形が再び走り出した。今度は視界から外れるように弧を描いて向かって来る。


 再度、剣で受け流す。腕が痺れそうになりながらも、先ほどと同じように横を抜けていく。だがその途中、嫌な予感が全身を襲った。


 勘を信じ、反転しながら剣で防御の姿勢をとる。


 見えたのは足だ。騎士人形の蹴りが俺の胸部に迫っていた。


 剣の腹で受け止め、防御には成功する。ただ、その威力までは消せなかった。そのせいで俺の両足は地面を削るように滑っていく。


 衝撃に顔をしかめながらも前方を注視する。幸いなことに騎士の人形はその場に留まっていた。緩慢な動作から追撃してくるようには見えない。

 その騎士の人形の足元では地面が不自然にえぐれている。かなり強引に回転して蹴りを放ってきたようだ。人間がだったら足が折れていたと思う。



 ……同じ避け方だから対応されたのか?



 それは反応された理由を考えて最初に思いついたことだった。ただ、だとしたら学習してることになる。パターンの決められたロボットのようなものだと思っていたが、そうでないなら目の前の騎士の人形はかなりまずい存在なのかもしれない。


 もし一度見せた動きに対応されてしまうなら長期戦は不利になる。やはり破壊に力で一気に決めたい。だが、今までのやり取りから魔力を集める時間があるか怪しいところでもあった。


 地面に二本の線を残しながらも転ぶことなく止まった俺は、魔力を集めつつ一歩踏み出す。


 実は拠点での訓練の結果、動きながら魔力を集められるようになっていた。ただし、集める速度はかなり遅い。ついでに注意も散漫になってしまうため、胸を張ってできるとは言えない完成度だ。そのためアリシアにも言っておらず、実戦でやるつもりもなかった。それを今、ぶっつけ本番で試していく。


 歩きながら魔力を集める。これは訓練でも出来たことだ。そして、これが限界でもある。歩き以上の動きでは出来ていない。


 止まっていた騎士の人形が動き出し、地面にクレーターができると同時にその姿が消えた。


 視界に微かに映った影から上だと判断し確認する。そして戦慄した。


 金属の塊のはずだ。受けた攻撃からもかなりの重さを感じた。なのに周囲の木より高い位置まで飛んでいる。あそこから繰り出される攻撃の威力など考えたくもなかった。



 あれは無理だ。防げない!



 一目見てそう判断すると、大きく後ろへと跳ぶ。集めていた魔力が散ってしまうがそれどころではない。


 僅かな時間を置き、轟音が響く。


 衝撃で地面が揺れ、爆発したかのような土煙が舞っている。


 避けるしか選択肢がなかった。だがそれで正解だったようだ。

 あんなものを防御でもしようものなら潰されて終わっていただろう。近くで躱してからのカウンターも難しい。出来ているクレーターの大きさから、衝撃だけで吹き飛ばされていたはずだ。


 ちらりとアリシアの位置を確認する。その位置は騎士の人形の向こう側だ。丁度、挟んでいる形になる。しかし、援護してもらうつもりはない。攻撃対象が移ってしまう可能性がある。今のアリシアでは騎士の人形との接近戦は危険すぎた。



『ツカサ、白魔の銀鉄ですが、ある程度解析ができました。たしかに今まで存在していない金属です。しかし、全てが未知というわけではなく、どうやら複数の金属の特徴を合わせたものだと思われます』



 合金みたいなものってことか……未知じゃないのはよかった。あとは弱点でもあればいいんだけど。



『この金属の特徴としては見た目以上に重いこと。そして硬度がありながらも弾性を備えているようです。さらに魔法についてはかなりの耐性を持っています。特殊属性以外は効かないと思ったほうがいいでしょう』



 つまり、弱点はない? 付け加えるなら騎士の人形は学習もしている。

 ……どうしようもない気がしてきた。



 土煙が晴れ、クレーターの中心から騎士の人形が現れる。すでに動いていた。しかし、今度は走らず飛ばずにゆっくりと歩いてくる。心なしか先ほどより動きが滑らかで、人間に近づいているような気もした。



『ツカサ、あの金属には弱点らしいものは見つかりませんでしたが、あれは魔道具です。魔力が無くなれば動けません。おそらく心臓付近に埋め込んでいたものが動力原の核だと思われます。破壊の力を胸部に集中して核を壊すか、魔力切れまで時間を稼ぎましょう』



 対処法も示されたが、時間切れのほうは狙えない。ドルミールさんは有名な魔道具職人でカルミナが警戒するような人物だ。そんな人が急だったとはいえ、すぐに止まる魔道具を用意するとは思えない。


 ドルミールさんについて考え、ふと思い出す。



 胸部に埋め込んだ球を持ってたとき、修復中だと言っていた気がする。それが間違えじゃなければ、あの球そのものは完全じゃない。だったら、壊れかけの機械じゃないけど、衝撃を与えたら止まったりしないだろうか?



 都合のいい考えではあった。だが、止まらないにせよ胸部へ攻撃は有効のはずだ。何度も攻撃すれば、伝わる衝撃で核を壊せる可能性もある。


 狙いを決め、急いで魔力を集めていく。


 騎士の人形の歩みは遅い。しかし、破壊の魔法を撃てるまで魔力を集められるかは怪しいところだ。


 突如、騎士の人形の姿が消える。


 警戒はしていた。視線を外してもいない。そのため、動き出しはちゃんと見えていた。今度は横だ。視界から外れるのが目的だろう。


 体の向きを変え、騎士の人形を正面に捉える。同時に魔力を剣を握る拳に集中させていく。


 騎士の人形が迫ってくるが、真っすぐにではない。ジグザグに動いては揺さぶりをかけ、ときおり大きく横へと移動しては視界から消えようとする。だが問題はない。まだ見える範囲だ。その度に向き直り、常に正面で待ち構える。


 騎士の人形が剣を振り上げた。


 俺は受けるために剣を頭の上、地面と水平になるように構えを変えていく。


 騎士の人形がさらに加速し、一気に間合いに入ってくる。


 剣を受け流し、胸部に零距離で魔法を放つ。その予定だった。


 振り上げられた剣は下ろされず、代わりに今まで使ってこなかった小ぶりの盾が高速で迫る。



 まずい!



 そう思ったときには、がら空きだった脇腹に衝撃が奔っていた。


 鈍い音を耳にしながら宙を舞う。骨が折れたのはわかるが、不思議と痛みは少ない。今まで散々体を痛めつけてきたせいだろうか。痛みに慣れてしまったのかもしれない。


 微かな痛みを無視し、俺は空中で体を回転させる。


 騎士の人形が今までと同じなら、一度攻撃したあとは少し止まるはずだが見当たらない。



「ツカサ様! 上です!」



 遠くから聞こえたアリシアの声に反応し、確認もせずに剣を振る。



「エタンセル!」



 拳に溜めていた魔力を剣へと移し、迎撃と同時に爆発で距離をとる。


 木に激突しながらも視線は騎士の人形から外さない。ただ、今度は止まってくれたようだ。



 ……厄介だな。だんだん動きが複雑になってきてる。まさかフェイントまでしてくるとは思わなかった。結局、破壊の力を使えてない。せめて一撃。なんとか――



「ツカサ様! 今、回復魔法を!」



 気づけばアリシアが近くにいた。いや、俺が吹き飛んだのがアリシアの近くだったようだ。



「ありがとう。でも最低限でいい。あの騎士の人形、魔剣が効かなかった。普通の魔法はきっと効かないと思う。だからアリシアは援護せずにもっと離れて、身を隠してて」


「……でも……わかりました。ツカサ様、大丈夫ですよね? 居なくならないですよね?」


「大丈夫。居なくならないし、倒してみせるよ」



 エクレールさんが行方不明の影響か、アリシアは一人になるのを嫌がることがあった。最近はその兆候も見せなくなっていたが、強敵の前に不安になってしまったようだ。


 これ以上アリシアを悲しませるわけにはいかない。それにあの騎士の人形は手早く倒せる相手でも、出し惜しみしていい相手でもないみたいだ。だから仕方ない。


 アリシアが離れていくのを確認し、ポケットに入れたペンダントを二回たたく。



『強化魔法をかけるのですね? 変化の力を使います。許可を』


「……許可する」



 小声で呟くと、体が光のオーラで纏われていく。オーラの色は白く、体に纏わりつくように薄い。色は変化の属性だとバレないようにカルミナが変えているためであり、纏わりつくように圧縮された魔法は練度の高さを証明していた。


 感覚が研ぎ澄まされ、全身に力が張る。傷は完全には直っていないが、微かだった痛みは感じない。


 騎士の人形が動き出す。しかし、ようすがおかしい。少し歩くと動きを止め、剣を天へと掲げだす。



 何をする気だ? また跳ぶ気だろうか? それとも――



 怪しむものの、かぶりを振って考えを捨てる。独自魔法より負担は少ないとはいえ、この状態を長く続けたくはなかった。時間を無駄にしないためにも、今のうちに剣に魔力を、続いて足にも魔力を集めていく。


 魔力を集め終わった瞬間、騎士の人形から赤銅色の光が立ち昇る。


 光はすぐに収まり、騎士の人形は何事もなかったかのように歩きだす。ただし見た目は変化しており、その体には赤銅色に輝く光のオーラを纏っていた。

読んでいただき、ありがとうございます。

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