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第六十三話 二日後

 ザバントスとの戦いから二日。俺は北の砦へと身を寄せていた。


 砦というとパタゴ砦を思い出すが、この北の砦はあそこほど大きくはない。小さな城が一つ、ぽつんと立っているようなものだ。

 兵士も全員で留まるには寝床がなく、洗脳される可能性が低い人たちは簡易拠点へ向かっていった。


 簡易拠点へはブルームト王国軍の軍団長たち、そしてエクレールさんも同行している。ただ、エクレールさんは簡易拠点の守護や兵を率いるためではなく、ゼルランディス暗殺のためだ。


 教皇様の話によると、特殊属性で洗脳されたものはゼルランディスが死んでも解除されない可能性が高いらしい。このこと自体はバルドレッド将軍やエクレールさんも予想しており、そのせいでゼルランディスに手を出すのをためらっていたとも聞いている。そして、ゼルランディスが死んだ場合どうなるのかというと、意識が戻らずに眠り続けるという推測がされていた。

 ちなみに、密かにカルミナに聞いてみたところ、推測は正しいらしい。他の魔法ならともかく、特殊属性は簡単には消えないとのことだ。


 術者がいなくなっても効果が残るというのは厄介だった。とはいえ、教皇様なら無効化できる。そして、無効化できるということが、暗殺という強硬手段を取ることになった理由でもあった。


 教皇様の魔法は強力だ。それこそ他人の洗脳を解けるぐらいに熟達している。俺は自分にかけられたものを解くので精一杯だ。ただ、そんな教皇様の魔法ではあるのだが、アリシアにかけられた封印は解くことはできなかった。


 アリシアは目覚めていない。北の砦で簡易的ではないしっかりとした結界の中で眠っている。封印は特殊属性でも無効化できていないことから、強力ではあるものの基本属性で構成されているようだ。

 カルミナが言うには呪いに近いらしく、発動後では解除は難しいと聞く。可能性があるとしたら大元の封印の魔法陣を壊すか、教皇様も言っていた俺の破壊の力にかけるしかないのが現状である。



「カルミナ、ザバントスのようすはどうだった?」



 俺は他に誰もいない部屋の中でカルミナに話しかけた。

 封印の魔法陣の結果、カルミナが行使できる力は減ってしまったらしい。今は地下牢にいるザバントスのようすを見てもらっていた。



『怪我のほうは治っているようですが、いまだ意識が戻らずにいます。私が調べたところによると、何らかの状態異常により疲労が蓄積されているようです』


「疲労? 毒……それともザバントスも呪いにでもかかってるのか?」



『詳細はわかりません。しかし、魔族とはもともと短命の生物です。死の淵に立ったことにより、老化が加速し、衰弱している可能性も考えられます』



 ……魔族が短命? 初めて聞いたような気がする。だけど、おかしいな。たしか先代の魔王は五十年近く討伐されなかったんじゃなかったっけ?

 魔王って、生まれた瞬間から活動するのか? そうじゃないなら人と同じぐらいは生きてそうだけど。魔王が特別ってこともあるよな。平均寿命はどれぐらいだろうか?



「魔族の寿命がどれくらいかはわかる?」


『個体差があるようなのでわかりません。ただ、ここ十年は魔族が増えているようなので寿命が延びている可能性もあります』



 なるほど……? いや、まてよ。洞窟の地下で見た魔族はみんな二十代ぐらいだった気がする。一番年上は間違いなくザバントスだ。寿命が延びてるならもっと年を取った魔族がいてもいいはずだよな。

 寿命が延びている、か……どうなんだろうな。本当だろうか?



 カルミナについて警戒心は持ってるつもりだが、助言や偵察など頼ってしまうことが多かった。そのせいか無意識に言葉のまま受け取ってしまうことがある。今も深く考えず、そのまま納得してしまうところだった。


 もちろん記憶は操られていないし、新しくカルミナの変化の魔法を受けてもいないと思う。たとえ受けていても、今は訓練で破壊の力を使っている。問題なく無効化されているはずだ。



『ツカサ、魔族のことが気になるのもわかりますが、今はアリシアを助けるため、破壊の力で封印を壊せるようにしましょう』


「ああ、わかってる。わかってるんだけど、威力を高めるだけじゃダメみたいなんだ。何かコツとかない?」


『特殊属性はそれぞれの想像力、解釈次第で実現できることが増えます。威力を上げ、制御を磨くのも大事ですが、こじつけでもいいので封印を破壊する方法を考えてみてはいかがでしょうか?』



 無理やりでも封印を破壊するイメージを持てってことか。特殊属性って名称だけあって基本属性とは全然違う。基本属性は術式で縛られてるといってもいいぐらいなのに、特殊属性は型にはまらない独自魔法に近い気がするな。



 カルミナとの会話を終えると訓練をはじめる。


 考え、想像するためになんとなく座禅を組む。意味はない。気分的なものだ。


 目を閉じ、瞑想する。


 封印の破壊、その方法だけを考えていく。周りの情報を遮断し、アリシアを助けるために俺はただひたすらに集中するのであった。




◆◆◆◆◆◆◆




 ブルームト王国北部、中央へ続く大通りをエクレールは歩いていた。


 時刻は夜。通りには人も少ない。そんな中、全身を隠すようなローブを身に纏い、フードを被ったエクレールは暗がりに紛れるようにして進んでいく。


 目指しているのは中央から東の通りに入った場所にある店だった。冒険者時代から使っていたなじみの魔道具屋である。


 黙々と歩き続け見えてきたのはツタに覆われた建物、目的の魔道具屋だ。一見すると店とは思えず、入りにくい雰囲気が漂っているがエクレールはさして気にすることなく入っていく。



「なんだい、こんな時間に。もう店じまいだよ。帰りな」


「そういうなよ。久しぶりに来たんだ。少しぐらい話を聞いてくれてもいいだろ?」



 エクレールはフードをとりながら店主に話しかけた。

 眉間にしわを寄せ、明らかに不機嫌だった店主の表情が変わる。目を見開き、口は半開きとなっていた。だいぶ驚かせてしまったらしい。



「エ、エクレール? 本物かい? 何だってこんな時期にこんなところに来ちまったんだ」


「赤の教団関連でちょっとな。婆さんには情報と剣を売ってほしくて来たんだ」


「赤の教団……あぁ、そういえば、あんたは教会に入ったんだっけね。いいよ、どうせあんたは止めたって聞かないだろうし、知ってることは話してやるよ。それと剣だね。ちょっと待ってな」



 店主は店の奥へと消える。

しばらくして戻ってくると、その手には一振りの剣を持っていた。



「ほれ、まずは剣だよ。一応風属性の魔剣だが、銘もないし、効果は剣が軽くなるぐらいだね。頑丈ではあるから、あんたでも大丈夫だろう」


「助かる」



 エクレールはその場で剣を抜き、感触を確かめるように振るっていく。店内は狭いうえに物で溢れていたが、剣はどこにもあたることはなく、風を切る音だけが響いた。



「……見事なもんだと言いたいところだけどね、こんなところで剣を振り回すんじゃないよ。だいぶ売れたとはいえ、まだ商品はそこらにあるんだ。自重しておくれ」


「ん、悪いな。けど、おかけでこの剣がいい品だってのはわかったぞ。それにしても、だいぶ売れたってこの店がそんなに繁盛してたのか?」


「売れるときぐらいあるわい。まぁ、あの元気な嬢ちゃんと変な坊ちゃんの二人組が来なけりゃ大量には売れなかっただろうがね」


「ほー、この店のものは結構高いだろうに、豪勢な奴がいたもんだ。その話も面白そうだが、今は時間がないんでな。婆さん、情報を頼む」



 エクレールは剣をローブの中に隠す。かわりに大きく膨らんだ小袋をとりだし、重い音を出しながら店主の前に置いた。



「剣と情報の代金だ。足りなければ言ってくれ」


「これはまた……充分すぎるよ。そんな大層な情報はないよ?」



 そう言いながら店主が語ったことは三つ。国にいる赤の教団員の大まかな場所、街の見回り経路、そして戦力についてだった。


 赤の教団員は城の近くの建物を拠点としているらしい。それも大きめの建物を占拠し、まとまっているとのことだ。


 見回りについては夜間のみ、それも少数での行動だと聞く。上手くやれば見つからずに移動するのも不可能ではないだろう。


 最後に戦力だが、エクレールの敵になりそうなのは幹部であるオルデュール、そして名前は不明だが全身真っ黒な服の人間ぐらいだろうというのが店主の言葉だった。


 エクレールは考える。

 店主が挙げた人物は名前、特徴からしてはバルドレッドと戦った人間と一致していた。そのバルドレッドからは個々で戦うなら問題ないと聞いている。しかし、ここは拠点とは違う。戦いの場は屋内になる可能性が高い。そうなるとまた話は違ってくる。

 エクレールとバルドレッドは戦う方法は違えど、共に豪快で周囲に影響を及ぼす戦い方であった。そのため、屋内などの制限された空間では全力を出せないことが多いのだ。地の利というのは大きく、相対した場合は油断できない戦いとなるだろう。



「貰った金額には見合わないだろうが、こんなところかね。必要ならいくらか返してもいいよ?」


「いや、充分な情報だった。そのまま取っといてくれ」


「そうかい。っとほら、あれがさっき話した赤の教団の見回りだよ」



 店主の言葉に振り返り、隠し窓から外を窺う。そこには赤い服を着た男が二人、談笑をしながら歩いているのが見えた。

 男たちは警戒しているようすもない。兵士らしさはなく、仕草からも一般人のようだった。


 そのようすを見ていたエクレールはすぐに動くことを決める。



「あれなら見つからないのは当然として、尾行も楽に出来そうだな。婆さん、ちょっと行って来る。世話になったな」



 店主に礼を言い、男たちが店を横切るのを確認して扉から出る。

 音をさせていないとはいえ、距離はあまり離れていないにもかかわらず男たちは気づかない。やはり素人なのだとエクレールは確信した。


 ふと、男たちの進行方向に目を向ける。すると、エクレールと同じようにローブで姿を隠している人物がいた。遠ざかるように歩いている。


 男たちもさすがに前方を歩く人物には気づいたようで小走りに近づいていく。


 エクレールは迷う。関わるかどうかをだ。しかしすぐに決断し、男たちが乱暴を働くようなら止めることに決めた。


 男たちがローブの人物の肩を手をかける。勢いよく後ろから無理やり体を止めるようにだ。その乱暴な振る舞いにエクレールは走り出し、すぐに足を止めることになった。


 なぜなら、ローブの人物が振り向いたと同時に男たちが崩れ落ちたからだ。


 一瞬の早業だった。

 エクレールに見えたのは不自然に揺らめいたローブだけであり、その事実に驚愕し、警戒を強めていく。


 赤の教団員の男たちを攻撃したことから、赤の教団ではないのだろう。しかし、だからといって味方だとは限らない。

 先ほどの動作だけでも実力の高さがわかる。戦えば苦戦は必至であり、騒ぎにもなるだろう。


 ブルームト王国についた矢先に想定外の実力を持つものに出会うという予想外の事態。エクレールは困惑し、目の前のローブの人物を睨みつけることしか出来ないのであった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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