表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/116

第五十六話 対ザバントスその弐

 土を纏ったザバントスは変わらず半身で構えをとっている。ただ、一回り大きくなったことでその威圧感は増していた。


 互いに構え、動かない。


 俺に関しては攻め手が見つからないだけだ。そのため、最初に動いたのはザバントスのほうだった。


 ザバントスが足を振り上げ、地面へと叩きつける。すると、今回は土ではなく石の壁がせり上がり、その姿を隠していく。


 次の瞬間、轟音とともに壁が砕ける。


 俺は何もしていない。砕いたのはザバントスだろう。その証拠に無数の石つぶてが俺に向かって飛んで来ていた。


 顔面、急所に当たりそうな石を弾いていく。


 石は鋭く、防ぎ終わったときには細かな切り傷が無数にできてしまっていた。



 さっきのザバントスの話だと、カルミナの強化魔法は防御も優れてるはずだけど、そのわりには傷が多い。一点集中じゃないと防御はそこまで高くできないのか……



 石を弾いていた拳には怪我はなく、痛みもほぼない。今のでカルミナは拳の防御を優先したのがわかる。そして、当然ながらザバントスもそれに気づいているだろう。


 再び、石の壁が現れる。

 ザバントスは慎重だ。推測ではあるが、今はカルミナの強化魔法を分析しようとしているのだと思う。もしくは魔道具だと思っているため、効果が切れるのを待っているのかもしれない。


 飛んできた石を同じように弾いていく。ただし、今度は進みながらだ。いまだに攻め手は思い浮かんでいないが、立ち止まっていても状況は良くならない。無理にでも攻めて突破口を探していく。


 石つぶてを防ぎ終わったとき、間合いまであと三歩という距離だった。


 一気に加速し、距離を詰めていく。しかし、三度目の石の壁が現れ、またしてもザバントスの姿が隠れてしまった。


 右の拳を握り締め、加速したまま壁へと振りぬく。


 ザバントスよりも早く石の壁を壊し、今度はこちらから石つぶてを飛ばそうと試みたのである。


 カルミナも意図を理解したのか、右手に光が集まり、石の壁は予想以上の威力で破壊することができた。


 しかし、壁の向こうにザバントスの姿は見えない。



 見失った!? ぐっ! 体が……



 突如体が勝手に動き、無理やり横へと跳ぼうとする。


 直後、傾いた体に強烈な衝撃が奔った。


 骨を砕く音が耳に入る。視界は凄まじい勢いで回転し、気がつけば洞窟の壁へと叩きつけられていた。


 立ち上がろうとし、右腕が動かないことに気づく。


 左手とふらつく足で何とか起き上がる。右肩は折れているようだ。


 折れているのを認識したせいか、右肩は徐々に痛みを増していく。熱も持ちはじめ、体からは嫌な汗が出はじめる。


 肩を押さえ、うめき声を押し殺しながらザバントスを睨む。


 ザバントスは動いていない。変わらず半身で構えをとっていた。



 くっ! ……だめだ。構えをとるどころか、動くのもつらい。



 動かない俺に警戒は必要ないと思ったのか、ザバントスはゆっくりと歩きだした。


 突如、俺の体を包んでいた強化魔法が消える。同時に体から乾いた血のような色の光が溢れてきた。



『ツカサ、私の魔法は破壊の力により解除されました。まずは傷を治します。ツカサは破壊の力を抑えてください』



 破壊の力……たしかに以前説明されたとおり、危なくなったら勝手に出てきたな。おかげで痛みはなくなった。カルミナは押さえろと言っていたが、抑える必要はあるのか?

 この力があれば、あんな土の塊は意味がない。攻撃し続ければ倒せるはずだ。いっそのこと、この洞窟ごと破壊しても――



『ツカサ! 破壊の力に呑まれてはいけません! 気をしっかり持ってください。その力はアリシアを助けるために使うのでしょう?』



 ……そうだ。そうだった。俺は何を考えていたんだ。



 頭を振り、魔力を制御する。

 幸いなことにザバントスは警戒し、距離保ったまま停止していた。最初に放った破壊の魔法と同じ色というのが、警戒を呼び起こしたのかもしれない。


 暗く赤い光はゆっくりと消えていく。そのころには肩の傷は治っており、再び構えをとる。



「……回復魔法まで使えるとは。それにその赤黒い光、最初の魔法と同じものだな? 気のせいかとも思ったが、やはり見たことのない色合いだ。炎でも闇でもない。だとするならば、特殊属性か」



 さすがにバレたか……しょうがない。だが、バレたとしてもやることは一緒だ。問題はないだろう。



 ザバントスは何故か構えを解き、纏っていた土すら解除していく。



「この場所まで辿り着き、さらには特殊属性まで持っている。加えて、我々が知らぬ特殊属性の使い手だ。青年、きみが勇者だな?」



 何を考えている? 勇者だと推測しておきながら、なんで魔法を解いたんだ?



「話し合おう。きみは女神に騙されている。どのような理由で戦っているのかはわからないが、女神だけは信用してはいけない」


『ツカサ、耳を貸してはいけません。魔族は私の居場所を探るつもりなだけです。それにアリシアを助けるには魔法陣を壊す必要があります。魔族は決してあの魔法陣を手放すことはしないでしょう。壊すしか助ける手段はありません』


「女神は自己中心的な存在だ。この世界に生きる人のことなど考えていない。きみが人々を救う気なら我々は協力できる」


『協力などできません。最初に戦った魔族を覚えていますか? 突如、砦を攻め、たくさんの犠牲を出した存在を。魔族とはそういう存在です。世界を救うためには倒す必要があります』



 ……突然、何を言いはじめたんだろうか。カルミナもすぐに否定の言葉を出してくるし、頭が混乱してきた。女神に騙されている? たしかにそのとおりだ。騙されていた。けど、カルミナの変化の力はもう効かない。警戒も解く気はないし、これから騙される可能性は低いはずだ。


 ザバントスは協力できるとも言っていた。でも、カルミナの言うとおり魔法陣を諦めるとは思えない。それに人々を救うのと世界を救うのは何が違うんだ?

 ……いや、今は一つだけ、もっとも重要な魔法陣について聞いてみよう。それで判断する。



「俺の目的はこの魔法陣を壊すことです。あなたは協力できると言いましたが、それなら壊すのを認めてくれるのでしょうか?」


「……それは……難しいな。この魔法陣はこれから先、この世界に生きるすべてのものに必要だ。よければ魔法陣を狙う理由を教えてほしい。理由によっては壊す以外の解決方法もあるはずだ」


『ツカサ、これは時間稼ぎのようです。奥に下がった魔族に動きがあります。注意してください』



 時間稼ぎ? だったらザバントスの言葉は嘘? とてもそうは見えないけど……



 視線は動かさず、奥を見る。


 カルミナの言うとおり、たしかに魔族は動いていた。何をしようとしているのかはわからない。ただ、こちらが有利になることだけはないだろう。


 奥の魔族の独断かザバントスの指示かはわからないが、動いている以上、あまり時間はない。もう話し合いをする余裕はなさそうだ。



 俺の目的は変わらない。魔法陣を壊し、アリシアを助けることだ。ザバントスと話すなら目的を達成したあとでいい。そのときに話をしてくれるかわからないし、倒せるかどうかも怪しいところだけど……



 構えなおす。


 怪我は治っている。体力も大丈夫だ。しかし、倒す方法は思いつかない。



「……戦うというのか。それならば仕方あるまい。青年を倒したあとに話を聞かせてもらおう」


『ツカサ、私は強化魔法ではなく、別の魔法で支援します。ザバントスの動きを止めてみせるので、避けられない状況を作ってください。一瞬でも構いません』



 簡単に言ってくれる。けど、ザバントスもいきなりペンダントから魔法が飛ぶとは思わないだろうな。



『ザバントスが動きを止めたら破壊の魔法で止めを刺してください。魔法陣のほうは起点を一つ壊すだけでも起動は出来なくなります。完全な破壊は出来ませんが、今はそれで充分です』



 カルミナの言葉を聞いた直後に走り出す。ザバントスに土を纏う隙を与えないためだ。


 強化魔法のない俺の動きは格段に遅くなっていた。しかし、ザバントスのほうも土を纏っていなければ、怪我の影響で動きは鈍い。


 懐に入り込み、顎の狙って拳を振り上げる。

 躱され、脇腹に衝撃が奔るが、無理やり体をひねり肘打ちを繰り出す。


 ザバントスの胸部に当たった肘打ちはたいした威力にはならなかった。しかし、体勢を崩すことには成功する。


 続けて腕の付け根、脇へ向かって蹴りを放つ。

 俺の蹴りはザバントスの左ひじによって迎撃された。防御ではなく、足に対して攻撃してきたのだ。


 鈍い音が耳に入ってくる。骨が砕けた音だ。しかし、その音の発生源は俺の足ではない。ザバントスの左腕だ。どうやら折れたのようである。


 左腕を庇っているようすは見せていた。治りかけ状態だったのかもしれない。先の迎撃はとっさにいつものように動いてしまったのだろう。失敗したと言わんばかりの表情からそう推察する。


 距離を離されないように踏み込む。足は痛むが、折れるほどではない。たいしてザバントスは腕が折れているというのに痛がるそぶりを見せなかった。


 ザバントスも踏み込んでくる。距離が近くなりすぎて、殴れず蹴ることもできない。

 正面からぶつかり、体格の差で少しよろめいてしまう。


 顔を上げるとザバントスと目が合った。そして、その顔が急速に近づいてくる。


 まるでコンクリートを砕いたかのような音が部屋中に響く。


 目の前は星が散っていた。いつの間にか座り込んでおり、グルグルと回る視界のせいで立てそうにない。揺れる頭は安定せず、激痛が脈を打つように襲ってきていた。


 ペンダントが輝き、頭部が白い光に包まれる。カルミナの魔法で、痛みが緩やかになっていく。


 何とか立ち上がり、前を見る。すると、ザバントスが額を抑えている姿が目に入った。あれなら、すぐには魔法を使えないだろう。



「なんと、その状態で回復魔法を使えるとは……いや、そのペンダントが魔道具か? しかし、怪我の状態を判断して勝手に動く魔道具など……」



 ザバントスが考えている間に前へと飛び出し、右足を狙い足払いをかける。


 大きく後ろへ跳び躱されるが、問題ない。狙いは跳ばせることであり、避けられない状況にすることだからだ。


 ペンダントが輝く。同時に魔力を集めはじめる。


 さまざまな色が混じり合う光が、矢の形をとってザバントスに向かう。



「!? それは女神の――」



 宙に飛んでいたザバントスは避けられず、しかし両腕を交差することによってカルミナの矢を受けとめた。


 当たった場所は腕、それも手甲だ。あまりダメージが入っているように見えない。


 失敗した。そう思った瞬間、手甲が光に包まれ、形を変えていく。


 手甲は鎖へと変化すると、瞬く間にザバントスを拘束する。

 全身を鎖で覆われたザバントスはうまく着地ができずに地面へと転がっていく。


 俺が魔法を発動させる速度では、跳んでいる最中に当てることは出来なかっただろう。ザバントスもそれが分かっていたから後ろへ跳んだのだと思う。ただ、ペンダントにカルミナがいることはさすがに予想していなかったようだ。



 カルミナも本当に一瞬の隙で魔法をあてるとは……しかも防御されるのも読んで手甲に当てたみたいだ。さすがとしか言いようがない。



『ツカサ今が好機です。この状態も長くはもちません。止めを刺してください』



 魔力も集め終わり、右手には暗く赤い光が鈍く輝いている。


 属性は破壊。型はボール、術式は爆発。


 狙うのは下半身、カルミナの言うとおりに止めを刺す気はない。動けなくするつもりだ。


 魔法名すら発せずに急いで魔法を放つ。


 直後、地面が輝いた。

読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ