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第四話 初めての魔法

 魔法の適性を見たあと、俺たちは宮殿から街にでて冒険者組合という場所に向かっていた。


 冒険者の仕事についてアリシアに聞いてみたところ、昔は遺跡から財宝の発掘、魔物の素材などを手に入れたりといった活動をしていたらしい。ただ、今は何でも屋みたいな扱いで依頼も雑用が多いとのことだった。


 そんな冒険者組合に行くのは登録するためではなく、魔法の練習が目的である。組合には戦闘訓練できる施設があり、安全に練習するならそこがいいとの話を聞いためだ。


 街を歩いていると人の少なさが目立つ。

 たまに見かけても、子供か老人しかいない。荒れた雰囲気はなく、綺麗な街ではあるが少し寂しい印象だった。


 そんな数少ない住民だが、アリシアを見つけると大体の人が声をかけていく。そして、アリシアは一人一人に対して元気に挨拶を返していた。

 その光景を見たおかげか、寂しいという印象が減り、静かだけど良い街という認識に変わったように思う。



「アリシアは人気者だね。みんな知り合いみたいだ」


「ほとんどエクレール様の影響なんですけどね。エクレール様と一緒だといろんなところに顔をだすので。いつの間にかほとんどの人は知り合いになってました。あ! ここです。ここが冒険者組合です!」



 アリシアが指し示した先には、三階まである建物が存在していた。



 ……思ったよりは大きくない? いや、奥のほうにも建物は続いてる。外からじゃよくわからないけど、広さはかなりあるのかも。



 中に入ってみると、まるで銀行のような造りで清潔感もある。想像とは違い、酒場があったり、冒険者がたむろしているということはないようだ。


 人はあまりいない。中央の柱にある掲示板のようなところに数人いるだけだ。組合の人はさらに少なく受付に女性が一人いるだけである。



「マルグリットさん! こんにちは! 訓練場は空いてますか?」


「おや、アリシアちゃん。こんにちは。訓練場なら誰も使ってないよ。はい、これ鍵ね。あと、エクレール様が要請した冒険者の人、そろそろ着くはずだから来たら訓練場に通しとくよ」


「はい! ありがとうございます!」



 アリシアは受付のマルグリットさんという人から鍵を受け取ると、奥へと進んでいく。その隣に歩きながら疑問に思ったことを聞いてみる。



「さっき、エクレールさんが要請した冒険者の人って何のこと?」


「あ! すみません。伝え忘れてました。私は一応、杖とかでは戦えるんですけど、剣とか槍とかの刃物を使ったことないんです。エクレール様もそれを知ってるので、ツカサ様の先生として知り合いの冒険者の人を雇ってくれたみたいです」


「なるほど。もしかして、その人も旅についてきてくれるとか?」


「はい。その予定です……すみません。説明、全然できてませんでした……」



 話の途中からアリシアはしょんぼりとしてしまった。そんなアリシアを慰めながら訓練場に入る。すると、学校の体育館なら四つか五つ分ぐらいありそうな、とてつもない広さの部屋が現れ、視界を占領した。



 ……広い。ここでついに魔法を……



 部屋をぐるりと見まわしてみると、訓練場の壁沿いには丸太が置いてあった。等間隔で置いてあるので、もしかすると的のようなものなのかもしれない。


 ひとまず部屋の中央へ歩いていると、その途中で天井に魔法陣が描かれているのに気づく。アリシアに聞いてみると保護結界の役目があるらしく、あれのおかげで万が一魔法などが壁や地面にぶつかっても大丈夫らしい。


 色々と話しかけているうちにアリシアは元気を取り戻してくれたようだ。少し笑顔も見える。もしくは自分でもわかるぐらいにそわそわしているため、そのせいで笑われているかもしれないが。


 理由はともかく、元気になったならそれでいい。はやる気持ちを抑えきれず、魔法の練習だというのに関係あるかわからないストレッチをはじめてみる。



「ツカサ様? 突然踊り出してどうしました?」


「いや、ちょっと準備運動をしようかと……」


「ふふ、待ちきれないようなので早速やりましょうか?」



 どうやら魔法を待ち望んでいることはバレているようだ。



「では、まず私が魔法を使ってみますね! 魔法はちょっと得意なんで期待しててください!」



 アリシアは呼吸を整えると目をつむり、集中しはじめる。両手を前に突き出した格好だ。


 少しすると手のひらに白い光が見えた。

 そして、白い光が球状に変化すると力強い言葉が辺りに響く。



「ライトボール・インパクト!」



 光の球は発射されると、壁沿いにおいてある丸太の中央にあたる。



 ……不思議だ。初めて見たはずなのに、なぜか光の球に見覚えがある気がする。ゲームとかでもありそうだし、そのあたりと混同したのだろうか……。



 アリシアは得意そうな顔をこちらに向けている。ここから的まで三十メートル以上はありそうだった。それなのに中央に当てたのは確かに見事ととしか言いようがない。。



「どうですか! 威力は押さえましたけど、真ん中に当たりましたよ!」


「ああ、すごかったよ! でも、魔法って呪文とか必要だと思ってたけど特に必要ないの?」


「呪文は使える人が少ないだけで、一応あるんですよ。そうですね……実践の前に少しだけ魔法について説明をさせてください」



 説明を聞くに、覚えることはたくさんありそうだった。


 まず基本的に魔法には一定の型があるらしい。その型と属性、そして術式の三つが組み合わさることによってはじめて発動するとのことだ。その中でも術式というのが一番難しいらしく、この部分で威力、速度、効果などを決めるのだという。


 さっきのアリシアの魔法なら、威力は弱くて距離は長め、速度は駆け足ぐらい、効果は衝撃という感じにしたと言っていた。


 一口に威力といっても圧縮や伸長があったり、速度と距離のバランスだったりと、いろいろ複雑だそうだ。効果についてもいろんな種類があるらしい。

 この術式の部分は自由度は高いため、詳しくはまた今度ということになった。


 他に聞いたことを頭の中でまとめていく。


 呪文とは独自で作成した魔法に使用される。

 魔法名は属性、型、術式の効果で表す。ある程度なれると言わなくてもできるようになる。

 型には、ボール型、アロー型、シールド型、オーラ型がある。

 属性は基本的に炎、水、風、土、雷、光、闇の七種類で、色で判別できる。ほかに特殊属性というのもあるが、詳細についてはわかっていない。

 術式の効果は複数の種類を持たせることも可能。



 ……すでに頭が混乱してきた。こんな調子で俺は魔法を使えるんだろうか?



「では、ツカサ様。早速やってみましょう! まずは魔力を手のひらに集めてみてください」


「……ごめん。やり方がわからない。というか、魔力を感じたことないんだけど……アリシアは初めてのときは、どうやって魔力を手に集めたの?」


「えーと、確か……そう、エクレール様と訓練をしていて、そのときに魔法があたって気絶して……気が付いたら使えるようになってました!」


「そうなんだ……魔法にあたるしかないのかな……」


「大丈夫です! エクレール様と違ってちゃんと加減しますから。気絶しないはずです! 目をつむって待っててください」



 アリシアを信じて目をつむる。



 しかし、他に方法はないんだろうか。これはきっと正規の方法じゃないと思うんだけどな……



 痛くありませんように。そう願いながら待つが大きな衝撃はこない。ただ、何かが触れたような気はした。



「ツカサ様、目を開けても大丈夫ですよ」


「これは、いったい……炎?」



 目を開けたときに見えたのは、全身を包む炎が消えていく光景だった。


 アリシアによると、初めて魔力を認識するときは属性の力が自分の体を覆うらしい。ただし、これは魔法として発現しているわけではなく、幻影に近いとのことだった。そのため、たとえ炎に包まれたように見えても熱さは感じず火傷もしない。同様に水属性の人が水の中に閉じ込められたような状態になっても息はできる。

 このとき、目に見えてしまうことで、たまにパニックになる人がいるらしい。そういう人たちは思い込みで火傷を負ったり、溺れてしまう場合があるという。



「なので、念のために目をつむってもらったんです」


「なるほど。初めてのときだけなら、もう今みたいな現象は起きない?」


「全く同じ現象は起きないですが、強い魔法を使うと同じような属性の力が出ることがあるらしいです。私はまだ出たことはないんですけど……」



 強い魔法か……魔法の強さはまだよくわからないけど、もし敵の体から属性が見えたら注意って覚えておこう。



 一通りの説明を聞き終え、深呼吸をする。それはついに魔法を使えるという興奮を抑えるためであり、同時に魔法を使うための集中をするためのものであった。


 魔力は体の一部なので一度認識してしまえば、なんとなく動かし方はわかる。

 感覚としては、集めたい場所に力を込めるだけいい。それだけで魔力は移動してくれる。


 神経を集中させ、手のひらに力を込めていく。


 全身からゆっくりと魔力が集まってくる。


 集まった魔力は先ほどとは違い無色透明だった。そのことに疑問を覚えるも集めた魔力が散りそうになったため、ひとまず考えずに再度集中していく。


 手のひらを覆うように集まった魔力は、まるでぶよぶよのグローブをはめているようにも見えた。不格好ではあるが、とりあえずは集まったものとして次の工程、属性の指定に意識を移す。


 属性は二種類持っている。今回はそのうちの主属性と説明された炎をイメージしていく。


 頭の中に炎を思い浮かべ、それを手のひらに投影する。すると、色のなかった魔力に変化が訪れた。


 無色だった魔力が赤い光へと変化していく。



「そうです! その調子です! とりあえず術式は衝撃と念じて、他はあの的に飛ばすことだけに集中してください! 魔法名はファイアボール・インパクトです!」



 型はボールを想像し、術式は言われたとおり衝撃と念じる。


 意識を手に集中していると、ゆっくりと赤い球が出来上がるのがわかった。



 ……あとはこれを。



「ファイアボール・インパクト!」



 赤い球は勢いよく飛んでいき、すぐに形を崩しながら消えていく。

 的にはあたらないどころか届いてもいない。だが、そんなことがどうでもいいと思うぐらい、初めての魔法に感動していた。



「やった! アリシアできたよ!」


「はい! お見事です!」



 二人で手を取り合い喜んでいると、入口の方から拍手の音が聞こえてくる。



「お見事! いきなりで成功させるとは才能あるぜ」



 見知らぬ男性が立っていた。

 暗い緑の髪に鋭い目、口元はスカーフのようなもので隠している。

 細身の体格で腰の左右には短剣を装備しているようだ。背中の方に見えるのは弓だろうか。


 アリシアを見るが首を横に振っている。知り合いではないようだ。



「随分と警戒しているようだが……俺のこと、エクレールの姐さんには聞いてないのか?」



 エクレールさんの知り合い? ……そういえば、冒険者の人が来るって言ってたような。

 ……完全に忘れていた。魔法のことで頭がいっぱいになってたみたいだ。



「えっと、すみません。失念していたようです。エクレールさんからは、知り合いの冒険者に旅の同行を頼んでいると聞いていました」


「おお、そうか。話が通っててよかったぜ。で、その喋り方はなんだよ。これから旅をするんだし、さっきみたいにしてくれ」


「さっきみたいって……もしかしてずっといたんですか?」


「ずっとってわけじゃない。おまえさんが目をつむったあたりからだ。邪魔しちゃいけないと思ってな、話に入る機会を待ってたんだ」



 結構というか、ほとんど見られていたようだ。……恥ずかしい。

 そこまで見られてるなら、いまさら取り繕っても意味はないのかもしれない。



「さっきよりは砕けた話し方にします。けど、戦闘の先生って聞いてるんで、アリシアと同じようにっていうのは無理です」


「おう、とりあえずはそれでいいぞ。じゃあ、改めて挨拶といこうか。俺はロイド。狩人だ。魔法は風が少しだけ使える。よろしくな。で、二人が姐さんの言ってたツカサとアリシアの嬢ちゃんであってるよな?」


「はい。俺がツカサです。よろしくお願いします」


「私がアリシアです。よろしくお願いします! ……私、十六歳なんで嬢ちゃんじゃないですよ?」


「ああ、悪いな。癖みたいなもんだから気にしないでくれ。立ち話もなんだし、少し早いが夕飯でも食いながら今後の予定でも話そうぜ」



 そういうとロイドさんは入り口に向かって歩いていく。アリシアは夕飯と聞いてから嬉しそうだ。お腹がすいてたのかもしれない。


 着いた先は冒険者組合の隣の建物だった。老朽化が進んでいるのか少しぼろい見た目で看板もないが、中は綺麗であり、食欲をそそるいい匂いも漂ってきている。



「ロイドさんってセルレンシアの人なんですか? それにしては会ったことないと思うんですけど……」


「セルレンシアには何度か来たことがあるぐらいだ。嬢ちゃんと会うのは初めだが、何か気になったのか?」


「このお店を知ってる人ってほぼいないんです。お店が開くのも不定期だし、私も片手で数えられるぐらいしか来たことないから……」


「ああ、そういうことか。ここはもともと上級冒険者の情報交換の場だ。冒険者じゃない嬢ちゃんが来たことがある方が不思議だが、まあ、エクレールの姐さんがいるしな」



 どうやらここは上級の冒険者専用で完全予約制の店とのことだった。昔はある程度大きな町ならこういった店があったらしい。


 店にはメニュー表のようなものはなかった。どんな料理があるのかわからないので、おすすめを頼んでおく。アリシアたちも同じくおすすめのようだ。


 雑談を交えながら情報を交換していく。こちらの状況についてはアリシアが話してくれた。

 ロイドさんはエクレールさんに用があり、昨日の夕方にセルレンシアに着いたらしい。俺たちのことはいきなり頼まれたと笑いながら言っていた。

 ちなみにその時間のアリシアはというと、エクレールさんが出発するためにいろんな人に連絡や引継ぎをお願いするために走り回っていたそうだ。



「よし! お互いの情報も大体わかったし、次は今後の予定といこうか」


「はい。俺は枢機卿様からはセルレンシアの北東の位置にある魔族の拠点に向かってほしい、としか聞いてないです」


「あの拠点ってことは……目的地はパタゴ砦になるな。パタゴは先代魔王との戦いでも活躍した砦だ。今のところ魔族……正確には魔物か。その魔物の進行にも余裕をもって耐えられてはいる」


「あのロイドさん。魔族と魔物って何が違うんですか? 俺も一応は聞いたことはあるんですけど、大した違いはないって言われてて……でも、今、言い直したってことは何か意味があるんですよね」


「簡単に言えば、知性があるのが魔族、ないのが魔物だ。言い直したのは、パタゴでは前線に魔族がでてきたことはないって話を聞いてるからだ。もし魔族がでてきたら今の余裕はなくなるだろうしな」



 魔族と魔物の違い。朝の雑談のさいにカルミナに聞いていたことだった。カルミナの説明では違いはないと言っていたが、知性のあるなしは大きい気がする。女神の視点だと同じに見えるのかもしれないが。念のためロイドさんに聞いておいてよかったと思う。



「移動手段とか教会が用意してるって聞いてるが……嬢ちゃん、追加で頼むか?」



 ロイドさんがアリシアに確認しようとし、話が変わった。だがそれも仕方ないだろう。アリシアは夢中で料理を食べており、すでにほぼ完食していた。同じもの頼んだというのに俺の目の前の皿にはまだ半分以上残っている。きっとかなりお腹が空いていたのだろう。



「うーん、いえ食べ過ぎもよくないので大丈夫です。それで、えーと移動手段ですよね? 教会が馬車を用意してます。他にも旅の食料や資金なんかも準備できてます」


「じゃあ、あとは出発するだけだな。まあ、もう日も落ちてくるし、今からじゃ野営することになる。出発は明日の朝でいいか?」


「はい。俺もそれでいいです。アリシアは……」


「私もそれで大丈夫です。集合は宮殿前にしましょう。荷物は馬車に積んであるので、私が宮殿まで運びますね」


「よし! 決まりだ。あとは好きに飲み食いしようぜ」



 ロイドさんは追加で注文している。アリシアは大丈夫と言っていたが少し迷っている様子だ。

 迷う気持ちもわかる。ここの料理はおいしいのだ。


 メインは豚のロース肉のようで、黄金色のソースがかけられている。それだけでも食欲をそそる見た目だ。さらに肉の上には溶けかかったザラメのようなものが見えている。これのおかげで食感は、肉なのにザクっとした心地よい噛み応えになっていた。


 最初に来る味は甘味だ。次に黄金のソース、これは複数の野菜の味がする。そして最後には肉汁が口の中に広がっていく。肉汁が最後に来ることによって甘未が薄れていき、次の一口が食べやすくなっているようだ。


 結局、みんな追加で注文し、お腹がいっぱいになるまで食べ進めてしまう。


 料理がおいしいおかげだろうか、初対面だというのに三人での会話も弾み、あっという間に時間が過ぎていく。気づけば夜も遅い時間。明日は朝の出発だということもあり、三人で慌てながら帰るのであった。

遅筆ですが今後も見ていただければ幸いです。

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