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第四十八話 話し合い

 話し合いの場に向かって歩いていく。

 準備は万端だ。送言の魔晶石は最も小さいものを選び、靴の中に入れてある。足は魔力を集めるのも慣れており、魔道具発動はもちろん、壊すのも容易な場所だ。



 ……足つぼを受けてるみたいで痛いのだけが難点だな。でも、ここならきっとバレないだろう。



 話し合いは作戦会議にも使われる大きめな小屋を指定された。場所は赤の教団の反乱軍、バルドレッド将軍の正規軍、この両軍の中間地点に位置している。


 小屋は両軍が離れた位置から取り囲み、監視の目を光らせていた。この状態ならば、第三者が気づかれずに介入するのは難しいだろう。ひとまず一対一という状況は実現しそうではある。


 小屋の中は両軍が誰もいないのを確認済みだ。人が隠れてるということはないだろう。そうすると、向こうの代表者が精神という特殊属性の使い手になるが、そんな目立つ真似をするだろうか。



 それだけ強さに自信があるってことか? もしもエクレールさん並の強さなら独自魔法を使ってもギリギリかもしれない。



 頭の中で色々な想定をしておく。そうこうしているうちに小屋までの距離があと半分ほどになっていた。いつの間にか、かなり歩き進めていたようだ。


 中間地点に着くと反乱軍の兵士にボディチェックを受ける。向こうはこちら側の兵士に同じことをされているだろう。


 進む。相手は小屋の裏でまだ見えない。


 さらに進む。自分の足音が大きく聞こえる。


 辺りには緊張感が漂っていた。そのせいかとても静かだ。周りには大勢の人がいるというのに、耳を澄ましても篝火が燃えるパチパチといった音しか聞こえてこない。


 ようやくたどり着く。


 平坦な道であり、距離にすれば百メートルと少しぐらいだっただろうか。ようやくという言葉が似合わないほど短い距離だ。だというのに、長く歩いたかのように疲れている。どうやら思ったよりも緊張しているようだ。



 ……落ち着け。本番はここからだ。まず、中に入ったら魔力を集める。集め終わったら何とか会話で特殊属性のことを引き出す。そこまでできれば、あとは魔法を発動させるだけだ。会話の切り札も一応ある。大丈夫なはずだ。



 相手の到着を待たず、先に小屋へと入る。今のうちにと見渡してみるが、不自然に感じるものも特に見当たらない。


 小屋の中にあるのは机と椅子だけだ。しかし、座る気はない。奥へと向かい、入り口から一番遠いところ位置で振り返る。するとちょうどそのとき、赤いローブ姿の人間が入ってきた。


 赤いローブは頭からかぶっており、顔も体形もわからない状態だ。見るからに怪しい恰好ではあるが、赤の教団だというのはすぐにわかる。


 相手は入り口から少しだけ進むと、俺とは机をはさんで対峙する形をとってきた。



「はじめまして、あなたがツカサさんですね? お会いできてうれしいです。あぁ! これは失礼。話し合いだというのに顔が隠れたままでした」



 そういうと相手は赤いローブのフードの部分を脱いでいく。

 声でわかってはいたが、やはり男だ。これといって特徴のない顔であり、服装、佇まいからしても一般人にしか見えない。



 魔力が集まるまであと少し。ここは沈黙してても大丈夫だろう。



「……ふぅむ。だんまりですか。もしや緊張して、いや警戒しているのでしょうか? ご安心ください。わたくし、荒事は苦手でして、暴力を振るうことはありませんよ」



 ……洗脳できるなら、暴力は振るわないだろうな。魔力はもう大丈夫だ。維持するのに集中力はいるけど、それぐらいなら問題ない。最初に聞くことは……



「すみません。こういう場は初めてなので、緊張してしまいました。早速ですが、聞きたいことがあるんです。なぜ代表に俺の名前があったんでしょうか?」


「初めてというのは何事も緊張するものです。ええ、わかりますとも。それで、ツカサさんのお名前があった件ですね。簡単な話です。わたくしのお友達からツカサさんが勇者であるという話を聞き、ぜひともお会いしてみたいと思ったからでございますよ」



 お友達……? 洗脳した人からの情報か。やっぱり勇者ってことはバレてたみたいだ。



「それで、わたくしからも聞きたいことがあるのですが……そうですね、率直に聞きましょう。女神の居場所はどこでしょうか?」


「……俺にはわかりません」



 あまりの直接的な質問だった。一瞬言葉に詰まり、返答が遅れてしまう。


 なんにせよ、カルミナの居場所を探ってるのはわかった。いつか予想したとおり、赤の教団と魔族は繋がってるということだろう。



「ツカサさんがこのような場は初めて、とおっしゃっていたので、わかりやすく質問してみたのですが……どうやら正解だったようですね」


「何を言ってるんですか?」


「素直ですね。実に素直だ。どんなに口で否定していても、こわばった表情、揺れる瞳、どちらも知っていると語っているようなものです」


「……!?」



 男は挙手をするかのように手を上げる。すると、その動作とほぼ同じタイミングで、机の下から黒い影が飛び出してきた。



 人?! どうやってここに!?



 黒い影は勢いそのままに高速でナイフを振るってくる。


 とっさに後ろへ跳ぶ。だが、躱しきれず腕には浅い傷がつき、背中は壁についてしまう。


 すぐに距離は詰められ、再びナイフが迫ってくる。


 体を横へとずらしながら、連続で繰り出されるナイフを避けていく。避けきったタイミングで壁から身を離そうとするが、間髪入れずに蹴りが来ていた。


 避けられず、両腕で受け止める。


 防御には成功した。しかし、すぐ後ろの壁のせいで潰されるような形となり、大きく息を吐いてしまう。


 息を吸ったころにはまたナイフが迫り、回避を迫られる。避けきり、繰り返しのように来た蹴りを、今度は腕を犠牲にする覚悟で弾く。


 予想外に軽い衝撃を感じながらも、蹴りを弾くことに成功する。だが、すぐにその蹴りが罠だったことに気づく。力を込めていた分、腕は大きく開いてしまい、その隙を狙うように黒い影から腕が伸びて来ていた。


 胸部を掌底で殴打される。


 壁に叩きつけられ、こみ上げてきた何かを床へと吐き出す。顔を上げたとき、再びナイフが迫って来ていた。


 一撃で致命傷になりかねないナイフだけは必死に回避していく。ただ、いくらナイフを躱せても、追い詰められた状況から脱することはできないでいる。防戦一方であり、ダメージは着実に積み重なってきていた。



 ……このままじゃまずい。予定と違うけど、仕方ない。



「炎よ、神の力に、て……変化せよ。……理を超え、時間へ、と……変われ。時より力を……サクリファイス・タイム!」



 攻撃を躱し続け、詠唱が途切れ途切れになりながらも、なんとか独自魔法の発動を成功させる。そして、魔法名を発した瞬間、何もかもが遅くなり、世界の見え方が変わっていた。目の前の敵もスローモーションのようになり、攻撃はおろかその顔や表情すらも余裕をもって確認できるほどだ。



 ……こいつ、黒ずくめ? 城では会わなかったが、こんなところにいたのか。



 黒ずくめがいたことに若干驚きつつも攻撃を躱し、ナイフを持つ腕を両手で掴む。


 雑巾を絞るようにして腕を捩じり折り、こぼれたナイフを手に入れる。


 ナイフでもう片方の腕を、手首から肘にかけて切り裂いていく。続いて脳天を刺そうとしたところで、もう一人の男が目に入った。



 魔法? あぁ、洗脳してくるんだったか? でも、遅すぎるな。



 黒づくめへの攻撃を止め、魔法を放とうとしていた男に向かってナイフを投げつける。


 すぐさま疾走し、ナイフを追いかけていく。


 心臓を狙ったナイフは微かに外れ、鎖骨辺りに突き刺さる。そして刺さるとほぼ同時に再びナイフを掴み、力を入れていく。


 狙いは心臓である。


 肉を裂き、そのまま心臓を切り裂こうとしたとき、目の前がぐるぐると回転していくような感覚が訪れた。同時に力が抜けていってしまう。



 なんだ、これ……気持ち悪い……ダメだ、魔法が維持できない。



「ぐっ!」



 床へと転がり、吐しゃ物をぶちまける。



 どうして……今回は頭痛もしなかったのに。



「ふぅ、どうやら、毒が効いてくれたようですね。……少し反応が強い気がしますが、まぁいいでしょう。いや、しかし、驚きましたよ。さすがは勇者ですね。聞いた話よりはるかに強い。危うく死んでしまうかと思いました」



 ……どく? あのナイフか!? じゃあ、あいつが今飲んでるのは解毒薬か。



 男は白く濁った薬を飲み干すと、回復薬を肩に振りかけていく。その後は部屋の奥に向かったようだ。たぶん黒ずくめの治療だろう。



「斬られたほうはともかく、折れたほうは動くのでしょうか? まぁ、無理にでも動かしてもらいますけどね。とはいえ、外には王国最強のバルドレッド将軍に雷光エクレール、逃げるにしても戦力が心ともない。申し訳ありませんが、ツカサさんにひと働きしてもらいましょう」



 くっ……体に力が入らない。めまいみたいのは独自魔法を解除したら落ち着いたけど、このままじゃ……せめて魔道具を使わないと。



 魔力を足に集め、魔道具へと流していく。



「ツカサさん、体が動かなくてつらいですか? 大丈夫ですよ。すぐに解毒して差し上げますから。ほんの少しだけお待ちください」



 小さいことが幸いし、すぐに必要な魔力はたまる。しかし、まだ起動はしない。今持っている送言の魔晶石は、起動時間も大きさに見合って短いためだ。



 何か情報を……こうなったらダメもとで聞いてやる!



「……お、い」


「んん? なんでしょうか? まさかとは思いますが、命乞いでしょうか? ご安心を。殺すなどというもったいないことは致しませんので」


「あん、たの……名……前は?」


「ふ、ふふ、ふはははははははは! まさかこの状況で名前を聞いてくるとは! わたくしを笑い死にさせるつもりでしたか? 悪くはなかったですよ? さすがに死んであげることはできませんが。しかし、まぁ、そうですね。これから同士となることですし、名前ぐらいは名乗ってあげましょうか」



 魔道具を起動する。



「では、改めまして。わたくしは赤の教団最高指導者、その名をゼルランディスと申します。以後お見知りおきを」



 赤の教団のゼルランディス。それは聞き覚えのある名前であった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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