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第二十三話 別れと出会い

 魔族との戦闘から五日後、俺たちはパタゴ砦に戻っていた。

 今は本部二階の廊下を歩き、アリシアが居る部屋へ向かっているところだ。


 あの戦いでブークリエ将軍は生死不明。姿かたちはもちろん、装備品すら見つかっていない。

 巨大な爆発のあと、あの男も見つからなかった。そのことから、あの爆発はブークリエ将軍の自爆攻撃ではないかとも言われている。



 そしてロイドさんは……



「あ、ツカサ様! お疲れ様です。シュセットちゃんのようすはどうでしたか?」


「元気だったよ。体力が有り余ってるみたいだ。そろそろ一回走らせた方がいいかも。それで……ロイドさんのようすは?」


「変わらないです。もう怪我はほとんど治ってるはずなんですけど、まだ目を覚ましてくれません」



 ロイドさんはあの爆発の中でも生きていてくれた。ただ、見つけてくれた偵察部隊の人が言うには、なぜ生きているのかわからないほど酷い状態だったらしい。

 あの爆発を見た唯一の人物として、いろんな回復薬や秘薬などで治療がおこなわれたが、いまだに眠り続けている。



 あの男は本当に死んだのだろうか? あの爆発を受けて無傷ってことはないと思うけど……あれだけ早い動きできるやつが何もできなかったとも思えない。


 そもそも爆発を起こしたのがブークリエ将軍っていうのも確証はないんだよな。ただ、重症のロイドさんは違うと思うし、あの男ならあんな規模の攻撃をする必要がないはずだ。

 そう考えると消去法で、やっぱりブークリエ将軍が爆発を起こしたことになる。だとすると、結界の中で時間稼ぎをしてくれたときはやられなかったってことだろう。


 俺たちが逃げたあとのことを想像すると、あの男は俺たちを追うことを優先して、とどめは刺ささなかった。そして、ロイドさんと男が戦ってるところにブークリエ将軍がたどり着き、あの爆発を起こす。

 いろいろと疑問点は残るけど、今の情報から推測して納得できる説明はこんな感じだろうか? また聞き取り調査で呼ばれるだろうし、次は今の考えを話してみよう。



「ツカサ様? 考え込んでるみたいですけど、何か気になることがありましたか?」


「ああ、ごめん。まだ、あのとき何が起きたのかしっくりくる説明ができてなくて……ちょっと考え込んでた」


「また呼び出されるんですかね。いくら聞かれても正確なところはわからないとしか言えないんですけど」


「安心しろ! てめぇらが呼ばれることはもうねぇからよ」



 突然、後ろから大声が聞こえてきた。話しかけてきたのは、パタゴ砦第一軍、第四師団、師団長エラン・サングリエだ。



「エラン! 久しぶり!」


「おう! 久しぶりって、最後に合った日から十日もたってねぇだろうが」


「いや、なんだかもっと会ってなかった気がしてつい……えーと、それでさっきのはもう聞き取り調査はしないってこと?」


「そういうことだ。まだセルレンシアから正式な連絡は来てないが、森の調査は終わったからな。調査の結果、魔族の討伐は成功って判断だ。この砦は一部の部隊を残して解散することになってるぜ」



 この世界では戦力は貴重だ。魔族がいないなら他のところの援護に回るのは理解できる。ただ、そうすると俺たちはどうすればいいのか迷う。

 旅の道中は俺やアリシアが計画を立てて移動していたが、目的地はセルレンシアの宰相様やロイドさん任せだった。次の目的地については何も決まっていない状態だ。



 一度、セルレンシアに戻るべきだろうか? ロイドさんもここに置いていくわけにはいかないし……



「あー、それとそこのロイドっておっさんのことだが、デメル村に移送するらしいぜ。セリューズ軍団長からの伝言があったらしい」


「伝言? いつの間に……」


「セルレンシアへの報告の途中でデメル村によるからな。急ぎってことで足の速い部隊が行ったって聞いてるぜ。早馬に魔法を使えば村まで五日もかからねぇよ。まぁ、セリューズ軍団長からの伝言は魔道具だけどな」



 伝言を詳しく話してもらう。

 内容はまず、ロイドさんをデメル村で治療するということ。もし村で手に負えない場合でも、セルレンシアの宰相様に力を貸してくれるように頼んでくれるらしい。

 次に俺たちのことだが、目的地としてはブルームト王国を目指すようにとのことだ。そのさい、二つのルートが提示された。



「一つ目がデメル村からセルレンシアを経由してブルームト王国へ向かう道、二つ目はこの砦から直接ブルームト王国へ行く道の二つか……アリシアはどう思う?」


「一つ目は安全だけど遠回りの道、二つ目のは危険だけど近道、ということになりますね。時間がないのはたしかですけど……私たちだけで危険な道を行けるかちょっと不安です」


「それなんだけどよ。セリューズ将軍の計らいで、おめぇらだけだとあれだからってことで道案内がつくらしいぜ。ちなみに俺のおすすめは二つ目の道だ」



 道案内? ありがたいことだけど誰だろう?



 気になってエランに聞いてみたところ、伝言を聞いたときに初めてあった人だと言っていた。師団長であるエランが知らないのならおそらく俺たちもあったことのない人なのだろう。



「それで、エランはどうして二つ目の道がおすすめなの?」


「おめぇらこの間の戦いで武器が壊れただろ? 二つ目の道は少し外れると昔に滅んだ城があるんだよ。そこには運びきれなかった武具がまだあるって話だ」


「なるほど……確かに、いい武器があるならありがたいな」



 俺の剣はあの男に壊されている。そしてアリシアの魔杖は魔法陣を壊すという無理をさせてしまったせいで杖全体にひびが入った状態だ。

 剣は質の良いものではあるが、特別な効果はない普通の剣なのであまり影響はない。しかし、魔杖は別だ。アリシアが言うには、あの杖がないと魔法の放てる回数は減り、移動しながらの魔法構築は難しいらしい。



 強くなるためにも戦闘をしないといけないし、少しぐらいの危険なら受け入れるべきか……

 案内の人には悪いけど、無理そうなら地図や情報だけ貰えればなんとかなるはずだ。それに、武器以外にも一つ探している魔道具がある。もしかしたら武器と一緒に見つかるかもしれない。



「……アリシア」


「はい、二つ目の道、ですね?」


「うん。戦闘があるかもしれないけど……」


「それは大丈夫です。それよりも武器の代わりが見つかることのほうが重要ですからね」



 エランとの会話は続き、第四師団は明後日この砦を出立することを聞く。

 ロイドさんはそのときに一緒に連れて行ってくれるとのことだ。



 そうなると俺たちは明日か明後日には出発したいな。俺もアリシアも準備はできてるし、案内人と会って計画を練らないと。



 エランの話では案内人と途中まで一緒に俺を探してて、二手に分かれてからの動向はわからないらしい。



「まぁ、そのうちここに来ると思うが……もし見つからなかった場合は、本部一階の広間で待つことになってる。行ってみるか?」


「そうだね。もしかしたら待ってるかもしれないから行ってみよう。入れ違いになったらまずいからアリシアは待ってて」


「わかりました。見つけたらあとで紹介してくださいね」



 廊下を歩き、エランと一階への階段を下りると、見知らぬ女性と目が合う。こちらに歩いてくるところを見るとあの女性が案内人だろうか。



「おう! ツカサは本部の二階にいたぞ。大体のことは説明済みだ」


「承知しました。……サングリエ師団長、先ほど第四師団の方たちが探しているようでしたよ? 副長が怒る前に戻ったほうがいいと思います」


「げっ! 抜け出したのバレたのか……ツカサ、わりぃそろそろ行くわ!」



 エランは慌てたようすで走って行く。

 どうやら俺を探すという口実で抜け出してきたようだ。

 噂ではブークリエ師団長の消息不明を聞き、一番動揺したのがエランだという。今はそんなようすもないが、少し息抜きしたかったのかもしれない。


 案内人と二人きりなる。

 この世界では初めて見る黒髪だった。髪は後ろで束ね、俗にいうポニーテールという髪型をしている。瞳の色も黒く、切れ長の目でクールな印象だ。

 着ている服もすべて黒で、他の人たちのような鎧などは着ていない。



 ……見覚えはないし、やっぱり初対面だよな? とりあえず自己紹介をしないと……



「えっと、案内をしてくれる人ですよね。俺はツカサって言います。もう一人のアリシアって仲間がいて……」


「知ってるわよ。会うのは二回目だけど、もう私のことは覚えてない?」


「えっ?」



 誰だろう……覚えてないのは失礼だよな。でも、本当に見覚えはない。どこで会ったんだ?



 必死に思い出そうとして考え込むがわからない。ふと女性を見ると、口に手をあてて笑っているのに気づいた。



 ……もしかして、からかわれた? やっぱりあったことはない?



「さすがにわからないわよね。あのときは仮面をつけてたし、会話だってたいしてしてないもの」



 ……仮面? 偵察部隊の人! 偵察部隊で話をしたのは二人だけ、そのうち女性は護衛してくれた人だけだ!



「偵察部隊の護衛をしてくれた人!」


「正解! 名前はフルールよ。よろしくね」




◆◆◆◆◆◆◆




 深い森の中、植物のつたに覆われた神殿があった。

 その神殿の中の一室には椅子に座り、目を閉じている男がいる。その男の前には一人の女がおり、手に持つ紙の束の内容を読み上げていた。



「報告は以上になります。魔王様、シルビア様は……」



 男……魔王は閉じていた目を開いて立ち上がると女に背を向ける。



「あいつは役目を果たし、眠りについた」


「役目を……では、封印の魔法陣を?」


「ああ、自分を触媒にして無理やり発動させたようだ。魔法陣の起動の知らせを受け、転移したときにはすべてが終わっていたがな。ともかく、無理やりで効力が低いとはいえ女神、もしくは女神とつながるものに楔は打てたはずだ」



 魔王は振り返り、懐から一枚の紙を取り出す。



「この手紙をザバントスに届けてくれ。それと、魔道具は直りそうか?」


「承知しました。転移の魔道具についてですが、修復は可能と聞いております。ただ、材料をそろえるのに時間がかかるらしく、いつ使えるようになるかはわからないと……」


「そうか……あれがないとかなり移動が制限されるな。油断し、壊してしまったのは俺だ。材料集めで手こずるものがあるようなら言ってくれ。俺が取りに行こう」


「いえ! そのようなことは我々がやります! 魔王様はお休みなってください! ずっと魔法を使い続けて疲労がたまっているはずです」


「ありがとう。大丈夫だ、ちゃんと休む時間はある」



 部屋にノックの音が響く。

 魔王が頷くと、女が扉を開ける。扉の向こうには身長よりも長い杖を持つ少女が立っていた。

 少女は若く、十代半ばに見える。薄い紫色の髪は肩にかからない程度でそろえられ、伏せがちの目は眠たそうな印象をうけた。


 少女が部屋に入ると、女は魔王と少女に一礼して去っていく。女と少女では、少女のほうが年齢は下に見えるが、立場としては上のようだった。



「ルイ、急に呼び出してすまない」


「……だいじょうぶ」


「シルビアのことは聞いているな? 悪いがルイにも魔法陣の作成を頼むことになった。それと一度ヴァンハルトと合流して現状を伝えてほしい」


「……ん、わかった。がんばる」



 ルイは小さく頷くと、大きな杖を両手で持ち上げて踵を返す。

 表情は変わっていない。しかし、その動きは先ほどよりも力強く見える。表情とは裏腹にやる気に満ちているようだ。


 ルイを見送ると魔王は再び椅子へと座る。そして、大きく息を吐くと背もたれに体を預けた。



「……少し、魔力を使いすぎたか」



 そう呟くと魔王は眠るように目を閉じていくのであった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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