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第十四話 勇者の力

 パタゴ砦に到着してから今日で八日目。

 初日の試合を除いては訓練づけの毎日を送っている。やってることは走り込み、一対一や一対多数での試合形式の戦い、魔法の打ち合いなどがほとんどだ。


 エランをはじめとした師団長の人たちの協力もあって、強くはなっていると思う。しかし、圧倒的な強さかと言われたら違うと否定せざる負えない。



 ……このままの訓練でいいんだろうか? これではブークリエ将軍に認めてもらえない。



「おい、ツカサ! 何呆けてやがる。今日の訓練は終わってるぞ! ……調子が悪いなら、さっさと部屋に戻って体を休めろ」


「ごめん、大丈夫だよ。ありがとう」


「あぁ? 別に心配なんざしてねぇぞ。さっさと行け!」



 訓練をしてわかったことだが、エランは口調の割に面倒見がいい。周りもよく見ている。今も近くにはいなかったはずなのに、わざわざ来てくれたようだ。


 ここにいるとまた心配をかけてしまいそうなので、割り当てられた自分の部屋へと向かう。


 本当ならロイドさんに相談したいところだが、今は不在である。初日の試合の後、魔族のようすを探ると言って出ていってしまい、いまだ戻ってきていなかった。


 アリシアには魔法の練習のときに会うが、忙しそうであまり話はできていない。回復魔法を使えるということでいろいろと頼られているとのことだ。


 部屋に戻り、ベットに寝転がりながら考える。



 剣の劇的な上達というのはあまり期待できない、となるとやっぱり魔法だろうか?

 魔法で一気に強くなる方法……思いつくのは自分だけの魔法、独自魔法だけど作り方がわからない。以前カルミナに貰った知識の中にも独自魔法のことは含まれていなかったしな。


 あとは装備を変える? いや、装備で強くなっても認めてはくれないだろう……



 結局、良い考えは思いつかない。

 そもそも経験も知識もカルミナがくれたものだ。俺が努力してもそんなに強くなれないのでは。そんな考えが頭をよぎる。



 せめてカルミナが応えてくれれば……



「カルミナ……」


『…………ツカサ、どうしましたか?』


「カルミナ!? やっとつながった! 今まで何を……いや、違う、すぐに力が必要なんだ!」


『ツカサ、落ち着いてください。まずはお互いの状況について話し合いましょう』



 いくら呼んでも応えてくれなかったカルミナが急に返事をしてくれた。


 一瞬、文句が出そうになったが、何とか呑み込む。

 正直にいえば、いつもと変わらない態度のカルミナにイラっとはしたが、お願いをする立場だと思いなおして我慢する。


 一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせてところで、村のことからこの砦で起こったことすべてを話す。



『つまり、勇者として認めてもらうために早急に力が欲しいということですね? しかし、ツカサたち三人で魔族の討伐も可能かもしれませんよ? 魔族を一匹でも討伐できれば、勇者だと認めざる負えないのではないでしょうか』


「三人でってのも一瞬考えたけど、さすがに危険だ。……力を貰っておきながらさらに要求するのは悪いとは思ってる。でも、これはカルミナにしか頼れないんだ。だから……お願いします!」


『ツカサ、安心してください。私はツカサに協力するためにそばにいるのです。欲しいのはすぐに使える力でしたね。それならば、先代勇者の独自魔法をツカサに授けましょう』



 先代勇者の独自魔法? 独自魔法は作成した本人のみが使える型や効果にとらわれない特殊な魔法だったはず。それを授けることができるのか?



「それは、俺に扱えるの?」


『もちろんです。むしろ勇者であるツカサだからこそ使えるのです。ただ、この魔法は強力なため、使用後に副作用があります。それでもよろしいですか?』


「副作用……使い終わったら死ぬ、とかじゃないなら、ある程度は覚悟するよ」


『わかりました。この魔法は身体能力を劇的に向上させるものです。そして副作用は魔法の効果がきれた後、反動として体に負荷がかかることです。場合によってはしばらく動けなくなるでしょう』



 カルミナの説明が終わると、ペンダントから不思議な色をした光が広がっていく。

 光が体を包み込むと目の前が真っ白になっていった。



 ……頭がぼーっとする。何をしてたんだっけ? ……なんだか頭の中に言葉が浮かんでくる。これはなんだろう……?



『ツカサ、魔法は授けることには成功しました。独自魔法に必要な呪文は今、頭に思い浮かんでいる言葉となります』



 魔法……独自魔法……そうだ、魔法を与えてもらったんだ。……これが呪文? 魔法名も浮かんでくるけど、なんだか意味は理解できないな。



「カルミナ、この魔法使ってみてもいい?」


『はい。構いません。ただ、使用するのは一日一回だけにしてください。体への負担が大きすぎます』



 許可をもらい、体の中心に魔力を集めていく。必要な魔力は多い。発動にはかなり時間がかかりそうだ。そしてこの魔法を使うことを考えると、他の魔法は控えるようにしなければいけない。いざというときに魔力が足りないでは意味がないからだ。


 しばらく集中し、発動に必要な魔力がたまったところで呪文を唱える。



「炎よ、神の力にて変化せよ。理を超え、時間へと変われ。時より力を! サクリファイス・タイム!」



 微かな頭痛とともに世界が変わる。



 ……なんだ、これは……スローモーション? 見えてる世界がひどくゆっくりだ。そんな中でも俺は普通に動けてる。これってすごい速度で動いていることになるんじゃ……

 力はどれぐらい上がったんだろう?



 そう思って試しにベッドを持ち上げてみる。木で出来たベットは頑丈で重い。引きずることはできても、持ち上げることはできないほどだ。だというのに軽く力を入れただけで持ち上がってしまう。



 これは……凄いな。こんな魔法を簡単に手に入れていいのだろうか……



「カルミナ、これは凄いね。凄すぎて少し怖いくらいだ」


『ツカサ、私は聞き取れますが、その状態のときは、ゆっくり話さないと他のものは理解できないかもしれません』


「わかった、気を付けるよ。この魔法なら副作用があるっていうのも理解できる。この状態で戦ったらどうなるんだろう。少し動いてきてもいいかな?」


『残念ですが、そろそろ解いた方がいいでしょう』


「もう? ……わかった」



 魔法が解けるように念じると世界が元に戻る。それと同時に全身に激痛が走り、立ってられずに体が床へと傾いていく。



 これは、きついし……痛い!



 全身の筋肉がいっぺんに切れたようだった。頭痛も酷く、心臓の鼓動もうるさく感じるぐらい激しい。


 床の上で動けずにただ痛みに耐えていると、胸のあたりから白い光が広がってくる。

 どうやらカルミナが回復魔法をかけてくれたようで、ゆっくりと痛みが引いていった。



「カルミナ……ありがとう。助かったよ……」


「今回は初めてということもあり、反動も大きかったようです。体が慣れればもう少し負荷のほうは減るでしょう」


「そうだと嬉しいよ……毎回これじゃさすがにきつい」



 ベットに腰掛け、一息つく。


 これを見せるのはもう少し慣れてからのほうがいいだろう。せめて解いた後でも立っていられないと実戦では使えない。

 ただ、力は手にいれることができた。おかげで焦りも消え、不安も解消された気がする。


 心に余裕ができたからか、自分の都合ばかり話して、カルミナが何をしていたのかを聞いていないことに気づく。



「長いこと反応がなかったみたいだけど、カルミナは何をしてたの?」


『世界の観察もしていましたが、しばらくは力の回復に努めていました』



 カルミナの話では俺の周囲にいた人間、ロイドさんたちがいればしばらくは安全だと思い、休息をしてエネルギーを回復させていたらしい。

 それでも、世界を移動したときに消費したエネルギーはまだ回復しきっていないため、また回復に努めると言っていた。


 魔族のほうでわかったことは、魔法陣の構築はまだ終わってないということ、魔族の拠点は森の中に隠されているということだった。



「つまり、まだ時間があるってこと?」


『はい。一定の段階から進んでいません。推測ですが魔法陣に必要な触媒がない可能性があります』


「だったら、このまま訓練を続けて、準備ができたら攻め込むって形でも大丈夫かな?」


『それでいいと思います。魔王以外の魔族なら人間が協力すれば勝利できるはずです。そこにツカサが加わるのであればここは問題ないでしょう』



 やることが明確になった。

 明日からは改めて訓練を頑張って、魔法にも慣れよう。


 あとの問題は、この独自魔法をどうやってみんなに説明するかだ。



「カルミナ、この魔法を説明するのに、存在がばれないようにするのは難しい気がするんだけど。いい方法はない?」


「露呈してはいけないのは私がペンダントに宿り、ツカサのそばにいるということです。魔族にはすでにこの世界に帰ってきていることは感知されていると思われますので、ここは神託で魔法を授かったことにすればよいと思います」



 カルミナとの話し合いは夕方ぐらいまで続いてたと思う。はっきりしないのは、いつの間にか眠っていたからだ。窓から外を見ると、すでに暗い。夜になっていた。



 ……途中までは覚えてるけど、いつ寝たのかはぜんぜんわからない。まあ、でも、寝たおかげか頭がすっきりとしたからいいことにしよう。



 夕飯を食べ忘れたので仕方なく非常食を食べていると廊下が騒がしい気づく。



「何かあったのかな? ちょっと見てくるよ」



 カルミナからの返答はなかった。

 どうやら、もう休息に入ってしまったようだ。


 部屋を出ると、大声を上げながら走る兵士の人が見える。



「敵襲! 敵襲! 装備を整え、各長の指示を仰げ!」



 敵襲!? なんでこんないきなり? 魔物が来るのは、明け方か夕方だけって聞いていたのに。



 急いで部屋に戻り、装備を整えていく。

 部屋は基本的に隊ごとに固まっているため、指揮官は近くにいる。ただ、俺の場合は隊に所属していないため、指示を仰ぐためにブークリエ将軍のところに行かなければならない。



 俺がいるのは第二の塔でブークリエ将軍は中央の本部だったよな。少し距離がある。急がないと!



 塔を出て、辺りを見回す。

 兵士の人たちはなぜか中央でも東にある門でもなく、この塔の近くの北へ向かっていくようだった。



 アリシアは大丈夫だろうか? たしかアリシアが止まってるのは本部近くの建物だったと思う。

 この砦の教会の人たちとも一緒だし、問題はなさそうだけど……先に見に行ったほうがいいか? いや、緊急事態ならアリシアも本部に行く可能性が高い。そこで合流できるはずだ。



 本部へと向かい走る。周りには誰もいない。しかし、後ろから足音が聞こえてくる。



 速い……それに、この音は人間じゃない。まさか入り込まれた?!



 足を止め、振り返ると同時に剣を構える。

 後ろから来ていたのは、三匹のヴァルドウォルフだ。



 距離はまだ少しあるな。ここで時間はかけたくない、一気にやってやる!



 最初に跳びかかってきたのは向かって右側のやつだった。そいつに向かって一足飛びで距離を詰め、突きを放つ。


 大きく開けた口に剣をねじ込み、両手で剣を持つとそのまま左へと振るう。左から跳びかかってきた二匹目に当て、剣を手放して二匹とも吹き飛ばす。


 三匹目。真ん中を走っていたやつは今跳んだばかりのようだ。武器もなく、態勢も悪いがタイミングはいい。


 体を回転するままに任せ、三匹目のやつに背を向ける。剣を捨てた両手は地面につけ、逆立ちをするかのような体勢をとった。


 そしてちょうどよく跳んできたヴァルドウォルフへ、全身のバネを使い両足での蹴りを放つ。


 骨を砕く感触を足に感じながら、蹴りの勢いのまま跳び起きる。



 ……エランの馬蹴り、実戦でも使えるな。密かに訓練したかいがあった。



 最初の二匹を探し、急いで駆け寄る。剣で口から突き刺したほうは死んでいるようだが、二匹目は起き上がったところだった。


 こちらを確認するとすぐに走って跳びかかってきたが、一匹なら何の問題もない。

 躱してカウンターで蹴りを放ち、吹き飛ばす。そのまま追いかけ、起き上がる前に首を踏み抜く。


 二匹の死亡を確認し、馬蹴りをした三匹身に近寄ると、その個体はすでに息絶えていた。



 怪我をしないで勝てたな……やっぱり少しは強くなってるみたいだ。



 強くなった実感をかみしめながらも剣を回収し、再び走り出す。他にも魔物が入り込んでいる可能性がある。出来るだけ急いだほうがいいだろう。


 全速力で駆けると、ほどなくして本部へとたどり着いた。

 本部の周りにはすでに兵士の人たち多く見える。どうやらすでに守りを固めていたようだ。



「おまえはたしか……サングリエ師団長と戦ったやつだな?」


「はい、冒険者のツカサです。部隊には所属していないため、非常時はブークリエ将軍の指揮下に入ることになっています」



 入り口を守っていた兵士の人に事情を話し、中に入れてもらう。

 中の広間は簡易の野戦病院のようになっていた。ただ見える範囲では怪我人は少ない。これから来るのかもしれないが、今のところはあまり被害は出ていないようすだ。


 アリシアの姿を探すが何処にもいない。その代わり、ブークリエ将軍の姿は広間の中央に見えた。怪我した人や外から来た人と話をしている。おそらく情報を集めているのだろう。


 魔物に遭遇したことを報告するため、近づいて声をかける。



「ブークリエ将軍、お忙しいところ失礼します。非常事態だと思い、第二塔から移動してきました。また、途中でヴァルドウォルフ三匹と遭遇し、殲滅に成功しています」


「おお、ツカサ君。無事だったか! 第二塔からの途中でか……どこから来たかわかるか?」


「こちらに向かっているところに後ろから来たので、北からだと思います」


「北か……最悪の場合、北も壁が破られた可能性もあるな。……よし! 作戦を伝える! この場にいる指揮官は集まれ!」



 この砦には軍団長が三人、師団長が二十七人いる。前線維持で出ている人たちを合わせれば数はもっと増えるだろう。

 ただ、この場には軍団長は一人もいない。師団長はわかる範囲では七人だけだ。



「集まった情報から現在、魔物が攻めてきているのは西と北だ。西は第三軍、北は第四軍が防衛にあたっている。砦内にはすでに数匹の魔物が入ってきていることから、方法は不明だが西と北の壁は破られた可能性が高い」


「将軍! 東の門、第二軍ロールナイト様からの伝令です! 敵影なし。支持を求む。以上になります!」


「うむ、ご苦労。まずは各師団の動きを伝える! 第一軍、第一から第三の師団は砦内の魔物を殲滅せよ! 第四師団は東、第五師団は北、第六師団は西に向かえ! 第七師団は南の確認だ! あとのものはこの場の守りとする!」



 ブークリエ将軍の話では西と北が陽動の可能性があるとのことだった。


 北と西の壁は状況から穴が開けられている可能性が高い。

 東には門があり、いつもならその先の前線で魔物の侵攻は阻止している。


 この砦に襲って来るのはヴァルドウォルフだけで、ある程度の知能こそあるものの、迂回して壁に穴をあけるなんてことはできない。


 つまり魔族が率いてきており、何か狙いがあるというのがブークリエ将軍の考えだった。



 もし西と北が陽動なら南か東のどちらかが本命か……戦力的には東のほうが多いから狙われるのは南かもしれない。



「以上だ! 第四師団、サングリエ師団長は少し残れ。後のものは行動を開始せよ! ……ツカサ君はこちらに来てくれ」



 ブークリエ将軍はそれぞれの師団に作戦行動や連絡事項を伝え終え、エランと俺だけを残した。



「ツカサ君、きみには一時的に第四師団に入ってもらう。サングリエ師団長、第二軍と合流したらロールナイト軍団長の指揮下に入り、指示に従え」


「了解しました!」


「了解しました! ……あの、アリシアを見てませんか?」


「アリシア君は無事だ。奥の部屋で重傷者の治療をしてくれている」



 アリシアの無事も確認でき、一息ついているとエランに肩を叩かれ、急ぐように言われる。


 外に出ると砦のあちこちに明かりが灯されていた。

 張り詰めた緊張感が漂う中、第四師団の人たちにとともに、俺は東へと走りはじめるのであった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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